第3話 賞金首

「ようやく着いたか……」


 リフレリア王都のとなり村、レフエー村に俺は到着した。


 聞いていたより遠いじゃねぇか。

 あのマスター、俺の足ならすぐだとか適当にいいやがって……。


 手渡された水袋にひと口つけた。


 漂流してすぐにこんな歩くとは思ってもなかったよ。

 水をくれたんだ。飯のひとつでも頼んでおけば良かったか。


 気を取り直して、村の道を進んでいく。


 やはり村も静かだった。

 リフレリアの町よりも静かで、人は出歩いていなかった。

 家の窓はしっかり閉じられていて、家によっては窓に板が張られているところもあった。


 ――みんな、賞金首を警戒してるってことか。


「出ていってくれ」


 男の大きな声が聞こえてきた。


 宿屋の開いたドアからのようだった。

 中をのぞいてみると、店主に剣を向けている男がいた。


「カネは払うって言ってるんだ。それで、なんで泊めてくれないんだ?」


 あきらかに剣で店主を脅していた。


「だ、だから、そういうことをされると困ると言っているだ」


「もう野宿はこりごりで困っててさ。ここに泊めてもらえないと、俺だって困るんだよ」


「自分がやったこと、わかって言ってるのか? あんたがここにいたら、他の客に迷惑がかかる」


「みんな、いちいち騒ぎすぎなんだよ」


「おい」


 俺は、男の後ろから声をかけた。


「あ? なんだお前?」


「店の人が困ってるだろ。大人しく捕まってくれないか」


 俺はマテウスの手配書をマテウス本人にかかげて見せた。


「誰だか知らないけど、そんな手配書をもとに追ってきたことを後悔するぞ。その額が俺の実力だと思うなよ」


 マテウスは剣の切っ先を俺に向けてきた。


「リフレリア王都兵のトップ4の剣技を持つ俺の額が、12万セピーとは安く見られたもんだ」


 マテウスは剣を軽々と振り回して見せた。


「へー、その実力とやら見てみたいもんだな」


「ちょっ、ちょっと店の中で暴れるのだけはやめてくれ」


 店主が拝むようにお願いしてきた。


「ちっ、兵士のトップクラスの剣技を信用できないのかよ。逆にズタズタにしてやってもいいんだぜ」


「そ、それだけはやめてくれ。営業ができなっちまう」


 ここで暴れられても、あとあと困るな。

 被害が出た場合、最悪、賞金から経費だ修繕費だで引かれる可能性もある。


「外で王都兵トップ4の剣技とやら、見せてもらおうか」


 俺が宿屋を出ると、マテウスも出てきた。


 店主は勢いよく入り口のドアを閉めて、近くの窓からこちらを様子をうかがっている。


 道の真ん中で、マテウスと俺は向き合った。


「まさかこの島に、俺を狙うもの好き賞金稼ぎがいるとは思ってもいなかったぜ」


 マテウスは剣先を俺に向けた。


「ついさっき賞金稼ぎに転身したばかりでね」


「まったく俺もなめられたもんだな。こんな少ない懸賞金。それで俺の元にやってきたのは、身ぐるみはがされたような弱そうなヤツとはね」


「弱いかどうかは結果を見てからどうだ」


 俺は余裕をもってニヤけてみせた。


「それはこっちのセリフだよ。俺が誰なのか、今まで話を聞いてなかったのか?」


「ふんっ」


「俺はリフレリア王都兵の中で4番目に強い剣技を持っている」


「あぁ、そうらしいな」


 ――コイツは、何回同じことを繰り返すんだ?


 俺はとくにかまえることなく立ち、マテウスの体躯を観察する。


 4番目ってことは、3番目に負けたパターンだろ?

 そもそもここの王都兵の強さがわからない。


 マスターの話じゃ、城の警備が手いっぱいって話だ。

 それともマテウスを野放しにしてしまっていても問題ないレベルなのか。


 それなら王都兵の強さがその程度ってことだが……。


「痛い目にあいたくないなら、俺を狙うのをあきらめろ。俺より低いB級、C級の賞金首を狙うんだな。それがあんたの身のためだ」


「ご忠告、どうも」


 俺はそれでも身構えることはしなかった。


「痛い目に合わないとわからないようだな、あんた。後ろの腰につけてる短剣くらい持ってかまえるくらいしたらどうだ」


 ――使うほどでもないか。


 俺は格好だけでもかまえる態度を見せた。


「なめられたもんだな。武器を持たなかったことを後悔させてやる。首が飛んだあとで謝ってきても遅いからな」


 マテウスが駆け出そうとした時だった。


「キャァァァァァーーーーー」


 空から女の悲鳴が響いてきた。


 ピンク色のドレスの裾が激しくたなびいている。


 女らしい者が落ちてきた。


 その場所は……


「おっと」


 マテウスは、自分のところに落ちてきたドレス姿の女をお姫さま抱っこで、軽々と受けとめた。


「へっ、あっ、ありがとうございます」


「これはこれは、リフレリア第3王女エレナ姫」


 マテウスは、ニヤリと微笑んだ。


「あの、降ろしていただけますか?」


「これは私への天からの贈り物だ。私はずっとあなたをそばに置いておきたいと思っていたんですよ~」


 マテウスは、エレナの胸元に顔を近づけて鼻の穴を広げて、空気を吸い上げた。


「これがリフレリア王族、王女の匂いかぁ……」


「ちょっと、あなた何を……やめてください……降ろしてください」


「もう放しませんよ、あなたは一生俺のそばにいるんですから」


「ナニを言っているんですか? 放してください」


 エレナがマテウスの上でもだえるほど、マテウスは喜んでいた。


 なんてタイミングのいい王女だこと。

 でも、なぜ、空から?


 空を見上げると、1匹の飛竜が旋回していた。


 あれに乗っていて、落とされたのか?

 一人で?

 王都の兵は一緒じゃないのかよ。


 人手不足なのか、人材不足なのか、マテウスのようによこしまな考えをもつヤツがまぎれこんでしまうのも無理ないのか。


 はぁ……微妙に面倒になったな。


 いや、王女というなら、懸賞金の増額もありえるかもしれなねぇ。

 捕らえられた王女を救ったとなれば……。


 俺は後ろの腰の短剣を握った。


「おっと、動くなよ。もう状況は変わったんだ。下手な真似をすれば、今度こそただ事じゃすまなくなるぞ」


 エレナを降ろしてエレナの首に腕を回したマテウスは、エレナの眼前に剣をかまえた。


 コイツ、人質にとったか。


「ヒッ」


 エレナは驚き震えて、顔を左右に振った。

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