第8話2人の攻略者
「レイ!おまた……せ?」
待合室に入ると異様な光景を目の当たりにした。
1度閉めてまた開けるが幻ではなかった事に後悔する。
「ななななにやってるのあなた!?」
「お嬢様に対して刃を向けた無礼者ですので罰を――」
「与えなくていいからね!!?」
やっぱりここで待たせるべきではなかったわね…
どこから持ってきたのかオスカーが首輪にリードをつけられていて、レイがそれを持って片足をオスカーの肩に地面の変わりだとでもいうように置かれていた。
オスカーも何故されるがままなのか分からないし数分後に恐らくバーキン侯爵達がこっちに来るだろう。こんなところを見られたら不味い!色々とアウトでしょ!
慌てて引き離しながらレイがどうしてこんな事をしていたのかそれは謁見の間に行くちょっと前に遡る――……
謁見の間に行く前に、恐らく一緒に来ているだろう攻略者に一目会いたくて待合室へと向かう。
あぁ、神様ドキュンの世界に私を連れてきてくれてありがとう!
上機嫌に扉を開けると部屋の隅で立ってる執事服を着た彼が立っていた。
「あら、先客がいたの」
なーんて知ってて来たんだけど!表情は驚いた顔をしつつそのまま部屋に入りソファーに腰掛ける。
「貴方、どこの執事かしら?」
「…………」
「貴様…お嬢様が聞いているんだ名乗りな――」
私の背後にいたレイに扇子で静止をかける。無視されることは計算済みだったからだ。
扇子を掌でトントンと受け止めながら画策し、発言する。
「あぁ、このネクタイの柄の家紋どこかで見たことがあると思いましたらバーキン侯爵家の執事だったんですのね」
「……」
少し反応はするが無表情のまま。やるわね………
いいわ、そっちがその気なら――……
「ねぇ、暇だし私の考察を聞いてくださる?ああ、返事はいらなくてよ独り言だと思ってね」
「どうして毎日王宮出勤して陛下によくお会いになるバーキン侯爵が正式な挨拶をしになさったのか気になってしまったの。それで、そういえばとある少女を養子になさったそうで。髪と瞳が黒色の王都ではあまり見かけない東洋人の少女――その時はどうでもいいと思っていたのですけど、謁見の間にいらっしゃると聞いてピンときましたの。」
「――――もしかしてせい…………」
じょ、という前に隅にいたオスカーが消えたと同時にソファーとテーブルの隙間の影から現れ私の首目掛けてナイフを突き立てる。
オスカーにはまた別の鎌のような形をした特殊な刃が首にかけられていてお互いに緊張が走る。何時間とも取れる長い沈黙後(実際は数秒程)、私は背後にいるレイに扇子で刃を下ろすよう命令する。
渋々といった様子で下がる彼女に習ってオスカーも引き下がると立ち上がった。
「失礼致しましたフローリア公爵令嬢様……ですがこのような場所で軽率な言動は控えた方がよろしいかと」
「ご忠告感謝致しますわ、バーキン侯爵の忠犬さん――でも――――――」
最後の言葉は扇子を広げてオスカーの耳元で囁き目を見開く彼を見て満足してその場を去った。
そう、そのままレイをあの場所に残したまま……
それがこの結果だ。
何とか引き離して落ち着かせると、ちらりとオスカーを見る。彼は立ち上がり置かれていた足の肩の汚れを手で何ともないように払っていた。
「ごめんなさいね。うちの子血気盛んで私の事になるとどうも歯止めが効かなくなるみたいで」
にこやかに謝ると
「いえ、彼女のお陰で開いてはいけない扉が開きそうになりました」
と嫌味なのか本音なのかよく分からない返答が返ってきた。
……スルーしておこう。
「それは良かったわ。私達はお先に失礼しますわね。首輪はレイ、取ってあげなさい」
「畏まりました」
パチン、とレイが指を鳴らすと首輪がどこかに消えてなくなった。……よし、跡は残ってないようね。
そのままレイを引連れて部屋を後にしようと歩き出した時、オスカーがおもむろに話しかけてきた。
「お嬢様はどうやらこ・う・い・っ・た・事には慣れてらっしゃるようですね」
「どういう事かしら?」
振り返らずに聞き返すと分かってらっしゃるくせにと笑う声が聞こえる。
「首元に刃を向けられたなら普通のご令嬢は悲鳴を上げるか気絶なさりますよ」
「あら、それがご所望だったかしら??」
内心ではいやいやあれめっちゃ怖かったから!殺されないとは思っても心臓バクバクしてたからね!?と言いたい所だけど我慢した。
代わりにとぼけるように言いながらくるりと振り返って爽やかに(周りから見たら不敵な笑み)笑顔で聞くと、いいえと首を振るオスカー。
「私は自分の使用人を信頼しているの。だから幾ら首に刃を向けられても隕石が降ってきたとしても彼女がいれば死ぬ事はないと確信しているのよ。これで満足かしら?」
「ええ、引き止めて申し訳ありません」
「いいえ結構よ、ではごきげんよう」
「――――あぁ、もう1つ差し出がましいのですがよろしいですか」
早く言って!じゃないとバーキン侯爵たちが来ちゃうじゃない。黙って続きを促すと――
「先程の首輪頂けませんか」
………………
黙ってレイに目線で命令すると、無表情で彼女はオスカーにリードが付けられた首輪を渡したのだった。
部屋を出た私達は帰ろうと回廊を歩いていると、先程謁見の間で会った婚約者、セザール・ヴィーク・ジークバルトと出会った。
挨拶をしようとスカートの裾を取り頭を下げようとすると手で制止され、回廊から覗く広々とした中庭をちらりと見たあと手を差し伸べられる。
「時間が無いなら仕方ないが、少し話さないか?」
「よろこんで」
にっこり微笑むと彼の手に私の手を重ねて中庭へと入る。暫くお互い話さずに広い庭園を散歩して、私達以外いないことを確認したら殿下が話し始めた。
「新しく学園編入する子だけど、生徒会でも保護観察するのはどうかな」
「とてもいい考えですわね…ですが、皆さん納得するかしら?」
「僕から全・て・話しておくよ」
「まあ、それでしたら安心ですわね!」
慎重に言葉を選びながらも理解出来るように殿下が話す。ヴォルフは既に知っているからいいとして、生徒会に所属している2人を思い浮かべる。どちらも心配なのは変わりないがまあ、あの人は魔法オタクではあるけど分別出来ると思うからいいとして――……
「……でも、あの方に教えて大丈夫か心配です。真っ直ぐ過ぎて行動が大袈裟にならないか(脳筋野郎が問題起こすんじゃないの?)」
殿下に意図が伝わったのか吹き出して肩を震わせている。収まるまで待っているとひとつ咳をして失礼、と言った。
「まあ、経緯を話したら暫くは騎士として張り切るかもしれないけど大丈夫だろう」
えぇ〜……本当かなぁ?
殿下を凝視して本当?ねえ、本当にそう思ってる?とテレパシーを送る。彼も私の視線の意味が分かって自分の言ったことに確証が無いのか、私の突き刺さる視線を避けるように顔を背けた。
「……そういうことに致しましょう」
なんか起こしそうな時は私がフォローしたらいいだろう。
スっと視線を外すと隣で安堵したのか胸を撫で下ろした気配がした。
「そういえば殿下、彼女をずっと眺めてましたね。私嫉妬してしまいましたわ」
「東洋人はこの国では珍しいからね」
素っ気なく返事をしているものの耳が少し赤くなっているのを見る限り、聖女の事を思い浮かべているのだろう。
この反応を見る限り殿下は彼女に少なからず好意を抱いている。殿下が本気で落としにかかれば彼女が堕ちるのも時間の問題だろう。だが、婚約者である私をおざなりにするようなお方ではない。
ここは私が後押しするか。
立ち止まって殿下に向き直ると、驚いた表情で私を見る。プラチナブロンドの髪が風に靡いて庭園と殿下のお姿が恐ろしい程似合っていて心の中でシャッターを押しまくる。
「――殿下、心に正直になさいませ。我々臣下は殿下の幸せを1番に願っております」
「それで君が傷ついたとしてもかい?」
「あら、私がいつ傷つくと?」
しらばっくれるように言い切った私にそうか、と理解したように頷いた。
それを見た私は満足し、お辞儀をする。
「お話は終わったようですしお先に失礼いたします。お見送りは結構ですわ」
「ああ、時間取らせてすまない」
殿下と別れた私はレイを引き連れて今度こそ乗り場へと向かい王宮を後にした。
悪役令嬢は氷の貴公子と円満婚約破棄計画を立てる〜やるからには全力で演じきりますわ〜 白うつぼ @siroutubo
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