第57話


 母さんと雑談をしている間に、さくらの準備は終えたみたいだ


「お待たせしました。 こちらが私の料理、鶏肉と旬野菜のトマト煮です!」


「おぉ、、、これも美味しそうだな。」


 トマトスープの鮮やかな赤色と、漂ってくるトマトの香りとで食欲がそそられる


 盛り付けられた皿には食べやすい大きさにカットされた鶏肉と野菜がたっぷり入っており、食べごたえがありそうだ


「冷蔵庫の中の旬野菜と棚のトマトスープを見つけて、パッとひらめいたんですよね!」


「なるほど、旬の野菜をメインにするという手もあったのね、、、良妻感が凄いわ。」


「それじゃさっそく、、、」


 スプーンを皿に入れてすくい上げると、運が良いことに鶏肉、野菜、スープを全部すくい取ることが出来た


 そのまま口に運ぶと甘酸っぱいトマトの味が口いっぱいに広がり、具を噛むたびに素材の旨味が引き出されていく


 野菜の甘味とトマトの僅かな酸味がマッチし、素晴らしい味わいになっている


「美味いッ!」


「私も一口頂こうかしらね、、、」


 母さんは棚からスプーンを取り出し、俺と同じ様に料理を口に運ぶ


「美味しいわ! 旬の野菜だからこその美味しさが伝わってきたわね。 さくらちゃんも流石の腕前よ。」


「えっへん! お母様に褒めてもらえて嬉しいです!」


 腰に手を当て胸を張り自慢するさくら


 喜んでいるさくらを見ていた母さんも笑顔になっている


 初めは敵対してたけど、結局はお互いに認めあっている


 母親と彼女の仲が良いというのは、、、いいものだな



 俺は料理を口にし続け、2つの皿を空にした


「ふー、美味しかった!」


「私達も自分と相手の分も用意して、普通の夕食になっちゃったわね。」


「和恵さんの料理を沢山味わえて、私は嬉しかったですよ?」


「私もさくらちゃんのを食べれて嬉しかったわ、、、でも零斗がどんな判断を下すのか、気にならない?」


「むむっ、言われてみれば確かに、、、先輩、どっちの料理が美味しかったですか? 公正な判断を要求します!」


 え、良い感じに終わろうとしてたところなんだけど、、、


「甲乙決めなきゃダメなのか?」


「当初の目的は、さくらちゃんとの料理勝負! タダ飯食いなんだから、こういう時には働きなさい!」


「ぐっ、、、」


 正論すぎて反論できねぇ、、、


「ここで決めるのと、私が先輩のお風呂場に突撃するの、どっちがいいですか?」


「もしかして泊まろうとしてないか?」


 付き合い始めた翌日にお泊りとか、、、最近の高校生はそんな感じなのか⁉


 だとしてもまだ泊まらせたりさせないが、、、母さんが何か言ってきても絶対に泊まらせないからな!


「先輩?」


「零斗?」


「「どっちが好き⁉」」


 うわぁハーレムだぁ嬉しいなぁ


 、、、多分俺の人生で1番、瞬間移動の異能を手に入れたいと思った


 というかこのまま異世界転生されたい、、、初めて思ったぞこんなコト‼




 夏特有の夕方の明るさの中、俺は頬を膨らましながら先を行くさくらの後ろを歩いていた


「ぶすーー」


「なぁ、、、いい加減頬を機嫌直してくれないか?」


「嫌です。 私が泊まることを断固として拒否していたヘタレ先輩のことなんか知りません。 お母様は許可してくれたのに、、、」


「お前のお母さんの許可はまだ訊いてないだろうが。」


 そう、晩御飯を食べた後、あろうことかコイツはそのまま泊まろうとしていた


 付き合って少ししか経っていない、おまけに十束家に連絡をしていない、、、これからする予定だったとか言う奴を泊まらせるわけにはいかない


 というかそもそも、いい年頃の女子が男子の家に何度も訪れることすら危ういのだ


 以上の理由から、俺はコイツを家まで強制送還することにしたのだが、、、明らかに不機嫌になった


 彼女の言う通り、断固としてさくらを家まで帰らそうとしていた俺の態度はヘタレと捉えられても文句は言えない


 でも、、、


「あのさ、どうしてそんなに急いでるんだ?」


「急いでいる、とは?」


「ほら、お前ってかなり積極的にアプローチしてくるじゃん。 いやそのグイグイ来るとこも好きなんだけども、、、それが焦ってるように見えたんだよ。」


 からかい半分だろうが、結構際どい攻めをさくらはしてきた


 そういうとこも気に入っているのだが、何故そこまで?


 俺の問いに対し、一呼吸おいてさくらは答える


「急いだり焦ったりなんかしてませんよ。 単に先輩が大好きすぎるだけですね。」


「、、、ですよねー。」


 予想はしてたよ?


 してたけども!


「、、、まぁ恋人同士だし、そういうこともいつかはするんだろうけど、、、」


「ならこれから私の部屋でイタしましょうか?」


「一旦黙ろうか。」


 人が真面目な話をしようとしてる時に限ってコイツは、、、


「、、、カラダを重ねることは一瞬だ。 でもそれまでの過程も大事にしたいんだよ。」


「つまり、もっと純潔のままでいたいと?」


「少し違うが、まぁいい。 とにかく俺は、そこまで速いスピードで進めなくてもいいんじゃないか、ってことを言いたかった。」


「、、、ふむ、ヘタレな先輩らしい言い訳ですね。」


「解釈の仕方に物申したい。」


「分かりました。 先輩の言うことにも一理ありますし、もう少しだけ清い交際を続けましょうか!」


 なんとか分かってもらえたようだ、、、


「あ、そもそも千歳先輩が不純異性交遊はダメって言ってたからな?」


「なら今はそういうことは止めときましょうか。」


「彼氏の俺より意見を受け止めてないか?」


 なんか千歳先輩に負けた気分、、、ちなみにさくらは安全に家まで送り届けました


 何事もないのが1番

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