第77話
「…それで、襲われかけていたさくらを救けることが出来ました。」
「むぅ、、、娘がそんな目に遭っていたとは。 さくらを救けてくれてありがとう、零斗くん。」
「いえ、僕は大人を呼んだだけですから。」
「そうであっても、君はさくらの恩人だ。」
「さくらも僕の恩人ですよ、、、恩とは少し違いますが、互いに助け合いながら娘さんと歩んでいきたいと思っています。」
「、、、まったく、君はカッコいいな。 娘が好きになるのも当然だ。」
「あはは、、、あまり褒められるとお恥ずかしいですが、、、」
「それよりも、一人称をもっと軽くしても良いんだよ? これからのためにも、『僕』は少し他人行儀過ぎる。 もっとフランクで構わないさ。」
「、、、ではお言葉に甘えて。」
とまぁこのように、商二さんと打ち解けることが出来た
海外へ行かれている間の出来事を話し、また海外での出来事を話してもらい、互いに楽しみながら時間を過ごせた
そこに乱入してくるは、とある人の娘であり、とある男の彼女でもある女
「いや〜気がついたら寝ちゃってましたね!」
「おはようさくら。 よく眠れたみたいじゃねぇか。」
「先輩も眠ればよかったのに。 私のベッド、少し広めですから高校生2人は余裕ですよ♡」
「お前なぁ、父親の前でも変わらねぇのな。」
「、、、あ、居たんだお父さん。 おかえり。」
うわ、キッツ
父よりも彼氏の方を先に認識され、おまけに存在を気づかれなかったとかマジで凹むやつじゃん
あ〜商二さん目がうるうるしてらっしゃる
穂積さんもニコニコしてるだけだし、、、ここは認めてもらったお礼というか、まぁとにかく助け舟を出した方が良さそうだ
「さくら、お父様に対してそれはキツすぎないか?」
「お父さんはこれくらいの対応がいいんですよ。」
「で、でもさ? 一応お前と交際する許可は貰ったわけだし、、、」
「え、本当ですか⁉ 嬉しいです! 早く結婚しましょう!」
途端にコロッと態度を変えるさくら
色々とツッコミどころはあるが、それよりもまずは商二さんのフォローだ
「おい待て飛躍しすぎだ。 それよりもお父様に何か言うことあるんじゃないか?」
よし、誘導成功
「むぅ。」
やはり父親に改まって感謝を述べるのは恥ずかしいのか、思春期の女子らしいプライドで言葉を詰まらせる
まぁ俺は父親の背中とか見たことないから知らないんですけどね!
父親は俺が赤ちゃんの頃に家を出ていきましたからね!
まぁそんなことどうでもいいや、、、今はさくらの返答だ
「、、、先輩と付き合うことを認めてくれて、ありがとう。 お父さん。」
ふぅ、なんとかなったな
商二さんも、さっきとは違う意味で目を潤わせている
悲しみではなく、娘の成長の喜びと感動から流す涙のようだ
俺は母の涙を見たことはあるが、父の涙は見たことがない
よって商二さんの流す涙も、今まで得た知識を基に推測しているだけに過ぎない
、、、これまで父親に関して負の感情は湧いてこなかった
参観日は母さんが来てくれたし、その他別に父親が居なくて困ると感じたことは俺には無い
でも、こうして目の前で父と娘の関係を見させられると考えさせられるものがある
、、、もし父親が居たらこんな感じだったのだろう、と
思春期で反抗しながらも父に感謝する子、子の成長に感動する父、夫と子を優しい表情で見つめる母
俺がどうやっても得られなかった、感じれなかったものが、そこにはあった
それを認識した途端に、胸の奥からドロドロした黒い感情が生まれる
何故母と別れたのか、何故浮気したのか、何故母じゃ駄目だったのか、何故子を持ちながらも浮気しようと思えたのか、何故俺と母を置いて出て行ったのか、何故、何故、何故、何故、何故
愛している女性の家族だからこそ、目の前の光景に対する嫉妬心は湧かない
だからこそ、ベクトルの矛先は父親へと向かう
、、、実を言うと、初めての父への憎しみに俺自身が困惑していた
俺と母を捨てた父を今更憎んだ所で何も変わらないのは知っている
なのに胸の奥が無理やりかき回されるような、、、不快感がこの身を襲う
、、、まぁ意外と察しがいいさくらは、当然俺のこの変化に気付いた
「先輩、どうしましたか?」
「いやなんでもない、、、ごめん、やっぱなにかあるわ。」
俺の自白に商二さんと穂積さんも驚く
彼女の前で、この嘘だけはつきたくなかったから
「なら話してください。 今の先輩、悲しそうにしてましたから。」
人によっちゃ、何様のつもりなのだと逆にキレられる言葉だろう
だがその言葉は、この時の俺の心にスッと透き通るように吸い込まれていった
愛している女性からの言葉だからこそ、ぽつりぽつりと、独白が止めれれない
「、、、俺の父親が家を出て行ったのは母さんから聞いたか?」
「えぇ、会って初めての時に。」
「そうか、、、まぁだから、十束家の姿を見て羨ましいと思うと同時に、父親への怒りというか憎しみというか、、、自分でも嫌だと思う感情が出て来た。」
「、、、」
さくらは黙って聞いていた
さくらのご両親も、俺の話に耳を傾けていた
「その感情を生み出したことが、、、自分が嫌になった。 それだけだよ。」
自分でも何言ってんだか、、、要するに他人の家族を見て羨ましがって、無責任な父親への怒りが今更出てきたってだけだろうが
それを変にカッコつけて、悲しい過去を抱えた主人公みたいに話して、、、馬鹿だな
、、、呆れられても仕方がないよな
「別に普通のことだと思いますけどね。」
「、、、あ?」
「先輩を捨てた父親を憎む。 普通じゃないですか。」
「いや、でも、その感情は十束家を見て、勝手に生まれたもので、、、」
「なら私たちが悪いですよ。 先輩を除け者のように扱ってしまったこと、、、すみませんでした。」
「いや、なんでお前が謝って、、、」
「さくらの言う通りだ。」
「商二さん⁉」
謝罪を述べたさくらの隣に商二さんも立ち、彼女の言葉を肯定する
「君はさくらと付き合っていく上での覚悟を示してくれた。 そんな君に疎外感を感じさせてしまった私たちの落ち度だよ。」
「いや、だからどうして、、、」
「将来的にさくらの夫となってくれるのでしょう? ならもう私たちの家族のようなものじゃない。」
「、、、気が早すぎですよ、穂積さん。」
冗談なのか本気なのか分からない穂積さんの発言に頬を緩ませながら、十束家の言葉を頭の中で反芻させた
その度に、胸の内から形容し難い温かさが溢れてくる
「、、、すみません、変な雰囲気にさせてしまって。 でもありがとうございます、もう落ち着きました。」
「そうですか。 なら良かったです!」
「君が持ち直してくれたなら、僕達も嬉しいよ。」
「いつでも甘えたり相談してきてもいいのよ?」
支えてくれる言葉が、体全体に染み渡るようだ
「、、、俺も、混ざってもいいんですか?」
「「「勿論。」」」
今日、俺は母さんとは別の、2つ目の家族を手に入れたようだ
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