第5話 修羅場
「あれ?
面倒くさくて
「別に何もないよ。ただ疲れたな〜、って」
「あー確かに。今日はどの教科も面倒くさかったもんね」
「いや、大石はずっと寝てたじゃないか」
すると、大石は真剣な顔で言った。
「……そんなことない、よ? まあ、それは置いといて、これから何か予定とかあったりする?」
また駅前にあるカフェへのお誘いだろうか。
「ごめん……今日はちょっと……」
「そっか……残念。また今度ね!」
「うん。ちゃんと埋め合わせするから」
これから予定が何もなかったら、こんなにも可愛い女の子からの誘いを断らない(2人きり以外なら、多分)。
だが今日は生憎、宮崎からの誘いがあるため断らざるを得なかった。
学校を出て、宮崎に指定された場所に向かうと、出入口前で1人の女の子が壁に寄りかかりながら立っていた。
指定されたのはゲームセンターで、中にはボーリングやカラオケをするところまである場所だ。
「遅い! 酒井くんが遅すぎて、ここで何度も何度もナンパされたんですけど!?」
「なら、もっと目立たないところを集合場所にすればよかったじゃないか」
「そんな場所あるの?」
「…………カラオケの個室、とか?」
「ちょっと! 今変な想像したでしょ!?」
僕たちが住んでいるところは、都会と比べるとかなり田舎だが、家が全然建っていないわけではなく、密会できる場所はほとんどない。
唯一思いついたのはカラオケの個室だが、そこ以外にどこがあるのか僕も知りたいぐらいだ。
「そんなわけないだろ! なんで今の会話で、僕が変な想像しなきゃいけないんだ!」
「でも……カラオケの個室、って……」
「う…………そ、それよりこれから何をする予定なんだ?」
話逸らしやがって、と宮崎に
「……色々。ボーリングにカラオケ、UFOキャッチャーにコインゲームなどなど」
「本当に色々やるんだな……」
「何よ。嫌?」
「別にそういうわけじゃないけど」
「ならやるの!」
「は……はい!」
結局、閉店間際まで宮崎がやりたいことに付き合わされることになり、もうヘトヘトだった。
でも正直、今日は今までで一番楽しかった1日かもしれない。
「あの……ごめんなさい。今日私がしたいことに付き合ってもらって……」
「別にいいよ。僕も楽しめたし」
「そ、そっか……ならよかった……」
宮崎は安心したのか、ほっと胸を撫で下ろした。
現在時刻は21時半。
女の子を一人で帰らせるには危ない時間帯だ。
「帰ろうか。家まで送ってくよ」
「うん…………って、え!?」
宮崎が突然、突拍子もない声をあげた。
「え? どうしたの?」
何かと思って後ろを歩いている宮崎の方を向くと、真っ赤なリンゴのように頬を赤く染めながら、もじもじしていた。
「えっと……その……よ、よろしくお願いします」
「う、うん……?」
どうして急に
かなり田舎で人通りも割と少ないが、万が一にも何かあったらと思うと心配だし。
それからは最近の学校での出来事や中学の頃の思い出などを話しながら歩いていると、前から僕と同じ制服を来た女子3人が近づいてきた。
「……あれ? 酒井、くん……?」
近づいてきた女子3人の中には、高校生になってから今の時点で、一番仲良くしているであろう大石の姿があった。
「えっと……あの子、酒井くんの彼女?」
心配した顔で小声で聞いてくる宮崎。
その顔がどれだけ可愛いかは、言うまでもない。
「違うよ。仲のいい友達だ」
そう小声で答えると、宮崎の眉がピクリと動いた。
「へぇ〜、ふ〜ん? 仲のいい友達、ねぇ〜」
目の前で立ち止まっていた大石含む女子三人に視線を向けた宮崎は、ニヤニヤしながら喋り続けた。
「えーっと、そこの金髪」
そこの金髪、とは恐らく大石のことだろう。
「ごめんなさいね〜? 酒井くんは今、わ・た・しを家まで送ってくれてる最中なの〜」
気のせいか、大石の眉がピクリと動いた。
「どなたか知りませんが、あなたみたいな性悪女は酒井くんと釣り合わないと思いますよ?」
「はぁ?」
「えぇ?」
宮崎と大石は、顔を近づけてお互い睨み合っている。
え、何この修羅場。見てるだけでも怖いよ。
「……ちょ、ちょっと2人とも? 一回落ち着いて……」
「「酒井くんは少し黙ってて」」
「……はい。もう喋りません」
果たして、この2人の威圧感に耐えられる人がいるのだろうか。
大石と一緒に歩いていた女子2人なんて、ずっと離れた場所で怯えているし。
それから2人の口論が続き、約30分後、2人とも疲れたのか別々の方向に歩いていった。
そして、残された僕は宮崎を、大石と一緒にいた2人は大石を追いかけた。
「なぁ、宮崎」
「……何」
宮崎にはすぐに追いつき、話しかけてみると、まだ機嫌は悪かった。
「どうしてあの時、大石を煽ったんだ?」
「……はぁ。気づいてないのね……」
「え、どゆこと……?」
「気づいてないならいいの! じゃあ、私の家この辺だから」
少しキレ気味な宮崎は、そう言って立ち去っていった。
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