王様が演説するシーンって割とあるけど、他の街には届かないから不便そうだよねあれ
信仰エネルギーを扱う為に私自身が"女神"であると思い込めるようにし始めた日から100日後、この世界にやって来てから175日目。最近、やっと信仰エネルギー関係の進展が出て来た。
まだ完全に自分が女神であると思い込めてはいないが、多少はそう思えるようになって来ている。その成果なのかは分からないが、なんと、信仰エネルギーを多少は操作出来るようになったのだ。これまでの事を考えれば良い傾向である。
とりあえず、権能の機能不全を多少なりとも防ぐ事は出来るようになった。一応異世界転移は可能なレベルである。が、世界を越え終わった段階でまたト型世界に引っ張られるので、あんまり意味は無い。進展したのは良い事なんだけども。
後は信仰エネルギーを魔力に変換出来るようになった。ただ変換効率がゴミだ。信仰エネルギー100に対して魔力1くらいの変換効率だ。あまりにもロスがあり過ぎる。とは言え今のところ他の利用方法が無いので、そのままだと無駄になるから信仰エネルギーは全部魔力に変換している。
今の所、私が出来るのはその程度だ。信仰エネルギー利用の目玉になる信仰由来の追加権能はそもそも元になる逸話が無いので使う使わないではなく使えないから、出来るのは本当にこの程度である。まぁぶっちゃけ魔力に変換した方が出来る事が多いので、そんなに困っていないが。
「プロテア様!本日は誠にありがとうございます!」
「あら、そんなに気にしなくても良いのよ。この程度の事、負担にすらならないもの」
そんな私は本日。うちの宮殿に居るメイド達全員と、私作成のアスレチックで遊ぶ事にしていた。私作成って言っても本当はうちの子達がハ型世界のダンジョンから取ってきた材料をうちの子が加工したやつなので私は一切工程に加わっていないが、まぁうちの子は私そのものなのでそんなに間違ってもいないだろう。
とりあえず、用意したアスレチックはイ型世界基準だと高難易度というか、安全面の考慮が緩いスリルのあるものばかりである。これはこの世界の悪魔の身体能力が基本的に高いからってのがある。イ型世界基準で作ると簡単過ぎてつまらないのだ。
メイドが50人くらい居るので、全員楽しめるようにとアスレチックの数は200を越えている。こんだけアスレチックがあるならそんなに詰まらないだろう。まぁ想定は甘そうだが、そん時はそん時。アスレチックそのものを追加で作ればいいだけだ。
ちなみに、私はメイド達と遊ぶという事なので、いつも通りに悪魔の権能は一時封印している。こうしないとメイド達の雰囲気が硬いからな。何ならメイド達と遊ぶ時は基本的に悪魔の権能は封印しているので、もう慣れたまである。ぶっちゃけ器用の権能だけでも何とでもなるから困った事がないってのも大きい。
そんな感じで私の方も悪魔の権能封印に慣れてきたので、服装も狐面の和装である。ただ今日は私もかなり動くのが目に見えているので、スカート丈が膝上10cmくらいのかなり動きやすい浴衣にしてある。青を基調とした布に葵の花模様のシンプルなモノだが、そこそこ気に入っている。腕の袖部分も広がっているタイプなので大分動きやすい。靴は大正ロマン風の時に使った黒いブーツではなく、普通にスニーカーっぽいのにした。こっちの方が動きやすいからな。
「それじゃ、存分に楽しむと良いわ!」
私の掛け声を開始の声としたのか、メイド達はアトラクションへと向かっていった。まぁ私が良く話すというか、そもそも私専属が仕事のイレーナは私の側に居るんだが。
「イレーナは他のメイド達と遊んだりしないの?」
「私はプロテア様の専属ですので」
「じゃ、一緒に遊びましょっか」
私はイレーナの手を取り、そのまま歩き始める。
「にしても、イレーナは似合うわね、その格好」
「ありがとうございます」
イレーナの服装はというか、本日のメイド達の服装は、みーんな夏服みたいな半袖ミニスカメイド服だ。元々メイド服が作業服なので動きやすいというのもあるし、一応これでも仕事中なのでメイド服は脱ぎたくないと言われたので、仕方なく私が(うちの子が)糸から作ったメイド服を全員分配布してある。
うちの子が全力を出して作った色んな耐性能力を載せてある逸品らしく、メイド達全員がかなり遠慮していたのだが、こちらとしては素材がハ型世界のダンジョンから無限に取れるモノである以上、そんなに遠慮されても無限に作れるからなぁとしかならない。
実際、まだ全員分が1000着以上ある。まぁうん、無駄だけどあるんだよ。いや、あの、製造停止指示がほんの少し遅れたから………ね?ちょっとね、読書中で気が抜けてたんだよ。あれは仕方ない事故だった。仕方ないし無駄になりそうなので今度から人型且つ女性型のうちの子に着せていきたいと思う。別に証拠隠滅してない。
「最初はこれ!」
「これは………」
最初に選んだのはアトラクション番号1番『キャットタワー』。地面から生えた中央の太く棒の周りに厚い一枚板が飛び出ており、頂点にあるボタンを押す事でクリア判定が出るという、実にシンプルなモノである。
シンプルなのだが、多分人間では攻略出来ない。足場となる板と板の間に最低でも4、5mくらいの高低差があるからだ。ト型世界の悪魔だと普通に飛べるくらいの高さなのだけども。ちなみに、相応に頂点も相当な高さがある。具体的には100mくらいある。魔法やら物理学やら色々と工夫して絶対に倒れないようにしてあるが、まぁ人間では攻略が難しいだろうなとしか。人間向けに作ってないんだから当たり前だが。
あ、先に言っておくが、アトラクションの全てには『クリア判定』って仕様がある。大抵がボタンを押すタイプで、ボタンを押す事でそれぞれのメイド達に渡したアトラクションスタンプカードの、それぞれ番号に適応する場所にスタンプが押される仕組みになっている。例えば『キャットタワー』は番号1番なので、スタンプカードの番号1番の所に自動的にスタンプ(各200種。アトラクション毎で別。模様はデフォルメされたアトラクション)が押される事になる訳である。
まぁぶっちゃけ、単なる娯楽要素だ。全て埋めたらメイド達のお願いを一つだけ聞いてあげるっていうだけの、ただアトラクションを楽しんでくれたらいいなーってだけのご褒美要素である。別にこんなの無くても普段からメイド達の願いは叶えているのでそんなに躍起にもならんやろ………とか思っていたが、メイド達は全員やる気になった。勿論、イレーナもやる気ではある。
ただこれ、今日だけのイベントでも何でも無いので、メイド達もそんなにイケイケじゃない。そもそもアトラクション200個とか1日で回れる気がしないから、あんまり急がないようにって事前に言ってあるし。
「私が先に行く?イレーナが先に行く?」
「………私が先でもよろしいでしょうか?」
「楽しそう?」
「はい、とても」
だよね。イレーナって身体動かすの好きだもんね。『エクステンドバトル』もそうだけど、それ以外の身体を動かすスポーツなら大抵何でも好きだもんねイレーナ。これも好きだと思ってたよ。
なんて思ってたら、イレーナはどんどん跳んでいってしまった。やっぱりイレーナは身体の使い方が上手だねぇ。しかし私も負けていられない。
「てやっ」
本気で跳ぶと100mくらい余裕で跳び越せてしまうので、本当に軽く、イメージ的には足首から下だけで跳ぶ感じで足場を乗り継いでいく。それでも何個か足場を無視して跳んでいけるのだから、私の身体能力も中々である。伊達に身体能力を永続強化していない。
こうしてぴょんぴょんと足場を乗り継ぐのは割と楽しい。普段こんなにアクロバティックな動きをする事が無いから尚更だ。上を見れば、イレーナの身体能力もそこそこ高いので、足場一つくらいなら余裕を持って跳び越しているのが分かる。ミニスカートなのでイレーナの下着が丸見え、とはならない。
私も女性になってから割としているのでそのくらいの配慮は出来る。メイド達が着ているミニスカメイド服はスカートの内部に認識不可能領域を作り出している為、メイド達のスカート内部はどんな方法を使っても認識する事が出来ないのである。ちなみに安全の為、着用しているメイド本人だけはその範囲外だ。分からないならメイド達のスカートを覗く事は出来ない、とだけ覚えておけば良い。
「良いねぇイレーナ!上手じゃん!」
「プロテア様の方がお上手ですよ」
「そーお?」
「はい。とても美しい動きで御座います」
そうやって褒められるのは褒められるので恥ずかしいな。
「ふふ、ありがとねー」
そのまま軽く話しながらぴょんぴょん跳んでいくと、私とイレーナは開始から数分程度で頂上に到達し、クリア用のボタンを押した。
「プロテア様、これは降下も含めてのアトラクションなのでしょうか?」
「そうだね。足場を使って降りても、直接地面に降りても大丈夫。あ、下の様子はちゃんと見てから降りてね?」
「承知しております。ご安心ください」
そう言いながら、イレーナはするりと地面へと落ちていった。下に誰も居ない場所を狙って落ちているようで安心安心。一応ぶつかりそうになったらテレポートさせて落下地点を強制的にズラす安全機能は付けているけど、始めから人の居ない場所目掛けて降りた方が良いのは誰でも分かるだろう。
私もイレーナの後に続いて落下し、誰にもぶつかる事なく着地する。ふむ、アトラクション一つにこのくらいの時間か。この調子だと4分の1くらいなら今日中に終わらせられそうだな。どんどん行こう。
そのまま勢いで50個目のアトラクションをイレーナと一緒にクリアして、この日は帰宅した。帰宅って言ってもすぐ側なんすけども。
私がト型世界へとやって来てから丁度200日目となるこの日、私は少々緊張していた。
「思ったよりも緊張しますわねこれ………イレーナ、コーヒーを」
「かしこまりました」
私が緊張している理由は、これから行うとある事柄だ。あんまりぼかし過ぎてもアレなので端的に言おう。私は今日、この世界に居る全ての悪魔へ言葉を与えるのである。
あれだ。ファンタジー系の物語によくある、王様が国民を集めてなんか話すやつ。イメージ的にはあんな感じのことをするのだ。流石に1箇所にこの世界の悪魔全てを集めるのは不可能なので、この世界におけるネット生配信みたいな形になるらしいが。
私はイ型世界で動画投稿はした事がある。『SRO』のちょっとした説明云々の為のやつだ。それ以外にも『SRO』関連の動画はちょくちょく投稿していたが、それでもチャンネルの総動画数は10以下だった筈。だと言うのにチャンネル登録者がかなり居た(具体的な数字を覚えていない。最低でも100万人は越えてたと思う)記憶がある。
ただ、私のチャンネルで生配信ってのはした事が無い。強いて言うなら魔法少女イモータルの生配信にお邪魔したくらいだが、あれは私の中で生配信がメインではなくゲームがメインだったんだよな。ゲームしてる様子を生放送してただけというか。特にリスナーの存在を気にして無かったというか。
ただ今回の生配信は、リスナー………つまり、このト型世界における全悪魔が視聴する事がほぼ確定しているのだ。しかもこちらから一方的に言葉を放って終わりじゃない。これまでの経験上、どう考えても絶大な、文字通り世界を覆うレベルの信仰エネルギーが私目掛けて流れ込んでくるのが目に見えている。際限のないスーパーチャットを私に直接ぶん投げてるみたいなもんだ。
特に緊張するのは、私の言葉一つでこの世界の悪魔達の今後全てが変わるかもしれないという現実だ。私の言葉一つで種族の進退が決まるとか普通に考えたくもない。私の根っこはどうあれ一般人レベルなのだ。いやまぁ失敗しても権能でどうにかなるけどさぁ。それとこれとは話が別なんすよ。
「ふぅ………」
コーヒーを飲み、一息吐く。悪魔の身体操作能力があるので声や手が震えたりはしないだろうが、だからと言って私の緊張が治る訳でもない。私がそれを表に出してないだけだ。
「女神様、そろそろお時間です」
「あら………ありがとう、イレーナ」
頑張って緊張を抑えようとしていたが、遂に生配信の時間がやって来てしまった。別に悪魔達に話すのが嫌な訳じゃない。別の世界の悪魔だろうが何だろうが悪魔は全て私のモノだ。私のモノに言葉をかけるくらいは普段からやっている。でもそれはそれとして緊張するのが人情というもの。緊張するものは緊張するんだよな。
しかし、こんな事で一々怖気付いていたらこの私の名が廃るというもの。まぁ『女神様からのからの御言葉』とかいう仰々しい配信タイトルの画面に流れる物凄い数のコメントと、登録者がなんかもう物凄い事になっている『女神様』とかいうチャンネル名が地味に私の心を折りに来ているが、それはそれだ。
そもそも、今回これをやると言ったのは私の方なのだ。理由は三つ。
この世界に住まう全悪魔の信仰エネルギーがどんなものか受けておきたいというのが一つ。もう一つは、この子達にどんな言葉を掛ければ信仰エネルギーを安定して得られるのかというのが一つ。最後に、自分が神なのだと心の底から思い込めるようにする為の布石、または後押しがしたいというのが一つ。
一つ目の理由は単純。この世界に居る全ての悪魔から信仰エネルギーがどんなもんなのかを把握したいのだ。全悪魔からの信仰エネルギーってつまり、今の私の最大MPみたいなもんでしょ?ステータスみたいな便利なシステムがある世界じゃないんだから、そういう最大MPとかも自分で調べなきゃいけない。だから今回こうして調べる訳だ。
二つ目の理由もまぁ分かりやすいだろう。こっちは言わば、どうすればMPが回復しやすいのかを検証したいってだけだからな。MPが回復する速度によっては出来ることも変わってくるんだから、多少は調べておかないと。
三つ目の理由が多分1番比率としては高い。何せ、私は未だに自分が"神"なのだと心の底から思い込めていない。じゃあどうすれば思い込めるのかと考えた時、私もしかして信者達からの直の声を聞いた事がないな?と思ったのだ。メイド達やらはあるんだが、それ以外の一般人?一般悪魔?まぁどっちでもいいが、つまり大衆の声を聞いた事が無いんだよ、私。
それを聞いたら多少は"神"としての自覚とかなんとか芽生えるのでは?って考えたからこそ、今回こうやってしてるのである。権能などを使ったこちらからの一方的なテレパシーなどではなく、生放送という悪魔側からも反応が示せる媒体を利用したのは、私が一般からの生の声というモノを聞きたかったからである。
こうでもしないと自分が神様だ、なんて自覚出来ないと思ったからな。私が権能使えるからって何の疑いもなく自分を神様だって心の底から信じられるような都合の良い脳みそしてると思うなよ。自力で出来たらそれはもう生まれながらの神様なんだよな。
「ん、ん」
音声チェック、よし。映像チェック、よし。機材トラブル、今の所なし。ネットワーク強度不足(宇宙全域の悪魔全員が同じ配信を見る事が想定されていないだけ)対策にラプラスの悪魔も数千億は配置したし、それでも足りないってんなら追加で更に数千億くらい余裕で投入出来る。後は他に確認しなきゃいけないことはー、っと。
「んー………大丈夫そう、ですわね?」
うむ、多分大丈夫そうだ。まぁもし大丈夫じゃなかったら私が過程をスキップしてる間にうちの子でどうにかするだけなんだが。
「女神様、配信開始時刻まで残り60秒です」
「分かりましたわ」
残り60秒。配信を開始するのはカメラの外でパソコン(厳密には科学一辺倒の機械ではないのでパソコンと呼べるか怪しいが、機能的にはイ型世界のパソコンと変わらないようなので翻訳するとパソコンになる)を弄っているイレーナだ。私は配信関係の機材には一切触らないようにしてある。だってよく分かんないし。
とか何とか考えている内に、遂に配信開始時刻になった。イレーナが軽い合図と共にパソコンを操作し、私の前にある画面に私の姿が映る。そしてその瞬間、世界中から莫大な信仰エネルギーが私に向かって流れ込んできた。まだ一言も喋ってすらいないのに………
まぁいい。ここからはなんかこう、女神様っぽい雰囲気を出しつつ話せば良いだけだもの。とりあえず自己紹介からしようかな。
「──
追加で流れ込んでくる信仰エネルギーはもう半ば無視して進めよう。過剰分は全部魔力に変換するようにしてるから、エネルギーが流れ込みすぎてパンクとかには多分ならないし。なったら?そん時は権能でどうにかする。
「本日、このような形であなた方に姿を見せたのは他でもない、
いやまぁ私がやりたかっただけだから、別に慈悲ではないと思うけども。何なら今の私は7割くらい適当に話してるのであんまり深く考察されても困る。まぁいいやさっさと進行させよう。
「まず大前提として、
信仰ってのは本来、逸話や過去の積み重ねで出来上がるモノの筈だ。だと言うのに、悪魔達は種族の本能としてのみ私を信仰している。これは相当に歪だ。だってそうだろう?信仰っていうのは、凄いことをした人や神様がされるものだ。それが人であれ神であれ、信仰されるより前に"凄いこと"をした事があるから信仰するんだろう?
けれど、私はそうじゃない。私はこの世界で何かしらの逸話を残した記憶が無い。強いて言うなら、この世界に存在する悪魔全ての脳裏に私の姿が映し出された程度だ。その一瞬だけ悪魔達の本能を刺激してしまっただけで、それ以外は何もしていない。これは本当に女神の逸話だと言えるのか?
仮にその逸話に則るというなら、私は自分の姿を自分を信仰する存在の脳裏に映し出す事くらいは信仰エネルギーを使って出来るんだろう。解釈の仕方によっては他にも色々出来るかもしれない。
まぁ姿を映すくらいなら今してるみたいにネット使った方が色々と機能がある分便利だし起動も早いし、何より悪魔達の反応が分かりやすいっていう利点があるから、わざわざ信仰エネルギー使って脳裏に私を映すとかやったりしないけど。
「
女神として振る舞うのならば相応の逸話が必要だと私は思っている。本来、そうでなければ信仰は発生しないと知っているからだ。だって考えてもみろよ。どんな宗教のどんな神様だろうが、みーんな凄いことしてるだろ?けど私は欠片もしてない。した記憶がない。私に自覚が無ければ己を神と思い込む事は出来ない。
そうやって考え込んだ果ての思考が偉業無き神は本当に信仰されるべき神と言えるのか?というモノだった。だから今日、私は今から大偉業を成し遂げる。まぁ悪魔の権能を使うだけなんだが、どうやったのか知らない悪魔達にしてみれば大偉業に変わりなどないだろう。
「まずは、無限に採集出来る資源の宝庫を与えましょう。しかし、何の試練も無しに資源を手に入れてしまっては、あなた方とて
まず一つ目の偉業はダンジョンの作成だ。『SRO』の1周年記念で作った無限ダンジョンと、ハ型世界で生まれ続けている無数のダンジョンを参考にして作り上げた、あらゆる資源を生み出す施設。これを世界各地の余った土地に創造する。
ただ、資源を一方的に生み出し続けるだけでは運営コストが赤字確定なので、悪魔達には相応の試練を受けてもらう事にする。試練の内容はまぁダンジョンなので魔物とかに襲われるってだけなんだが、これは原理的にはイロ型世界の契約属性魔法みたいなもんなので、試練の突破という条件をクリアする事で褒美として生成する資源の消費エネルギーを削減する仕組みになっている。それ以外のコスト?まぁうちの永久機関達が頑張ってくれるよ。
ちなみに、このダンジョン内で悪魔が死亡した場合はダンジョン外で蘇生する仕様になっている。これは利用者全てが悪魔だからこそ可能な手段だ。何せ、ただ私の権能を使って蘇生してるだけだからな。限られた範囲内での全知全能ってのは伊達じゃない。
「次に、あなた方には
二つ目の偉業は加護の付与となる。加護の具体的な内容としては、概念攻撃に対する抵抗力や耐性だ。と言っても、そんな大層なモノではなく、これは私が普段からうちの子にしている概念的な強化と同じ、これまで私が巡ってきた世界における"悪魔"という概念を用いた概念の補強だ。
仕様的に"悪魔"としての性能や能力などが底上げされたりとか"悪魔"特攻に弱くなるかもとか他にも色々効果はあるのだが、メインの効果は概念的な干渉に対する防御機構だ。これがあれば、付与された加護そのものを消費する事で、なんかこう悪魔だけを絶滅させる魔法とか撃たれても何発かは耐えられるようになるのである。
まぁ耐えられるようになるだけで受けたら致命傷なのには変わりないが、それでも即死よりマシだろう。でも即死を回避するだけでそれ以外は何もしないし、私自身が助けに行ったりもしない。助けに行く必要が無いからだ。
何せ私が助けず死んだとしても、死んだ子はただうちの子のラインナップに加わるだけだからな。当人そのものやその知識が必要ならその時その時で蘇生すれば良いし、蘇生出来ないレベルなら再創造すればいい。再創造しても知識は衰えたりしないから、私としては本当に何一つ困らない。
「最後に、
三つ目にして最後の偉業は死後の確約だ。天国とか地獄とかいう意味じゃない。この世界で死亡した悪魔を全員等しく権能の一部として取り込む事で、絶対の安寧を約束するというだけだ。ちなみにこれは特に私に対してメリットとか無い。権能の仕様的についでで出来そうだなって思ったから言ってるだけだ。
別に天国とか地獄とかも作ろうと思えば作れるが、別にそんなモノ作らなくても私の権能の一部として取り込んでしまった方が簡単で、何よりも確実な安寧をお届けできる。しかも片手間で出来るんだからやらない理由がないだろう。つーかこの程度で信仰エネルギーの総量が増えるんならやるでしょ。
まぁ色々と言っているが、結局の所、私は私の為に動いている。それ以外は全て建前で戯言だ。まぁ欠片も心に無い事を言うのはアリス相手に通用しないので、本音も少なくて5割、多くて9割くらい混じらせるのが癖にはなっているが、それでも私の為だと言うのに変わりはないし、私は私の快不快だけを指針にして動いているのも間違いではない。
「これらの偉業により、
こうでもしないと私自身が自分は君らの女神だぜって本心から断言出来ない、とも言う。けれど、これが上手くいけば、私は信仰エネルギーを今よりも精密に操作出来るようになるだろう。初めからそれが目的だし。
「………では。短いですが、本日の配信はここまでとします。今後も配信は行いますから、是非見てくださいまし」
カメラに向かって軽く手を振ってから、イレーナに対してアイコンタクトを行い、そのまま配信を終了する。万が一を考えて、ちゃんと配信が切れているのかをイレーナ(だけでなくうちの子も一緒になのだが、イレーナには内緒)が確認した後、ちゃんと終了しているとの事なので、私はやっと肩の力を抜いた。
「ふぅ………」
「素晴らしい演説で御座いました、女神様。こちらをどうぞ」
「あら。ありがとう、イレーナ」
本当に緊張した。生涯で1番緊張したかも。だって相手はこの世界に住まう全ての悪魔なんだぞ?イ型世界の地球に住んでいる人口は確か80億人だとか何とかだが、マジでそんなのなんて比にもならない人数だ。だって宇宙の隅から隅まで悪魔が居るんだぜ?あんなちっこい惑星で80億なんだから宇宙全域ってなったら………これで緊張しない方がおかしい。しかも私の言葉一つで世界丸ごと変わりそうな場面だぞ。緊張しない奴はもう精神性が神だろ。少なくとも私には出来ない。
「はぁ………ちょっと疲れたわね」
「お好きなだけお休みになってください。あれだけの大偉業を成したのですから、披露するのは女神様とて当然かと」
「そうね、お言葉に甘えて休みましょうか………」
緊張から抜け出し、温かい飲み物を飲んで、深く安心したからだろう。自覚する程度には精神的な疲労が溜まっていたようで、瞼が少々重い。イレーナの言葉に甘えて、今日はもう眠るとしよう。
私はベッドに向かい、静かに眠るのだった。
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