第35話 迷宮 06(漆黒骸骨)

黒い煙が晴れると、赤いスケルトン達は消え去っており、漆黒の骸骨がたたずんでいた。

明らかに重圧が増しており、まるであの魔窟の住人達を思い出す。


(…いや、あの化物達と比べたら遥かに劣るか……。)


とは言えアレを思い出させる程の存在と言う事だ。

アリスとティニーは若干青くなっている。


怖気おじけ付いたなら下がってて良いぞ!」


二人には発破をかける方が良いと思い、挑発じみた事を言う。


「やります!やらせて下さい!」


「ビビってなんか無いわよ!やってやるわ!!」


大声を出した事で緊張もほぐれたみたいだ。

これなら…!


『…ソロソロイカネ?』


骸骨の発言に驚く。まさか喋るとは…。


「…ああ。」


私が答えた瞬間、骸骨の姿が消えた。


「っ!」


アリスに迫る黒剣を受け止める。

その膂力りょりょくに押され、地面にクレーターが出来ている。


「…え!?」


アリスは気付かなかったようで、突然現れた骸骨に驚いている。


そのまま上下左右に剣を振ってくる。

デタラメな速さだ。聖剣だけでは追いつかずに左手も使うがそれでも押されている。


ティニー、アリスが後ろから攻撃しているが、障壁にはばまれて届いていない。

唯一リサの力を込めた一撃だけが敵の注意を引くが、ダメージは与えられて無いようだ。


いつまでも続く連撃を一つずつさばいていく。

敵の黒剣も中々の業物らしく、聖剣と打ち合っても傷一つ付いていない。


少しでもミスをしたらヤられると思いながら、何とか冷静を保つ。


(いつまで続くんだ…。)


20を受けた辺りから数えるのを止めた。

それだけの余裕すら無くなったとも言える。


(マズい…。左手が…。)


私の方から均衡が崩されてしまいそうだ。

聖布を巻き、光魔法で保護している左手が真っ赤に染まっている。


敵の攻撃は易々と防御を突き破ってくる。

既にしびれて感覚も怪しくなって来た。


「っこの!!私のディノスに何してんだーーー!!!」


ティニーが雄叫びと共に一層攻撃を強める。

いつも以上に荒々しい口調で、聖気が周囲にほとばしっている。


あるじ様から離れろ!!!」


アリスから紫電が放たれる。明らかに限界を超えている量だ。


「ディノス様…魂まで捧げます。」


リサに至っては意図的に魔力暴走を起こそうとしている。


(ダメだ!このままでは皆が!!)


完全に限界を超えている。後遺症が残ってもおかしく無いほどの力だ!


(母上…!)


聖剣に集中し、力を込める。


『……ム。』


骸骨が気付いたようだが、3人の猛撃を無視できずに居る。


(力をお貸し下さい…!)


剣の力が増していき、神剣がその姿を現す。

この剣の最終形態だ。だが、すぐに仕留めなければ…!


神剣を見た事で危険だと判断したのだろう。

骸骨が3人を無視して私に向かい合う。


3人は休まずに骸骨を攻撃するが、私にそれを見ている余裕は無い。

こうしている間にも魔力がどんどん失われていく。


(くらえ…。)


頭目掛けて一直線に剣を振るう。

骸骨は咄嗟に剣で受けるが、剣ごと骸骨が二つに割れる。


見事ミゴト…。』


3人はちゃんと避けてくれたようだ…。

それだけ見届けて、段々と意識が沈んでいった。




「ディノス様!ディノス様!」


目が覚めると、リサの顔が目の前にあった。

大粒の涙を流し、綺麗な顔が台無しだ。


「…おはよう。」


声をかけて涙をぬぐってやる。

アリスとティニーも泣いていたので手招きする。


「悪いな。もう暫くは体が動かせそうに無い。」


二人の頭を撫でてやる。


「お疲れ様ですぅ〜♪」


ジュリも3人が限界を超えるのを見て、3人の精神をプロテクトしていたらしい。

後遺症は起きないと断言された。


私達の事を優しい顔で見ていたジュリの頭も撫でてやる。

不思議そうに近寄って来たと思ったら、今は真っ赤な顔で狼狽うろたえている。


「アレで敵は倒せたのか?」


敵の消滅を確認する余裕さえ無かった。

まだまだ神剣は封印した方が良さそうだ。


「はい。あのまま消えていきました。」


リサが答える。


「そうか。」


そして、そのまま私をお姫様抱っこしてきた。


「……何をしている?」


「新たな敵と遭遇する前にすみやかに去るべきです。」


キリッとした表情で言ってくる。

何ならドヤ顔と言っても良い位だ。


「確かに…一理有るが…。」


くそぅ。正論だけに何も言い返せん…。


「リサ姉様!いつでも代わりますよ!」


「ええ!前にお姫様抱っこしてくれたお礼に、一杯抱き締めてあげるわ!」


「全くですわぁ〜。酷いはずかしめを受けましたのぉ〜。」


ジュリはさっきの撫でられた事を言ってるんだよな…。


「勿論分かってます。幸せは皆で共有しなければいけません。」


仲が良いのは良い事だが…、私の意見を全く聞いて無いぞ。


「それかぁ、ここで怪我が無いかじっくり調べるのも良いかも知れませんわぁ〜。」


ジュリの発言に皆の鼻息が荒くなる。

マズいと思いリサの案で行く事にした…。


「それには及ばん。リサ、しっかりと運んでくれ。」


「御心のままに。」


いつもの返しに、私のかんがえと全然違うんだが…、とため息をつくのだった。



「ディノス様が!」

「お体を!」

「動かせない!」

「ですって!?」

「「ですってーー。」」


館に戻ると黄金郷エルドラドやエルフ達が出迎えてくれた。

ジュリに抱きかかえられてる私を見て、羨ましそうに聞いてきたのだ。


エルフの3つ子達は体をウネウネと動かしている。驚きを表現しているらしい。


「お怪我は無いのですか!?」


リーダーの天人娘エメルトが心配してくれている。

この子は真面目で良い子だ。


「何でもお申し付け下さい。」


サブリーダーの闇人娘ナタリーも真剣な表情だ。

ちょっと突飛な発言をして滅多に表情を崩さない。不器用だけど優しい子だ。


「お食事からお風呂まで、何でも致しますわ。」


メンバーの雪女イヴ、雪女族らしく深い愛情を向けてくれる。

容姿は幼いながらもドキッとする仕草を見せる時がある。


「夢と言えば夢魔族の専売特許です。ね、ねやの準備はまかせてくださぃ…。」


夢魔娘ミリーナも声を上げるが、最後の方は小声でよく聞こえ無かった。

この子は…自分の魅力をよく分かって無いのか、おチビ達並に無防備な時がある。


「踊り踊りー!」

「元気になーる、おまじないー!」


銀狼娘キリ金狐娘アイネはエルフ達と一緒にクネクネ踊っている。

このくらい無邪気だと純粋に嬉しい。


「ご飯だけは頼む…。後はいらないよ。」


私の言葉にボス戦かと思うほどの戦いが始まってしまったが、結局は交互に食べさせる事で決着はついたようだ。


この甘い空間を幸せだと感じる位には、私も毒されて来ているようだ…。



翌日、迷宮の事を改めて話し合っている。


「当分はもっとじっくり探索して行こうかと思う。」


別に焦ってるつもりは無かったが、早いペースで潜っていたのは事実だろう。

殆ど休みも取って無かったしな。


ジュリを温存しているから安全マージンは取っていたが、疲れは溜まっているはずだ。


4人は特に異論は無いようだ。


「その方が宜しいかと。そろそろ一言申し上げようか迷っていた所です。」


セバスも賛成のようだ。

ダンジョンの暴走スタンビートについても、40層のボスまで倒したなら当分は大丈夫との事だ。


「皆様方の探索速度は凄まじいものでした。当分はごゆっくりなさるのが宜しいかと。」


天人娘エメルトがチームを代表して発言する。

黄金郷エルドラド達によると、最近は迷宮の人気が無くなって来ていたらしい。


モンスターの出現頻度が多すぎて満足に休めないからだ。

勿論ギルドとしても頑張ってはいるが、中々うまく行って無かったとの事だ。


「ディノス様の偉業を知ったら腰を抜かしますな。いやー、愉快愉快。」


闇人娘ナタリーが愉快そうに笑う。

私が原因でギルドと揉めたと言っていたし、私の評価が上がれば皆にとっても嬉しいか。


40層の宝は色々有ったが、最後の骸骨の魔石を見せれば納得するだろう。


これからは1層に一ヶ月以上かけてゆっくり探索する事に決め、魔の森の間引きなんかも並行して行う事にした。


獣人や亜人の里も有るという話だから訪ねてみるのも面白いかも知れない。

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