第五章

第51話


 さくらのことを何時頃好きになったのか尋ねられたら、『分からない』としか言いようがない


 気づいたら心の中にずっとアイツが居て、気づいたら好きになっていた


 少なくとも、嘘告されまくって他人の好意を信じられなくなった俺を変えたのはさくらだし、この『好き』って感情が軽いものだとは思っていない


 本人に『お前の好意を信じられない』と言ったにもかかわらず、何度も好きって気持ちを伝えてくれた、、、覚悟を見せてくれた


 俺を好きでいてくれるアイツを大切にしたい


 、、、まぁ直接伝えたら絶対に調子に乗るだろうから言わないが


 いつもの明るい声でからかってくるに違いないからな


「先輩、そろそろ起きてください。 イ・タ・ズ・ラしちゃいますよ♡」


 そう、こんな声で、、、は?




「ッ⁉」


 慌ててガバっと上半身を起き上がらせる


 周りを見渡すと、いつもと変わらない俺の部屋だった、、、コイツを除いては


「やっと起きましたか。 それにしても悔しいですね、、、もう少し寝ていたら、本気でイ・タ・ズ・ラしてましたのに。」


 ベッドの端には、両肘を使って頬杖をついている俺の彼女、、、十束さくらがそこにいた


「色々言いたいが、取り敢えず『イ・タ・ズ・ラ』って言い方を止めなさい。 妙に腹立つ。」


「そんな、酷いです! 可愛い彼女にそんな言葉、、、シクシク。」


「なんでお前は俺の部屋にいる?」


「無視しないでくださいよ、まったくもう、、、それより何故私が先輩の部屋にいるのかでしたっけ? そんなの、彼女だから当然じゃないですか!」


「理由になってねえよ! え〜と、確か昨日の夜に花火を見終わった後、、、」


 俺がさくらに告白して、最後の花火を一緒に見てから、、、


 俺の言葉を引き継ぐように、さくらが説明を続ける


「告白の緊張が切れて先輩が寝てしまったので、和恵さんに連絡をして家まで送っていただいた、という訳です。」


 あぁ、そうだった、、、さくらに告白する時の緊張が切れて寝てしまったんだった


 情けねぇ、、、まさに陰キャみたいな結末だな


 十束家の皆さんも母さんにも迷惑をかけてしまった、、、だからさくらが俺の母さんの連絡先を知ってることは一旦置いておこう


「お前にも迷惑かけてすまなかったな。 母さんにも礼を言っとかないと。」


「いえ、私は先輩の寝顔を見れて役得でしたね。」


「急にお前への感謝の気持ちが薄れてきた。」


「何を言いますか! 襲うチャンスが二度あったにもかかわらず、我慢した私を褒めるべきです!」


「確かにそれは、、、感謝すべきなのかもしれないな。」


 コイツの性格上、やると決めたら実行するだろう


 だがそれを我慢し、俺の意思も尊重してくれたことはシンプルに感謝すべきだな


「まぁ、R性がKれる5秒前でしたが。」


「直ぐに起きた3分前の俺、ナイス!」


「バッドですよコンチクショウ! やっぱり寝込みを襲っておくべきだった!」


「せっかく上がった好感度が急低下してるんだが⁉」


「それでも先輩は、私を好きでいてくれるんでしょう?」


 こ、コイツ、、、


「、、、好きだよ。」


「こういう時は素直に言ってくれるところ、ポイント高いですよ♡」


「な、ならお前も言ってみろよ! 結構ハズいからな!」


「愛してます、先輩。」


 恥ずかしいなどと微塵も感じていない様子で、だがいつも通りの可愛い笑顔で、さくらは愛を囁いた


「ッ!」


「先輩との関係が『恋人』にランクアップしましたからね。 次の目標である『夫婦』のために、これからは遠慮なくデレるのでよろしくお願いします!」


 おい待て、その度に俺の心臓は飛び跳ねなきゃいけないのか⁉


「あっ、雪先輩と希ちゃん、そして和恵さんには既に付き合い始めたことを説明してあるのでご安心ください。」


「あ、ありがとな。」


「少々話し込んでしまいましたね。 お母様と一緒に朝食を作らせていただいたので、是非楽しんでお召し上がりください。」


「おぉ、、、お? そういやお前が俺の家にいる正確な理由をまだ話してもらってないんだが?」


 昨晩運んでもらったことと、今ここにさくらがいることは繋がっていない


「あぁそれはですね、せっかく結ばれた日の翌朝ですから、先輩に私作の朝食を頂いてほしくて、、、」


 先程の愛の囁きとは打って変わって、テレテレとした様子で話すさくら


「、、、」


「キャッ⁉ せ、先輩、急に抱きついたりしてどうしたんですか?」


「すまん、、、さくらがいとしすぎて、つい。」


 ほんの少しだけ強引にさくらを引き寄せ、全身で優しく包み込んだ


 もう可愛いとか綺麗とかそういう次元じゃない、、、いとおしい


 只々、俺を好きでいてくれて、俺に尽くしてくれるさくらがいとしくてもう、、、


「これくらいは、許してくれるか?」


「別にもっと先へ進んでも構いませんけど、先輩のペースで良いですよ? 好きなだけ甘えてください。」


 穏やかに、互いの背中を撫で合う


 数ヶ月前の自分が今の俺を見たら、卒倒しそうな光景だった


 だがそんな俺を変えてくれたのは、間違いなく今胸の中にいるコイツだ


 だからもう少しだけ、このままで、、、

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