第6話 国王からの感謝
俺とエレナは、兵士が乗ってきた馬に乗ることになった。
エレナは俺からどうしても離れようとせず、困った兵士が馬を貸してくれた。
俺がたずなを握り、エレナは俺の後ろに座る。
先を走る兵士の馬の後を追っていく。
ちなみに、マテウスは縄で縛られて、兵士が運んでくれていた。
「そういえば、どうして飛竜に乗っていたんだ?」
後ろから俺の腰に腕を回してつかまっているエレナに聞いた。
「暇だったから」
「暇……なのか」
「なにもない時はね」
――そりゃそうだろうよ。それを暇と言うんだ。
「それで、空の散歩に出かけたわけか。ドラゴンに乗れるのか?」
「まったく」
「えっ? よく村まで飛んで来られたな」
「本当は城の周辺や町、港を見にいこうと思ってて。でも、全然、言うこと聞いてくれなくて」
「乗り方を知らないんなら、無理に乗ることはないだろうに。誰かに乗せてもらえばいいだろ」
「乗ろうとすると、侍従や兵士たちに止められちゃうんだもん。危ないからって」
「お姫様だし、危ない目には合わせられないからだろ」
「だからこっそり一人で乗るしかないでしょ。自分で行きたいところに行ってみたくて、塔の出窓まで呼び寄せてなんとか乗れたんだけど……」
――なんて、おてんばな姫様だこと。
「よく飛竜を呼び寄せられたな」
「兵士たちがやっているのを真似しただけ。城の中は、お付きの人といれば自由に歩けるから」
「へー。じゃあ、あれか。兵士が剣の訓練をしているところも見たことあるか?」
「あるよ。暇つぶしにね。私が見ていると、頑張ってくれるみたいだし」
――マテウスは、見つめられたと思って勘違いしたんだろうな。
「ねぇ、キールはドラゴンに乗れるの?」
「乗れないことはない」
「それは乗れるってことよね。ねぇ、今度、一緒に乗ってよ」
「なんで」
「なんでって、私がドラゴンに乗って空を飛びたいから。キールとだったら安心できるから、ね」
背中の一点が温かくなった。エレナが俺の背中に頬をつけたのだろう。
馬に乗ったまま、城下町の中央通りを城に向かって進んでいく。
さっき俺が初めて町を訪れた時と打って変わって、たくさんの人々が外に出ていた。
今までどこにいたのだろうかと思えるほどだった。
「よく捕まえてくれた」
「ありがとう」
「これで外を安心して歩ける」
「よくやってくれた」
と、町の人たちが口々に声をあげ、拍手で迎えてくれた。
町の人々は、飛竜で先に帰った兵士によって報告を受けていたようだ。
「エレナ様~」
「エレナ姫~」
「町を救ってくれた者~」
みんな笑顔で手を振っている。
「ほら、キールも手を振って」
――いや、俺はそっち側じゃないし。
ちょうどパブ兼バウンティーハンターギルドの店の前に、店主がいた。
店主は軽く手を上げてきた。
俺も店主に軽く手を振り返した。
城の門をくぐり、馬から下りるよう指示された。
そして、王の間に案内される。
「私はリフレリア国王バルドウィン。キールよ。よく来てくれた」
「いえ」
「話は聞いた。よくぞマテウスを捕らえ、町の不安を取りのぞいてくれた。リフレリアの人々に変わって深く礼を申し上げる。そして、うちのエレナも助けてくれて感謝する」
王は軽く会釈してきた。
「いえ、俺はただ賞金首をしとめただけですから。そこまで言われるほどのことは」
王よりも深く頭を下げた俺は正直に言った。
「町の人々、女性や子どもは特に不安になって外に出ることすらできなかったわ。私からも礼を言わせてください。あと、うちのおてんばを無事に連れ帰ってきてくれたこと、心から感謝申し上げます」
王に並んで、王妃にも頭を下げられた。
俺はさらに深く頭を下げた。
「エレナ。あなたからもちゃんとお礼を言いなさい」
俺の隣に立つエレナは、王妃にそう言われて、俺の前に立った。
「キール、ありがとう」
俺は一度深くうなずいて、頭を下げておく他なかった。
「キールよ。報償金を差しあげたいところなんだが、なにぶんこの国はそれほど財政が良いわけではない。恥ずかしい話で申し訳ない。懸賞金はギルドからしっかり払うように伝えておく」
「それだけで十分です」
「報償金の代わりと言ってはなんだが、お主に住み処を与えよう」
――え、マジか。とはいえだ。
「まだここに来たばかりの私にそんな……」
「不満か?」
「いえ、そういうわけではなく。そう遠くない日、私はいずれこの島を出るつもりでいます」
「聞けば、島流しにあったとか……」
「あぁ、はい。あるパーティーから追放されて、樽で流されて今日ここの浜辺に到着したしだいです」
「またそのパーティーを追うのか?」
「いえ。もうパーティーのことは忘れます。ただ、ひとつずっと探していることがあります」
「ほう。それは?」
「はい。幼い頃、生き別れた妹がいました。その妹を探しに行くつもりです」
「それはすぐなのか?」
「まだはっきりいつとは言えません。資金や旅の準備をしてからのつもりです。でも、いずれは……」
「ならば、それまでこれから用意する場所で、準備を整えたらよい。旅に出ても、そこはずっとキールのものだ。戻ってこれる場所があるのも悪くないだろう」
「はい。それでは、ありがたく使わせていただきます。ありがとうございます」
「うむ。準備をさせる。明日には渡せるように伝えておく。今日は、城の客室でゆっくり過ごしていてくれ」
「はい。ありがとうございます」
「やったぁ。キールがココにいてくれるなんて」
エレナが俺の腕にからんできた。
「これ、エレナ。キールは海を渡り、賞金首を捕らえて疲れているんだぞ」
「私が客室に案内するね」
「はぁ……キール。エレナはお主を気に入っているようだ。もし、迷惑でなければ一緒にいてやってくぬか?」
「あ、はい……」
もし、妹と一緒だったら、こんな感じなのだろうか。
さすがに兄妹であってもここまで慣れ親しんでくれるものだろうか。
夜は、国王が宴を用意してくれた。
ささやかと言われたが、いつ以来ぶりか、料理と酒を堪能させてもらった。
その間ずっとエレナは俺の隣にいて、酒をついでくれていた。
追放したパーティーの詳しいことを聞いてはこなかったが、どんな旅をしていたのか、酒の勢いもあって話した。
国王やエレナは、大陸側の状況を珍しいようで熱心に聞いてくれていた。
ただ、暗黒騎士パーティー以前の自分やパーティーの面々については話さなかった。
なにより、パーティーに参加していた理由も。
それは、妹の情報を探すためと、自分の隠れみのにしていたからだ。
夜も更けて、整えられたベッドに寝そべった。
すぐに眠ったと思うが、扉が開く音を聞いた。
夜の訪問者が……。
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