第46話
「俺のカノジョに何してるんですか?」
その声を聞いた途端、私は安堵で両目から涙が溢れてきた
「せん、ぱい、、、」
先輩の顔は、今まで見たことがないほどに憤怒の一色に染まっていた
未だに私の腕を掴んでいるナンパたちに向ける目は険しく、直接睨まれていない私でさえ恐ろしく感じた
先輩の威圧に押されたナンパたちは言い返そうとするが、いたのは先輩だけでないことに気が付き、苦々しげに顔をしかめる
というのも先輩の後ろには、『運営委員』の腕章を着けている3人の大人がいたのである
代表と思われる人が、冷静な声音で話す
「私たちは祭りの運営委員の者ですが、そのような行為はお控え願います。 祭りに来てくださっている皆様のご迷惑になるような行動を続けられるのでしたら、相応の対処をしなければなりませんので。」
「、、、チッ。」
「クソが。」
「久々の上玉だったのによぉ。」
人数でも立場でも敵わないと知ったナンパたちは私の腕を乱暴に離し、捨てゼリフを残して足早に逃げていった
危機が去ったと悟った途端、私は急に腰が抜けて、浴衣が汚れてしまうのも構わずペタンと地面に座り込んでしまった
「さくら! 大丈夫か⁉」
「、、、えぇ、はい。 無事です。」
「立てるか? ホラ。」
差し伸べられ手を握り、力を入れて立ち上がる
私の手を握る先輩の優しい掴み方が、さっきのナンパたちの乱暴な掴み方との違いを浮き彫りにさせ、先程流れたはずの涙がまた溢れてきた
「う、ううッ、、、せんぱい、先輩ッ!」
私はまるで赤子のように抱きつき、止められない涙を彼の胸の中で流す
大事なものを扱うように背中を撫でる先輩の優しさがただ嬉しくて、頬を伝い、先輩の浴衣に染み込んでしまっているのを考える余裕もなかった
望まない相手に襲われそうになって、誰も救けに来れないと思っていたのに、そこにまるで白馬の王子のように来てくれた先輩
今は彼の優しさに甘え、暫くこの温かさの中に居たい
「無事で良かった、、、1人にさせて、悪かったな。」
「グスッ、、、怖かったけど、、、救けに来てくれて、嬉しかったです。」
「そうか、、、」
心地よかった数十秒が名残惜しいが、先輩は抱いている腕を離し運営委員の方々へ体を向け、頭を下げた
その間に多少乱れた浴衣を直す
「手伝っていただき、誠にありがとうございました。」
「いえいえ、祭りに来てくださっている皆様に楽しんでいただくことが我々の目的ですから。」
なんて丁寧な人なんだ
「、、、重ね重ね申し訳ございませんが、カノジョが落ち着くまで運営のテントに居てもよろしいですか? それにまたあの男たちがやってこないとは限りませんし。」
「勿論構いませんよ。」
「ありがとうございます。」
運営委員さんとの会話を終え、彼らがテントへ戻るのを見届けた後、先輩は再びこちらを向いた
私の心を案じているのか、優しい笑顔を浮かべていた
「それじゃあ、行くか。」
先輩は手を差し出したが、ナンパたちと似たことをしていると気づいたのか、直ぐに手を引っ込めた
だが私は慌ててその手を掴む
「あの、まだ不安なので、手を繋いでいてもいいですか?」
いつもなら先輩と手を繋げるチャンスと喜んでいただろうけども、今は不安な気持ちのほうが勝っていて、、、その不安を溶かすように、先輩の温かさに触れたかった
「、、、いいよ。」
顔をこちらに向けず声だけで答える先輩の横顔は、どんな表情だったのか分からなかった
私たちは運営のテントに移動し、2人で隅に座っていた
なんとも言えない気まずさが重く、祭りの大きな音と反対に私たちの間には静けさが広がっている
だがその静けさを破るように、先輩の口が開いた
「、、、すまなかった。」
「助けてくれたのになんで先輩が謝るんですか?」
「勝手に席を外したこと、お前を1人にさせてしまったこと、、、そして、救けるのが遅れたこと。」
「遅れてなんかいませんよ? 先輩があの時来てくれなかったら、、、」
考えるのも
「いや違う。 本当は、、、お前が絡まれ始めていた時には気づいていたんだ。」
「そうなんですか?」
「直ぐに行きたかったが、人数差を考えると俺一人が行ったところで変わらないと悟った。 だから大人を呼びに急いで運営に話に行って、、、あの時に至る。」
首に未だ乾いていない汗が数滴残っている様子を見れば、それが嘘ではないことが分かる
「先輩の武道の経験は?」
「無い。 それも考えて、1人じゃ駄目だと思った、、、なんか言い訳がましくなってしまったが、そういうことだ。 まさに陰キャな行動でかっこ悪いだろ?」
先輩は自嘲するような笑みを浮かべた
「、、、かっこ悪いとか、思うわけないじゃないですか。」
自分と相手の状況を正しく把握し、その上で最善の解決策を考える、、、並の人間が焦っている状況で容易に出来ることではない
むしろ単に1対3で喧嘩に勝つよりも何倍もかっこいい
「どんな過程や手段であろうとも、先輩は救けるために全力を尽くし、私は救われた。 それが最高なんですよ、、、私を救ってくれて、ありがとうございます。」
「、、、本当に、無事で良かったよ。」
今度の笑みは、心からの笑顔だった
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