第6話 気になる人 ※大石瑞希視点
私――
まだ好きではなく、気になっているだけ。
その気になっている人の名前は、
酒井くんの人気は学校中だけでは収まらず、他校までもその噂は広がっている。
「あれ? 酒井くん、どうしたの?」
いつも授業中は寝ていて、何をやっているのかすらわからない黒板をぼんやりと見てから酒井くんを見ると、疲れた顔で机に突っ伏していた。
「別に何もないよ。ただ疲れたな〜、って」
「確かに。まあ、それは置いといて、これから何か予定とかあったりする?」
今日は、この前に行ったカフェに2人だけで行きたいと考えていた。
2人では無理だ、といつも断られているけど、私は諦めが悪いから、このように何度も誘っている。
「ごめん……今日はちょっと……」
「そっか……残念。また今度ね!」
今日もいつも通り断られた。
まあ、断られるのはわかってたけど、人気者な酒井くんと2人きりになれるチャンスがあるだけ、まだマシだろう。
酒井くんとお近づきにすらなれていない人なんて、この学校にはたくさんいるわけだし。
「うん。ちゃんと埋め合わせするから」
いつもは断られるだけだから、恐らく今日はこれから何か用事があるのだろう。
それなら、私もさすがに引かざるを得ない。
「わかった」
酒井くんに誘いを断られた私は、仲のいい友達2人と教室で勉強していた。
正確には、勉強していたと言うより、今日寝ていた授業の分のノートを写させてもらっていた。
「ありがとう! 本当に助かったよ!」
「全然大丈夫だよ〜」
元々、仲のいい友達2人は教室で勉強してから帰ると決めていたらしく、私も混ざって勉強するのを快諾してくれた。
「「それよりそれより!」」
仲のいい友達2人は、目を輝かせて詰め寄ってくる。
「「酒井くんとはどうなの?」」
「別にまだ何もないけど……」
え!? と目を丸くして驚く2人。
そんな驚くことではないと思うけれど、恐らく酒井くんとこの学校で一番仲がいいのは私だ。
その私が全く進展がないというのは、予想外なのだろう。
「いつも放課後に遊ぼ〜って誘っても、断られてばっかりだし」
私だって悔しい。今まで毎日のように、酒井くんを誘っても、毎日のように断られてきた。
もしかして……彼女がいる、とか……?
前に聞いた時はいないと言っていたが、他校からもモテモテな酒井くんなら十分に有り得る。
でも、もし本当にそうだったらどうしよう……
「そうなんだ……ねぇ、今日は私たちと遊ばない?まだ一度もこの3人で遊んだことないし!」
「それいいね! 遊ぼ遊ぼ」
「うん……ありがとう」
恐らくこの2人は私に気を遣ってくれたのだろう。素直に感謝しかない。
学校を出て、私たち3人は駅前にあるカフェに向かった。
本当なら酒井くんと2人で来たかったけど、女子だけでカフェというのも悪くない。
「そういえばさ、大石さんは酒井くんと連絡先交換したの?」
最近ハマっている黒蜜カフェオレを注文し、3人で雑談しながら届くのを待っていると、急にそんな質問が飛んできた。
「実はまだ……」
「「え〜!!!! 大石さんなら交換してると思ったのに〜!!」」
そう、私は未だ酒井くんと連絡先を交換していない。
これは決して私が意気地無しなのではなく、聞いても教えてもらえないと分かっているからである。
「誰か交換してる女子いないかな〜?」
「いないと思うよー。酒井くん、クラスの男子たちとも交換してないっぽいから」
「へぇ〜、そうなんだ!」
学校中だけでなく他校からもモテモテな酒井くんは、当然色々な人から連絡先の交換を求められている。
本人から聞いた話だと、誰か1人とでも連絡先を交換してしまったら、拡散されたりその人だけずるい! ということになり兼ねないから、誰とも交換しないらしい。
その話を聞いたのは私が連絡先を聞こうと思った前だから、遠回しに聞いても無駄だと言われたのだ。
他の人にこのことを話したのかは分からないけど、牽制されているのに聞いても無駄でしかない。
本当は私だって、酒井くんとメールとか電話とかしたいんだけどね!!
そう心の中で叫ぶと同時に、私たちのもとに頼んだ物が運ばれてきた。
ん〜! 今日も黒蜜カフェオレは美味しい!
その後も閉店間際まで3人でカフェに入り浸り、たくさん喋れてすごく楽しかった。
そしてカフェを出て、並んで駅の改札に向かっている途中、目の前から歩いてくる男女に目を奪われる。
暗くて顔はよく分からないが、雰囲気的には美男美女。
美男美女のカップルなんて今すぐ爆発してしまえ! と、思っていたのも束の間。
暗くて分からなかった顔も、近づけば近づくほどはっきりと見えてくる。
美女の方は誰かは知らない。
でも、美男の方は今ではよく知っている人物だった。
「……あれ? 酒井、くん……?」
それからのことはよく覚えていない。
カッとなって、考えるよりも先に言葉が出ていた気がする。
我に戻った時には目から涙が溢れていて、周りに酒井くんはいなかった。
私はただ泣いていて、さっきまで一緒にいた2人が慰めてくれている。
はぁ……やっぱり酒井くんには彼女いたのか。
それならそうと言ってくれればよかったのにな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます