第10話 暗黒騎士パーティー4:もうひとつの道(スレッグ視点)

 夕方前に宿に戻ってきた。

 今朝早く出て行ったばかりだ。


「あれ? もう戻ってこないのかと思っていました」


 宿の店主に聞かれた。


「あ、あぁ……今日もルートを確認しに行っただけでな」


「そうだったんですね。てっきり死霊の山を越えて行ってしまったとばかり思ってました」


 そりゃそうだ。この町に来てから、そう言いふらしまくってたからな。

 それとも俺たちが死んで、2度と会うこともないと思ったんだろうか。

 

 部屋に入ると、それぞれベッドに倒れこんだ。


「夕食まで休もう」


 俺がそう言うと、気のない返事が返ってきた。


 ポーションでだいたいの傷は癒えたものの、体力までは完全に回復できなかった。


 そう言えば、回復もキールにやらせていたっけな。


 アイツは、中級程度の魔法しか使えなかったがな。




 ひと眠りすると、辺りは暗くなっていた。


「そろそろ飯を食いに行くぞ」


「うぃー」


 フィリオは、やっとのことで体を起こした。


「大丈夫か、フィリオ」


「スレッグさんよ、さすがに暗黒を吸収しすぎだぜ」


「いや、いつもと同じつもりだったと思うが」


「イヤイヤ、いつも以上だったぜ。今回は死ぬかと思ったぜ。よ、っと」


 フィリオはベッドから立ちあがった。


「なんとか歩けそうだ。パーティーから1人減っただけでこんなに負担がかかるとはね」


「次は加減しよう」


 キールがいた時には、こんなことは1度もなかった。ここまで影響が出るとはな。


「フィリオ、無事で良かった」


 アシルが表情を変えることなく短く言った。


「いや、倒れた俺を運んでくれてありがとう、アシル」


「うん。でも、本当に死にそうなら、暗黒に飲みこまれちゃうから、フィリオは大丈夫」


「あ、あぁ、そうだな。暗黒に飲みこまれたら、どうなるんだろうな」


 フィリオがそう言って、俺も含めて誰も口を開くことはなかった。


 暗黒に飲まれた話をいくつか聞いたことはあった。しかし、どれも確かな話ではない。


 正直、暗黒に飲まれたら、実際にどうなるのかわからない。


 暗黒を使う者たちは、暗黒と向き合いつつも、暗黒に怯えてもいる。


 だから、心技体、強くなれる素質でもある。




 飯屋に入ると、周囲の視線が俺たちにチクチク刺さる。


 死霊の山に行ったんじゃなかったのか?

 まさか、引き返してきたのか?

 倒せないモンスターでもいたんじゃないのか?

 死霊が怖くて怖じ気づいたんじゃないの?


 多くの視線が、死霊の山から引き返してきた俺たちパーティーを非難しているように聞こえてきていた。


 実際はわからないが……。


 空いたテーブルに座って、静かに注文した。

 食事が運ばれてくるまで、誰も何も話さない。


 運ばれてきた温かい食事が喉を通ったことで、やっと声を出す気になった。


 だが、周りの席には聞こえないように声は小さめにだ。


「今、俺が考えていることだ。ふざけた数のアンデッドモンスターをどう倒すか。それか、どうやり過ごすか」


 メンバーは食事をしながら静かにうなずく。


「そして、広場から先へ進む道をふさぐドラゴンだ。倒せるのかどうか、そもそも得体がしれない」


「私が見た限り、あのドラゴンもアンデッド系だ。体のあちこちが腐食していた」


 ミレイアも俺の声の大きさに合わせて小声だった。


「でも、最初からあの場にはいなかったはず。あんなにでかければ、すぐに発見できてるっしょ」


 フィリオも情報を出してきた。


「本当か? お前が見過していただけじゃないのか?」


 ミレイアがフィリオに言った。


「はぁ? ミレイアも前を見ていただろ?」


「私は後方に気を使っていたから、わからない。フィリオ、お前はずっと前方を攻撃していただろ」


「それはアンデッドモンスターに囲まれた時だろ? 最初に俺が弓を放った時、お前だって前方を見ていただろうが。その時は、アンデッドモンスターだって数も少なかったし、ドラゴンの影すらなかっただろ?」


 フィリオの声が大きくなっていく。


 ミレイアは聞かなかったふりをしてモグモグ食べつづけている。


「スレッグ、アンタも気づかなかっただろ?」


 フィリオが聞いてきた。


「んっ、あぁ?」


「スレッグは前方より全体に気を配っているんだ。完全に前方を監視していたお前が気づかなかっただけなんだよ」


 口の中のものを飛ばす勢いで、ミレイアが突っかかった。


「俺はスレッグに聞いてるんだよ。後方は黙ってろ」


「あんだと?」


 フィリオとミレイアが取っ組み合う寸前の勢いだ。


「おい、2人とも静かにしろ」


 俺は視線を周囲に向ける仕草をした。

 2人は周囲からの視線に気づいて大人しくなった。


「だから、俺はあそこで退却するのは嫌だったんだ」


 またフィリオが小声で不満をもらした。


「だったら、お前1人で残ればよかっただろ」


 と、ミレイア。


「2人とも、過去の話はそこまでだ。俺はこれからの話をしたいんだ」


 2人は静かにうなずいた。


「悪かったスレッグ。アンデッドモンスターどもをやり過ごすことができても、あそこにドラゴンがいたら、結局、やつらに囲まれるだろう」


「そうだな」


「ドラゴンとアンデッドモンスターに分担するとか」


 ミレイアが聞いてきた。


「たとえば、俺とミレイアでドラゴンを。フィリオとアシルで周囲のモンスターを」


 と言った俺だったが、疑念が残る。


「得体がしれない以上、パーティーを分散させるのは怖いな」


「あの分岐を右に行ったらどうなるのかな」


 アシルがつぶやいた。


「分岐?」


 俺が聞いた。


「広場に行くまでの途中にあった分かれ道」


「あぁ、あったな」


「あそこを右に行ったら、どこに行くのかな?」


 地図を広げると、途中までしか道は描かれていない。


「キールの話じゃ、どこにつながっているかはわからないって言ってたな」


「もしかしたら、死霊の山の頂上につながるもう1つのルートかも?」


「アシル、それはアンタの推測?」


 ミレイアが聞いた。


「うん、単なる憶測」


 はぁ、とミレイアはため息をついた。


「あの広場を迂回できるなら、俺はそっちを通ってもいいけどね」


 あの広場から退却したくなかったと口にしていたお前がそれを言うかと、俺はフィリオを見て思った。


 しかし、フィリオの言う通り、迂回して頂上に行けるのであれば、それに越したことはない。


「もう1つの道の行き先の情報はない。町人に死霊の山のルートを聞いた時、誰も何も言ってなかったな」


「じゃあ、誰も知らないんじゃない? 町人がわざわざ死霊の山に入るとは思わないけど」


 と、フィリオがいつもの軽口で言った。


「俺もざっと軽く聞きまわっただけだからな」


「もしかしたら、知っている人がいるかも」


 アシルが静かに答えた。


「そうだな。明日はもう1つのルートの聞き込みだ。休養しつつ、ふたたび死霊の山への準備だ」


 メンバーは静かにうなずいていた。


 今夜はしっかり寝て、明日、町の人たちに聞き込みに行くことに。

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