第37話 スタンビート 魔の森

ーーーアリス視点ーーー



魔の森を高速で動きながら、ついあるじ様のお姿を目で追ってしまう…。

日に日にカッコ良くなるのを見ているだけで幸せな気分になっちゃう…。


同い年なのにいつもボクの進む道を照らしてくれる最高のあるじ様。

あぁ…、何てボクは幸せなんだ…。


雷を全身にまとい、幾つかの木々をなぎ倒しながら道を進む。

ディノス様とリサ姉様は完全に木を避けているのに同じスピードを出している。


ディノス様とリサ姉様とティニー様は少し前にSランクへと到達された。

ディノス様の若さでSランクへと到達したのは前例が無く、歴史に残る偉業だ!


ボク達のあるじ様だから当たり前だよね!

ボクもまだまだ頑張らなくちゃ、と考えていると、小さな声が聞こえてきた。


「ディノス様!」


本当は無視しなくちゃいけないんだろうけど、我慢できずに声を上げてしまった。


「任せる!」


ディノス様はそんなボクを責める事もせず、優しくお声をかけてくれる。

その勇姿はまさに伝説の勇者!いえ、それ以上に違いない!


ディノス様に任されたのだから張り切って声の方に向かう。

そこには足を怪我したダークエルフの少女が居た。


近くには魔物が死んでおり、少女の手には血に濡れた剣が握られている。


「大丈夫?怪我は無い?」


「ッヒ!」


優しく声をかけるが、まだ怯えているようでこちらに剣を向けてくる。


「大丈夫だよー。何も怖く無いよー。」


その姿に何故か昔のボクを重ねてしまい、優しく抱きかかえる。

高速で剣を落として抱いたから、何が起きたか分かって無いようだ。


(こういう時は強引にいった方が良いよね。)


マイハ様の事を思い出して精一杯優しく抱いてあげる。

少しそうしていると、緊張が解けたのか大泣きしてしまった。


「ボクも今急いでるんだ。君も勇者様の元に連れてってあげるね?」


君ももしかしたらお伽話の一員になるかもね!とささやいて、皆の後を追う。

少女はよく分かって無いようだったけど、しっかりとボクの服を握っていてくれた。





ーーーディノス視点ーーー



アリスが戻って来たと思ったら、少女を一人抱っこしていた。

魔物を倒して放心状態だった所を保護したようだ。


そのままではアリスが戦えないので私が受け取る。

既にジュリを背負っているし、ジュリの毛布の中に入れれば良いだろう。


魔法があれば少女一人の体重など全く問題にならないからな。

アリスの元を離れるのを少し嫌がったが、何とか納得して貰った。


今はジュリに抱きついてるようだが、恐怖で幼児退行をしているのかも知れない。


「さて、遂に見えて来たが…。里が飲み込まれかけてるな…。」


オーガ、オーク、トロールを主力にしたモンスターの大群に攻められ、里の防衛戦は崩壊しているように見える。

背中の子と同じ種族のようで、浅黒い肌をしたダークエルフが大勢居る。


「援軍に来たぞ!」


魔法を使って全域に声を届ける。

悲鳴に混じって歓声が聞こえてくる。どうやらちゃんと届いたようだ。


「行くぞ!」


二人を背負ったまま戦場に踊り出る。

少女には悪いが、ジュリが精神保護プロテクトしてくれるだろう。


(一人でも多く救う方が喜ぶはずだ…!)


ダークエルフに斬りかかるオークを吹き飛ばす。

3人もそれぞれ苦戦している場所に向かい、戦線を立て直していく。


「土壁よ!」


幅1m、高さ3mほどの壁を出現させる。

範囲が広いので大分魔力を消費する。


「「「おおお!!」」」


里の人間が歓声を上げる。

分かりやすい演出だ。精神的負担も減るだろう。


「あ、ありがとうございます!」


礼を言ってくる人間に手を上げて応える。

少女を渡そうかと思ったが、ジュリから手を離さないようだ。


「このまま殲滅するぞ!!」


皆に声をかけて壁の上に踊り出る。


前方には魔物の大群が広がっている。

多くの木々も倒され、森だったのか疑う光景だ。


足元では魔物が壁を攻撃している。

場所によってはオーガが乗り越えようとしている。


「獄炎!」


ゲーム中で最強の攻撃力を誇る魔法を放つ。

敵の真ん中に異常な程に赤い炎が現れ、そのまま天へと登っていく。


周囲の魔物もことごとくが燃え尽きていった。


(初めて使ったが…凄い威力だな…。)


膨大な魔力を注いだと言うのも有るんだろうが、空では雲が割れて消滅していってる。


「きれー…。」


背中の少女が呑気に感想を述べている。

意外と大物かも知れないな。


「おお!!」

「神の炎だ!」

「使徒様か!?」


里の方でも炎の柱を見て歓声が上がる。

今まで死を覚悟していた分喜びも大きいのだろう、おかしな事を口走っている人間までいる。


炎が収まると、そこに立っていたのは数体のモンスターだけだった。


「リサ!アリス!ティニー!キング種だ!任せるぞ!」


オーガとオークのキングらしき存在に、重厚な盾を持ったスプリガンが3体いる。

定期的に間引きしているのに疑問に思うが、今は戦闘に集中しなければ。


(いや…、アレはジャックか…?)


ジャックはキング種の中では最弱だ。

まだマシな相手かと少しだけ安堵する。


わたくしは周辺の撃ち漏らしを片付けておきますわぁ。」


ジュリが背中から幾筋もの光を放つ。

恐らく数百本に及ぶだろう、威力は低いが凄い技術だ。


そのまま空中で八方に分かれ、各地の残敵が一掃されて行く。

思わず見入ってしまう程の美技だ。


「ディノス様!」

「ボク達も!」

「見なさいよ!」


空を見上げてるのを見られていたようだ。

キング種を前に余裕の3人に視線を戻す。


「では、私があのデカブツをやりましょう。お二人は偽王ぎおうを。」


リサの中では王と呼べる人間は王家と私だけらしい。

私を加えると色々とマズいのだが、その辺は分かっているので他で言う事は無い。


「任せて下さい!」

「流石リサ!偽物の相手は任せなさい!!」


アリスとティニーが返事をする。

馬鹿にされてるのが分かっているのだろう。ジャック達が怒っているようだ。


「遅い!」


キング達を置き去りにして、リサが3体のスプリガンを瞬殺する。

2回ずつ斬り付けたようだが、スプリガンは身動きすらできずに倒れていった。


キング種では無いとは言え、獄炎を耐えたからにはかなりの強さだっただろうに…。

リサの前では雑魚ザコだったようだ。


「行きます!」


「食らい、やがれぇーー!」


アリスとティニーがジャックに突撃する。

ティニーの口が段々と悪くなっているので、そろそろ注意した方が良いかも知れない。


アリスは手加減無しに雷を放出し、周囲に小さな雷球が浮かんでいる。

どうやらオークに向かうようで、敵の隙をうかがっている。


隣のオーガが爆発した瞬間、アリスがオークを斬り付ける。

オーガの爆発はティニーの攻撃のようだ。


オークが虚を突かれながらも対応するが、アリスの速度についていけてない。

以前よりも研ぎ澄まされた剣技に感心する。


(アリスの方は問題無さそうだな。)


恐らくはこのまま地力の差で勝つだろう。

ティニーの方を見てみると、いつものようにオーガが空を舞っていた。


下からの攻撃にうまく対応できず、されるがままだ。

空中に魔法で足場を作り、どこまでも上がっていく。


「これでぇ!ラストォォォォ!!」


最後にオーガを抜き去り、上から渾身の一撃を放つ。

地面に向かって一直線に落ちて来るが、オーガの体が赤熱して衝撃波が発生している。


まるで隕石のようだと思うほどの非常識な光景だ。

何らかの魔法の力が関係してるに違い無いと自分を納得させる。


そのまま地面に到達し、轟音と地響きが辺りを包む。

かなりの深さのクレーターができており、オーガは原型を留めていないようだ。


「ボクは!こっちだ!!」


アリスの方も決着がつきそうだ。

複数の残像に翻弄され、本体を捉えきれないままオークが斬られる。


そのままオークの体中に紫電が走り、焦げ臭い臭いと共に倒れていった。


「皆お疲れ。」


「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」


私の言葉と共に怒号が響く。

いつの間にか壁の上にダークエルフ達が勢揃いしている。


そのまま私を取り囲み、リサ達の元へも殺到している。


「ありがたや…。」

「また明日の朝日を拝めるとは…。」

「使徒様…。」


私の周りでは拝み始める者まで出て来ている。

すぐに街に戻らないといけないが、どうしようか…。


「静まりなさい!ワタシは聖国の聖女よ!!」


「「「おおおお!!!」」」


ティニーがうまくやってくれるようだ。

流石は聖国の聖女、と感謝する。


「その者は王国の聖女マイハ様の息子にして、聖国を、いいえ!世界を救う救世主よ!!」


「「「「「「OOOOOOOOOOおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」


ティニーの言葉に更に熱狂が増す。

まるでモンスターの慟哭どうこくのようだ。


(救世主って…そんな事言って良いのか……?)


確かに邪神復活を阻止出来れば似たようなものかも知れないが…。


「ワタシ達にはまだ救う場所が残ってるわ!家臣になりたいなら迷宮都市ペイスに来なさい!!」


「「「「おおおおお!!!」」」」


ダークエルフ達が涙を流している。

それで良いのかと心配になってしまう。


「じゃ、君も元気でな。」


熱狂の中、背中にいる少女を下ろして声をかける。


「レ、レーネです!!」


目をキラキラと輝かせて名前を告げてくる。


「私はディノスだ。またな。」


その名前に驚くが、こんな場所にいるはず無いと思い直す。

つい『また』と言ってしまったが、まぁ良いだろう。


「すぐに戻るぞ!」


「「「「おおおおお!!!」」」」


最後まで雄叫びは鳴り止まず、私達は街へと帰った。

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