第92話 (十束さくら視点)


「うん、なるほど話は分かった。」


「むぐ〜! むぐぐ〜!」


「俺達のためにありがとうな。多分九重のことだから、あの嘘告の罪悪感も含まれてるんだろうが、、、それでも感謝してる。俺もさくらも、出来るだけお前を守るために尽くすよ。」


「むがぁ〜!」


『う、嬉しい、、、んだけど、隣で唸ってる彼女は大丈夫かな?』


「気にするな。」


「、、、っぷはぁ! なんで急に毛布を巻いてきたんですか⁉」


 一度雪先輩に電話を切られたので(百瀬)先輩が再び繋ごうとしていたのだが、その前に私を毛布で巻いて拘束された


 先輩は少し躊躇ったものの、結局手で口を覆われたのでムグムグ話すことしか出来なかった


 なんとか拘束を解き、先輩に抗議する


「うん、まぁ大丈夫。 九重は安心、、、は出来ていないだろうが、少なくとも俺たちは味方だ。 一緒に頑張ろう。」


『、、、うん。 ありがとう!』


 涙声で感謝を述べる雪先輩の前で大声を出すのは憚られ、先輩が電話を切るまで待っていた


 さて、先輩がこちらを向いたところで抗議再開


「いきなり拘束してくるなんて、、、もしかして先輩ってそういうプレイが好みなんですか? ヘタレの割に意外とSなんですね!」


「、、、」


 あ、あれ?


 先輩の電話中にもかかわらず、彼に甘えたり絡んでいたのは私


 そんな私に非があるのは明らかで、いつもなら軽くツッコんでくれるところなのに、今回は何も言わない


 こころなしか視線も険しくて、、、


「きゃっ⁉」


 肩を軽く押され、背後のベッドに押し倒される


 これは、、、まさかそういう展開⁉


 やったぁ!


 遂に先輩がその気になってくれたんですね、、、


「、、、駄目だこれ。」


 はい?


 何故か先輩が私のことを呆れた目で見てくるのですが?


「何が駄目なんでしょうか? 準備は出来ていますよ、色々と、、、ね♡」


「いや、流石に今回のはやりすぎだって叱ろうとしたんだが、お前って俺に怒られても喜ぶだろ?」


「人をドMみたいに言わないでくださいよ! まぁ先輩に躾けられて喜ぶであろうことは真実でありますが。」


「、、、とにかく、ちょっと怖いそうな態度を取ってみたんだが。 案の定お前は喜ぶだけだったろ?」


「いや先輩なら何でも喜ぶわけじゃないですよ! 私と先輩、どちらも幸せになれる行動なら受け入れられるのです。」


 私たちが付き合う前、先輩が私の告白を信じていなかったことにウジウジしていた時があった


 私も人の子、そんなかっこ悪い先輩を見たくなかった


 だから叱った


 『先輩だから』全て受け入れられるのではない、『私が全て受け入れられる先輩』が好きなんだ


 好きだから全て受け入れられるなんて、そんなの理想論にすぎない


 それは只の依存


 私たちは互いに堕ちているけど、依存はし合わない


 いやちょっと待って、先輩の依存か、、、


 、、、それはそれでアリかもしれない


 って欲望が少し漏れ出てしまった


 話がズレてしまったけど、何が言いたいのか、、、それはッ!


「攻めてる先輩も私の好みにストライクだったってことですね。」


「それで九重のことなんだが――」


「何か反応して!」


 無視してシリアスな話に入るのはデレた私に対して厳しいっ‼




「今の現状は、そこそこ悪い。 俺が嘘告される件は断るだけで片がつくが、九重の面している危機をどう対処するべきか、、、」


 気持ちを切り替えて先輩と作戦会議


 私も雪先輩のピンチを救けたかったので、先程までのイチャイチャから真面目な雰囲気へと変えている


「雪先輩を守るだけじゃ駄目なんでしょうか?」


 たとえ雪先輩が孤立していても、私たちが出来るだけ傍にいて守ればいいと思うのですが


「それじゃ駄目だ。 相手は権力を持つトップ層であるから、下手に動いても被害が拡大してしまう。 、、、俺はお前を一番大切に思っている。 厳しいことを言うが、九重よりもお前の身を優先する気だと理解してくれ。」


「駄目です。 私と雪先輩、両方とも大切にしてください。」


 先輩の気持ちは嬉しいけれど、、、ワガママだと分かっているのだけれど、、、両者ともに大事にしてほしい


「難しいことを要求してくるな、、、」


 先輩の眉間にシワが増え、考える唸り声が少しだけ大きくなった


 そのことに申し訳無さを覚え、とある提案をする


「あの、私も一応は上位に入らせてもらっているので、微力な1年生ながら力になれるよう働きかけてみましょうか?」


「それも一回考えたんだが、、、やっぱりキツい。 九重に聞いたところ、敵対してくる陽キャのグループは学校全体でも強いらしいから焼け石に水の可能性がある。」


「、、、結構厳しいですね。」


「だな。」


 いつの間にか私も腕を組み、考える時間に入っていた




 少しの時間が過ぎ、突然先輩が目を開け質問してくる


「なぁ、陽キャグループが俺に嘘告してくることは、ほぼ確定なんだよな?」


「はい。 憎々しいことですが、おそらくかと。」


 途端に先輩はニンマリと笑みを浮かべる


「えーっと、先輩? 何か思いつきましたか?」


 笑みを浮かべたまま、、、いや少しだけ、恐ろしく感じる笑顔だ


「いや何、俺の謎な体質を逆に利用してやろうと思ってな。 今までは俺だけが傷つくだけで済んでいたが、カノジョや友人が傷つく可能性があるってんなら、、、話は別だよ。」


 その恐ろしい笑みに、シリアスな場面だと分かってはいるのだけれど、、、


「コクハク、、、いや、の時間だ。」


 普段の優しい雰囲気とは異なる怖い様子に、キュンとしてしまった



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