第9話 すごく視線を感じる……

 早くも土曜日になり、僕――酒井祐希酒井有紀大石おおいしと2人で遊ぶために一足先に集合場所である駅前で待っていた。


 今は集合時間である13時よりも30分早い12時半。

 なぜこんなにも早く来ているのかというと、妹の結衣ゆいが「女の子を待たせるなんて有り得ないから!」と言っていたからである。


 でも今日は初めて同じ高校の人と遊ぶということもあって、昨日からずっと楽しみだったのは間違いではない。

 その相手が女の子であることもあって、すごく楽しみだ。

 そのため、本当は集合時間よりも15分早く来ようと決めていたにも関わらず、30分前に来てしまった。


「やっぱり早く来すぎたな……」


 さすがに1人で30分も待つのは酷だと後悔する。

 大石、早く来ないかな……


「え、酒井くん!? どうしてこんなに早く来てるの!?」


 僕の切実な願いに答えるかのように、大石が駅の改札口から出てきた。

 大石の格好は、白カットソーに黒スキニーパンツを合わせてスタイリッシュなコーディネート。そこにオーバーサイズのシャツをさらっと羽織っているシンプルなコーデになっている。


「色々あってね……大石こそ、まだ30分前だぞ?」


「私はその……楽しみすぎて待てなかった、っていうか……えへへ」


 はにかむように笑う大石。

 言わずもがなだが、その姿はとても可愛らしい。


「……そうか」


 実は僕も……なんて言えるわけがない。

 だって、恥ずかしすぎるもん!!


「その……似合ってるな、服」


「本当に!? ありがとう!」


「おう、じゃあ早速行こうか」


「うん!」


 いつも以上に元気な大石。

 本当に楽しみにしてたんだな……



 駅の近くにある大型ショッピングモール。

 ここは最近改装して開店したばかりで、内装がどうなっているのか見たいということらしい。

 そのため、今日の主な目的はウィンドウショッピングだ。


「どうなってるんだろうな〜、楽しみ!」


「聞いた話だと、新しい服の店が結構増えたらしいよ」


 これは結衣の受け売りだ。

 ちゃんとエスコート出来るようにと、昨日徹底的に教え込まれたのである。

 実のところは、会ったらまず服を褒めるというのも結衣に教わったことだ。


「そうなんだ!」


 これから向かうショッピングモールについて色々話しながら歩いていると、あることに気づいた。

 決して気にしていたというわけではないが、どうしても気になってしまうのだ。

 大石も気づいたのか、僕に耳打ちしてくる。


「ねぇ……なんか?」


 そう、道行く人やお店の窓越しにいる人たちからすごい見られているのだ。

 見てくる人たちは、年齢性別関係なく老若男女。

 どうしてここまで注目を浴びているのか、全く見当もつかない。


「そうだね。僕もいつも注目浴びてる方だと思うけど、今日はそれ以上に見られてるよ」


 いつもは女の人からしか見られない。

 それなのに今日は女の人からだけでなく、男の人からも見られている。


 ……まさか。


 僕は大石に目を向けた。

 肩まで伸びたしなやかな金髪。透けるような真っ白い肌。整った鼻梁びりょうに、長い睫毛まつげに縁取られた大きな瞳。つやを帯びた綺麗な唇。

 そして、金髪に合ったシンプルなコーデ。


 間違いない。

 男の人の視線を集めている理由、それは大石の可愛らしい容姿に他ならない。

 でもどうして、女の人からも視線を集めているのだろうか……


「……くん、酒井くん!」


 やばい! 考え事に夢中で話聞いてなかった!


「ご、ごめん! 考え事してた……」


「もう!! そろそろ着くから早く行こ!」


「ちょっ……!?」


 大石は僕の手を引いて、目の前に見えるショッピングモールに向かって走る。

 心做こころなしか手を引いた時の大石の頬が赤く染まっていたように感じた。


 それからは2人でウィンドウショッピングを楽しみ、それぞれ帰路に着いた。


 しかし、今日の僕は気づくことが出来なかった。


 駅で待ち合わせた時からずっと。

 周りから視線を感じて大石と2人で話していた時も。

 大石が僕の手を引いてショッピングモールまで走った時も。

 ショッピングモールで楽しくウィンドウショッピングをしていた時もずっと。


 ずっとずっとということに。

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