第10話
甚兵衛は、空を見上げていた。カラスの数が増えてきた。カラスが集まる方向に戦で亡くなった者たちの躯があるはずだ。
少し進むと草を刈り、道を作った跡が残っていた。弥彦らが山に登った時に作った道だろう。これを進めば弥彦らが神虫に襲われた場所も分かるはず。
(佐々波吉荒とその息子、吉泉は病気で亡くなったと聞いていたが本当のところは、そういうことであったか。なんとも信じがたいことだが、清重と喜助のお二人が私などに話しているのだ。嘘を言ったところで得がない。本当のことなのだろう。)
「なんとも酷な話でございますな。しかし、吉泉さまが狂乱された理由は自分の命と引き換えに子供らが連れ去られたのを知ったからでございますか?」
甚兵衛の言葉に喜助は首を横に振った。
「後に聞いた話だが、吉泉さまは、城にいる人間を28も斬っていた。しかも、その遺体から血を吸い、臓物を取り出し食っていたという。いかに気が狂ったと云えどもそこまでおかしくなることはない。恐らくは山伏がかけた術であろう。吉泉さまを助けると同時に如何わしい術を掛けたのだ。その後、父らはすぐに吉泉さまと嵐鈴の居場所と共にその山伏について調べて各地を回った。」
「何か分かったんで?」
「どうやら山伏が吉泉さまに掛けたのは柱厳法という術であったらしい。毒を抜く術で狼犬の骨を砕いて術者の血を使うので概ね、我らが見たものとよく似ている。本来は、解毒の術であって気まで狂わすようなものではないのだが・・・。」
「妹さまの居場所も分からず終いですかい?」
喜助は、振り返り清重の様子を伺った。清重は、「そこまで話したのですから。」と頷いた。
「嵐鈴とは、2年前に会った。」
浮かぬ顔で喜助は言った。
「おぉ、それは良かった。やはり、無事でありましたか。であれば、吉泉さまの居場所も山伏のこともご存じなのでは?」
喜助は、力の抜けた顔で首を横に振る。
「そうではないのだ。」
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