第44話

「まずは何から行く?」


「実はお昼を抜いていまして、お腹が減ってるんですよね。 私、たこ焼きが食べたいです。」


「たこ焼きもたくさんあるが、どの出店が良い?」


「それじゃあ、、、あそこのお店で。」


 60代くらいのお婆さんが営んでいる屋台で、ソースのいい匂いが漂っている


 2人で出店に近づくと、お婆さんが話しかけてきてくれた


「いらっしゃい、ご注文は⁉」


 凄く元気が良いお婆さんだ


「8個入りのたこ焼きを1人前。 トッピングはどうする?」


「私が決めていいんですか? えっと、マヨネーズ有りで、、、青のりは無しでお願いします。」


 デートの食事に青のりは危ない


 迂闊に笑顔を浮かべられなくなるからね


「承知、ちょっと待っててね、お嬢ちゃん!」


 またまた大きな声を出し、お婆さんはたこ焼きを作り始めた


「、、、凄いな。」


「、、、はい。」


 手際がよく、速いスピードでたこ焼きが作られている


 60代と予想したけれど、本当はもっと若いのでは?


 そんなことを考えていたら、お婆さんが作る手を止めずに話しかけてきた


「お二人さんは恋人かい⁉」


「はい、私たちラブラブでして!」


「違います。 只の先輩後輩の仲です。」


「むっ? 先輩、こういう時はノるのが大切ですよ?」


「アハハ! 違うのかい、そりゃあ悪かったね! でも私の長年の目によると、、、あんたたち、かなり仲が良いだろう?」


「、、、仲が良いのは否定しませんけど。」


 照れ隠しなのか、先輩はそう言い残しベンチに座りに行ってしまった


「ホイ、いっちょ上がり! どうぞお嬢ちゃん。」


 話していたら、いつの間にか作り終わっていたみたいだ


 、、、凄い美味しそう


 綺麗な球の形をしたたこ焼きに、かかっているソースが明かりを反射して煌めいている


 匂いに誘われて選んだお店だけど、かなり良いチョイスだった 


 受け取ろうとしたら、お婆さんが口を私の耳に寄せてきて内緒話をする


「彼がお嬢ちゃんの懸想人じゃないかい?」


 けそうびと、、、懸想人⁉


 驚いて声を上げそうになったけれど、先輩が近くにいるのでなんとか押し留めた


「図星かね? 良い人やから逃さんようにね。 ほんじゃ、祭りを頼んしんでらっしゃい!」


 私は屋台から離れ先輩の元へと向かいながら、驚いていた


 な、なんて(色んな意味で)凄い人だ、、、でも今はそれよりも、先輩と一緒にたこ焼きを食べたい



 先輩は仮設のベンチに座っていたので、私も隣に座った


「奢ってくださってありがとうございます。」


「だから気にするなって。 しかし美味しそうなたこ焼きだな。」


「、、、先輩に買ってもらったたこ焼きですし、先輩も食べてください! あ〜ん♡」


 つ、遂にやっちゃった!


 念願の、先輩に『あ〜ん♡』を‼


「お、お前、、、」


「は、早く食べてくださいよ、、、ずっと構えたままなのも、恥ずかしいんですよ?」


 珍しく先輩の顔は真っ赤だ、、、その瞳に映る私の頬も赤くなっていた


 雪先輩たちが居たら、『いつもみたいに突撃しなさい!』って言われるであろう有様だった


 微かに躊躇していたが、先輩は観念したように口を開けた


 私よりも大きな口に男らしさを感じたが、すぐに頭から雑念を振り払い、熱々のたこ焼きを入れる


「熱ッ! 、、、でも美味しいな。 さくらも早く食べたほうが良いぞ。 このたこ焼き、かなり美味しい。」


「それでは私も、、、」


「ッ! ちょおまっ、いったんストップ‼︎」


「モグモグ、、、ん? いきなり大声出してどうしました? あ、もう一回『あ〜ん♡』して欲しかったんですか? も〜先輩ったら、、、言ってくれたらいつでもしてあげますのに。」


「、、、そうか。 いや、なんでもない。」


「ならいいです。 もぐもぐ。」

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