第58話


「ただいま。」


「お疲れ、零斗、、、さくらちゃん何か言ってたかしら?」


に関しては何も言ってなかったよ。 でも俺が無理に帰らそうとしたことに対して不満気だったな。」


「ふふっ、さくらちゃんらしいわね。」


 そう、公正な審議を行い悩みに悩んだ結果、俺は母さんに軍配を上げた


 さくらも母さんの料理の腕前は認めているので、それについて悔しそうにするだけで、恨んだりとかは全くしていなかった


 寧ろ『もっと腕前を上げて、いつか和恵さんに勝って本当に先輩をお持ち帰りしてみせます!』と言って燃えていたな


 動機が不純だが、彼女の料理の腕が上がるのは嬉しいことだ


「年甲斐もなく、それに年下に対して本気出しちゃったけど、、、やっぱり良い娘ね。 それに対して零斗は、、、」


「その『やれやれ』みたいな仕草止めてくれる? 母さんも他人の娘さんを自宅に泊まらせようとしないでよ。」


「私、早く孫の顔が見たいわ!」


「まだ三十後半で何を言ってるのさ。 あと話が生々しい。」


「百瀬家も安泰ね。」


「割と重い話に繋げないでよ、、、なんて反応すればいいのか困る。」


 実の父と母さんは離婚しているので、母さんの子供はこれからもずっと俺1人だけ


 俺も母さんも父親に対して既になんとも思っていないが、それでも会話に出てくる度に気まずくなる


「まぁとにかく、さくらと仲が良くて安心したよ。 でも共謀して色々とやりすぎないようにしてね?」


「分かったわ。」


 、、、ホントかなぁ?




 唐突に始まった料理勝負が終わってから早三日、夏課題も全て終えた俺は、暇を持て余していた


「ゔぁーー」


 クーラーの効いた部屋で、ベッドに寝転び時折謎のうめき声を出している


 それぐらいしかやることがない、、、暇だ


「、、、まだ夏休みが2週間あるのか。」


 買った本は読みきった


 散歩に行こうにも、この暑さの中でわざわざコンクリートの上を歩こうとは思えない


 色々と考えていると、ふと思いついた


「、、、そうだ、さくらと遊びに行くかな。」


 放課後にアイスクリーム店に行くことはあったけれど、休日に遊びに行くような、ザ・デートみたいなことはまだしてなかった


 付き合い始めたのが夏休み真っ只中なので、しょうがないと言えばしょうがない、よね?


 兎にも角にも、思い立ったが吉日ということで早速電話をかけよう


 プルルル、プルルル


『はいもしもし。 十束さくらです。』


 お、出てくれた


「百瀬零斗だが、今大丈夫か?」


『はい、今は課題を進めていたところです。 それでどうしましたか? 先輩からかけてくるのって初めてですよね。』


「あ〜そのことなんだが、お前って何時頃空いてる?」


『もしかして、デートのお誘いですか?』


 勘が良すぎるわ


「まぁ行き先も特に決めてないが、そういうことだな。」


『えっと、少々お待ち下さいね、、、明日、明後日は何も予定が入ってないですね。 課題も休憩日にしてますし。』


「そっか。 なら一緒に遊びに行かないか?」


『勿論ですとも! それで何処に行きますか⁉』


「そうさなぁ、、、この暑さだし、涼しいとことかに行きたいな。 別に自然の中じゃなくて、モールに行くのもいいかも。」


『そうですね、、、ではプールはどうでしょう? 夏休み中と言っても明日明後日は平日ですから子連れの方も少ないでしょうし。』


 プールか、、、良いな


「よし、なら明後日でいいか? 水着を買い換える必要があるんだ。」


『え、去年の物は、、、あっ、そうですよね、先輩って友達が少ないんですよね、、、』


「憐憫の声を止めなさい。」


 友達少ないのは事実だし、去年一緒にプールに行くような友達なんかいなかったし、間違ってはいないのだが


『安心してください。 今年は私が目一杯遊んであげますから!』


「嬉しいことを言ってくれるな、、、ならまた明後日、駅前市民プールに午後3時でいいか?」


『了解しました! 楽しみにしてますね! あ、先輩も私の水着姿を楽しみにしててください。 可愛すぎて腰が抜けても知りませんよ♡ ではまた!』


 ツーー、ツーー


 、、、最後に爆弾を残して切りやがった


 アイツ絶対画面の向こうでニヤニヤしてるわ、、、



 とにかく、明日新しい水着を買わないと、、、ってかこういうのは女子が対象のイベントでは?


 彼氏が彼女の水着の試着に付き添い、何着も着る彼女に『どれを着ても可愛いよ』って言うのがお決まりの約束


 そして結局は彼氏側の好みに合わせるまでがテンプレ


 なのに、誰が野郎の水着姿を見て喜ぶんだよ、、、いやそもそも1人で買いに行くから感想も何も無かったわ!


 ハッハッハッハ‼

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