第43話


「お、お母さん、、、これで良いの?」


「これでOKよ。 よく似合ってるじゃない!」


「メイクも良い感じ。 軽く紅を塗っただけなのに美しい、、、流石私の妹ね。」


「ほ、本当に?」


「さくら、あなた心配し過ぎよ。 夏祭りに行くだけなんだから、そこまで気を張らなくてもいいじゃない。」


「お母さんは分かってないなぁ。 男だよ、、、オ、ト、コ♡」


「お姉ちゃんは黙ってて。」


「あら、そうだったわね。 それに帰りが遅くなるのでしょう?」


「それは花火を最後まで見るためだって何回も言ってるのに、、、」


「若いって、良いわねぇ〜?」


「うん、お母さんも静かにしてて?」




 終業式を終え、夏祭りが始まってから1週間経った今日


 先輩との夏祭りの日である


 この日のために、お母さんとお姉ちゃんに準備のお手伝いを頼んでいた



「帯はしっかり締まってるし、多少動いても問題無いわね。」


 浴衣の着付けをしてくれているのは私の母、十束穂積ほづみ


 そして私の料理の師匠である


 もう40代だというのに、娘の視点から見てもまだうら若くて綺麗な人だと思う


 見た目年齢は20代後半くらい、、、家族で遊びに行っても、ナンパされているのをよく見かける



「目はどうしようかな、、、いや、ここは敢えてノータッチでいこう。」


 メイクをしてくれているのはお姉ちゃん、十束奈津橘なつき


 現在は美容師を目指すために専門学校に通っていて、だからこそ私はお姉ちゃんにメイクをお願いしたのだ


 ちなみに彼氏がいるらしい、、、興味無いけど




「スマホにお財布、ハンカチと予備の袋、、、これくらいかな。」


 手提げ鞄に必要な物を詰め、祭りの準備を終える


 浴衣にメイクもしたし、これで先輩をドギマギさせるための準備も終えた


 桜の紋様が描かれた可愛らしい下駄を履いていると、2人が玄関先まで送りに来てくれた


「楽しんでらっしゃい。」


「良い物あったらお土産お願いね♪」


「ケバブでも買ってきてあげる。」


「何故にトルコ料理⁉」


 お姉ちゃんのツッコミを無視しながらドアを勢いよく開け、少し心を高ぶらせながら待ち合わせ場所へ向かった




「来たか。」


「お待たせしました。 早いですね、先輩?」


 夏祭りの会場である神社の狛犬の下で、先輩は待っていた


「そこまで待ってないから気にするな。」


「元から気にしてないです。」


「それが先輩に言う言葉か?」


 先輩の言葉を華麗にスルーして、とある言葉を引き出すために私は誘導することにした


「それよりも、私の格好を見て何か言うことはないんですか?」


 先輩の口から『可愛い』という単語を聞きたい


 さすがの先輩でも、この状況で『可愛い』を言わないわけないでしょう!


「綺麗だよ。」


「、、、えっ?」


 さ、さっき『綺麗だ』って、、、え、え⁉


 先輩が私に綺麗だって言ってくれた、、、嬉しすぎる♡


「浴衣が似合ってるし、、、これは、ほんのりメイクしてるのか?」


「は、はい。 お姉ちゃんに頼んで軽くですけど、、、よく気づきましたね。」


 祭りの明かりがあるといっても、夜で辺りは暗い


 相手の顔をはっきりとは見えないのに、、、


「良いと思うぞ。 夏祭りだから気合い入れてきたんだな。」


「、、、えぇ。」


 本当は、先輩に『可愛い』って言ってほしかったから、、、なんて言えない!



「おっし、それじゃあ行くか。」


「ちょっと待って下さい。」


 歩き始めた先輩に待ったをかける


「どうした? 忘れ物か?」


「、、、先輩も、浴衣が似合ってますよ、、、カッコイイです。」


 先輩も浴衣を着ていた


 紺色を基本に、所々に臙脂色の紋様が描かれていて、どこか大人なスーツを彷彿とさせる浴衣だった


 それが先輩にとても似合っている


 だから私は、シンプルだけど心を込めて伝えた


「そ、そうか、、、お前に言われても嬉しいもんなんだな。」


 むむっ?


「なんですかその言い草は。 せっかく人が素直に褒めてあげたのに。」


「自分の胸に手を当てて、普段の行動を反省したら謝ってやる。」


「むぅ。」


「ほら、早く行くぞ。」


「、、、まったくもう!」


 言い返すのを諦め、再び歩き出した先輩の背を駆け足で追いかける



 夏祭りはまだ、始まったばかりだから

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