第70話


『それでは第53回、来栖高校体育大会の開幕を宣言します!』


 吹奏楽部のファンファーレが流れ、体育大会の開始が宣言された


 開会式の途中なので歓声をあげる人はいないが、やる気や熱気が伝わってくる


 運営や応援団に関与していないので今回の体育大会にそこまで思い入れはないのだが、雰囲気に呑まれて心が高ぶってくる


 出場競技は少ないけど、精一杯頑張ろう!




「あ、先輩だ。」


 借り物競走は全学年合同の競技なので一緒に出場することは知っていたのだけれども、まさか同じ列で走ることになるとは


 声をかけようとしたのだが、先輩が全くこっちを見てくれない


 この距離で気が付かないわけないし、わざと気付いてないふりをして無視しているのだろう


 、、、むかつく


 どうせ先輩のことだから、私と話してるところを他の生徒に見られると面倒に巻き込まれるとでも思っているのだろうが、、、私が大人しくそれに従うとでも?


「わ〜先輩! 一緒の組なんですね、頑張りましょう‼」


「ッ⁉」


 少し声量を上げて先輩に話しかけると、流石に無視できなかったのか、ギヨッとした表情で私を見た


 当然周りの人にも聞こえているわけで、、、



『十束ちゃんが話しかけてる人って誰?』


『2年の人だよね、、、もしかして彼氏?』


『えっ、十束さんって彼氏いたの⁉』


『でもあまり冴えない感じだよね、、、どんな関係なんだろ。』



 男子や女子のひそひそ話が耳に入ってくる


 ふふ、先輩も目に見えて焦ってます、、、だがここで攻めを止める私ではないことは知っているでしょう?


「そうだ。 体育大会の後、一緒に遊びに行きませんか? 打ち上げも兼ねて。」


「お、おまっ、お前、、、何言ってんだよ。」


「何ってアピールですけど? 私のの。」


『キャーー‼」


「、、、なんかもう吹っ切れたわ。」


 諦めた表情を浮かべる先輩と黄色い歓声をあげる周りの女の子たちとの対比が凄い


「『人気のない所でなら話せる』ならまだしも、あろうことか彼女を無視するとか重罪ですよ。 これはお仕置きコースです。 罰ゲーム案件です。」


「そんなコースや案件初めて聞いたんだが? まぁ俺も逃げ腰でヘタレだったし、今までにお前が何度も教室に来て話しかけてたし、、、今更だったな。 無視して悪かった。」


 ヘタレな先輩も攻め甲斐があるので好きですよ?


 でも、、、


「先輩はカッコいいのでもっと自信を持ってください!」


「いや陽キャのお前と陰キャの俺とか不釣り合いなんだが、、、」


「急にネガティブにならないでくださいよ、、、それに周りの人が先輩を理解しようとしなくても、私だけは必ず先輩を信じていますので。」


「、、、たまにお前が彼氏の俺よりカッコいいんじゃないかって思う時があるよ。」


 私は肉食系でガツガツ行ってますからね、、、先輩の目にはそう映ってしまっているのかもしれないですが、先輩は十二分に『彼氏』してくれてます


 それがたまらなく嬉しいのですよ


「あの〜、そろそろ競技開始です、、、」

 

 実行委員さんが恐る恐る注意をしてくれた


「すみません、今行きます。」


 先輩と話すことに夢中になってしまっていたみたいだ


 恐るべし、私の彼氏さんパワー




 借り物競走は全学年合同


 スタートの並びも決まっていないので、せっかくだし先輩の隣に立つ


「では先輩、健闘を祈ります!」


「いやそんな戦地に向かう上等兵を見送る感じで言われても、、、つーか敬礼を止めろ。 悪目立ちしてるだろうが。」


『位置について、よ〜い、、、ドン!』


 おっと、もう始まったみたいだ


 皆も走ってお題の紙を手に取って確認して、各自で借りなければならない物を探しに行っている


 私達も急いで向かわないと、、、




 途中で道を塞いでいたミニ障害物を楽々乗り越え、続いてお題の確認


 リレーみたいなガチ競技ではないが、どうせなら勝ちたいので出来るだけ楽なお題がいいところ


 どれどれ、、、『一緒にいて楽しい人』


 ふむ、これは迷いますね


 単純に『好きな人』だったら迷わず先輩に向かうところだけど、『一緒にいて楽しい人』か、、、希ちゃんに雪先輩、他の友達も選択肢にある


 まぁそれでもやっぱり先輩を選ぶんですけどね


 先輩は今紙を確認したところか


 遠慮なく突撃


「ヘイヘイ先輩、私と一緒に来てくれますか?」


「ちょうどよかった。 俺もお前に来てほしい。」


「口説き文句ですか?」


「何言ってんだよバカ、借り人の対象がお前だったんだよ。」


「わお。」


 お互いに借り物競走のお題の対象とは、面白い出来事もあるものですね


「ならば手を繋いで優雅に歩いていきましょうか。」


「他の人も借り物を手にし始めたようだが?」


「こんなことしてる場合じゃねぇです! 急いで行きますよ‼」


「ちょおまっ、いきなり手を引っ張んなよ! というかお前男一人引っ張れる力出るとか凄えな。」


 先輩のツッコミを華麗に無視し、全速でゴールへ向かった


 先輩も本気で走ってくれたお陰で一番早くゴールテープをくぐり抜け、私達は共に一着という判定になった


『おーっと、互いに手を取り合いゴールした姿は感動的です! それではお題の確認へと移るようです! お題の条件を満たしていると確認が取れた方からご退場しても構いません!」


 係の人にお題の紙を渡す


 私のお題を確認した後、先輩のお題を確認している


 何度か頷いたのを見るにOKだったみたいなので、そのまま先輩と一緒に退場した




「ところで先輩のお題は何だったんですか?」


 各々のテントへ別れる前に、先輩のお題は何だったのか訊いてみた


 ワンチャン『好きな人』だったり♡


「ん? 『面白い人』。」


 期待した私が馬鹿でした

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