第7話 何でも言うこと聞くから許して!

 今日も今日とて登校するのに憂鬱を感じながらも、僕は1人で通学路を歩いていた。


 毎日のように感じる周りからの視線。

 毎日のようにされるひそひそ話。


 そんなことには未だに慣れないし、何より今日は大石おおいしと会うのが一番怖い。

 学校休みたい……


 そう、僕は先日、人生初の修羅場に遭遇した。


 大石とは連絡先を交換していないが故に、未だ謝ることができていない。

 女子と2人きりでは遊べないといつも断っておいて、他の女子と2人きりで遊んでいた。

 そんな事実があるにも関わらず謝っていないというのは、無礼極まりないだろう。


 僕は本当に最低な男だ。

 簡単に許してもらえるとは思っていない。

 でも、大石は高校に入ってから最も親しい人だ。

 どんな手を使ってでも許してもらいたい。


「どうすれば許してもらえるかな……」


 その後も周りからの視線やひそひそ話を気にしながら、大石に許してもらえる方法を考えながらも学校に足を進めたが、何1つとして良案は思いつかなかった。



「さ・か・い・くん? 今日も元気そうだね〜? 昨日は私の約束を断っておいて別の――」


「タイム! タイム! ここでは話さないでぇぇぇえええ!!!」


 教室に入ってすぐの場所で仏頂面をして立っている大石が、修羅場になり兼ねないことを言いかけたため、全力で阻止する。

 恐らく、ずっと僕のことを待っていたのだろう。


酒井さかいくんに大石さんも、朝っぱらからどうしたの?」


「な、なんでもない! とりあえずホームルームが終わったら話をしよう。な?」


「……」


 このままでは間違いなく、大石が昨日あったことを全て皆に話してしまうだろう。

 絶対にそれだけは避けなければならない。

 今後の身の安全のためにも……



「昨日は本当にごめん!」


 ホームルームが終わり、ぷくっと頬をふくらませた大石を連れて人気のない場所に向かい、結局何も思いついていない僕はひたすら謝っていた。


「…………」


 無視。

 大石は今でもぷくっと頬をふくらませて、明後日の方向を見ている。


「本当にごめんって! ……わかった! 何でも言うこと聞くから、許してくださいお願いします!」


「……何でも?」


 勢いで思いついたことを口に出してしまったが、この際仕方がない。

 これで許してもらえるなら、どうにでもなれ!!


「何でも!」


「じゃあ……連絡先交換しよ?」


 …………え?


「……それだけ?」


「……うん」


 予想外だ。

 大石なら放課後2人で遊んで欲しいとか、その辺のことをお願いしてくると思ったのに。


「そっか……」


 僕の携帯に登録してある連絡先は、両親と妹、そして宮崎みやざきの計4つだ。

 一応言っておくと、宮崎の連絡先は中学の頃に交換し、復讐をするために今でも残してあるのだ。


 この高校では誰とも連絡先を交換しないと決めていたが、何でも言うことを聞くと言ったし、断ることは出来ない。

 まぁ、仲良い人となら交換してもいいか……


「わかった。いいよ」


「本当に!? やった〜!」


 僕の承諾の一言を聞いた瞬間、満面の笑みで諸手を挙げて喜ぶ大石。

 その時の顔は言うまでもなく、この学校にいる男子をことごとく惚れさせるであろう可愛さを誇っていた。


「あ、でも他の人には教えるなよ?」


「わかってる!」


 あ、と・こ・ろ・で! と付け加えて、詰め寄ってくる大石。


 え、何!? 怖い!

 さっきの可愛さ一気になくなったよ!?


「昨日一緒にいた可愛い子! 誰なの!?」


「あー……」


 そういえば、大石は宮崎のことを知らない。

 彼女か聞かれて、仲のいい友達としか答えてないからな。


「僕と同じ中学だった人だよ」


「ふ〜ん? へぇ〜? それで? その子と酒井くんはどうして2人で遊んでたのかな?」


「それは、その……」


 昨日僕と宮崎が遊んでいたことを説明するには、中学の頃の話から始めないといけないけど……

 大石に話していいのだろうか。


 大石はすごくいい人だけど、僕が過去にキモオタだったことを知って引かれるかもしれない。

 復讐すると聞いて、最低な男だと思われるかもしれない。


 かと言って、変に誤魔化してバレたら面倒だし、本当のことを言うしかない、か……



「…………と、いうわけなんだ」


「そうなんだ……はぁ、


 結局覚悟を決めて中学の頃から今までの経緯を全て話すと、意外なことに安堵のため息が聞こえてくる。


「……え?」


「あ、あぁ……いや、なんでもないよ、うん」


 なんでもないと言いながらも、思いっきりニヤニヤしてますよ大石さん。


「そう、か」


 何かしら変に思われると思ったが、「よかった」なんて言われるのは予想外だった。

 そう言った真意は分からないが、変に思われていないのなら、とりあえずこちらも一安心だ。


「それにしても復讐か〜。私が見た限り復讐が成功するの、時間の問題だと思うけど……」


 確かに、大石の言う通りだ。

 僕は復讐をする以前に、もう既に宮崎に惚れられていた。

 ほぼ復讐成功したも同然なのである。


 しかし、今はどう思われているのか分からない。

 まだ僕のことを好きかもしれないし、もう好きではないかもしれない。

 それはこれから確かめていけばいいが……


「あ! あと1つ言うことを聞いて欲しいのですが!」


「まだ何かあるのか!?」


「今度の休日、2人でどこかに行きたいです!」


 ふ、2人でか〜……

 それはちょっと厳しいかな〜


「もしダメなら許さないから」


「…………はい」


 ひ、酷い!

 その手を使うのは卑怯じゃないかぁぁぁあああ!!

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