第6話
喜助の話は、佐々波と喜助、ふたりの幼少時代から始まる。
佐々波家の三男として生まれた清重は、幼き頃は病弱で体を鍛えるため武将、斎藤隆明のもとに預けられていた。斎藤家には、清重と同じ歳の喜助。そして、2つ年下の嵐鈴という女子がいた。
斎藤隆明は、佐々波の軍の中でも最も武に優れた武将。剣術の稽古となれば清重といえど容赦はなかった。毎日、息子の喜助ともども痣だらけになるまで鍛えられる。しかし、清重は少しも辛いと思ったことがない。喜助と共に剣術を学ぶことは何よりも楽しい。
時折、道場に顔を出す程度であった喜助の妹の嵐鈴もしばらくして剣術を習うことになった。本人のたっての希望ということであったが、「剣術は、体だけでなく、心の鍛錬でもある」という信念のもと、隆明からも許しが出たそうだ。
木刀すらも重くて持ち上げられぬ嵐鈴であったが、半年もすると清重や喜助から一本取ることもあるようになっていた。
隆明曰く、力なら喜助、早さなら嵐鈴。技なら清重。心を強く磨いたものが最も強くなる。そう、いつも三人に言い聞かせていた。
隆明が稽古をつけられぬ時、道場に顔を出し代わりに稽古をつけてくれるのが、佐々波家の長男、佐々波吉泉であった。吉泉は、清重と9つ歳が離れており、19になる。戦にも何度か出ており、将来は、佐々波家を継ぐ立場にあった。
「清と喜助には、斎藤隆明殿のように強くなって貰わねばならぬ。世のために十分、尽くしてもらわねばな。」
吉泉は、そう言って笑う。
「私は?私は?」
と駄々をこねる嵐鈴には、
「嵐鈴は、将来、清重の妻となるのであろう。そうなれば、私の妹となる。嵐鈴にも、やはり、強くなって貰わねばな。」
喜びはしゃぐ、嵐鈴の傍ら、恥ずかしそうに顔を赤らめる清重を見つめ吉泉は大いに笑った。
清重は、城主の息子。嵐鈴は、その家臣の娘。慣例的に言えば、嵐鈴が清重の正室として迎え入れられることはない。
しかし、清重と嵐鈴に至っては違っていた。城主、佐々波吉荒がふたりの仲を認めていたためだ。
清重と嵐鈴がいっしょにいるところを見ると、どのような人間でも心が洗われる思いになるのである。花を摘んでいる嵐鈴とそれを見ている清重。池の鯉に餌をやる二人の姿。泣いている嵐鈴の背中をさする清重。そういった些細な姿を目にするだけで、不思議と心が落ち着き暖かくなる。
政や戦・・・。城にいれば、心がすさんでいくことも多い。気になった家臣がおれば、吉泉は斎藤家に招き、清重と嵐鈴の姿を見ながらいっしょに酒を飲むのであった。
「嵐鈴を清重の正室に迎えねば、国としては領地半分を失うよりも大きな痛手でございますぞ。」
吉泉は、口癖のように佐々波吉荒や斎藤隆明にそう言って笑った。吉荒と隆明も「その通りだ。」と笑うのであった。
佐々波吉泉という男は、清重にとって良き兄であり、佐々波の国にとっても大きな存在であった。しかし、その吉泉に不幸が起こる。
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