第11話 ホラーだけは絶対ダメ!

「お兄ちゃんはどんな映画見たい?」


「そうだなー……僕はホラー以外なら何でもいいよ。だから結衣ゆいが見たい映画を借りな」


 今日の予定は妹である結衣と映画鑑賞。

 映画館に行って今上映している映画を見るのもありだが、DVDレンタル店で旧作をたくさん借りて家で見ることになった。


「じゃあ、ホラー系のやつ借りようかな〜」


「なんで!? ホラーだけは勘弁してぇ〜〜〜!!」


 ホラーは大の苦手だ。

 お化け屋敷とか肝試しとか、そこら辺は全部無理。


 そんなホラーが苦手な僕に対して、結衣は大のホラー好き。

 本当に兄妹なのかと疑うほどに、僕たちは好みが正反対なのだ。


 例えば夏と冬、どっちが好きかと僕たちに質問をしてみる。

 すると僕は冬と答え、結衣は夏と答える。


 今までで一度も好みがあった試しがない。


「試しに1本だけ借りてみよ? ね?」


 そう言いながら、僕が持っている買い物カゴにホラー系DVDを入れようとしている結衣。

 こいつ……僕がホラー苦手だってことを知っているくせに……!


「別に借りてもいいけど、僕は一緒に見ないぞ」


「え〜〜〜! つまんないのー! 折角お兄ちゃんが怖がっている顔の写真を撮ろうと思ったのに」


 な……なんて奴だ!

 僕の恥ずかしい写真を撮って、どうするつもりだったんだ!


「それでその写真を使って、お兄ちゃんを私の下僕に……」


「下僕ぅぅぅううう!?」


「ははっ、冗談だよ冗談」


 笑いながら言う結衣に対して、僕はそれが全く冗談だとは思えなかったのだった。



「いや〜、結構借りたね〜」


「全部を今日中に見るのは……無理そうだな」


 結局ホラーなしの旧作映画を6本借り、帰路に就いた。

 結衣曰く、1人でホラーを見てもつまらない。私はお兄ちゃんが怖がっているのを見たいんだ、らしい。

 まったくひどい話だ。


「とりあえず、帰ったらまずこれ見ようよ」


 結衣は1本のDVDを取り出す。

 そのDVDは、僕たちがまだ生まれていない時に上映された純愛映画。

 他にはアニメの映画だったり、アクション系映画も借りた。

 僕としてはそちらの方が楽しみだが、結衣が見たいと言うなら断らざるを得ない。


「いいぞ」


「それとお兄ちゃん! 映画館の気分を味わうために……」


「ポップコーンか?」


「うん!」


「……じゃあ戻るか」


「……」


 ポップコーンならDVDレンタル店にもあったし、戻ろうと結衣に声をかけても返事はない。


「おい、結衣?」


「スーパーがいい!」


「なんで!?」


 今いる場所からスーパーに行くよりも、DVDレンタル店に戻った方が時間を短縮できる。

 それなのに、どうしてスーパーに行きたいのだろうか。


「いいから!」


 そして結衣は、僕の手を引いて再び歩き出す。

 本当に謎だ。



 結局手を引かれるがままにスーパーにやって来た。

 結衣は僕に買い物カゴを持たせ、お菓子コーナーに向かう。

 ……そして。


 ズシッ! ズシッ! ズシッ!


 どんどん重くなっていく買い物カゴ。

 結衣の目当ては最初からポップコーンなどではなかったのだ。

 買い物カゴの中には、かなり大きいポティトチップスやホッキーのファミリーパック、その他にも色々なお菓子が入っている。


「お、おい……まさかこれ全部買うのか?」


「え? 当たり前じゃん」


 カゴに入れた物は買わなきゃ、と付け足して言う結衣。

 それにしても、この量は半端じゃない。


 周りの人からも引かれるレベルの量。

 現に今めっちゃ見られてるし! (実際にはお菓子ではなく、自分自身を見られているということに気づいていない)



 結衣の言った通り、カゴに入れたお菓子は全て購入し、帰路に就いた。

 ……やっぱり買いすぎだろ、これ!


 僕の両手は先程買ったお菓子で塞がっている。

 すごく重い。尋常じゃないくらい重い。


「やっぱり少し持とうか? さすがに重いでしょ」


 借りたDVDが入った袋を振り回しながら結衣が言う。

 でも、男として、兄として、妹に不甲斐ない姿を見せるわけにはいかない。

 頼れる兄だと思ってもらえるように。


「だ、大丈夫さ」


「そう?」


「あ、ああ……」



 家から近いということもあって、なんとか耐え切ることが出来た。

 でも……


(しんどすぎる! この短時間で体力全部持ってかれたんだが!?)


「はい、お兄ちゃん」


 家に着くなり結衣は颯爽とリビングに向かい、玄関で疲れて座り込んでいる僕のもとに戻ってきた。


「……え?」


「疲れたでしょ? 水飲んで」


 そう言って、結衣は水が入ったコップを手渡してくれた。


「あ、ああ……ありがとう」


「こちらこそありがとうね」



 それからしばらく休憩し、買ったお菓子を食べながら借りてきた映画を夜まで見たのだった。

 すごく疲れたけど、いい1日だった、と思う。

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