或る雨の日:お題『来る』

 天を衝く高い塔と空を覆う大きな傘の下は止まない雨が降っている。傘の内側には作り物の空が描かれていて、今日は曇天色をしている。

 どしゃぶりの雨の中。

 手を繋いだ幼い少年少女の目の前には立入禁止と書かれたフェンスが行く手を阻むように並んでいるが、厳重なフェンスのその一部が木の根に押し上げられへしゃげており、小さな子供なら通れそうなほどの隙間がある。

「ほんとに大丈夫?」

「大丈夫だ。約束しただろ、本物の空を見せてやるって。今日がチャンスなんだ」

 不安げな少女に少年は励ますように力強く告げた。

 フェンスの向こうには、そびえ立つ塔の錆付いたドアが静かに佇んでいる。

「絶対上手くいく。俺を信じて、ついて来てくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る