第11話 暗黒騎士パーティー5:死霊の山の回避(スレッグ視点)
翌日。
俺たちは、死霊の山に関する情報を探すために町に出た。
とくに欲しいのは、アンデッドモンスターについてだ。あれは普通のアンデッドではない。
だが、ざっと聞いてまわったが、死霊の山の情報はない。
死霊の山のふもとの町だけというのに、ほとんどがうわさ話ばかりで信憑性はなかった。
それに多くの人が、死霊の山に入ろうともしていない。
そりゃーそうか。
「なんか、俺たち、見られまくってない?」
フィリオが町人たちの視線に気づいた。
「それは俺たちが暗黒騎士パーティーだからだろ」
「やっぱり、町に戻ってこないほうが良かったんじゃ」
「だったら、せっせと死霊の山の情報をつかむんだ」
4人で固まって動いていると目立つ。
俺たちはバラバラになって、町の広い範囲で聞きこみをする。
ふたたび、集合する。
人通りのない場所で落ち合った。
「何か情報はあったか?」
アシルとミレイアは首を横に振った。
「知っていそうな老人を見つけた」
「本当か、フィリオ」
「あぁ。ただ、ボケてるっぽいんだよ。古道具屋っぽい店をやってるんだけど、死霊の山から拾ってきたもんだとか言ってて……」
「案内しろ」
町外れにある道具屋にやってきた。
確かに店内には、使用済みだったり、傷ついた武器や防具、よくわからないアイテムが並べられていた。
アシルは興味ありそうに見ていた。
――ふん。どれもがらくた同然だな。
店内には誰も客はおらず、フィリオの言っていた老人が1人だけ店番をしていた。
「ねぇねぇ、ここにある物ってみんな、死霊の山から持ってきたものなんだろ?」
フィリオが少し大きな声で聞いた。
「ぁあ? どの武器か? 防具が欲しいのか?」
「じゃなくて、死霊の山、行ったことあるっていってたでしょ?」
フィリオは老人の耳に顔を近づけた。声の大きさはさっきと変わらない。
「あぁ、そうじゃよ。ここにあるものは全部、死霊の山から持ち帰ったものだよ」
「いや、それはさっき聞いたよ。死霊の山について聞きたいんだけど」
「なんじゃ? お前たちは死霊の山に興味あるのか?」
「ああ。あるもなにも、俺たちは死霊の山を越えたいんだ」
今度は俺が老人の前に出た。
老人が目をかっぴろげて俺の顔を見てきた。
「んん、お前さんは暗黒の戦士のようじゃの」
「あ、あぁ」
今までどこ見てしゃべってたんだ、おとぼけじいさん。
まぁ、それは胸の内にしまって、知っていることを聞きだすか。
「行かない方がいい。あいつらは、普通には倒せない」
――そうそれだ。その話が聞きたい。
「普通には倒せないって、どういうことだ?」
「あいつらは、
「そ、それなら、どうやって倒せるって言うんだ」
「剣でも魔法でもないモノだ。ふははは……こわいこわい」
それなら、俺たちには暗黒がある。
だが、暗黒も効き目があったようには思えない。
「じいさんは、どうやって倒したんだ?」
「わしか?」
話し出すの期待してうなずいた。
「わしは戦ってはおらん。倒せないもんだからさ、逃げるが勝ちさ……ふははは」
こんなおとぼけじいさんに期待した俺がバカだったか。
いや、もう少しねばれば、なにか出てるか。
「死霊の山を越えた者はいないのか?」
「さあねー。死霊の山に入った者はみんな、行方知らずだ。そこに残されているのは、主の体を失った武器や防具だけじゃ」
ということは、この店にあるのは遺品というわけか。
アシルとフィリオはあからさまに表情をこわばらせた。
「もし、あいつらを倒すなら、精霊の力やマナの類いの力じゃの」
精霊やマナと来たか。
うちのパーティーには、精霊のスキルを持ったやつはいない。
マナなんてものはもってのほかだ。
「マナは魔法の根源のようなものだろ。魔法じゃ倒せないって言ってただろ」
マナ自体の力なんて聞いたこともない。
「死霊の山の先には地獄の谷しかない。お主らはそんなところに行くのか?」
「あぁ、その通りだ」
「だったら、遠回りになるが、死霊の山を迂回するルートもある」
「そう、その話をして欲しかったんだよ」
と、フィリオが机を叩いて飛び上がるような勢いで言った。
「だったら、はよう言え」
「いや、最初にそう聞こうとしたんだけど……」
「で、その迂回ルートはどこにある?」
俺はふたたび期待して耳を傾ける。
「死霊の山の途中にある道の分岐を右に行く。そこをまっすぐに行けば、死霊の山を迂回して山の向こう側へ行けるはずじゃ」
――あの道を行けば良かったのか。
ニヤけるのを我慢している俺がいた。
「地獄の谷からは少し離れることにはなろうがな」
「いやー、じいさん、いい話をありがとうよ。行くぞ」
俺たちは店を出た。
「死霊の山を迂回するぞ」
「まぁ、スレッグがそういうなら私はそれに従う」
ミレイアは表情を変えることはなかった。
「いいのか、迂回なんかしちゃって」
フィリオがあきれた顔をしている。
「何でだ?」
「俺たちは暗黒騎士パーティーだろ?」
「そうだが?」
「これからあんたはパラディンになろうとしているのに、プライドはないのかよ。一度撤退したからって、戦うこともせず迂回なんて……」
死霊の山でモンスターたちを倒すことができずに、泣き言を言っていたのはどこのどいつだ。
暗黒を吸収されて、即座に倒れてへこたれたのを忘れたか。
コイツも口だけなやつか。
「精霊の力のスキルを持ったやつは、うちのパーティーにいない。そんな力を持ったやつはそうそういない。それにマナの類いの力なんぞ、聞いたこともない。このパーティーでは到底無理な話だ」
「そうね。フィリオ、そこまで言うなら、お前1人でいけば?」
ミレイアが横やりを入れた。
「はぁ? なんでそうなるんだよ? どんな敵も道も暗黒の力で倒して進むのが暗黒騎士パーティーたるもの」
「別の道があるのだから、わざわざ無理な道を行く必要はない。仮りに死霊の山を進めたとしても、パーティーの誰かが犠牲になっては意味がない」
これは俺の本音だ。
誰かに死んでもらっては、困る。地獄の谷やその先も働いてもらわなければ。
「そ、それはそうだけど……」
「今から精霊のスキルを探すには手間がかかりすぎる。進める道が見つかったんだ。俺は先へ進む。フィリオ、お前はどうする?」
「うっ……俺も行くさ……」
フィリオは完全に納得していない様子だった。
しかし、すべてが納得した形で進めるわけではない。
この選択をするのもリーダーの務めだ。
フィリオ。
お前もいつか上に立った時、わかるだろう。
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