第93話 (百瀬零斗視点)


 後日、誰かから贈られた手紙が机に置かれていることに気がついた


 その手紙に書かれていた内容の通りに、俺は今屋上へ続く階段を登っている


「、、、ふぅ。」


 ここへ来る途中に、とある人物へ頼み事をしてきた


 快く了承してくれたが、ずっと隠し事をしていた自分に対して怒りを含む話し方であった、、、おそらく騒動が終わった後、俺はしこたま説教されることだろう


 まぁ後のことを考えていても仕方がない


 今は目の前の問題に専念しなければ、、、




 ドアを開けると、一人の女子が待っていた


 さくらの話が本当ならば、この女子は俺と同学年


 なら敬語にする必要はないし、砕けた話し方にする必要もない


 普通な話し方でいこう


「お待たせ。 それで君が俺を呼んだんだっけ?」


「はい。 それでいきなりなのですが、、、私と付き合って来れませんか?」


 急すぎるだろ


 、、、いや俺のカノジョの時と同じか


 にしても申し訳ないが、目の前の女子はさくらと比較して可愛いとは思わない


 俺たちを騙しているという背景も含まれているのだが、それ抜きでも容姿がさくらに劣っている


 別に顔立ちが整っていないというわけではない


 しかし陽キャに多くあることなのか、メイクが濃い目で俺としてはあまり好まれない姿


 そも、この計画は告白する女子が俺の好みにハマっていることが第一条件


 なのにそれをリサーチもせず、謎な自信で実行したわけか、、、いやホント、この作戦考えたやつ相当に阿呆だろ



 さて、そろそろ俺の返事を


「お断りします。 俺には大切なカノジョがいるので。」


 目の前の女子は笑顔をフッと消し、至極つまらなそうな表情へと切り替わる


「はぁ〜〜つまんな。 あ、皆もう出てきていいよ〜!」


 やはりと言うか、貯水タンクの陰からぞろぞろと人が出てきた


 その中には女子だけでなく、さくらを気に入っているという男子もいた


「私が嘘でもわざわざ告白してやってんのに、なんでOKしないかな〜。 カノジョが出来て調子乗ってんじゃねぇよ。」


「お前みたいな陰キャは十束に似合わねぇんだよ! さっさと別れろや!」


「早く別れないとさぁ、君の変な噂でも流してあげようか? キャハハ!」


「いいねソレ! 面白そ〜、わ〜かれろっ!」


「「「わ〜かれろっ! わ〜かれろっ!」」」


 うわぁ、、、ドン引きだよ


 計画通りにいかなかったからといって相手を罵りまくり、挙句の果てには強制的に別れさせようとしている


 こんなの教師や委員会に見つかったら終わりだろ、、、


 ま、




「君たち、ここで一体何をしているのかな?」


 俺が入ってきたドアから、凛とした声を纏う一人の女性が現れた


「「ッ⁉」」


「な、なんで風紀委員長が、、、」


 驚く陽キャたち


 そう、俺が此処へ来る途中に訪れたのは風紀委員室


 そして話した相手とは、勿論我らが風紀委員長、千歳綾女先輩である


 年上、それも権力者の味方は何よりも最高のカードだ


「先程から話に耳を傾けてみれば、君たちは彼に嘘の好意を伝えて弄んだ挙げ句、無理矢理交際相手と別れさせようとしているじゃないか。 これは十分にイジメの対象に入るのだが?」


「ち、ちがっ」


「証拠もあるのさ。 十束君、来てくれたまえ。」


 風紀委員長の合図と共に、貯水タンクの反対側に位置する太陽光パネルの後ろからさくらが姿を見せる


「なっ、十束まで、、、」


 驚く男子


 自分が気に入っている女子が目の前に現れれば普通は喜ぶところだろうが、状況が状況だ


 これから彼等の立場が悪くなる予感がし、全員がごくりと唾を飲んでいる


「はい、千歳先輩。 先程先輩が嘘の告白をされたところ、そして脅して私たちを別れさせようとしているところまで聞こえていました。」


 十束はスマホを見せつけるようにかざす


「ろ、録音、、、」


「そっ、そんなの犯罪よ! 盗聴じゃない!」


「何を言ってるんだ?」


「え?」


「十束は風紀委員長が式の挨拶動画を撮っていただけだが? お前たちの会話はあくまでその副産物だ。」


 彼女はスマホを操作し、前々に撮っておいたダミーの風紀委員長挨拶動画を流す


 盗聴と言ってくる可能性は十二分にあった


 だからこちらの言い分を用意させてもらったぞ


 勿論これがしょうもない自己弁護だと理解している、、、しかし相手に非がある状態ならば、それがほんの少しの言い訳であっても、、、


「「ぐっ、、、」」


「くそがッ!」


 それは有効打になりうる



 さて、ここからはこちらが優位な会話をしようじゃないか


「そう歯噛みしないでくれ。 なに、こちらにこの動画を公開する気はない。」


 急な嬉しい提案にぬか喜びながらも、当然のように俺を怪しんでいる


 、、、変なところで勘が良いじゃないか


「ただ、お前たちのグループから抜け、その報復を受けさせられそうになった女、、、そいつへ直接的、間接的にも害を与えないことを誓え。」


「はっ、九重のことね。」


「よくお分かりで。 ならお前らがこれからどうするべきかも理解しているよな?」


「はいはい。 ほら、アンタも呆然としてないでさっさと帰るよ。」


「、、、チッ。」


「マジで興ざめ。」


「このことは忘れねぇからな、、、」


 取り巻きを連れ、大人しく引き下がっていく陽キャグループ


 しかしそのリーダー格と思われる女子がふと立ち止まり、俺の方へ向く


「アンタ、百瀬零斗だっけ?」


「そうだが。」


「一つ教えとく、、、コイツの恋愛がアンタを呼び出した理由の。 、、、それだけ。」


「?」


 不穏な言葉を残し、踵を返して再び帰っていった


 全員の姿が見えなくなったことを確認すると、俺も振り返る


 さて、一件落着っと、、、


「さて、君から聞きたいことは山程あるんだ。 大人しく付き合ってもらおうか?」


 一難去ってまた一難、今回の件はどうやら、一件のところを俺は数件に増やしてしまっていたらしい



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