第4話 真実を知って

「さて、どうしたものか……」


 教室の窓から外を見ると、校門前でたくさんの女の子が談笑しながら‴誰か‴を待っている。

 恐らくその‴誰か‴は、僕こと酒井祐希さかいゆうきだろう。


 最近僕が学校を出ると、色んな高校から来た女子が話しかけてくる。

 人気者になれて嬉しいような、迷惑なような……


 いつものように、早く帰りの準備を済ませて他校から来る女の子がを避けようとしたが、さすがにもうその手では通じないようだ。


「正面突破するしかないか……」


 周りの人に隠れていれば見えない、はずだ!


 そして、意を決して校門へ向かうと…………


「「「「キャ〜〜〜!!!!

‴酒井‴くぅ〜〜〜ん!!!!」」」」


 …………普通にバレた。

 隠れても無駄とか、どう頑張ってもバレるじゃん!


 …………って、あれ?


 なんで宮崎みやざきがここにいるんだ!?

 まさか昨日のカフェで僕だって気づかれたのか?


 ……まあ、そんなことはどうでもいい。

 そっちから来てくれたのは、好都合でしかない。

 ちょっと早いかもしれないが、今日で復讐の最終段階を終わらせてやる!



※※※



 僕と宮崎は今、宮崎が働いているカフェにいる。


「……で、酒井くん。話って……何?」


「いや……別に話があるってわけじゃないんだけど……」


 やばいやばいやばい!!

 校門のところで話しかける前までは話す内容が頭に浮かんでたのに、何話そうとしてたのか忘れちゃったよ……


「え? さっき話があるって言ってたじゃん」


「それはその…………呼び出す口実を作った、的な?」


 僕が必死に誤魔化そうとしている中、宮崎は目の前で何かを覚悟したのか、真剣な眼差しを向けてきた。


「酒井くん」


「は、い……?」


「中学の時の告白のこと、あの時からずっと、ちゃんと謝らなきゃ、って思ってたの。結構時間経っちゃったけど、本当にごめんなさい……」


 ……………………え? どうして謝るんだ?


「あの時私は罰ゲームで告白した、って‴嘘‴をついただけじゃなくて、あなたに悪口を言ってしまった。許してくれなくても…………構わない」


 ……………………う、そ?


「ちょっと待って。どういう、こと?」


「……えっと、だから……」


 何かを言いかけた宮崎は、少しの間、口をつぐんで硬直した。


「私が酒井くんに告白したのは、‴罰ゲーム‴だから、じゃなくて‴好き‴だから、ってこと!!」


 …………ん? 宮崎が僕のことを好き?

 そんなことあるわけ…………


「じゃあなんであの時、罰ゲームで告白した、とか僕に悪口を言ったんだ?」


 この疑問は誰もが感じるだろう。

 本当に僕のことを好きなら、わざわざ告白を曖昧にする必要がどこにもない。


「それは…………その…………」


 …………ゴクリ。


「告白してる途中で、ちょっと恥ずかしくなっちゃって……」


 ……どうやら本気マジらしい。

 宮崎が元から僕のことを好きなんて、予想外だ。


 これは、復讐の最終段階クリア、すなわち復讐大成功ってことでいいのだろうか。


 でも、正直――――


「…………ふざけんなッ」


 宮崎は僕の言葉を聞くと、怯えたようにおずおずと見つめてきた。

 何をされても構わない、と決意しているのだろうか。


「それならもっと早く謝りに来いよ! 僕がどれだけ…………!!」


 思いっきり店内で怒鳴ってしまい、宮崎だけでなく、周りにいたお客さんも身震いしているのがわかった。


 こちらを向いていた他のお客さんに会釈して、宮崎に体を向け直すと、宮崎はまだ身震いしていた。


「……ご、ごめん。頭に血が上っちゃって……」


「ううん、いいの。私は酒井くんに本当に酷いことをしたから……

あの、本当にごめんなさい。許して、とまでは言わないし、今後私も‴あなたに近づく気はない‴から」


 ……………………え?


「どう、して……?」


「だって私のこと許せないだろうし。それに、今のあなたに私が近づいたら迷惑でしかないでしょ」


 そんなわけない。

 迷惑なんかじゃないに決まっている。


 そもそも、なんで僕が宮崎に復讐を誓ったんだと思う?

 許せないってのが一番の理由だけど、‴宮崎に認めてもらいたかった‴ってのもある。


 中学の時の僕が、宮崎に釣り合うなんて誰も思わない。もちろん僕自身だって。


 だからまずは、自分の容姿から変えよう、そう思って努力したんだ。

 宮崎に釣り合ういい男になるために。



 だから――――



「許せないってのはもちろんある。だけど、僕が今日宮崎に話しかけたのはどうしてだと思う?」


 そういえば、と宮崎が首を傾げた。


「……き、君と一緒にいたいと思ったから、だよ」


 と、言ったが、危うく‴君を惚れさせるため‴と言ってしまうところだった。危ない危ない。

 こっちの方が本心なのはさておき……


 宮崎の様子がおかしい。

 顔を赤らめていると思ったら、顔だけでなく耳も赤らめて、ずっとガクガクと肩を震わしている。


「……そそそそれって、私のことが好き、ってこと?」


 ……んんんんんん!?!?


「それはちょっと違うかな……」


「……え? じゃあ、どういうことなの?」


「う……それは……そんなのどうでもいいよ! 一緒にいたいからいたいんだよ!」


 我ながら何を言っているんだろう。

 こんなので納得してくれるわけが……


「それもそーね!」


 嘘だろ!?


 じゃあ、と宮崎は言葉を付け足した。


「明日の放課後空けといてね!」


「え、なんで?」


「い・い・か・ら!」


「は、はい!」


 宮崎は一体何を考えているんだろう。

 明日の放課後、何も起きなければいいな……

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