第33話 想いの魔法

ーーー天人娘エメルト視点ーーー



「それでは、これより夢魔族に伝わる秘術をお教えします。」


夢魔娘ミリーナひそやかに話し出す。

リサ様方、未来の奥方様達が目を輝かせて集中している。


天人娘エメルト闇人娘ナタリー、前は必要無いって言ってたのに、やっぱり気になるのねー。」


夢魔娘ミリーナが意地悪そうに笑う。


「いや…ディノス様のお口に入るのだ…。私にはチェックする義務が…。」


うまく口が回らず、どんどん声が小さくなってしまう…。


「我は気になる。ディノス様が気に入られたならば、すぐにでも学びたい。」


闇人娘ナタリーがド直球に宣言する。

くそぅ…、その大胆さが羨ましい…。


「そ、そう…。まぁ良いわ。教えましょう。」


夢魔娘ミリーナも気圧されたようで、少し顔を赤くしながら説明を始める。


「何より大事なのは『エターナルラヴ』!真実の恋にこそ魂は宿るのです!!」


「「「おお!」」」


夢魔娘ミリーナの宣言に一斉に声が上がる。

私もつい驚いてしまった…。


「愛しい人を想って料理を作り、愛する所を一つずつ思いながら魔法をかけるのです。愛の魔法は絶対だって皆言ってます。」


「「「「おおお!」」」」


流石は百戦錬磨の夢魔族…、夢魔娘ミリーナは経験なんて無いはずだが、何故か説得力が有る。


夢魔娘ミリーナちゃんはとても素晴らしい事を言いましたわぁ!そうですのぉ!愛の魔法は絶対なんですよ〜!」


ジュリ様が声を上げる。

あの方はディノス様が旅先でお見つけになられた魔法使いだ。


私達よりも早くお手つきになられたのは、やはり魅力的なお体故にだろう…!


わらわ達雪女族の伝承でも伝えられてますわ。殿方を愛する事、それは至上の喜びと…。あぁ…ディノス様…。」


雪女イヴも負けじと参戦する。

雪女族は男性に尽くす種族、一家言が有るのだろう…。


「良い事言うわね!小さいと思っていたけど、雪女イヴも立派なレディね!」


ティニー様が雪女イヴをお認めになられたようだ。

雪女イヴは体こそ小さいが、淑女としてなら私達の中でも一番かも知れない。


「そう言えば闇人族の伝承にも有りましたな。闇のように深く愛せよ、と。我も早くディノス様に抱いて貰いたいものです。」


闇人娘ナタリーの明け透けな物言いに、つい飲み物を吹き出してしまう。


「ふ…。貴方は見込みが有りますね。天人娘エメルトはどうなんですか?」


リサ様が私に声をかけて下さっている。

恥ずかしいが何とか答えねば…!


「は!天人族の格言では、昼は貞淑に!夜は淫乱に!と伝わっております!私も全身全霊を持って尽くす所存です!」


ふぅ…、何とか言えた…。

汝、愛する者をもっと愛せよ、とどちらを言うか迷ったが、やはりこちらだろう。


天人娘エメルトさん…、その格言は少し違うような…?」


アリス様が首をかしげている。何と愛らしい…!


「ディ様好き好きー!」

「ずっと一緒がー!」


銀狼娘キリ金狐娘アイネも大声で宣言する。

いつまでも純真で微笑ましくなってしまう。


「ん?どうしました?ノスリ、ノスル、ノスレ。」


リサ様がエルフメイド達に声をかけている。

あの3人は孤児院に来てすぐにディノス様のメイド隊へと大抜擢された娘達だ。

ディノス様から名前を貰うなんて…まるで婚姻では無いか……。


孤児院に来るまでは過酷だったと聞いたので、今の幸福を祝福してやりたい。

しかし矮小わいしょうな私は同時に嫉妬もしまっている。何と情けない事だ…。


「不平な…。」

「愛二個…。」

「そすべて…?」


何かを言いたいみたいだが…。

愛が二個では足りないと言う事だろうか…確かにディノス様の愛は無限に欲しい…。


エルフ娘達は自分達でも分からなくなってしまったみたいで、お互いを見て首を傾げている。

アリス様と銀狼娘キリ金狐娘アイネが頭を撫で回して褒めている。


「…不変な愛にこそ、全ては宿る、ですねぇ。」


ジュリ様が修正してくれた。

エルフ族の格言何だろうか…?そんな事まで知ってるとは何て博識な方なんだ。


「では〜、皆様方の魔法の言葉を教えて貰ったお礼に、わたくしも取っておきの魔法を教えてあげますわぁ。」


ジュリ様の取っておき…、どんな凄い魔法かと喉が鳴ってしまう…。

皆同じように目を輝かせている。


「それはぁ…『授かりの魔法』ですぅ!女性だけの特別な魔法なんですよぉ!」


その後教えられた秘術の数々に、私達はなす術も無く撃沈して行った。

リサ様は最後まで頑張っていらしたが…「ディノスしゃま!はぁはぁ…!」と言う叫び声を最後に動かなくなってしまった…。


ディノスしゃまって可愛いな、と思いつつ、私の意識もボヤけていった…。





ーーーディノス視点ーーー



今日は女子会をすると言う事で、セバスと久しぶりに手合わせをしていた。

リサ達は居て良いと言っていたが、私の方が気まずいからな…。


「お強くなりましたな。近い内に私も抜かされそうです。」


セバスが褒めてくる。

確かにセバスとの力の差は小さくなっているが、セバスも昔より確実に強くなっている。

その年齢で尚成長する姿には敬意を覚える程だ。


「まだまだ時間はかかるさ。強さ以外でもセバスには頼りっきりだからな。」


迷宮に潜る様になってセバスとの訓練は減ったが、頼り具合では昔よりも大きくなっている。

私達が不在の間はセバスが殆ど一人で屋敷を管理しているのだ。


それに加えて公爵家の動きを探ったり、都市の情勢を調べたりと、常に動き回っている。

それがセバスの仕事とは言え感謝の念は忘れずに居よう。


「ただいま。」


屋敷に入る。

『ただいま』や『いただきます』などの言葉も普通に使われている。


伝説の勇者が広めたと言われているが、転生した人間かも知れない。

乙女ゲームの世界だから何が原因か分からないが、過ごしやすいので大して気にしてない。


「おかえりなさい〜。」


リビングからジュリの声が聞こえる。

リサ達はどうしたんだろうとリビングに入ると、部屋中が血で汚れていた。


「! 敵襲か!?」


すぐに聖剣を構える。

敵を警戒しながら皆に回復魔法をかける。息もしっかりしているようだ。


「何が有ったんだ?」


警戒したままジュリに声をかける。

何やら言いづらそうにしているが…。


「それがですねぇ…。皆様にはちょ〜っと刺激が強かったみたいでしてぇ…。」


アリスを見てみると鼻筋に赤い線が残っている。

アリスだけじゃ無い。皆赤い線をつけて満足そうに眠っている。


「……ジュリ…。」


セバスがサッとこの場を離れた。

戦況を瞬時に見抜く判断力は流石の一言だ。


「ジュリは晩ご飯抜きな。」


毛布でくるんで寝かしておいた。

最近のジュリは毛布を見ると嬉しそうな顔をするようになってきた…。


頭の痛い話だが、他に方法も思い浮かばないので見なかった事にしておく。


一人一人鼻筋を吹いてやり、それぞれの部屋まで運んでやる。

貧血なら時間が必要だろう。


部屋に入ると良い香りがして少しクラッと来る。

お姫様抱っこで密着しているので尚更だ。


リサ、アリス、ティニーと3人を運ぶだけでも一苦労だった。

時折悩ましい声をあげるので尚更疲れる。


次は黄金郷エルドラド達だ。

天人娘エメルト闇人娘ナタリーと運んで行くが、夢魔娘ミリーナの時に違和感を感じた。


(起きてるのか…。)


緊張してるのか、体がカチコチだ。

気のせいかも知れないが、唇を突き出しているようにも見える。


ちょっと悪戯いたずらしてやりたい気分になったが、何とか我慢する。

ベッドに寝かせる時には体を曲げられない程だったので、最後に声をかけておいた。


夢魔娘ミリーナ、良い夢を見るんだよ。」


頭を撫でてやるとふにゃふにゃになったので緊張も解けたみたいだ。

リビングに戻ると残りの子達は起きていた。


わらわは…お休みしたいです…。ディノス様…運んで下さいませんか…?」


雪女イヴが勇気を振り絞るように言って来たので快く受け入れた。

軽い体を持ち上げると首に手を回して来た。思った以上に積極的な子みたいだ。


少し驚いたが、手が震えていたので背中を撫でておいた。

雪女イヴを運んだ後は夕食会だ。


幼女ばかりでいつも以上に騒がしかったが、銀狼娘キリ金狐娘アイネは面倒見が良くて、エルフ娘達の世話を見てくれた。

私も一緒に頑張ったが、二人の方が遥かにお姉さんしていた位だ。


「ごちそう様ー!満腹ですー!」

「お腹いーっぱい!ごちそう様でしたー!」


「ごち…。」「そう…。」「さま…。」


それぞれ食べ終わると、歯を磨いて就寝となった。

ちゃっかり寝る時に抱っこを要求して来たので、この子達が一番賢いのかも知れない。

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