第4話ヒロインは状況を飲み込めない
……ここはどこ?
辺り一面木、木、木――……恐らく森の中であろう場所に私はいた。森の中なのは分かる。けど、どうして登・校・中・なのに森の中にいるのかさっぱり分からない。
確か駅まで歩いてる途中にお母さんからLIMEきて、駄目だって分かってるのについ歩きスマホをしていたらいつの間にかアスファルトから生い茂る草に変わってて……
どういうこと!?歩きスマホしたら森の中に行っちゃうの!?ごめんなさい!もうしませんから私が知ってる道を教えてください!!
涙目になりつつ祈っているとガサガサと音がしてただでさえ知らない場所で怖くて叫びしゃがみこむ。
「きゃーーーーーーーーっ!!!!」
「…預言者が言っていた事は本当だったのか……おい、居たぞ!!!!聖女様だ!!!!」
え?なに?聖女?それよりも誰?
明らかに日本人ではないキリッとした端正な顔に髭を生やしている30〜40代であろう男性を見上げる。
その格好に目を丸くする。
なんで、鎧?それに馬に乗ってて……もしかして、時代劇!?
「あ、あの……もしかして、役者さんですか?」
「ヤクシャ?聖女様一体ヤクシャとはなんですか…?」
本当に訳が分からないといった顔で私を見下ろす彼は、馬から降りて私を馬に乗せた。
「きゃっ、な、なんですか!?人攫い!?やめてください警察呼びますよ!?っひゃっ」
「すみません聖女様…ですが、ここはカリンの森とはいっても聖女様がいなくなってだいぶ経つため魔物がいつ現れてもおかしくないのです」
「魔物……?」
魔物って言うとゲームとかに出てくるあの……?
いきなりファンタジーな事を言われて戸惑う私に彼は怖がらせないようにと不器用な笑顔を見せる。
「挨拶が遅れました。私、コーネリア王国騎士団第2部隊団長のダミアン・バーキンです。我が国に来て頂いてありがとうございます」
「ど、どうも?私は栗原里奈…リナ・クリハラです」
挨拶されつい反射的に応えてしまった…それにしても、コーネリア王国なんて私は聞いたことがない。
ダミアンさんの声で数人の人達も現れて次々と指示を出すのを黙って馬の上から聞いていると、フードを深く被せられてそのすぐ後ろに人がいる気配がしてそれで彼が馬に跨ったんだと悟る。
「聖女様が現れたことは陛下からの勅命として箝口令を敷く!決して口外することのないように!」
「「はっ!」」
「……リナ様、今から私の屋敷へとお連れ致しますがよろしいでしょうか?」
「……へ?あ、はいよろしいですよ?」
全然よろしくないのについ返事をしてしまった……けど、見た目は怖いけれど口調や仕草から優しさに溢れていて悪い人ではないんだろうと思う。
それに彼が言っていた事が本当なら私は今日本ではないどこかにいるという事になる。森に入った時にスマホ画面右上に出た圏外の文字も電波の届かない場所にいるせいだと思いたいけど、ダミアンさん含め他の騎士様達も見た目が日本人らしい人が見当たらなくて一抹の不安がよぎる。
私の心配をよそに森を抜ける為に馬はゆっくりと歩きだし、初めての乗馬体験に感動と意外と高さがあって怖いなと感じた。
◇◇◇
「リナ様、到着致しました」
「……す、すごい…」
屋敷と聞いていたから想像はしていたけど予想を遥かに超える大きさで、私の家何個分なんだろうと思わず考えてしまう。
正門からだと目立つという事で裏口に回ることになって扉の前にいるんだけど、私の倍ありそうな屋敷を取り囲むように配置されてある塀(曲がり角が見えない…)の途中に片開きの門扉が現れる。
馬から下ろされ呆然と立ち尽くす私にダミアンさんは苦笑して次に私の前に片膝をついて跪いた。他の騎士様達もダミアンさんの背後に同様に跪く。
「このまま案内したい所ですが、陛下に急ぎ報告することがあるためここで失礼致します。聖女様、欲しいものは何でも仰ってください。快適に過ごして頂けるよう尽力致します。ただ、暫くは外出なさらぬようお願いします」
「えっは、はひ……分かりました!分かりましたので立ってください!」
「分からぬことやお願いしたい事が御座いましたら後ろにいる濃紺の髪の者に伝えて下さい。聖女様専用の執事ですので」
「分かりました!……え?」
うしろ?恐る恐る顔を後ろに向けるとそこには、夜を思い立たせるような濃紺の髪をセンターで分けて満月に似た色の瞳を覗かせ狐のように目を細め、怪しい笑みを張りつけたように浮かべてる執事服を着た青年が立っていた。
「初めまして聖女様。私オスカー・セバスティンと申します。雑用から暗殺まで何でも仰ってください」
あ、暗殺!?いきなり物騒な言葉を吐いた彼に思わず背筋が凍りつき、固まる。
「オスカー…それを言うなら護衛だ」
「おや、私とした事が失礼致しました」
「全くそう思ってないだろ……」
「はい――いいえ、反省しております」
「はぁ、……もういい、早く王宮に向かわねばならんというのにお前は…聖女様、この者に不満があればいつでも仰ってください。すぐに解雇しますので」
「え?……あ、いいえ大丈夫です!きっとオスカーさんは場を和ませようと冗談を言ったんですよね?」
……そうだと思いたい。モルガンさんとオスカーさんは顔を見合わせ、片や溜息を吐いて額を押さえ方やにこやかに笑っている。
「さすが聖女様、私の気持ちを汲んで下さるとは私、オスカー誠心誠意聖女様にお仕え致します」
「呆れてものも言えんとはまさにこの事だな、お前達王宮へ戻るぞ」
慣れた様子で馬に跨ると、腹を脚で蹴り駆け足で騎士様達は去っていく。見えなくなるまで眺めているとオスカーさんがそれでは、と門扉を開け空いている手で優雅に腹部に当てお辞儀する。
「ようこそバーキン邸へいらっしゃいませ――聖女様」
よく分からないけど、とりあえずモルガンさん家にお邪魔することになりました。
裏口から屋敷に入るとメイド姿の人が3人並んで両手を重ね敬礼した格好で待っていて、オスカーさんが紹介する。
「彼女たちは本日付で聖女様専属のメイドです。右から順にリリー、ナンシー、マリンで御座います」
「「よろしくお願い致します、聖女様」」
「あ、はいよろしくお願いしますリナ・クリハラです」
「リナ様と仰るんですね、可愛らしい名前ですね」
そう言えば名前を伝えるのを忘れていた……オスカーさんは何かを考え込むように口に手を当てるとニィっと悪戯を思いついたように私を見る。
なんか嫌な予感が……
「――……聖女様からリナ様とお呼び変えしても宜しいですか?」
なんだそんな事か……ほっとしていいですよ(むしろそうして頂けると嬉しい)と告げた後に予感はやっぱり的中していたのだと知る。
「それと――……表向きはバーキン侯爵の隠し子ということにしておきましょう」
開いた口が塞がらない私に彼は一層楽しそうに目を細め、さっき言った言葉の意味を飲み込めないままメイドに広い部屋に案内される。そして身ぐるみ剥がされお風呂に入れられて至れり尽くせりコースを満喫すると、淡いピンク色のお姫様が着そうなドレスを身に纏った私が鏡の前に映っていた。
…………考えるのはもうやめよう。
とうとう私は考えることを放棄した。
そんな私を嘲笑うかのように悪魔のノックと共にオスカーさんが入ってくる。
「リナ様、奥様がお呼びです……おや、見違えるように綺麗になりましたね。この格好でしたら今すぐに行けますね。ご案内致します」
奥様→ダミアンさんの妻→私はダミアンさんの隠し子(違う)→何処の馬の骨とも分からない泥棒猫の子→泥沼昼ドラの完成→流血沙汰→死ーーー……
瞬時にこの方程式ができ上がりサーっと青ざめ動かない私を見て心底楽しそうに近づくと担がれる。
「きゃっ!まっ、待って!私まだ死にたくない!誰か助けて!!!この人攫い!鬼畜!悪魔ーーー!!!」
「ははは、リナ様はお元気でいらっしゃる。大丈夫ですよ。奥様は大変寛大な心をお持ちのお方、隠し子だとしてもきっと愛でてくれますよ」
やっぱり隠し子として話を通していたようで、担がれて逃げられないのでせめてもの抗議としてこの鬼畜執事の背中をバシバシと叩くが何とも思ってない様子でただ私の手が痛くなっただけだった。
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