第8話 暗黒騎士パーティー2:いざ、死霊の山(スレッグ視点)
朝霧が立ちこめている山の入り口。
そこに鎮座する白銀の大きな岩には「死霊の山」と文字が刻まれていた。
「こんな不気味な文字で刻んであるわりには、辺りはそんな感じがしねーっすけどね」
フィリオが岩に寄りかかって辺りを見渡していた。
「そりゃそうだろ。俺らが強すぎて、死霊の山の名前がかすむほどだ」
昨日も偵察で来たが、俺らのレベルではまったく張り合いのない山なのが丸わかりだ。
「だったら、さっさと登るぞ」
ミレイアがそわそわしつつも語気を強めて言ってきた。
「なんだミレイア、怖いのか」
「そんなわけあるか。死霊だろうと、私の暗黒魔法であの世に送り返してやるさ。ただ今日は朝が早いからな……」
ミレイアは額をおさえて、山道を一人歩き出した。
「そうだな。日が暮れる前には、山を降りたい。さぁ、行くぞ」
俺もミレイアの後を追うようにして歩き出した。
「登るのはだるいなぁ」
と、フィリオは文句を言いながらも着いてくる。
アシルはただ黙って歩き出す。
道幅は最初こそ広かったが、進めば進むほど狭まっていく。
2人がやっと並んで歩けるほどの道だ。
1人ずつ縦に並んで進んで行く。
「ここは左よね?」
左右に別れた道にぶつかって、先頭を歩いていたミレイアが止まった。
「あぁ、そうだ。左だ」
俺の確認が取れると、ミレイアは左の道を歩き出した。
ここから登りがきつくなる。
さっきの分かれ道を右はどこへつながっているのか。
キールはだいぶ先まで続いていて、わからないと言っていた。
もしかすると、宝箱のある道かもしれない。
仮に宝箱があったとしても、こんなレベルの低い場所の宝じゃ俺が持っていても役に立たない代物だろうがな。
少し広がった場所に出た。
昨日、俺たちがキールの探索を待っていた場所だ。
ここから先はキールの探索マップ頼りだが、それも必要ないだろう。
先はずっと1本道。いくつかモンスターとの接触するポイントもあるとキールが言っていた。
そして、その最初の場所が見えてきた。
山が大きく削られて、瓦礫が散乱したような大きな広場だった。
「いやー、ここはいかにも出るって場所っすねー」
フィリオが気の抜けた声で言った。
フィリオだけじゃない。俺も含めて暗黒騎士パーティーメンバー全員が、そろそろひと暴れしたいと退屈な気分だった。
なんせ、ずっと淡々とした登り道だったからだ。
「とか言っても、出てこなかったりして……。この先の道は、あれか」
フィリオが指差した広場の先に、山際にそってさらに細い道が見えた。
先に進むフィリオについて行く。
モンスターがいる気配もない。
それで、なぜ、多くのやつらはこの山を恐れているのだろうか。
――そうか。俺たちが強すぎて、モンスターが出てこれないんだろうな。
とうとう俺たちも頂点に来ちまったんだな。
「んんっ?」
ちょうど広場の真ん中に来た時、フィリオが足を止めた。
「おっと、やっとお出ましだ」
フィリオの声は嬉しそうに弾んでいた。
「ふん、そのようだな」
今までどこに姿を隠していたのか、アンデッド系モンスターが姿を現した。
フェアリーゾンビにクラッシュアーマー、骸骨剣士に死霊の騎士。
死霊の騎士にいたっては、骸骨の馬に乗っていた。
「クー、退屈してたんだ。ここは一発俺がやらせてもらうよ」
フィリオは矢を同時に4本つかんで、弓にセットした。
「魂があるのか知らないけど、貫かせてもらうっ」
ヒュッと空気を切った矢が放たれた。
一瞬のことで、モンスターたちを貫いたのかもわからない。
目の前にいた4体のモンスターは、空気に混じっていくかのように消えていった。
「まったく張り合いがないな。退屈しのぎにもならない」
「あんたが一瞬で倒しちゃったら、私たちの楽しみがないでしょ?」
「次はちゃっとミレイアにも残しておくよ。そんじゃあ、先に進もう」
と、フィリオが1歩踏み出した。
また同じモンスターが姿を現した。数はさっきの倍に増えている。
「ほら、ミレイア。いっぱい出てきたよ」
「次は、私が――
黒炎弾がモンスターに直撃して、黒い煙を上げる。
モンスターが爆発したのか、黒炎弾の勢いで背後の山壁に衝突したのかは区別がつかなかった。
「ふん、派手にやったな」
ミレイアの暗黒魔法なら、そのレベルの威力にしなくても十分倒せただろう。
「このくらい大げさにしたほうが、みんなもスッキリするでしょ。フィリオの矢じゃ、なにが起きたのかもわからないし」
「どうせ、弓使いは派手な技がないっすよ」
風に乗って煙が流されていくと、そこには当然のようにモンスターの姿はなかった。
「先に行けば、もっとまともなのが出てくるのか、それもあやしい」
ミレイアはため息をして、前に進もうとした。
「あら」
「これはこれは……壮観だな」
辺りを見回すと、モンスターたちが俺たちを一周とり囲んでいた。
「まったくこれだけの数、どこにいたんだ?」
「あれー? スレッグ、もしかしてビビっちゃってる?」
フィリオがからかうように言ってきた。
「まさか。俺も暴れられるって思ったところだ。なぁ、アシル」
アシルは静かに1度だけうなずくと、大剣をかまえた。
「これだけの数がいるんだ。自由にやってくれていいが、人がいるところに、矢だの黒炎弾を打ちこんでくれるなよ」
「どれだけの戦況をともにしてきたと思って?」
ミレイアは微笑んで答えた。
「じゃあさぁ、誰がたくさん倒したか競争しようっ」
そう言いながら、フィリオは矢を放つ。
「ほんとっ、アンタはガキね」
おくれを取るまいと、ミレイアは暗黒魔法を打ち放つ。
やれやれ。まだまだ子どもだな。
とは言っても、俺も負けるにはいかないな。
「うぉぉぉぉ――」
モンスターの群れに飛びこんで、暗黒剣を振り回す。
スパスパと漆黒の剣がモンスターの懐を切り裂いていく。
――なんて手応えのない……
切られたモンスターたちは、どんどん姿を消していく。
――ふん、でも、数は稼げそうだ。
それから数分、剣を振り回しつづけた。
周囲では矢が空気を切り裂く音や、魔法の爆発が続く。
――なんだ? 殺しているはずなのに……
「ちょっとスレッグー? 倒しても倒してもコイツら全然減らないんだけどぉー」
フィリオの困った声だった。
「コイツら、どこから湧いてくるの?」
ミレイアも違和感に気づいているようだ。
――どれ、いっきに片づけてやるか。
「
黒剣から何層もの暗黒の衝撃波が、モンスターたちを飲みこんでいった。
――ふん、俺の「暗黒」にちょっとでも触れたものは大ダメージを受けるッ
――なにっ?
モンスターたちの姿がいったんは空気に溶けこんだように消えたが、また実体を取りもどしていく。
スパッ
「痛っ!」
左腕に鋭い痛みが走った。
すぐ横に死霊の騎士がいた。
「なにっ?」
俺がコイツの存在に気づかなかっただと? バカな……。
「スレッグ、全然、攻撃がきいていない」
無口なアシルが珍しく焦っていた。
いったんモンスターの群れから引いて、広場の中央に集まった。
「どんどん増えてない? こんなの、全然聞いてないよ」
泣き言を言うフィリオ。
「うるさいガキめ。ハッ! ね、ねぇ……アレ!」
ミレイアがロッドで先を差した。
見上げると、モンスターの群れの先に大きな影が揺らいでいる。
「おいおい、あんなのがいるとは……」
その揺らぐ影がはっきりする。
それがドラゴンだと認識して、俺は息を飲んだ。
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