第79話
「はい、文化祭が近づいてきました。 明日のHRでウチのクラスは何をするのか決めるので、各自で案を考えておいてください。」
そっか、もうそんな時期か
文化祭、ねぇ、、、6回目の嘘告の舞台に選ばれたイベントだ
あの頃には既に嘘告される意義を感じていたので、特に悲しい出来事として記憶には残っていない
ま、今はそれよりも考えなきゃならないことがある、、、さくらの誕生日だ
「穂積さん、さくらの誕生日ですけど、最近アイツが欲しがってる物とかご存知ですか?」
まず初めに、さくらが欲しがってる物が何かないかお母様に聞いてみる
さくらが高校の友達と遊びに行っている日を狙って十束家にお邪魔し、やはり身内の方に聞いたほうが手っ取り早いし確実だろう、という思いでやって来た
「そうねぇ、あの子は元々物欲が少ない方だったから、今回も特に欲しがっている物とかは無かったわ。」
「さいですか、、、残り2週間程ですから、そろそろ考えておいた方が良いかな、と思っているのですが。」
ちなみにさくらの誕生日は12月2日、11月下旬にある文化祭の、一週間後だ
おっと、話が少しだけ反れてしまった
お母様との会話に戻ろう
「私の予想だけど、零斗くんがあげたものなら、あの子は何でも喜ぶと思うわよ。」
「はい、俺が何を渡しても、さくらは喜んでくれるでしょう、、、だからこそ悩ましいです。」
「そうよねぇ。 晩御飯に『何が食べたい?』って訊いても『何でも良い』って答えられると困ったりするのよねぇ?」
目線はリビングで夕刊を読んでいた商二さんに向け、嫌味を言う穂積さん
商二さんはビクッと体を震わせ、恐る恐る注文した
「うっ、、、今日はホイル焼きが食べたいです。」
「よろしい♡」
、、、良い夫婦って、この2人のような関係を言うのだろうな
結局悩みが解決しないまま、時間が過ぎてしまった
そこへ奈津橘さんが2階から降りてきた
「あれ、さくらの彼氏くんじゃん。 今日はどしたの? さくらは高校の友達と遊びに行ったみたいだけど。」
「はい、実はさくらの誕生日プレゼントに悩んでいまして、、、」
「なるほど、誕プレねぇ、、、ま、少年も頑張りな。」
そう言って冷蔵庫の牛乳を取り出す奈津橘さん
ん、彼女に尋ねてみるのはどうだろうか?
「奈津橘さんは、さくらが最近欲しがってる物とか知りませんか?」
「知らないなぁ、あの子、私にあんま話しかけないからさ。 反抗期の妹、、、困ったものだよ、やれやれ。」
肩を上げ、紙パックを手に持ったままの両手を肩の高さあたりで振り、首を左右に動かした
、、、なんだろう、さくらのお姉様と知っていながらも、ムカッとする仕草だ
さくらのイラッとさせてくる部分は、姉である彼女も受け継いでいるらしい
「奈津橘、もうちょっと真面目に答えてあげなさい。 零斗くんも困ってるでしょう?」
「ん〜でも本当にあの子の欲しい物とか分からないからなぁ。 あ、さくらの小さい頃のこととか知ったら、何か思いつくんじゃない⁉」
「なるほど!」
「それは良い案ね。」
流石です、お姉様
だが賛成する俺たちに待ったを掛ける商二さん
「でも勝手にアルバムとか見せたならば、さくらは怒るかもしれないよ?」
「む、確かにそれもありますね、、、」
もし勝手にアルバムを見たことがバレたならば、アイツのことだから仕返しとばかりに、母さんに俺の恥ずかしい話を聴くに違いないな
それは、俺の男としての尊厳に関わるので避けたいところ
「大丈夫よ、母親の私が許可します!」
悪魔の囁きだ、、、正直、さくらの小さい頃とか見たい気しかない
というか見たい
俺の理性と欲求、どちらが勝つのか、、、
「是非見させてください。」
欲求の圧勝だった
「あ、なら私も久々に見よ〜っよ。」
後ろについてくる奈津橘さん
その後ろ姿を、コーヒー片手に心配そうに見つめる商二さん
、、、賛成した側の人間だが、何故か嫌な予感がするのは俺だけなのだろうか
「え、小さい頃のさくら可愛すぎません?」
「でしょう? ほらほら見て此処! 健気にこちらへ手を振ってる写真!」
「我が妹ながら、この頃も可愛いわね。 なんか懐かしい気分になってきたわ。」
「他にもあるのよ? たとえば、、、」
「へぇ、この時期から髪を伸ばし始めたんですね。」
「そうなの。 友達と喧嘩しちゃって、無事に仲直りは出来たのだけれども、一時的に人付き合いが苦手になっちゃってたのよね。 今は元気そうにしてるけど。」
「なるほど、、、」
「ほらほら此処も見てよ少年。 私にも何か褒めてくれてもいいんじゃないか?」
「奈津橘さんも可愛らしいお姿ですよ。」
「ふふん、中々上手になってきたじゃないか。」
とまぁこんな感じで3人でアルバムを囲み、割と盛り上がった『さくらの小さい頃を知ろうの会』
穂積さんが写真を解説し、俺がその度に感嘆し、奈津橘さんが度々茶々を入れる
楽しい時間を過ごしていた
、、、楽しい時間は、いつか終わりが訪れるものだ
「先輩? お母さん? お姉ちゃん? 一体何をしているのかなぁ?」
ドスの利いた声が部屋中に響く、、、実際に響いたわけではないのだが、それ程までに威圧感を感じさせる声だった
ギギギ、とゆっくり顔を声のする方へ向けると、真っ黒な目をしたさくら
その目で俺たちを見下ろすのが恐ろしい
口は真一文字となり、言葉通りの無表情
お母様とお姉様は、俺を身代わりにして素早く逃げ去っていた
俺に出来た言い訳は唯一つ
「お前も母さんから俺の黒歴史聞いてたからノーカンで。」
「処します。」
「アーーーッ‼」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます