第10話 尾行 ※宮崎葵視点

 放課後の帰り道。

 私――宮崎葵みやざきあおいは、友人である綾世あやせと他愛もない話をしながら並んで歩いていた。


「綾世、ちょっと明日服の買い物付き合ってくれない?」


「別にいいけど……葵、明日は酒井さかいくん誘うって言ってなかった?」


「……断られちゃった。来週なら大丈夫って言ってたけど」


「そうなんだ。わかった、いいよ」


 本当は酒井くんと一緒に行ければ良かったけど、断られてしまったため仕方がない。

 来週まで待てばいい話だけど、服のレパートリーを早く増やしたいということもあって、今週に買いに行きたいのだ。



 次の日、私と綾世は昼前に集合し、2人で昼ご飯を食べてからショッピングモールに行くことに決まった。

 私たちは駅の近くのファミレスで昼ご飯を食べ、ショッピングモールに向かおうと思ったんだけど……


「……ん? ちょ、ちょっとあっち見て!」


「何? どうしたの?」


 ファミレスでは外側の席に座っていた。

 すると突然綾世が水を飲むのをぴたりと止め、外を指差している。


「…………え」


 綾世が指を差している方向を見た瞬間、私の頭の中は真っ白になった。

 外では、2人の男女が周りから注目を浴びている状況が一目見て分かる。

 そして、その2人の男女には見覚えがあった。


「あれって……酒井くん、だよね」


「……うん」


 男の人の方は酒井くんで間違いない。

 そして一緒にいる女の人の方。

 肩まで伸びたしなやかな金髪が特徴的。

 あいつは……


「あ! あの女、あの時の……!」


 確か私と酒井くんがゲームセンターで遊んだ日の帰りに突っかかってきた奴だ。


「え、知り合い?」


「知り合いっていうか、簡単に言えば恋敵かも」


「ほほう?」


 まるで悪巧みをしているかのように、綾世はニヤリと笑った。


「じゃあ、


「……はい?」


「だって酒井くん、葵の誘いを断ってまであの子といるんでしょ? どうしてか気にならない?」


 それはそうだ。

 酒井くんはあの金髪女のことを仲のいい友達だと言っていた。

 でも、だからといって男女2人で遊ぶか? 普通。


「悔しいし、めっちゃ気になる。あの2人の関係」


「だよね。じゃあ行こう」


 斯くして、私たちはあの2人の尾行をすることになったのだった。



 酒井くんと金髪女の尾行を始めてから数分が経った。しかし、私はもう帰ろうか迷っている。

 なんでかって?


 だって、見ていて辛いんだもん。


 少し離れたところから見ているけど、あの2人の関係について嫌でも分かってきた。

 前に金髪女と初めて会った時から薄々勘づいていたけど、あの金髪女は酒井くんのことが好きだ。

 そして酒井くんも満更でもない感じ。

 2人は付き合っているのかもしれない、そう思った。


 私は一度、酒井くんと遊んだ。

 でもそれは私が一方的に約束を取り付けたから。

 本当は私となんか遊びたくなかったんじゃないだろうか。

 つくづく私は最低な女だと感じさせられる。


 もうこれ以上見ていたら、どんどん負の感情が積み重なっていく気がしてきた。


「綾世、やっぱりもう帰らない?」


 無意識にその言葉が出ていた。


 帰りたい。もうこれ以上あの2人のイチャイチャしている姿を見せつけられたくない。


「私はあの2人が帰るまで尾行を続けるよ」


「な……」


 綾世は一度決めたら、諦めずに最後まで終わらせるタイプ。

 それはまだ知り合ってからあまり時間が経っていないが、嫌という程知っている。

 でも今回ばかりは……


「だって葵、このままでいいの? 確かにあの2人は好き同士かもしれない。でもそれはもしかしたらの話じゃん。それに、私の中で1つだけ確信していることがある」


 少し間を空けて、綾世は続けた。


「あの2人は私たちが尾行している間、一度も手を繋いでいない。つまり、まだあの2人は付き合っていない!」


 自信満々に言う綾世。


「そういう気分じゃなかった、っていうのもあると思うけど……それがどうかしたの?」


 綾世の言いたいことが、理解できなかった。


「付き合っていなければ、2人が好き同士でもチャンスはあるってこと!」


「……はい?」


「要するに! これからはあの2人の邪魔をしまくって、その上で葵が酒井くんに好かれればいい。ふぅ……私って天才だな〜やっぱ」


 邪魔をする? ってことは……


「今日は尾行じゃなくて、徹底的に邪魔をしよう!」


「ちょっ……それはさすがにダメでしょ」


「なんで?」


 こいつ……目がマジなんですけど……

 自分の恋敵じゃないってのに、あの2人の邪魔する気満々じゃん。


「だって……私が邪魔される立場だったら嫌だもん」


「ダメだな〜、恋は邪魔してこそでしょ」


「でも……」


「はぁ……わかった。じゃあ、今日は勘弁してあげる。その代わり明後日からね。今日は尾行だけ……」


「結局尾行はするんかい!」


 そうして、綾世のいつも通りさに少し元気をもらいながらも、その後も尾行を続けたのだった。

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