第4話 暗黒騎士パーティー1:決起の宴(スレッグ視点)

「さぁ、乾杯だ」


 俺はジョッキを掲げた。


「かんぱーい」


 グビグビ……グビグビ……


 暗黒騎士パーティーのメンバーが思い思いに、グラスに口をつけていく。


「明日からの死霊の山越えに向けて、今日は存分に飲んで食ってくれ」


 すかさず、がたいのいいアシルがテーブルの食事に手を伸ばした。


「スレッグ。一人パーティーが減ったのに、宴のごとくこんな豪勢なものを頼んでじゃっていいのかよ」


 フィリオが聞いてきた。


「もちろんだ。なんせ、今日は臨時収入があったからな」


 俺はニヤニヤして、カネが入ってふくらんだ袋をテーブルの上に置いて見せた。


「もしかして、アレがこんなになったのか?」


「あぁ。見た感じ、キールはたいした装備をしていたようには見えなかったがな。それが高値で売れて、俺たちが自由に使える資金は増えて、ウハウハだ」


「それなら、今日くらい自由に飲んで食うか」


 フィリオは勢いよく酒を飲み干して、次の酒を注文するため店員を呼んだ。


「でも、本当にキールをパーティーから追いだしちゃって良かったのかなあ」


 アシルが肉のかたまりを見つめながら言った。


「アシル、いまさらなんだ? 俺のパーティーにとって暗黒素質がふさわしくないから追放したまでだ」


「んー、それはそうなのかもしれないけど、キールがいたからここまで来られたようにも思うんだ」


「おいおいアシル。それは俺たちを信用していないってことか?」


「いや、そうじゃなくて……なんていうか……」


「じれったいな。もっとハキハキしゃべったらどうなんだ?」


 のそのそとしゃべるアシルに、ミレイアが横やりを入れた。


「いや……キールがいたから道が開けていたというか。キールが僕たちの進む道を調べてくれたから、すんなり行けたのかなぁって」


「その心配はないさ、アシル。死霊の山以降は、ほとんど一本道だ。キールの話や俺が集めた情報とも一致している。この暗黒騎士パーティーがパラディンを有するパーティーになる日もそう遠くない。いや、刻々と目の前に近づいていると言っても過言ではない」


 俺はアシルの肩を一度叩いた。


 図体がデカイくせに、心は優しいんだか、小さいんだか。

 これでは、暗黒騎士の名がすたるぞ。


 とはいえ、パーティーの志気を上げるのも俺の役目だ。

 ここでアシルに抜けられては困る。


「俺たちの力があれば、どんな山だって越えられる。それにアシル、お前ほどのパワーがあれば、どんな強大なモンスターが現れたって、のしてくれるだろ?」


「あ、あぁ、それはもちろん」


「ただ、アレだ。一人減ったことってことは、パーティースキルの暗黒使用量の負担が増えたのは痛いな」


 フィリオが酒を飲みながら答えた。


「暗黒使いらしくないな、フィリオ。俺たち暗黒騎士パーティーは、暗黒を使ってこそ、己の力を高める。暗黒素質のないヤツの暗黒を今まで使っていたことが間違いだったんだよ」


「あんなヤツがいなくなったくらいで、私たちが崩れるはずないだろ? 戦闘にたいして参加してなかったし、ちょこまかと道なき道を詮索するくらいしかない脳のヤツだぜ」


 ミレイアがバスッと肉にフォークを突き刺した。


「クール風に見せたがる身のこなし、キザにしか言えない軽いあの口ぶりをやっと聞かなくて済んで、私はスッキリしてる」


 ミレイアは肉をもぐもぐと食いだした。


「まっ、こうして人のカネで飯が食えることには感謝だぜ。これほど贅沢なことはないぜ。あ、さーせん、コレもう1杯」


 フィリオは空になったグラスを遠くにいる店員に振った。


「ハッハッハッ、それは間違いない。これからひと山ふた山も乗り越えなきゃならない。そのために今日はしっかり飲んで食え」


「ああ」


「まずは、闇の指輪を地獄の谷に捨てに行く。そのためには死霊の山を越えなきゃならない。ほぼほぼ一本道の死霊の山は、力でモンスターどもをねじ伏せて、いっきに突破する。俺たちの戦闘力を考えれば、楽勝だ」


「当たり前よ。私の暗黒魔法で、モンスターどもは一瞬にして灰と化すわ」


 ちょっと酔いが回ってきたか、ミレイア。

 ローブのすき間から見える首元の肌がピンク色に変わっていた。


「期待してるぜ、ミレイア」


「任せてよ。私の魔法にかかれば、一瞬で道は開けるわ」


「頼もしいぜ」


「ここまで来といて言うのはアレだけどさ」


「なんだ、フィリオ」


「わざわざ地獄の谷に行かずとも、スレッグ、あんなならパラディンになれるっしょ」


 フィリオはいつものように軽く言ってくれるな。


「ふん、自分で言うのもアレだが、俺もそう思う。だが、王の命令だ。闇の指輪を捨てなければならない」


「そう、それ。別に俺たちは、闇の指輪を持っていたって闇に飲まれるわけじゃない。もともと闇に近い暗黒素質があるから平気なわけじゃん。わざわざ捨てに行かなくてもいいんじゃないかって思って」


「そう思うこともあるが、王の命令だ。指輪を捨てる任務は遂行する。課せられたことを達成して、パラディンになったときこそ、それ以上の地位と力も授かる。今さらここまで来ておいて、急ぐ必要もあるまい」


「それはそうだけどね~」


 フィリオはグラスに口をつけた。


「俺たちにとって、地獄の谷へ行くことはすでに散歩も同然だ。観光と思ってもいいくらいだろう。地獄と名前がついた珍しい場所だ。今まで見たことのない光景を目にできるはずだ。この暗黒騎士パーティーでなければ行けないところだ」


「それもそうだ。地獄の谷、楽しみだな~」


「アシル。キールのアイテムを」


 アシルは何も言わず、キールのアイテムが入った袋を持ちあげた。


「アイツの装備は俺たちが持っていても役に立たないが、アイテムは分散して各自もっていてくれ」


 アシルは黙って、自分の分、フィリオ、ミレイアにキールのアイテムを分けていった。


「ここまでも、まあまあ楽しかったが、明日からもっと楽しくなるぜ」


 俺はグラスに入った酒をいっきに飲み干した。


 モヤモヤしたものがなくなって、心が晴れ晴れしている。

 人のカネで酒が上手い。


 こんな気分になれたのはいつぶりだろうか。


 パラディンになったら、どんな高揚した気分になれるのだろうか。


 楽しみだ。

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