第9話 探偵の助手たち④
祐実が勲と共に調査をしていたある日。不登校から徐々に復帰し始めていた夏希と久しぶりに祐実は会った。昼ご飯を一緒に食べようと夏希が誘ってきたからだ。学校の敷地内に中庭とは別に小さな庭があり、日中は校舎の陰にあって涼しい場所だ。そこにはベンチが一脚おかれている。二人はそこで落ち合った。
「久しぶり」
そばかすの浮いた夏希の色白な顔は、前よりも顔色が良いように見えた。
「おひさ~」
祐実も笑顔で返す。
「メールでも言ってたけど、最近忙しいんだって?」
ベンチに座って弁当を食べながら夏希は訊ねた。彼女たちは先日の図書室で会って以来だった。
「うん、まぁアルバイトかな」
「へぇどんな?先生たちに何か言われたりしない?」
羽塚高校は原則アルバイトは禁止だが、教師たちにばれても黙認されることが多い。進学校だから家にいる時間も学習に宛てさせるように課題も多かったりと、ほとんどの生徒がアルバイトまでする余裕はないのがその理由だった。
「仕事はねぇ、色々調べてそれをまとめて上司の人に報告する感じ」
「そうなんだ。祐実ちゃん楽しそうだね」
夏希は微笑んで言った。
「そう?」
「うん、部活やってた時よりもなんだか生き生きしてる」
「かもしれない。確かに楽しいって思うことはあるよ」
やはり楽しそうに祐実は笑うった。しばらく二人は取り留めのない会話を続けたが、どこか夏希は元気がない様子だった。
「どうしたの。何か変なこと言っちゃった…?」
軽率な自分の発言が彼女を不意に傷つけたのかと祐実は不安になった。
「ううん、何でもない。ちょっとね考え事してて」
「悩み?恋バナ?事件?」
「事件って。祐実ちゃんらしいね。でも大丈夫だから気にしないで」
「そう?なにかあったらいつでも連絡してね」
二人は再び他愛のない話で盛り上がって、そうしてすぐに昼休みは終わってしまった。
初夏の日差しは目の前にある校舎を強く照り付けていた。その校舎の一番上、四階の窓からこっそりと彼女たちが喋っているのを見つめる視線があった。無論祐実たちは気づいていない。視線を送るその人影は、祐実たちが解散するのを認めるとそっとその場を離れた。その首元には黒いハウジングが特徴のヘッドホンがあった。
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