第72話


「ちょ、ちょっと零斗⁉」


「先輩どうかしましたか⁉」


 慌てて先輩の元へ駆け寄った


 先輩は涙を拭き、ハッキリとした声で話す


「ごめん、嬉しすぎて、、、」


「「、、、よかったぁ〜」」


 嬉し涙でしたか、、、私達が何か粗相をやらかしたのかと思って焦りましたよ


「ほら先輩、このハンカチで涙を拭いて、、、驚くのはこれからですよ♡」




 まずは料理


「え、これ2人で作ったの?」


「はい。 先輩のために頑張って作りました!」


 テーブルに用意したのはローストビーフとグラタン


 どちらも手間のかかる料理で、下準備含めかなりの時間がかかった


 けれども手間をかけた分だけ美味しく出来た、、、ちょこっと味見をしたから美味しさを保証しますよ


「早速食べてみて?」


「うん、、、いただきます。」


 ナイフで切り分けたローストビーフを口に運ぶ先輩


 途端に破顔し、喜びに満ち溢れた表情となる


「美味すぎる! 肉の旨味がしっかりついてて、でも臭みとか全然無い。 凄く美味しいよ。」


「えっへん!」


「喜んでくれて嬉しいわ。」


「次はグラタンをどうぞ!」


 グラタンを小皿によそい、先輩に渡す


「ありがとう。」


「あらあら、本当の新婚さんみたいね?」


「もう、和恵さんったら!」


 先程先輩に料理を褒められたことが嬉しくて、いつもなら喜ぶはずのからかいに照れてしまった


「まぁ、何回もこの食卓で料理を囲んでるからなぁ。」


「零斗が照れないなんて珍しいわね。 いつもなら焦ってるところなのに。」


 そう、こういう場面はいつもなら、先輩が照れて、私がからかって、そして先輩が照れ隠しでツッコむところだ


 でも先輩が照れてなくて、、、寧ろほっこりしてる


 これじゃあいつもと立場が反対じゃないですかぁ、、、少し恥ずかしいです



「と、取り敢えず、グラタンのお味はどうですか? こちらも上手に出来たと思うのですけれど。」


「どれどれ、、、これも美味い! 具材がたっぷり入ってて食べごたえがあって、、、母さん、さくら、作ってくれて本当にありがとう。」 


 い、いやいやいや!


 先輩へのお祝いで作ったのに、主役が頭を下げちゃってどうするんですか⁉


「先輩顔を上げてください! 私もお母様も先輩のために作ったのですから、美味しいと褒めてくれるだけで十分ですよ。」


「さくらちゃんの言う通りよ。 せっかくのあなたの誕生日なのだから、あなたは楽しむだけで良いの。」


「さくら、、、母さん、、、」




 どこかしんみりとした雰囲気になってしまった


 こういう空気は耐えづらいので、私が遠慮なく壊させていただきましょう


「あ、おかわりもありますよ。 もう一皿どうですか?」


「お、ありがとう。 それじゃあ、、、ってか母さんたちも一緒に食べようよ。 俺だけ食べるってのが申し訳ないし。」


「なら私達もいただきましょうか、、、あ、ならもう少しお待ちいただけますか?」


「どうしたんだ?」


「いえ、そろそろ時間だな、と、、、」


「え、なにそれ怖いんだけど。」


 『ピンポーン』


「来られましたね。」


「なら私が迎えるわ。」


「え、誰が来たの? 怖いんだけど⁉」


「先輩は黙っててください。」


「俺のお祝いなのに口悪い。」



 お母様が2人の女子を連れて戻ってきた


「お、お邪魔します。」


「百瀬先輩、お誕生日おめでとうございます。」


「こ、九重と万丈⁉」


「ふっふっふ、私がお呼びしました。 お二方に相談したところ、雪先輩たちも先輩をお祝いしたいとのことでしたので。」


 これが私、すなわちストーカー系暗躍ヒロインが活動した結果です!


「そ、そうなのか、、、全く知らんかった。 というか万丈も加担してたんだな。」


「騙すような形になってしまってすみません。 でも百瀬さんには日頃お世話になっているので、サプライズと聞いて是非楽しんでいただこうと。」


「私もお祝いさせて。 友達のお誕生日だもの、、、行かないわけにはいかないわ。」


「万丈、、、九重、、、」


 先輩が目を少し潤わせながら、言葉にならないといった表情で私達を見つめる


 そこに、料理を取り分けた和恵さんがキッチンからやって来た


「さて、美少女が2人追加したところで皆でご飯といきましょう!」


 さぁ、パーティーの始まりだ!

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