流星

 その夜は、ほとんど眠らなかった。

 ベッドに潜って暗闇に浮かぶ天井をぼんやり眺めていると、いま自分が眠っているのか、それとも覚醒しているのか、ひどく曖昧になる。そんなふうにして夢とうつつの淵を漂っているうち、ふと気がつけば、カーテンの隙間から群青色が洩れていた。

 夜明け頃、ぼくはそっと家を出発した。まるで夢遊病者のように。

 始発電車に乗り、目的地へと向かう。綿のシャツと長ズボン、そして鞄には美甘優の拳銃をしのばせて。

 自然公園の正面ゲートには、来園者を迎えるように花壇とベンチが規則正しく並んでいる。

 ぼくはベンチに腰掛けた。

 小山田慧。彼が今日この場所へやってくるはずだった。水谷紗希子といっしょに。彼女とデートをするというようなことを、飯島たちに自慢気に話しているのを盗み聞きしたのだ。

 朝靄が徐々に退き、陽の光がはちみつ色から白く透明に変化し、それに併せて通りを行き交う人々も、散歩を楽しむ老人やジョギングをするスポーツウェア姿の男女から、カップルや家族連れに移ろっていった。

 なにもせずにひたすら小山田を待つ時間は退屈でも苦痛でもなかった。どうして彼を待っているのか自分でもよくわからなかったし、いったい自分がなにをしようとしているのかも理解できない。ふと時計塔に目をやると、針は十二時四十五分をさしていた。

 そして、小山田慧はやってきた。

 しかし、となりを歩く人物は水谷紗希子ではない。小学四年か五年生くらいの女の子だった。彼は彼女と親しげに会話しながら、今、ぼくの目の前を通り過ぎる。こちらの存在には気がついていない。

 近くでその顔をみたとき、ようやく彼女がどこの誰であるか理解した。

 女の子は小山田の妹だ。以前、彼の自宅に招待されたとき、いっしょにカードゲームで遊んだことがある。たしか莉絵といった。小山田莉絵。おぼえている。兄とおなじく、うつくしい顔立ちをした女の子だ。

 ぼくは腰を上げ、彼らを密かに尾行した。

 小山田たちは公園中央へ向かった。そこには広大な芝生のひろばがある。

 広場に到着すると、ふたりは芝生でバドミントンを始めた。ラケットのガット部分が透明のアクリルのようになっていて、それでボールを打つと「バンッ」という小気味いい音が響く。おもちゃのバドミントンだ。彼らは楽しげに声を上げながら、ボールを打ち合っている。

 ぼくはその様子を木陰からみつめていた。

 ふたりはバドミントンで遊んだあと、売店でソフトクリームを購入し、なかよくそれを嘗めた。

 小山田が妹を手招きした。彼女は素直に彼のもとへ駆け寄る。小山田はハンカチで女の子の鼻についたソフトクリームを手慣れた様子で丁寧にぬぐってやった。

 ソフトクリームを食べ終えると、ふたりは公園内にある科学技術館へ入っていった。

 休日だというのに来館者はまばらで、館内は閑散としている。

 展示を見てまわる彼らを、ここでもぼくは後をつけ、離れた場所からその姿をながめた。

 小山田たちは『ネイチャービジョン』というおおきなスクリーンが設置されたブースのまえにやってきた。

 スクリーンの正面に立つと、そこに自分の姿が映し出される。すばやく動き回ると画面から自分の姿は消え、止まるとふたたび現れる。また、動きによっては連続写真のように姿が分裂し、運動の軌跡が残像のように映し出される。

 それがたのしくてたまらないのだろう、女の子はスクリーンのまえでぴょんぴょんとびはねて、無邪気な笑い声をあげていた。小山田もいっしょになって動き回る。おちゃらけたポーズで妹を楽しませている。

「おにいちゃん!」

 うれしくてしかたがないというように、彼の腕に抱きつく。

 女の子の笑顔は純真そのものだ。いっぺんの疑いもなく小山田を尊敬し、こころから彼のことを好いているようだった。

 小山田はぼくを嘲り、暴力をふるい、金を巻き上げた。ぼくは彼を殺したいほどに憤り、自殺したいほど苦しんだ。悪意のかたまりのような人間。邪悪な存在。それが小山田慧だった。

 そんな人間がどうして、あんなふうにひとに好かれ、しあわせそうにしているのだろう。

 無意識のうち、ぼくは彼らのまえに立っていた。

 ふたりがぼくの存在をみとめた。小山田は無表情だったが、妹のほうは怪訝な顔だ。

 ぼくはくちびるを固く結び、なにをするわけでもなく、彼らの前に立ちはだかっていた。いったいどうして飛び出したのか自分でもよくわからないまま、かといって引きさがることもできず、ただただ泥人形のごとく突っ立っていた。

 小山田が妹の耳元になにかをささやく。彼女は笑顔でうなずき、どこかへ駆けていった。彼はそれを見送ると、ごく自然にぼくの正面にやってきた。やあ、おまたせ、とでもいうように。満面の笑みでぼくをみつめる。さきほどまで女の子にふりまいていた笑顔と寸分違わぬやさしい表情。

 次の瞬間なんの前触れもなく、彼のこぶしがぼくの顔面に突き立てられた。

 予期せぬ攻撃に鼻っ柱を潰され、ぼくは顔をおさえた。激痛に蹲りそうになる。

「おっす、おれになんか用?」

 小山田は白い満月のように微笑んでいる。

 ぼくは痛みのため、すぐに声が出せない。

「なんの用?」

 もう一度たずねてくる。

「べ、べつに……」

 呻くようにそうこたえると、小山田は短く笑い声をあげた。

「べつにってなんだよ。さっきからずっとつけ回してんのバレバレだぞ。ひとのプライベートタイムを気色悪く邪魔してきやがって。なんの用だっていってんだよ」

 ぼくはくちびるを舐め、そっと呼吸を整える。そうして、

「き、きみの妹?」

 と訊ねた。

「そうだよ。可愛いだろ?」

「相変わらず仲がいいんだね」

「まあね、おれのことが好きでたまらないんだ」

 小山田は臆面なく言った。

「妹はなにも知らないんだ」

「なにが」

「きみが学校でおれにどんな酷いことをしているか」

「酷いこと?」

「酷いことだよ」

 小山田はくちびるを押さえながら、にやにやと笑った。

「なにも知らないんだ。きみがどんな悪意に満ちた人間か。だから平然ときみなんかに懐いてるんだ」

 小山田は苦笑しながら困ったような表情をみせる。

 それから、「まあいいや」と後頭部を掻くと、

「とりあえずこっち来いよ。うちの妹が気持ち悪がるし、心配するだろ? おれがきみみたいなクソ虫と話してちゃ」

 ぼくに肩でぶつかり、ずかずかと歩きだした。

 ついていく必要はないし、小山田に用事なんてない。強制的に連行されているわけでもない。それなのにぼくは鎖につながれた奴隷さながら、彼のあとをとぼとぼとついていった。

 やってきたのはプラネタリウムのようなブースだった。

 部屋の中は薄暗く、天井には満点の星が瞬き、神秘的なBGMが静かに流れていた。

「で。なんだって?」

 人工の星々に小山田の顔が照らされる。

 奥二重の目に、おおきな黒い瞳が潤んでいる。眠たげな眼差しが奇妙な魅力を放っている。うすいくちびるは形よく微笑んでいた。

 ぼくはこぶしをきつく握り、彼に問い詰める。

「……あの夜、猫を殺して校門に置いたのはきみなんだろ?」

「そうだよ」と、小山田はあっさりと認めた。「引き続ききみが犯人の変質者としてよろしくたのむぜ」

 いつものように言い負かされ逃げ出してしまいそうな自分を鼓舞して、ぼくはなんとか声を出した。

「無抵抗の人間やどうぶつを痛めつけて楽しいか?」

「そりゃあたのしいよ。なにより、笑える。あたりまえじゃないか」

「あたりまえ?」

「バカなやつをよってたかって痛めつけるのは笑えるだろ? きみもテレビのお笑い番組みて笑ってるだろ」

「テレビなんか関係ないじゃないか。芸能人は仕事でやってることであって、いじめじゃない」

「本人たちの職業や立場なんて関係ないんだよ。特定の人物をよってたかってバカにして痛めつけるという行為そのものが、人間の笑いを誘うという事実だ。そういうものが娯楽として確立され、認知されている事実だ。みんなそういうのが大好きなんだよ」

 きみもやってみたら? と小山田はわらう。

「おれはそんなことしない」

「しない? できないんだろ」

「できなくて結構だよ」

「まあ、そうだろうね。きみみたいな人間は、神さまが見ているから、または、ひとの目があるから、道徳に反することはしないって頑なに思い込んでるからな。人様に迷惑をかけちゃいけないってさ」

「きみは違うのか」

「ちがうよ。自分がおもしろいと感じたら、無抵抗のきみを思うがままに痛めつけてやるよ」

「そういうことして、なんにも感じないの?」

「だから、『笑える』っていってるだろ?」

「きみがやった行為のせいで、たとえば、おれが自殺したとしても、笑えるの? きみはなんにも感じないの? 罪悪感みたいなものを」

 感じないね、と小山田は即答した。

「だって他人だろ? きみはいったい、どうしていちいち他人を気にしてるの?」

「きみには良心というものがないの?」

 ぼくが問いかけると、小山田は小首をかしげた。

「良心がないから、弱い動物に残虐なことができるんだ」

「だとしたら、なんなんだ?」

「きみは病気だってことだよ。ひとのこころの痛みがわからない病気だ」

 サイコパスだ、とぼくはいった。

 とたん、小山田は笑い出した。

「おいおいおい、なんだよ、どうした、覚えたてのことばをさっそく使いたくなったのか?」

 腹を抱えて笑い転げる。

 そんな彼を、ぼくは真顔でみつめる。

 ひとしきり笑ったあと、「一応おたずねするけど、その『サイコパス』っていうのは、なに?」

 良心の欠如、罪悪感の無さ、しかし表面的には魅力的で弁舌が立つ。ぼくは以前、図書館で読んだ書籍の内容を語った。

 ふうん、と小山田は気の抜けた声を発したあと、「で?」と挑発するように首を傾げた。

「だから、き、きみは……」

「サイコパスなんだろ?」と、小山田はさえぎった。

「で?」

 返す言葉がなく、ぼくは黙りこむ。

「それってさ、そんなに大層な名前つけるほど、なにかとくべつなことなの?」

 くちびるを噛み、彼の顔をみつめる。

「えーと、じゃあさ、逆に訊くけど、きみは良心とやらをもった人間を見たことがあるの?」

 あるよ、とぼくはこたえた。「ふつう、どんな人間にも良心はあるものだよ。他人を傷つけてまったく罪悪感のないきみは異常なんだ」

「さっき家を出て、妹と歩いてたんだよ、道を。車一台分くらいのせまい道だよ。そこ通学路になってるんだ。おれたちのほかにも歩行者がいたんだけどさ、そこをものすごいスピードで車が走ってったんだよ。ちょっと身体を動かしたら車体に当たりそうなくらい近くをさ、スピードを緩めずにね」

 いったいとつぜんなにを言い出すのか。ぼくは戸惑う。

「歩行者のことなんて、つゆほどにも考えられないんだろうね。まったく良心のないやつさ」

「……なにが言いたいんだ」

「ここに来るとき、電車乗ったんだ」彼は遮るように言った。「そんで目的の駅で降りようとしたときさ、ホームにいたやつらがドアひらいた瞬間、なだれ込んできたんだ。降りようとしてるおれらのことなんておかまいなしだよ。あげくにサラリーマンっぽいやつがさ、おれの妹の足を踏んづけてまで乗り込んできてさ、謝んのかとおもいきやこっち睨んで舌打ちしてきたんだ。おまえ邪魔なんだよ、ぐらいの勢いで」

 人のことなんてどうでもいいんだろうね、と小山田は微笑んだ。

 人ごみで煙草をふかす奴。道に痰を吐くやつ、ゴミを捨てるやつ。満員電車で足を広げて座るやつ。列に平然と割り込むやつ。

「全部おれと妹がここまでやってくるまでに見てきたやつらだ。たった一時間程のあいだに見てきたやつらだ。良心も思いやりもないやつばかりだろ?」

「それは……、そういうこととは違うじゃないか」

 ぼくは口籠った。「たしかにいけないことだけど、でも、些細なことっていっちゃあれだけど、きみのような、ひとを嘲ったり嘘を吐いたり、暴力をふるって、お金をまきあげるとか、そういった悪意とはちがうじゃないか」

「なにが違うのかまったくわからないね。同じだよ。きみがおれにいうように、他人の気持ちが理解できない人間たちじゃないか」

「だけど、そういう些細な過ちは誰だってあるはずだよ」ぼくはふるえる手を隠すようにこぶしを握った。「それだけで、良心がないだなんていえないよ。普段はいたって善良なのかもしれない。おれがいってるのは――」

 ――普段が善良であったとしても、と小山田はぼくの言葉を遮る。

「普段が善良であったとしても、ある状況下になると悪意が剥き出しになるなんて、そんな人間に良心なんてあるわけがないだろ。逆もそうだ。普段悪さばかりしてる奴が、ある日、一生懸命ゴミ拾いしてたって、そいつに良心があるとはいえない。だけどきみみたいな著しく思考能力を欠いた人々には、そういった人間が善意や良心をもっているとみえる。錯覚してる。たとえば『不良だけど根っこには良心をもっているんだ』とか。たとえば『善良なひとなのに、たった一度過ってしまったのだ』とか」

 笑わせんな、と彼は吐き捨てた。

「ほんとうに良心をもった人間はそんなムラなんかない。そして、そんな人間なんてこの世に存在しない。だれもが自分本位で他人のことなんて糞だとおもってる。いや、それが糞だとも認識していない。だから自分の行動が他人にどのような影響を及ぼすか考えもしない」

 問題なのは、その『ある状況下』というのが、なにもとくべつな状況じゃないということだ。

「たとえば戦争のような極限状態や、宗教じみたプログラムの渦中という価値観がゆらぐ特殊な状況下におかれると、ひとは善悪の判断が曖昧になるっていうよね。理性がきかなくなって、残虐性が発露するっていう。だけど、さっき言った『ある状況下』とはそういった類いのものではない。日常生活の中にある、誰にでも起こるような『困窮』だ」

 時間に間に合いそうにないから、ニコチンがきれて気分がすぐれないから、ゴミ箱がまわりにないから、疲れたから座りたい、お目当ての商品がどうしても欲しい。

「そんなちょっとした『困窮』的状況で、まるで極限状態に置かれたかのごとくすぐに理性はきかなくなって、自分本位な悪意が滲みだす。他人がどうなろうが構いはしない」

 ぼくはくちびるを噛んだ。

「きみさっき、こういった行為を『些細なこと』っていったよね? たしかにそうかもしれないよ。いまいった『困窮的状況』で発露する悪意は『些細』なのかもしれない。だから、そういった『些細な悪意』をみんな、たいしたことないだとか、しょうがないだとかいって許してるわけだよね? さらには、そんなことを気にする方がバカだとか、腹を立てるだけ無駄とまでいってさ。でもそうなると、そのうちそれが悪意ではなくなってしまう。許すことに慣れ、悪意に鈍感になり、見えないふりをしてると、その些細な悪意が増殖して、くそみたいに蔓延って、やがては巨悪に育っていくんだ」

 そしてその結果が、この世界だ。

「きみがさっき並べ立てた特徴の人間がサイコパスだというのであれば、この世の人間なんてみんなサイコパスだ。どうしてそんな世界で、自分だけが他人を慮らなきゃならない? 正気か、きみは」

「たとえ、まわりがそんな人間ばかりだからって、自分もそうなっていい理由なんてどこにもないじゃないか……」

「じゃあ、まわりがクズだらけなのに自分だけが誠実でいなきゃいけない理由はなんだ?」

「そ、そんなのに理由なんて必要ないだろ。それが道徳だし、社会のルールじゃないか。それが正しい人間のあり方だ。いくらきみだっていつまでも好き勝手できない。飯島だって、平岡だって……。そうやってひとを傷つけることばかりしてると、いずれ大きな清算をしなくちゃいけないときがくるんだ」

「もしかして因果応報ってやつ?」と、小山田はいった。

「とくべつに教えてあげるけど、それって、支配者が奴隷を抑制させるために吹聴した言葉なんだよ。おれみたいに、ひとのこころを蹂躙するようなやつは、いつかそれが己に返ってくるってね。おもしろいね。他力本願で自分はなにも行動しないんだ? そんな幻想に縋って、きみはいつまで虐げられつづけるんだ?」

 彼は真顔になった。「あのね、ひとの行為に応報なんてないんだよ。それを行使するのは、ほかのなにでもない、きみ自身のはずなんだ」

 やりかえしてみろよ。おれが憎いんだろ? ほら、やりかえせよ。

 そういって小山田は両手をひろげ煽りたてる。

「そんなことしない……」

「どうして」

「……道徳に反することをしないのは、因果応報がこわいからじゃない。神さまとか人の目とかでもない。自分勝手にひとを傷つけたら、自分のこころも傷つくからだ。自分だって痛いんだ。自分も痛いからこそ、道徳に反することはしないんだよ。だからおれは仕返しなんてしない。なにより、そんなことしたら、きみたちと同じレベルになるから。きみみたいな最低なやつらと同じになりたくない。ならない」

 でたでたっ! と、小山田は甲高く笑った。

「ホントきみみたいなやつらって、どこまでも従順な奴隷だよね。どうして、きみがおれにされた仕打ちの仕返しをしたら、おれと『同じレベル』になるわけ?」

 彼は困ったように眉尻を下げた。「人間は誰だって相手によってそれぞれそれに相応しい態度で接する。あいさつされたら、あいさつをかえす。ごく自然だろ。殴ってきた相手は殴ってもいいじゃないか。その相手に相応しい態度で接してやったまでだ。それをやりかえしたらそんなやつと同じ低俗な人間になってしまうなんて、百パーセント加害者の都合でしかないぞ? そんな言葉を、きみの言うような『最低な人間』が弱者をあやつるために作り出した価値観を、まるで自分がなにかとてもうつくしく、汚れなき尊い人間であるかのように美化してとらえ、こころの拠り所にするなんて、きみは本当にかなしい生き物だな」

 まあ、勝手にしたらいいんじゃないかな?

「きみみたいなクソ虫が、道徳に反することはしないとか、因果応報やら同じレベルになるうんぬんやら、挙げ句の果てには、誠実に立派に生きることこそが相手への最大の復讐だなんて、そんな支配者が吹聴した支配者にとって都合のいい呪文にがんじがらめされてるおかげで、おれは気兼ねなくきみのような奴隷を痛めつけ、嬲り、とことん利用することができるよ。いくら殴りつけようと、おれたちが作り出した幻覚にあやつられて、反撃してこないからね」

「……なんでそんな、絶対に、反撃してこないっていえるの?」

 おっ、やるのか? 小山田はくちびるに笑みを浮かべて身構えた。

 ぼくは俯いて、くちびるを結んだ。それをみて彼は苦笑する。

「まあ、たまになぶり過ぎてクソ虫の容量がオーバーするときがあるもんな。だけど、おもしろいことに、そんなときもたいていは反撃されるべき刃が、自分に向かうようになってるよ」

『自殺』というかたちで。『通り魔』っていうかたちで。

「その刃がまるで見当違いのほうへ向かう。クソ虫がクソ虫を殺す。そもそもの原因である人間には、けっしてその刃は向かない。そうやって使い物にならなくなったクソ虫は、おれたちのあずかり知れないところで勝手に処理されていくものさ。そういうふうに呪文にかかってるからね。そういうふうに呪文にかけてやってるから」

「そんなことない!」

「そんなことあるんだよ。よくニュースでもやってるだろ? きみみたいなクソ虫が、最後っ屁のごとく『ぼくは誰々にいじめられていました』ってしょうもないお手紙そえて勝手に自滅する出来事が。街中で包丁ふりまわして、自分とおなじような地位も腕力も下の人間を傷つける出来事が。いい加減、真実に目を向けてくれよ」

 様々な色、様々なおおきさの惑星が宇宙空間を流れていく。

 星々のひかりに照らされて、小山田は白くなり、赤くなり、青くなって、ときには紫色に染まった。

「ひとの嫌がることはせず、因果応報の名の下に、まわりの人間が悪人でも自分は誠実に生きる。きみにそんな『幻覚』を植えつけたのは誰だろう? もちろんおれじゃない。たぶんきみの親だとか学校の教師だとか、まわりの大人たちだろう。所謂、社会ってやつだ」

 これもサイコパスとやらの得意技なんだろ? 言葉巧みに他人を洗脳する。マインドコントロール。

「なにもとくべつなことじゃない。きみはうまれたときから洗脳されている。『躾』やら『教育』『道徳』という名のマインドコントロールだ。みんなが自分に都合のいいことをべらべらとしゃべりたてる。本当のことなんて置いてけぼりで、どれだけ聞き心地のいい言葉を並べるかが正義で、まるでそれを競うようにしゃべりたてる。そうやって、きみを奴隷のように利用するため洗脳してるんだよ」

「お、おれは洗脳なんかされてない」

「……ねえ、おれが話したこと、ちゃんと聞いてた?」小山田は呆れたように眉をひそめる。

「きみは出所の知れない価値観でがんじがらめだろ? しかもその自分の価値観を疑い、考えることをまるっきり放棄してるじゃないか」

 まずは気づいてくれ。そして考えるんだ。

「きみを苦しめるほんとうの首謀者はおれではない。それじゃあ、それは誰なんだ? 誰が『物語』を吹聴しているのか?」

「なにいってんだ……」

 その声はちいさく掠れていた。

 ぼくを苦しめるのは、おまえだ。誰でもない。いったいなにをいってるんだ。

 どこかひとを懐柔させるような、小山田慧の奇妙な語りに脳がぼやけてくる。甘ったるい毒のようにじわじわ思考回路を犯されている。

「まあ正直、気づいたところでどうにもならないだろうね。きみがおれのように行動したら、即座に袋叩きに遭うだろうから」

 今まで話してきたことと、ちょっと矛盾しちゃうんだけどさ。

「許される者と許されざる者。ひとの善悪、その行為自体、じつはそんな重要じゃない。問題は『誰が』それをするのかということなんだよ。もちろんそれは、社会的地位、権力やら金によるところがあるけど、それ以前の問題でね。もっと原始レベルでの」

「……原始レベル?」

「おれときみをとりまく世界は違うってこと」と、小山田はいった。

「おれときみが生きるこの世界は、一見おなじように見えるかもしれないけど、まったくの別次元なんだよ。馬鹿なきみにわかりやすいように言ってあげるよ。きみらオタクが猿みたいに夢中になっているテレビゲーム。ゲームを始めるまえに難易度をえらべるだろ? イージーモード、ノーマルモード、ハードモード。同じゲームでも、むずかしいモードほど、敵の数が増えたりそれが手強かったり、使える武器が制限されたり、謎解きが難解だったりするだろ。きみの場合、ハードモードなんだよ」

「なにいってんだよ……」

「おれはミサンガをつけていても、だれにも咎められない」

 小山田はまっすぐ、透明な声でいった。

「小六のときだよ。ミサンガ、流行ったろ? クラスのみんながつけてたのに、なぜかきみだけが先生に怒られてたね」

 彼は首をかしげる。

「中島を女子便所に閉じ込めたときもそうだ。あのときの主犯はおれだったのに、いちばん叱られたのは無実のきみだった。先生に胸ぐらつかまれて、びびってションベンまで漏らして」

 おぼえてるだろ? ムーニーマンくん。

「さらに席替えのときもそう。ルール違反をしたのはおれなのに、なぜか怒鳴り散らされたのはきみ」

 彼はくすくすと笑う。

「そして、猫を殺したのはおれだけど、犯人はきみ」

 ぼくはくちびる噛む。

「そうだろ? おれはなにをやってもすんなり物事がうまくいく。だけどきみはなにをやってもうまくいかない」

 どうしてだ?

「それはそういう世界だからだ。きみはそういう世界の住人なんだ」と、彼はいった。

「いいか? これはオカルトなんかじゃない。歴然とした事実だ。きみの人生が証明している。飯島や平岡、おれを含めて、きみを理不尽に虐げてきた連中は、なにも無差別に殴る相手を選んでいるわけじゃない。きみを理不尽に喚き散らしてる教師だってそうだ。きみだからだ。その世界の住人を本能的に嗅ぎつけてるんだ。トロいからだとか、卑屈だとか、臭いからだとか、反撃してこないからだとか、それらすべては後からついてくるもので、本質じゃない。現にそんな特徴のクソ虫はきみ以外にも学校にいるさ。いや、日本中にいる。だけど殴られ金を奪われプールに蹴落とされ石をぶつけられるのは、きみなんだよ」

 まあ、そういうことで、と小山田は息をついた。

「クソ虫のきみは、なにをやってもうまくいかないゴミだめの中で、ひとの嫌がることはしないで、一生懸命に他人の気持ちを考えて生きてってくれ」

 鼻で笑うと、こちらに背を向けブースから出て行こうとした。

「そうだ」

 掠れた声が出た。

 ――そうなんだ。

「ん?」

 小山田がふりかえる。

「……いつもきみはそうなんだ」

「なにが」

「おれはきみみたいに、だれかを傷つけたり、身勝手に振る舞ったり、そんなことはしたくない。できる限りしないように生きてきた。それなのにきみは違う。どんなに本能的にあるがまま行動しても、だれにも嫌われない。むしろ嫌われているのはぼくだ」

 そのとおりだね、と小山田は笑った。

「どうしてなんだよ!」

 無意識にぼくは叫んでいた。「どうしておればっかりなんだ!」

「おっ、きたきた! ついに本音が出たね」小山田はうれしそうにいった。

「けっきょくさ、それが言いたいだけだろ、きみは。さんざんひとのことサイコパスだなんだ、極悪人みたいにいっちゃってさ。結局はただ単に、おれが妬ましいだけじゃないか。『ぼくはこんな真面目に生きてんのに、どうして不真面目な小山田ばっかりおいしい思いしてるんだよう』って、駄々こねてるだけじゃん」

 いいかげんにしろ、バカ。

「ひとのこと妬むな。なにもかもおまえの問題なんだよ。もっと努力しろ。努力が足りないんだよ、おまえは」

 ぼくは彼を睨みつける。

 すべての言葉を毟り取られたように声は出ない。

「そうだそうだ、その表情。おれは間違っているんだ。おれの行いは『悪』なんだ。そうやっておれを妬んで妬んで、おれのすべてを否定して、その対岸にいる自分こそが清いと、自分の行いこそが『善』だと肯定してろ。一生な。その妬みこそが、この世界を潤滑に回していく。それを抱いている限り、きみはおれの『悪』には永遠に辿り着けない」

 ――そして、それはおれたちにとってとても都合のいいことなんだ。

 無数の星々が尾を引いて流れていた。

 その光の軌道が、まるで爪痕みたいにして夜空に疼いている。

「そういうことで、もういい? おわりで。妹が待ってるんだよ」

 小山田は肩を竦める。

「待てっ」

 ぼくは叫んだ。

「なんだよ」

 呼び止めたものの、なにも言葉は出ない。

 小山田はやれやれというように苦笑する。

 満点の星空の下、ぼくはただ茫然と立ち尽くし、まばたきするのも忘れ、人工の宇宙をみつめていた。数億の星々が網膜に降りそそぎ、ゆるやかな痛みをもってやきつく。

 ぼくは鞄に手を入れ、中から美甘優の拳銃をとりだした。

 鞄をどさりと床に落とし、銃口を小山田に向ける。

 頭の中は真っ白だった。安全装置を外し、狙いを定めて、構える。その動作の命令だけで、それ以外なにも思考していない。

 小山田はくちびるに微笑をうかべたまま、「なにそれ」と小首をかしげた。

「ホンモノだよ」

 ぼくが短くいうと、彼は困ったように眉尻を下げる。

「そうじゃないよ。それはなんなんだ、って訊いてんだよ」

「拳銃だよ」

 かすかに声がふるえはじめる。

 ふうん、と彼は顎をかるくあげた。

「それで?」

 ぼくは拳銃を構え、まっすぐ小山田の顔だけを見据える。

「おまえをこれで撃つ」

 手が小刻みにふるえている。ふるえる手でなんとか照準を小山田の顔に合わせる。そうしているうちに視界がぐにゃぐにゃと酩酊したようになって、彼の白い顔が近づいたり遠ざかったり、まるで距離感がつかめなくなる。

「さっき奴隷は反撃しないっていったな。奴隷だって反撃することがあるんだ」

 引き金に指を当てる。

 あとはそれを引くだけだ。

 そうすれば、こいつを一瞬でこの世から消してしまうことができる。

 小山田は間違い、ぼくが正しくなる。小山田は敗北し、ぼくが勝利する。

「早くやれよ」

「本物だぞ」

「らしいな」

「ニュースになったろ、米軍の兵士が拳銃をなくしたって。それがこの銃だ。それをたまたまおれが拾ったんだ」

「なるほどな」

 小山田は微笑しながら、ゆっくりとこちらへ一歩、踏み出した。

「動くな!」

 威嚇するように叫んだが、彼は怯むことなくこちらへ一歩、また一歩と近づいてくる。

 今まで彼にされてきた仕打ちの数々が脳裏に泡沫のように浮き上がってはきえる。憎悪がヘドロのように渦巻き、その憎悪は彼にされた行為とは無関係の憎悪までをも呼び出し、混濁している。

 すでに小山田はぼくの真正面に立っていた。銃口は彼の頬骨にしっかり触れている。その体勢のまま静かに睨み合う。

「撃て」

 小山田は静かにくちびるをひらいた。「殺してくれ。おれを」

 まるでほんとうに懇願しているようだった。心から望んでいるかのようだった。

 無限の宇宙にぽつりと四角い部屋が浮かび上がる。部屋の中には少年がいた。窓辺に佇んでいる。彼は上半身裸で、その白い肌に無数の傷跡が這っていた。

 少年は薄くまぶたを閉じ、微笑んでいる。

 殺してくれ。

 窓から無数の花びらとともに甘い風が吹き込む。

 傷口がひらき、そこから血がしたたり落ちる。

 ――ぼくを殺して。

 花びらの嵐につつまれた。

 真っ赤な血が大量に流れ出し、沸騰したようにあふれかえる。

 血と花びらの洪水。

 ――殺してやる。

 引き金に当てた指に力が入った。

 その瞬間、沈黙を破るように小山田が顔を引き、拳銃をかまえたぼくの手を思いきり叩いた。その衝撃で拳銃はぼくの手を離れて床に落下した。小山田はすかさずそれを思いきり蹴り飛ばす。

 床をすべっていく拳銃を、ぼくは惚けたように眺めていた。

 底が抜けたバケツみたいに、全身から気力が漏れ流れてゆく。

 なにもなくなってしまった。

 ぼくは戦意喪失し、がっくりとうなだれた。

 本気で殺してやろうと覚悟していたのに、いざそれを阻止されてしまうと撃たなくてよかったと身体中で安堵している。いくら強力な武器を所持していたとしても、たとえそれを行使できる状況にあったとしても、そう簡単にひとを殺せはしないのだ。そのことを思い知る。それを実行するには、なにかもっと強大な力が必要なのだろう。なにか確固たる決意のようなものが。

 両手が痺れたように感覚がない。そのまま床にへたり込んでしまいそうだった。

 ふと顔をあげると、小山田がすべっていった拳銃のほうへ歩み寄り、それを拾い上げているところだった。

 彼は手にした拳銃をみつめている。

 ――まずい。

 そうおもったときにはもう遅かった。

 小山田がこちらへ向かって歩いてくる。

 歩きながら、おもむろにぼくへ銃口を向ける。

 そして――、

 躊躇いもなく引き金はひかれた。

「うわああああっ!」

 避ける暇などない。

 ぼくの情けない悲鳴とともに銃声が響いた。

 小山田は間髪を入れず、もう一発を発砲し、こちらへ歩み寄りながら一発、さらにもう一発と連続して撃ちつづける。射撃するたび、けたたましい音と火花が散り、こちらへ近づいてくる無表情の顔を照らす。やがて弾をすべて撃ち尽くしてしまっても、喚きながら縮こまるぼくの頭に銃口を押しつけ、執拗に引き金を引き続ける。かちんっ、かちんっ、かちんっ。空振りする撃鉄の音。彼はからっぽになった拳銃をうしろに放って投げ捨てると、その手でぼくの顔面を殴り飛ばした。

「ほら、撃たれたんだからさっさと倒れろ、クソ虫」

 生温かいものが滴り落ちた。真っ赤な血液。だけどそれは鼻っ柱をつぶされて噴き出した鼻血であって、弾丸に貫かれたために流れ出たものではない。

 ついで脇腹を膝蹴りされる。

「撃たれたら死ぬんだろ? はやく死ねよ」

 さらに腰を蹴飛ばされる。

「ほら、死ねって」

 頬を殴られる。

 ――死ね。

 その衝撃にふらふらと後退し、前屈するようにおなかを抱える。涙があふれだし、ぼくは幼児のように嗚咽した。うーっ、うーっ、とむせび泣く。

「情けないやつだ。なにひとつまともに反論できず、あげくに暴力で口を塞ごうとしやがって。そんなことしたらおれと同じレベルになるんじゃなかったのか?」小山田はぼくの髪を乱暴に鷲づかみにし、むりやり顔を上げさせる。

 鼻血に涙、よだれで顔面をぐしゃぐしゃに濡らしながら、ぼくは号泣する。

「しかもそれすらままならない。ほんと、クソのなかのクソだな、おまえ」

 小山田は低い声でいった。そして顔中から液体を垂れ流すぼくに頬をひくつかせた。

「きったねえ、顔!」そう吐き捨てると、髪の毛から荒々しく手を離した。

「しょうがないやつだなあ、まったく。とくべつにいいこと教えてやるよ」

 彼は芝居がかった溜め息をついた。

「おれの妹、いるだろ? 可愛い妹がさ」

 白い満月のような顔が薄ら笑いをうかべている。「さっきもいったけど、おれにすごく懐いててさ、おれも莉絵のことたいせつに思ってるんだよ」

 ポケットから何かを取り出し、それを握ったこぶしをぼくの胸に突き付ける。おもわず受け取ってしまう。

 冷たい感触。

 それは折りたたみ式のナイフだった。

 ぼくは涙でうるんだ目で彼をみつめた。

「きみのおもちゃの銃とは違うよ、本物のナイフだ。切れ味ばつぐん。それで猫の首も切り落としてやったから、まちがいないよ」

 真夜中の校舎、校門に置かれた猫の首。

「それで、あいつを――」小山田はぼくの頬に顔をよせる。

 ――刺しちゃえよ。

 ぼくの耳元でそう囁いた。鼻血の味にまじって、ふわりと甘い香水のにおいがした。

「殺しちゃえ」

 とっておきの遊びを耳打ちするみたいに、小山田は楽しげにいった。

「……な、なにいってるんだ」

 ぼくは涙に咽せながら、彼を凝視した。

「小学生の女の子だ。力も意気地もないきみでも簡単に殺せるよ。便所に連れこんで悪戯しちゃってもいいんじゃないかな? うちのクラスの女子なんかより、よっぽど可愛らしいし。悪戯して殺しちゃえば?」

 やっちゃいなよ、と小山田はくりかえした。

 笑みは消えない。それどころか笑いは徐々におおきくなって、そのままくちびるが裂けてしまうんじゃないかと思うほど口角がつり上がっていく。

 そして、踵を返しブースの出入り口へむかって歩き出す。

 彼の頭上を無数の流れ星が放射状に出現する。

 かがやく雨のように降り注ぐ流星群。

 星屑の中を小山田慧は歩いてゆく。

 ぼくは涙と洟と鼻血で汚れた顔を袖でぬぐった。

「きみは!」

 と、ぼくは叫ぶ。

「きみとおれは!」

 悲鳴のように叫ぶ。

「最初はこんな仲じゃなかったじゃないか!」

 両手のこぶしをつよく握り、爪がてのひらに食い込む。

「きみはおれに優しく話しかけてくれた! きみの家でゼルダをいっしょにやったとき、おれは楽しかったんだ! きみがおれなんかに攻略法で頼ってくれたのが嬉しかったのに! おれはきみのことを尊敬していた! きみが話してくれたおかあさんのこともおれは……!」

 小山田の背中がギクリと固まった。ゆっくりとこちらに首をひねる。青ざめたような横顔がみえた。はじめて彼に言葉を響かせた感触があった。

 どうして……、と枯れた声を吐き出し、ぼくは涙を流す。

 小山田慧の背中が、星々の隙間に消えていった。

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