1-2 「殺し合い宇宙航行」
「ここが、ミーティングルームですか~」
三階でエレベーターを降りてすぐ左の部屋が誘拐犯の指定したミーティングルームだった。
鉄製の扉で閉ざされたこの中に、誘拐犯が……
私は看護師であるメリーさんと共に慎重に扉を開ける。
「あら。また人が来たみたいですわ」
「これで十三人か。誘拐犯の言っていた人数がこの場に揃ったわけだ」
私たちが部屋に入るとすぐに声がかかる。
部屋にはすでに十人以上の人が居て、入ってきた私たちに視線を向けている。
ミーティングルームはなかなか広い部屋のようだが、人々から注がれる視線に私は圧迫感を感じてしまう。
「え、ええっと。こんにちは。私、魚住霞です」
「あなた。このタイミングで自己紹介だとか、どういう頭の構造をしていますの?」
皆からの視線に耐えかねた私が発した自己紹介の言葉は、深紅のドレスを着た女性に一蹴される。
「えっ、ええっと。すみません」
女性のとげとげしい態度に私は反射的に謝ってしまう。
女性は綺麗な赤い髪の毛を腰元まで伸ばしており、身に着けるドレスと相まってまるで物語の中のプリンセスが現実世界へ飛び出してきたかのような雰囲気だ。
「別に謝らなくてもいいですわ。私、怒っていませんもの」
「あ、はい。その……すみません」
女性はあきれたようにため息を吐く。
「……まあいいですわ。今はあなたの愚鈍な発言について論じている場合ではないですの」
「そうだぜ! で、そういうおめえもチンタラしゃべってんじゃねえぞ。俺っちはいつまでもこんなところにいたくねえんだ!」
別の場所から男性の声が上がる。
男性は道着姿で、背中には長細い包みを背負っている。
髪は長めの茶髪、道着の胸元は大きくはだけており、道着姿の割には軽薄そうな印象を受ける。
「全員が集まったらなんか説明があるって話だったよな。さあ、誘拐犯さんよ! さっさと説明とやらを始めてくれねえか?」
『被験者全員の集合を確認した。実験を開始しよう』
「きゃっ!?」
突如、私たちが入室してきた扉が閉まる。
扉の閉まる音に驚いた私は思わず悲鳴を上げてしまう。
「きゃあっ! なにこれ」
「な、なんですか? いきなり」
人々に混乱が走る。
誰かの悲鳴が上がり、場は騒然となる。
自転車から空気が抜けるような音がしたかと思うと、部屋の四隅から白い煙が噴出され、密室となった部屋の中を覆っていく。
「い、嫌っ」
立ち込める白い煙にコールドスリープの記憶がフラッシュバックする。
あの時は、睡眠ガスが装置の中を覆い、私は眠りについたのだった。
生への期待と共にその時に感じていた恐怖が思い起こされ、私は思わずメリーさんの腕にしがみつく。
煙が部屋を覆い視界が遮られる。
「けほっ。こほっ」
「おい、なんだよこの煙……吸っても何ともない?」
「ただの煙幕みたいです~」
息を我慢していたが、長くは続かない。
思わず煙を吸ってしまうが、数秒経っても体調に変化は無かった。
私が安堵していると、煙幕の噴出が止まったのか部屋は徐々に視界を取り戻していく。
「おい、あそこを見てみろ」
男性の声を受け部屋の奥に注意を向けると、誰も居なかったはずの空間に四つの人影が出現していた。
「なんだお前ら。お前らがこの誘拐事件の犯人か!」
『ワレワレが何者か、か』
あれが、誘拐犯?
立ち込めていた煙の合間から、影の正体が明らかになる。
『『『『ワレワレハ ウチュウジンダ』』』』
えっ、宇宙人?
煙の中から現れたそれは奇妙な姿の生物だった。
影は四体で体長は一メートル程。
向かって左側から銀、金、ピンク、緑色というとても生物とは思えないカラーリングをしている。
二足で立ち人間の子供のようなサイズだが、頭が異様に大きくほとんど三頭身である。
顔のパーツも不自然で目はやたら大きく、鼻と口は極端に小さい。
私は両側から腕を掴まれ連れられる
『私はシルバーグレイ。この宇宙戦艦の艦長だ』
『俺様はゴールドグレイ! 艦内の治安管理を担当しているぜ!』
『アタシはピンクグレイなの。食料や備品の補充は私に任せてなの』
『グリーングレイ。設備維持が担当』
四体の珍妙な生物の出現。
私は驚きから動くことができないでいた。
それは周りの人物も同じようで、場は水を打ったように静まり返る。
静寂の中、現れた四体の内の一体――銀色の体表の生物がその小さな口を開く。
『それでは約定通り今からルール説明を行おう』
ルール説明?
私たちはその言葉に身構える。
『ワレワレは地球とは別の星から来た
『てめえらが生きてここを出たいなら俺様たちの実験に協力しな! 実験を経て脱出の条件を満たせばてめえらはここから解放される!』
『条件を満たした人の命は保証するなの。アタシ達、嘘つかないなの』
『何か、質問ある?』
謎の生物――グレイから一方的に告げられた内容。
そのあまりの荒唐無稽さに私の頭はフリーズする。
宇宙戦艦? 実験? 脱出?
まったく意味が分からない。
「おいふざけんな! なんだよその言い草は」
声を上げたのは道着姿の男性だった。
「一方的に閉じ込めておいて、何の権限があって俺っち達に命令をするんだよ。てめえらに協力する理由がねえ!」
『同じ説明を二度させるな。君たちもこんなところに永遠と監禁されていたくはないはずだ。ここから脱出したければ君たちはワレワレの実験に協力するしかない』
「はあ? いったいてめえらに何の権限があるってんだよ」
『権限だって? はっ。てめえらの生殺与奪の権利は俺様たちが有しているんだぜ。なにせてめえら被験者は死にかけていたところを俺様たちが生き返らせたんだからな。生かすも殺すも俺様たち次第ってわけだ!』
「はあ? 何を意味が分からねえことを……」
「ちょっと! それはどういうことですか!」
道着姿の男性の言葉を遮り、私は反射的に叫んでいた。
「生き返らせたって、まさか……」
『アナタは……魚住霞さんなの。カスミさん。アナタなら“蘇生”というアタシ達の言葉に心当たりがあるはずなの』
「……」
私はグレイの言葉にうつむく。
コールドスリープで私は一度死んでいる。
グレイたちの言葉を私は信じざるを得ない。
「ええっと、カスミさん? どうされたんですか~」
メリーさんが心配そうに私の顔を覗く。
頭が痛い。気分が悪い。足元がふらつく。
私は私の中で渦巻く感情を言語化できず、ただ口元をきつく結んだ。
『まあいい。横やりが入ったがルール説明を続ける。まずは君たち被験者にこの宇宙戦艦からの脱出条件を伝えよう』
『脱出条件は単純だ! 艦内の被験者の数が三名以下となる。そうすればてめえらは晴れてここを脱出できるぜ!』
三名以下?
私は宇宙人の言葉の意味を図りかねる。
「三名って、それでは計算が合わないですわ」
混乱の中、鋭い口調で赤いドレスの女性が声を上げる。
「私たちは全員で十三名いるんですわよね」
『ああ。だが、計算に間違いはねえ! てめえらが脱出条件を満たす。そのための実験だ!』
「先ほどから実験、実験って私たちはモルモットではありませんわ!」
『もちろんだ。課題を受動的にこなすモルモットでは意味がない。ワレワレには君たちのように自律して思考する被験者が必要だ』
「……あなた方の目的は一体何ですの」
『ワレワレの目的。それは君たち被験者に「殺し合い」をしてもらうことだ』
殺し合い。
グレイから飛び出した衝撃的な発言に、今度こそ場は完全に凍りついた。
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