第82話
十束へ贈るケーキとアクセサリーを買った
ケーキはシンプルな形だが砂糖や牛乳にこだわっているという評判の一品、アクセサリーは、、、指輪は重すぎるので、髪留めにした
校則に抵触しない、黒色で地味な色合い
だがそれを上回る飾りとなっており、奇遇なことにさくらの黒髪にマッチしていた
一人でそのような物を買いに行くことに恥ずかしさを覚えたが、心優しい店員さんが横でアドバイスを出してくれたり、包装をサービスで行ってくれた
かなり気に入ったので、彼女へのサプライズを終えたら一緒にデートしてみるかな
実際に彼女の意見を聞きながら選ぶと、よりさくらの好みにあった物を贈れるだろうからな
こうして誕プレを用意し、幸せな気持ちで文化祭が近づいていった、、、
文化祭前日のこと
翌日の文化祭デートのため、さくらへメールを送る
『明日の文化祭、1日目の午後と2日目の午前だったよな?』
念の為確認し、さくらの返信を待つ
「お、来たな。 どれどれ、、、」
『すみませんが先輩、明日はクラスの出し物があるので無理です。』
は?
さくらが文化祭デートの拒否?
いやクラスの仕事ならしょうがないが、あんなにも楽しみにしてて予定も前々から空けていたのに、、、
無理言って空けてもらうのは流石にキツイし、、、
『分かった。 出し物頑張れよ。』
明日は一人寂しく回るか、、、
文化祭当日
前日のメールで送られた文章の通り、教室で待機していてもさくらはやって来ない
ただ無為に時間を過ごすだけなのはもったいないので、明日のために校舎を一通り回ってみるか
唐揚げの屋台、流行りのスイーツ、お化け屋敷、未成年の主張、喫茶店など、、、文化祭の定番の出し物から、割とマイナーなものまで、、、本当に楽しそうだ
「でも、、、つまらない。」
反対側からカップルが歩いていくのを横目にそう思った
、、、俺も、隣にさくらがいたら、、、楽しめたのかな
今更だが、俺にはさくらが隣にいてくれないと駄目になっていることに気付いた
出会って初めの頃、さくらは俺を堕とすと言っていた
その言葉の通り、俺はすっかり堕ちている
さくらを心の底から求めるほど、堕ちきっている
衝撃的な再会から始まり、今まで色んな出来事を彼女と共に過ごしてきた
明るい笑顔、むくれた表情、とろけた可愛い姿、小悪魔な言動でさえも全てが愛しく、この十数ヶ月はそんなさくらの姿を見ながらイベントを楽しんでいた
ほんと、マジで、、、駄目だな、俺
「いらっしゃいませ〜。」
聞き慣れた声が廊下に響いた
校外から訪れた客もいる中、その声だけを聞き分けられたのは単に聞き慣れているだけか、もしくは俺が彼女を欲しすぎているからなのか、、、
心地よい声に誘われて、無意識に声のした方へ歩く
開けた場所へ出ると、、、
「え、先輩?」
今すぐにでも会うことを望んでいた女性が、そこにはいた
エプロンを腰に巻き付け、質素だが可愛らしさを感じさせるドレスを身に着け、こんな時でなければ素直に称賛できた服装だ
「さくら、、、」
「ごめん皆、少し休憩するね。」
そう言い残して彼女は教室の中、そして幕の裏へ下がっていった
「ちょっ!」
慌てて追いかけようとするが、
「お客様、順番はお守りください。 あちらが列の最後尾ですので。」
気が動転していたとはいえ、1年の女子に一般の道徳を説かれて注意される
「あっ、はい、、、」
列の後ろに立ち、大人しく順番を待つ
やっと俺の番となった
さくらのクラスはクラシックな喫茶店で、スローなBGMが流れる整った店内は心地よい雰囲気だった
一人用の席へ案内され、席へ着くと店員役の生徒がやって来る
「ご注文はさくらですか?」
どこかで聞いたことがあるフレーズで注文を尋ねられた、、、しかも知り合いに
「万丈。 お前も喫茶の制服着てるのな。」
「そんなことはどうでもいいんです。 百瀬先輩はさくらに一体何をしたんですか? 今日の朝からずっと機嫌が悪いんですけど。」
え、そっちが機嫌悪かったのか?
「えっと、、、悪いが身に覚えがない。」
「必死で思い出してください。 取り敢えずコーヒーでいいですか? ブラックですけど構いませんね。」
「あぁ、頼む。」
注文を受け厨房へと戻った万丈の後ろ姿をボーッと眺めながら、最近の出来事を思い返しながら推測していく
少なくとも、文化祭デートを約束したあの日までは機嫌が良かった、、、ということはそこから今日までの出来事が原因
さくらは忙しそうにしていたから、あまり会って話せていなかった
つまりさくらと直接的に関与したことではない、、、消去法でだいぶ候補が削れたな
残された出来事は、2つ
そのうち1つを初めから終わりまで思い出すが、購入した時にも歩いている時にも違和感を感じなかった
よって残された選択肢はただ1つのみ、、、答えは絞られた
呼び鈴を鳴らし、店員役の生徒が来るのを待ちながらさくらに何を話すべきかまとめる
これは俺の責任であり、不注意から起こった喧嘩のようなものだな、、、
「ご注文のコーヒーブラックと可愛いカノジョです。」
軽いジョークを混ぜているが、声は未だ怒っている状態のさくらがトレイ片手に運んできたらしい席に座る
喫茶店の店員役とは思えない行動だが、こちらに責任があるんで黙認
周りもなんとなくの事情は察しているのか、彼女を咎めようとしなかった
まぁ、まず初めにこの一言を
「黙って九重と2人でカフェに行ってすまなかった。」
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