第3話 信じられない…… ※宮崎葵視点

 私――宮崎葵みやざきあおいは、高校生になってすぐに、駅前のカフェでアルバイトを始めた。

 始めたばっかりの時は何度も辞めたいと思ったけれど、1週間近く経った今では別にどうも思わなくなっていた。


 そして今日、いつも通り学校が終わってからすぐにバイト先に向かうと、出入り口の前で楽しげに話している男女を見つけた。


「……カップルかな。ちょっと羨ましい」


 そういえば私も中学生の時に好きな人いたな。


 その好きな人に思い切って告白はしてみたんだけど、結局恥ずかしさに耐えられなくなって、これは罰ゲームだよ、と言ってしまった。

 なんでこんなにも馬鹿なんだろう、私。


 今通っている高校には、はっきり言って私の好みの男子はいない。

 だって、チャラチャラした人ばっかりだし、馬鹿しかいない。

 それに引き換え‴酒井さかいくん‴は…………


 ……はぁ。あの時罰ゲームって言ってなかったら、酒井くんと付き合えたのかな。



※※※



「いらっしゃいませ〜」


 私がいつも通りお客様のオーダーを取っていると、出入り口の前に立っていたカップルが入ってきた。

 と、思ったらその後にも女の子が2人入ってきた。


「……え? 女の子3人いるけど……あの2人カップルじゃなかったの!?」


 まさか…………三股!?

 確かに男の方は遠くから見てもかなりイケメンに見えた。

 それでも三股はダメじゃないの!?


 出来ればあの人たちのオーダー、取りに行きたくないなぁ……



 ピーンポーン。


 さっきの男女4人からの呼び出しだ。

 なんでこんなにもタイミング悪いの!?

 一緒にアルバイトをしている友達は他のお客様のオーダーを取りに行っていて、私しか手が空いていなかったからしょうがないんだけど……


「ご注文はいかがなさいますか?」



※※※



 翌日、私は仲のいい友達、黒井綾世くろいあやせといつも通り、授業中に談笑していた。


「そういえばさー、昨日バイト中にかなりのイケメン見つけたんだけど、そいつ三股してたわ」


「三股? さすがにそれはやばくない?(笑)」


「それな〜(笑)」


 あ、イケメンって聞いて思い出したんだけど、と言いながら綾世がスマホを触り始める。


「見てこれ!」


 私の方に向けられたスマホに映っていたのは、昨日見た三股男だった。


「え、どうしたの? その写真」


「なんか今、色んな女の子の間で噂になってる人なんだけど、偶然写真手に入ってさ〜」


 う……こいつが昨日見た三股男だって言いづらい!

 隠そう……絶対隠そう……


「ふ、ふ〜ん?」


「お、葵も興味津々かね?」


「ま、まあね〜」


「よしきた! じゃあ、放課後この人の高校に行ってみよっか!」


 ………………はぁ!?


「……え、それマジで言ってんの?」


「うん? だって、いつも他校から結構女子集まってるらしいよ。この人目当てで」


 いくら何でもやばすぎでしょ!

 確かにあの三股男は、私から見てもかなりイケメンに見えたけど、そんなにモテモテだったのかよ!


「……分かったよ。私も行く」


「っしゃ!」



 綾世の言う通り、放課後、三股男の高校の前にはたくさんの女の子が集まっていた。

 見た感じ、私たちを含めて20人くらい(いくらなんでも多すぎるでしょ!!)。


 私もかなり人気者な自信があるけれど、私のもとにもこの人数はさすがに来ない。

 あ、そういえばあの三股男の名前聞いてなかったな……


「ねぇ、綾……」


「「「「キャ〜〜〜!!!!

‴酒井‴くぅ〜〜〜ん!!!!」」」」


 ………………ん?

 ………………さか、い?


 ま、まさか酒井祐希さかいゆうきじゃないよね……?

 …………さすがにそれはないか。

 だってあいつ、モテるような柄じゃないし。

 見た目だって、全然違うし。


「ねぇ葵、やっぱり酒井くんって結構カッコよくない?」


「確かにかっこいいけど……ねぇ、綾世、その……さかい、って人の名前は……?」


「えーっと……確か、‴ゆうき‴だった気がするけど」


 さかい、ゆうき……

 酒井、祐希……?


 って、まさか…………!!!


「え、何? 葵まさか知り合いなの?」


「う、うん……多分、だけど」


 でも、私の知っている酒井くんと全然違う。

 だって彼はもっと髪が長くて、眼鏡かけてて、雰囲気が暗そうな男の子だった。



 そして、私の――――



「もう帰らない? 顔見れただけで満足でしょ?」


「え〜! もう帰っちゃうの!? 折角来たんだし、少し話してみようよ。それに、葵の知り合いかもしれないんでしょ?」


「なんでよ! もういいって! 早く帰ろ帰ろ!」


「勿体ないな〜、絶対話しておいた方がいいのに」


「どういう意味よ」


「さあね」


 ……え、何? 怖いんですけど!?


「ちょっと、理由ぐらい教えてくれたって―――」



「あの〜、お取り込み中申し訳ないんですけど……」


 私と綾世が口論をしていると、自信なさげな弱々しい男の声がした。


「はい……? って、え!?!?!?」


 話しかけてきた主は、今まさに話題になっていた酒井祐希(?)だった。

 その姿を確認した綾世は一目散に逃げていく。


「あとは2人でごゆっくり〜〜〜」


「あっ、ちょっ、待て! 綾世!!!」


「えっと……いい、かな?」


「私はいいけど……あんた、本当に酒井くんなの?」


 酒井くんは、まあ、と笑いながら人差し指で頬を掻いた。


「……えっと、とても言いづらいんだけど、その、あの時はごめ――――」


「ば、場所を変えよう! 僕も話したいことがあるから」


「あ、はい……」


 なんだろう。もしかして私にもう一度告白とかしてくれるのかな……

 もしそうなら、次こそは――――――

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