第100話 (百瀬零斗視点)


「え、え、えぇぇ〜?」


 もう豆粒くらいの大きさとなった四ノ宮の後ろ姿を眺めながら呆然とする


 俺が壊れていたと知った途端、まるで俺たちに興味を示さなくなり、突然に、、、


 最後には俺たちに関わらないと言い残して去っていったので、ひとまず脅威は去ったと考えても良い、のか?


「あの人は一体何がしたかったのでしょうか」


 さくらも困惑している


 俺もそうだ、、、いきなり現れたと思ったら敵対し、また気付いたら去っていた


 まるで竜巻のように訪れ、迷惑を掛けるだけかけて消えていった


 ただ竜巻や台風と違う点は、水不足の解消や生態系の維持と言ったメリットが一切ないこと


 今回だって、何故四ノ宮が帰っていったのかアイツの心理なんか理解できないけれど、一歩間違えれば俺だけでなくさくらにも迷惑をかけてしまうところであった


「アイツの言葉だと、、、まぁ俺が嘘告で壊れてて良かったってところか?」


 なんとも言えない微妙な空気の中、少しでも場を明るくしようと冗談を言ってみる


「、、、そんなこと言わないでください。 冗談のつもりでも」


 なのに、さくらはより顔を強張らせていた


 唇を尖らせてすらいる


「確かに先程は危ない場面でした。 結果だけを見れば、先輩の言ったことは正しいでしょう。 しかし、、、だからといって、貴方の心を壊した行為を認めないでください。 それにあの人は、雪先輩とまるで違って、反省する気は全く無かった。」


 捲し立てるように、早口でそこまで言い切った


 ここで一呼吸おき、今度はゆっくりとした口調で話し始めた


「だから、、、えっと、、、とにかく忘れましょう。 先輩には一生私が付いてますから、大丈夫です!」


 後半は口下手になっていた


 結局何が言いたいのか伝わらなかったな


 明確な根拠も理由もない


 とても安心できないな、、、言葉だけだと


 だが俺には伝わった


 彼女の想いが



「、、、そうだな。 でも忘れないではおく。」


「それは何故です?」


「今回はこんなところで四ノ宮に出会うとは思ってなかったし、完全に油断してた。 だがな、もしアイツが発言を破ってもう一度俺たちの前に現れるってんなら、、、その時は覚悟しておくよ。」


「ふふっ、先輩悪い顔になってますよ?」


 言われて気づき、手で顔に触れて表情を確かめた


 口角が少し歪に上がっている


 俺のとばっちりでさくらが傷つく可能性を想像するだけでも危惧し、警戒してしまっていたらしい


 何を大げさにとツッコまれるかもしれないが、彼女が俺を守りたいと望んでくれているように、、、俺もさくらを守りたいのだ


「でも、、、そんな先輩もカッコいいです。」


 微笑みながらそう言ってくれる彼女も見ると、無意識に誓ってしまうのだから




 ここで軽く身体を伸ばす


「ん〜〜っ! 緊張で身体が強張ってしまいましたね。 そういう気分でもなくなってしまいましたし。」


「だが帰るって選択肢もないんだろう?」


「勿論ですとも。 予定は続行。 このままイルミネーションを見に向かいます。」


「そこなんだが、、、悪い、予定を変更させてくれ。」


「はい?」


 唐突に意見を出すのは混乱させてしまうと思うが、この空気のままでは、彼女の言う『そういう気分』にならない


 だから、、、


「夜にお前の部屋でってのは流石に申し訳ないしな。 ホテルか、、、もしくは俺の部屋にしてくれないか?」


 最後の単語を言い終えた途端、さくらの頬は真っ赤に染まる


 なんとか言葉を捻り出そうとしているが、口をパクパクと開閉するだけになってしまっていた


 そんな彼女を可愛いと思いながら見ていた


「ゆゆ、勇気を出してくれたのは嬉しいですけど、先輩の方は大丈夫なんですか? 急な変更だとお母様の予定だとか、、、」


「ならホテルにするか。」


「ひゃっ⁉」


「利用客が多いから混雑すると思うが、行くならやっぱり良い所だよな。 大丈夫だ。 貯金は多めに持ってきてある。」


「な、なんでそんな真顔で平然としてられるんですかぁ、、、言われてる私も超恥ずかしいんですけど!」


「何を言ってるんだ? 俺だって恥ずかしいに決まってるだろ。」


「いや表情変わらず言われても説得力無いですから。」


 かく言うさくらも真顔ですけど?


「まぁ話はイルミネーションを見終わってからだな。 じゃ、行くぞ。」


 一歩前へ出て、後ろに手を差し出す


 不満げな顔をしながらも、手を握って歩けることに喜ぶ彼女の姿にほっこりする




 、、、占い師に言った困難は、確かに存在した


 だけど偶然の産物と言うか、俺の嘘告がまさかのメリットに変わっていた



 嘘告が悪いことだと彼女は言う


 だが、『それ』も含めて俺の過去なのだ


 過去は消え去らないし、俺が嘘告に関して何も感じなくなったという事実も変わらない


 何時ぞや彼女が僕に言った


 だからこそ、今回も、、、嘘告されたことが彼女の役に立ったと思ってしまう


 その考えについて叱られたけど、対面では反省していても心ではそう思ってしまう


 だが少なくとも、俺は今が幸せだ


 その幸せを守るために、彼女を心から大切にしよう



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