第34話 迷宮 05(ー40層)

今日もまた迷宮探索だ。

あの鼻血騒動からも探索を続け、やっと40層まで到達した。


10層毎に中ボスが出るのでこの階では今まで以上の警戒が必要だ。

ティニーもAランクに上がり、今まで以上に活躍している。


あれから屋敷では料理ブームが起き、外で出来合いの物を買う事は殆ど無くなった。

外で何かをつまむ時も魔法の袋から取り出して渡してくれる。


私としても皆の手料理は嬉しいのでありがたく頂いている。


「ディノス様、こちらをどうぞ。」


今もリサがサンドイッチをこちらに向けている。

渡しているのでは無く、リサの手で食べさせようとしているのだ。


「ディノス様のお手をわずらわせる訳にはいきません!」と言っていたが、自分で食べた方が楽なんだが…。


「ああ…。」


一口食べる。気分はヒナ鳥だ。


「ふふ…最後にディノス様の唇に指が触れてしまうのはしょうがないですよね……。」


小声でつぶやいているが、丸聞こえだぞ…。

良い加減リサからサンドイッチを奪って自分で食べる。


リサは完全に停止してしまったが、すぐに戻って来るだろう。


「そんなに何個も食べれ無いぞ…。」


リサの後ろに並んでいたアリスとティニーに声をかける。

二人も固まってしまったので、後で食べさせてくれとフォローしておいた。


変態ジュリは口にサンドイッチを加えてこちらを見つめていたのでスルーした。


「遊ぶのはここら辺にして先を急ごう。」


40層に入ってからもう10日は経つ。

まだ最奥までは時間はかかるし、そろそろ急いで行きたい。


40層は多様な種族の魔物が出現している。

アンデット化したゴブリンからトロール、呪いの影響を受けた妖精から無生物まで勢揃いだ。


ゴブリンと言えども雑魚ザコなどでは無く、40層に相応しい強さだ。

妖精や無生物は死霊化こそして無いが瘴気を放ってくる。


「敵来ました!」


アリスが注意を促す。

早速敵が来たようだ。


「後ろからも来てるわ!」


ティニーが叫びながら後ろに突っ込んで行く。


「リサ!ティニーの援護を頼む!アリス!前をやるぞ!」


二手に分かれて対応する。

背中から「がんばぁ…すぴすぴ…。」と言う声が聞こえなければ緊迫した状況なのだが…。


アリスが飛び出す前に聖剣を振るう。

軽く振るっただけで瘴気が消え、敵の動きが鈍くなる。


「行きます!」


その隙を見逃さず、アリスが飛び出す。

紫電の放出を最低限に抑え、瞬く間に敵を倒していく。


「甘い!」


遠距離から魔法を放とうとしていた敵をまとめて焼き尽くす。

白炎という光と炎の複合魔法で、空気を燃焼する事も無い。


敵を一掃すると急いでこの場を離れる。

40層に入ってからは敵の攻撃が厳しくなり、休憩すると敵がすぐに寄って来る。


「あの小部屋に行くぞ。」


リサを先行させる。

罠自体は大した事無いが、避けられるに越した事は無い。


「霊体系です!」


扉を開くと同時にリサが中の敵を伝えて来る。

そのままつぶてを放ち敵を牽制しているようだ。


「ワタシが行くわ!!」


ティニーが部屋の中央に進み、聖気の込められた拳を地面に放つ。

そのまま聖気は四散し、部屋中のレイス達を瞬殺した。


「ありがとう。」


ティニーに魔力を注いで回復させる。

気持ちよさそうに声を出しているが、少しおっさんみたいだぞ…。


「順調には進んでいるな。」


時間はかかっているが、最短のルートを進めている。

40層までは地図が残されており、ほぼ正確な内容だ。


ボスの情報については載って無いのでその先は未知の領域となる。

地図を見ているとリサが横から覗き込んで来た。


「今日はもう少し進めそうですね…。行きますか?」


リサの言葉に頷き、地図をジュリに渡しておく。

案内役ナビゲーターを務めてくれているが、そこまで役に立ってはいない。


「何かぁ…けなされてる感じがします〜。はぁはぁ。」


寝てるか下ネタを言ってるかのどちらかだからだ。


「扉の前に集まってるみたいだな。蹴散らすぞ。」


ジュリは無視して話を進める。

入って来た扉とは別の扉を開き、集まっていたゴブリン達をなぎ倒した。


今日も長くなりそうだと思いながら先を急いだ。




「ここがボス部屋か…。」


今まで以上に巨大で重厚な扉だ。

中に入る前に再度注意しておく。


「敵は恐らくSランクだ。皆で協力するぞ。ジュリも危ないと判断したら動いてくれ。」


ジュリという保険がいるお陰でここまで安心して来る事が出来た。

変態だが、実は貴重な存在だったのだ。


「分かりましたぁ…。」


半目で流し見て来る。

ちょっと無視し過ぎたかとも思うが、相手にするとキリが無いからな…。


「アリスは特に注意してくれ。ある程度見極めるまでは防御主体だ。」


「はい!」


元気よく返事して来る。

変態ジュリを見た後にアリスを見ると本当に癒される…。


「私、リサ、ティニーが主力だ。敵が複数いるなら強い奴から倒すぞ。」


「御心のままに。」


「まっかせて!!」


二人ともやる気に満ちているようだ。

長かった40層も終わりにしてやろう…!


ゆっくりと扉を開くと、王冠を被ったスケルトンと、周りに数体のスケルトンがいる。

周りの奴らは騎士のような装いで、豪華そうな剣と盾を持っている。


「あらぁ…。」


キング種か…。」


いつか出るとは思っていたが、40層で出てくるとはな…。

部屋の中央にはスケルトンキングが静かに立っていた。


各種族の中でもキング達は別格で、キング種と区別されている。

他にもロード、エンペラー、クイーンなどが該当し、全てがSランク以上だ。


ゴブリンキングが小国を滅ぼした事例も多数存在し、キング種の恐ろしさを今に伝えている。


(赤い骨となると今までの赤スケルトン達のキングか…強敵だな。)


普通のスケルトンキングでも強敵だと言うのに、赤色のキングとなると…。

考えても仕方ないと思い、声をあげる。


「私とリサでキングを!アリスとティニーは騎士を倒してくれ!」


叫ぶと同時に敵に向かっていく。

キングは虚空から大剣を取り出し、そのまま斬りつけて来た。


受け流して一撃当てようと大剣を受けると、そのまま吹き飛ばされてしまった。


「ディノス様!?」


リサが驚いて私を見てくる。


「前を見ろ!」


リサの視線は私だけを捉えていた。

勿論敵がそれを見逃すはずも無く、リサへと大剣が襲い掛かる。


「やらせるか!」


白炎に魔力を込めて敵の目の前に発現させる。

完全に止める事は出来なかったが、少しでも時間が稼げれば十分だ。


「ありがとうございます。」


リサが無事敵の攻撃をかわし、感謝の言葉を述べてくる。

手を上げる事で応じ、敵の動きを見る。


周囲では2対5でアリスとティニーが戦っている。

二人の声からすると問題は無さそうだ。


キングはリサに標的を定めたようで、大剣を振りかぶって攻撃しようとしている。


「思った以上に強いぞ!」


念の為にリサへと声をかける。

相手が攻撃した瞬間を狙おうと私も移動を開始する。


「DDDDAAA!!」


怪音を発しながらキングが攻撃を開始した。

同時に私も足を斬りつける。


「くらえ!」


キングの自動障壁が展開され、私の攻撃をはばもうとしてくる。

しかし、聖剣を防ぐ事は出来ず、不快な音と共に骨が砕け散った。


「お見事です!」


リサも相手の姿勢が崩れた所を見逃さず、左腕を砕いていた。

このまま圧勝かと思ったが、逆再生したかのように手と足が元通りになっていく。


(足の方が回復が遅いな。)


リサを見ると頷いている。

戦法は決まった。


言葉は交わさずに、リサが怒涛どとうの攻めを見せる。

重力を刀に集めているようで、刀が歪んで見えるほどだ。


「ディノス様の前にひざまずきなさい!」


台詞はどうかと思うが、見事な剣撃だ。

敵の大剣が徐々に崩れていく。


私は不自然に思われないようにこまかく攻撃を刻んでいく。


「UUUGGG!」


遂に耐えきれなくなり、大剣が折れる。


「行きます!」

「トドメだ!」


リサが胴、私が頭を狙い渾身の一撃を与える。

そのまま骨がバラバラになり、ようやく倒す事が出来た。


アリスとティニーを見るとちょうど最後の敵を倒す所だった。


やっと終わりかと思っていると、骸骨達を黒い煙が包んでいく。

まだ戦いが終わった訳では無さそうだ…。

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