第13話 波乱の予感

「……どうしてこんなことになってるんだ」


 学校からの帰り道、少々困惑気味な顔でため息をつく。

 今日の放課後は、大石おおいしが僕と一緒に画像に写った可愛い女の子、もとい妹の結衣ゆいが本当に僕の妹なのかを確認しに家に来る予定だった。


 それなのにどうして……


酒井さかいくん、どしたの?」


「何かあったの? 大丈夫?」


 僕がため息をついたことに心配してくる女子2人。

 その1人は当然、これから家に来る予定の大石だ。


 そしてもう1人は、フワフワとした栗色の綺麗な長髪の可愛らしい女の子。その子は僕の復讐相手、もとい宮崎葵みやざきあおいである。

 どうして宮崎も一緒にいるのか。それを説明するには、約10分前にさかのぼる必要がある。



 ――約10分前。


 僕が通っている高校の前には、いつも通り他校から来ている僕目当ての女子がたくさん集まっていた。

 そんな中で僕が女子と2人で学校から出てくれば、当然の如く問題になる。

 そのため、僕と大石は別々に学校を出て、少し離れたコンビニエンスストアで待ち合わせることにした。


 まずは大石が学校を出て、次に僕が出る。

 大石が学校を出てからしばらくして、問題の僕が学校を出ると、毎日毎日聞いている叫び声が飛んでくる。


「「「「キャ〜〜〜!!!! 酒井くぅ〜〜〜ん!!!!」」」」


 慣れたかと聞かれれば、当然慣れていないと答えるだろう。


 この声が飛んでくると同時に、周りから向けられる視線から感じ取れる殺気が尋常じゃないからだ。

 特に男子からの視線がやばい。

 今にでも誰かに殺されそうで、いつもひやひやしている。


 そして笑顔で会釈をしながら、来てくれた女の子たちの間を通って待たせている大石のもとへと向かう。

 しばらく歩くと、わざわざ学校まで来てくれた女の子たちは見えなくなり、ほっとしたのも束の間だった。


「酒井くん、こんにちは〜」


「……」


 僕の目の前に現れた2人の女の子。

 宮崎と以前に来た時に確か綾世あやせと呼ばれていた女の子だ。


「こ、こんにちは。えっと……何か用かな?」


「今日は葵が用事あるそうなので、葵、あとは頑張りなよ。じゃあね〜!」


 そう言って立ち去る綾世さん(苗字か名前か分からん!)。

 先程から宮崎は一度も目を合わせたり、話したりしていない。

 とても気まずい状況である。


「……宮崎、用事ってのは? 僕、これから用事あるから急がないとなんだけど」


「……」


 話しかけても返事はない。


「宮崎?」


「…………でしょ」


「ん?」


「どうせ、あの可愛い金髪の女の子との用事でしょ」


 宮崎が言ったあの可愛い金髪の女の子、というのは恐らく大石のことだろう。


 だが、様子が変だ。

 宮崎はさっきからずっと俯いたまま。

 その理由がよく分からない。


「大石のことか? 一応そうだけど、それがどうかしたのか?」


「……どこで遊ぶの?」


 ……質問に質問で返されるとは予想外だ。


「僕の家、だけど」


「……2人は付き合ってるの?」


「付き合ってねえよ!?」


 宮崎が質問して、僕が答えるという無限ループ。

 ……誰か、助けてクダサイ。


「じゃあ、酒井くんはあの子のことを――」


「あ、酒井くん! 遅いよ、何してたの! って、あ……」


 僕の切実な願いに答えたかのように、大石が現れた。

 ありがたい……ありがたいけど、今大石が来たら余計酷い状況になるよ!


「また現れたな、金髪女」


「はぁ?」


 やっぱり……!

 前回会った時もこうなったし、もう修羅場は勘弁してよ!


「酒井くん」


 冷たい声で呼ぶ宮崎。

 その時の顔はもちろん笑っていない。


 ど、どうしよう! まじで怖いよ!


「……はい」


「私も酒井くんの家行くね」


「「は!?」」


「いいよね?」


 再び冷たい声で放たれる。

 ……僕は、一体どうすればいいのでしょうか。


「……大石さん、いいですか?」


「はぁ……わかった。いいよ、別に」


「あ、ありがとうございますぅ……この御恩は一生忘れません……!」


 斯くして、大石だけでなく、宮崎も一緒に僕の家に来ることになったのだった。

 この後は間違いなく修羅場が待ち構えている、そんな予感に嘆きたくなるのは言うまでもない。

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