第9話 暗黒騎士パーティー3:まさかの撤退(スレッグ視点)

 ドラゴンがこれから先に進む道をふさいでいた。

 そのドラゴンは、いたるところが腐食している。


「くそっ」


 増え続ける雑魚どもだけならまだしも、あんなでかいドラゴンを相手するのか。


「やっぱり、ココ、なんかおかしくない?」


 フィリオはズリズリと後ずさりしてくる。


 気づけば、全員が広場の中央で背中をあずける状態になった。


「完全に囲まれた。さらに増え続けてる」


 普段、気持ちを表に出さないアシルが不安になっているのがわかった。


「ココにこんな数のモンスターがいるなんて、ひと言も聞いてないぞ。キールのやつ、嘘をついたな」


「モンスターが出るポイントとは言っていたが……」


 フィリオにつづける形で答えた。


 正直、これは想定外すぎる。


「ここから先の道も探索されてマップにあるってことは、アイツは1人でココを通ったこと? 昨日は、ココにモンスターは現れなかったってこと?」


 ミレイアも焦っているのか早口だった。


「そう考えるのが正解だろ。もし、これだけの数のモンスターに出くわしていたら、アイツ1人では倒せない」


「いや、もしかしたら、ここを迂回して行ける道があるとか? 私たちをハメるためにアイツが教えなかっただけで」


「わざわざそんなことをするか? アイツが追放されることを知っていたならまだわかるが……」


「うん。キールは今までルートについて嘘をついたことはなかった」


 最後にアシルが、誰もがわかっていることを口にした。


 ココを突破するには、最終的にあのドラゴンをなんとかする必要がある。


 うじゃうじゃ増え続けるアンデッドモンスターをやりながら、あのドラゴンを倒すには正直きついぜ。ドラゴン1体だけならなんとかなるものの……。


 ――やむを得ん。


「ここはいったん退避するぞ」


「えっ?」


 他3人が驚いた顔を俺に向けてきた。


「本当に言っているのかよ、スレッグ?」


 まるで信じられないと、フィリオは目を丸くしていた。


「やむを得んだろう」


「八大騎士の1つであるこの暗黒騎士パーティーが逃げ帰ったって言われるぜ?」


「バカを言うな。他の騎士パーティーがまだ挑戦していないんだ。最初にこの死霊の山に挑戦したことは誇ってもいいんじゃないか?」


「それも言い様ってやつか……死ぬよりはましか……」


「あぁ」


 フィリオは仕方ないといった表情で唇をかんだ。


「で、どうやってここから撤退するの? 囲まれてるんだぞ」


 俺を支持するミレイアも腹をくくってくれたようだ。


「ミレイア、退路側のモンスターに魔法を放て。それに続けて俺が合技ごうぎ暗黒アンコクを2発放つ。モンスターどもが消えている間に来た道を戻る」


「えっ? 合技・暗黒を2発も打ったら、俺、倒れちまうかもよ。今まで相当使っちゃったから」


 フィリオが泣き言を言っているようだった。


「もし、お前とミレイアが倒れたら、俺とアシルがかついで行く」


 アシルはうなずいた。


「それじゃあ、さっさとココから撤退する。窮・暗黒大火球弾キュー・ダークヒュージファイアボール


 ミレイアの振ったロッドの先から、大きな黒い火の球が退路をふさぐモンスターの群れに向かっていく。


「悪いが、いっきにお前らの暗黒を使わせてもらう。合技・暗黒!」


 モンスターを飲みこんでいくミレイアの放った火球に向かって、暗黒剣を大きく2度、振り放つ。


 暗黒の衝撃波が2発、火球を切り裂く。


 その瞬間、アンデッドモンスターがいる一帯をいっきに飲みこむように爆発した。


「今だっ!」


 やはり、ふらふらになってしまっているフィリオをアシルが抱える。

 息の上がったミレイアを抱えた俺は、爆発で舞い上がった煙の中へ飛びこんだ。


 スパッ!

 スパーン!

 スパッ!


「ぐぬっ、痛ーーーっ」


 なにっ?

 攻撃の直後だというのに、もうモンスターたちが?

 暗黒も魔力も効かないやつらがいるのか?

 ここで引き返してしまっては……。


 スパーン!

 スパッ!

 スパッ!


「痛ってーーー、クソー」


 なにも見えない煙の中、剣を振り回しながら、ひたすらまっすぐ走る。


 今回もモンスターを切っている感触はない。


 ――本当にコイツら、どうなってやがる。


 ようやく煙が薄くなって、煙の中から出ることができた。

 ついさっき、歩いてきた道に俺とアシルは駆けこんだ。


 モンスターどもは、もう追っては来ていなかった。

 モンスターが見えなくなって、走る速度をゆるめて歩き出した。


「ハァハァハァ……アシル、大丈夫か」


「あぁ……」


 アシルも煙の中でモンスターたちから攻撃を受けていたようで、体中が傷だらけだった。


 フィリオは俺に暗黒を吸い取られて伸びていた。


 ゆっくりと歩くミレイアに合わせて、無事、死霊の山の入り口まで戻ってくることができた。


 ――あのドラゴンが退路側にいなかったのが幸いしたな。


「スレッグ、ここからどうする?」


 ミレイアが力なく聞いてきた。


「今日のところは、町に戻って休む。そして、作戦を立て直す」


 ミレイアはただただうなずくだけだった。


「うん、その方がいいね」


「アシル、体力自慢のお前がいてくれて良かったよ。とにかく町の宿へ戻ろう」


 まずは傷を癒すのが先決だ。

 そして、町で情報を集め直すか。


 アンデッドモンスターとあのドラゴンもなんとかする方法を考えださねば。


 ――チッ。俺はキールをパーティーから追いだして後悔なんかしないからな。

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