実は信仰エネルギーが具体的にどんなエネルギーなのかは分かってないけど許してほしい


私の勝利で終わった1回目の『エクステンドバトル』だったが、私はその後イレーナ相手に連戦連勝。一応素手の戦闘に不慣れだったのでイレーナにも勝ち目は何度かあったのだが、しかし私はそれらを掻い潜って勝利を積み重ねた。最後の方は素手の戦闘に慣れた私による蹂躙だったかもしれないレベルである。私の器用さを舐めてもらっちゃ困る。数回するだけでどんな技術も達人レベルになれちゃうもんね。


しかもそれは素の器用さでの話で、権能を使えばどんな技術だろうと初見で達人以上だからな。やっぱり権能ってエグいなぁ………


「プロテア様、本当にお強いですね。動きが洗練され過ぎてて怖いくらいです」


「私、一応君らの女神様だしね。そう簡単に負けられないよ」


「次………と、いきたい所ですが。そろそろ帰らなければなりませんね」


「あら、もうそんな時間?」


「もう少しで夕食の時間となりますね」


「ありゃ。それならさっさと帰ろっか」


「了解致しました」


そそくさと帰宅準備を始めるイレーナを手伝おうとするが、プロテア様はお座りになっていてくださいと言われてしまえば抗えないのが私。イレーナの仕事を奪う訳にもいかないから仕方ないと言えば仕方ない。


「私は今日楽しかったけど、イレーナはどう?」


「とても楽しかったですよ。プロテア様があんなに強いのは予想外でした。また行きたいですね」


「じゃあ明日も来ちゃう?」


「私が他のメイドに色々と言われそうなのでやめておきます」


色々と………まぁ言われそうだよね。メイドちゃん達はそんな感じする。


「それに、明日からプロテア様は覚悟しておきませんと」


「?明日からなんかあるっけ?」


「他のメイド達は私達がこうして出掛けているのを知っていますから………当然、我らが女神様と街へ行きたい!と殺到すると思われます」


「うげ、確かになりそう」


あの子ら私への信仰心だけは高いからなぁ。そうでなきゃ家具になるだなんて発想にならないだろうけども。


「全員平等にお出かけなさらないと無理矢理にでもプロテア様のお役に立とうとし始めるので、されるのがよろしいかと」


「そうなりそうなのが怖いなぁ。仕方ない。こうなりゃメイド全員の面白い所に連れてって貰おうかな?」


「それがよろしいと思われます」


イレーナの帰宅準備が終わり、私達はそのまま宮殿に帰宅した。










ト型世界にやってきてから75日目くらいの昼下がり。つい昨日までうちのメイド達全員と出掛けまくって、とりあえず宮殿付近の面白そうな所は全部網羅した。ただ昨日、メイド達から私達だけで女神様を独占しているのは罪悪感があると言われたので、それならとうちのメイド全員を後ろに連れて女神様モードで街に出てやったんだが………


「信仰エネルギーえっぐいですわねこれ」


まぁうん。悪魔の権能を封印せず、顔も全力で晒してる私にこの世界の悪魔達が耐えられる訳もなく、私が赴く場所全てでめちゃくちゃ平伏されてしまった。しかも平伏する度に信仰エネルギーが爆発したのかってレベルで生成されるからもうなんか怖いよね。


んで、未だに操作出来ないので信仰エネルギーは半ば放置気味だったんだが………なんかやっぱり、私の周囲で蠢いてるだけだった信仰エネルギーの何%かは私の内側に蓄積されてるよね?これ。これまでは小数点以下の何%とかだったからちゃんと分からなかったみたいだけど、数%レベルになると流石に分かるな。


でも操作は出来ない。何なんだこのエネルギー。


「んー………ですが、変化はあった。という事は………以前のわたくしとは何かしらの相違点が………?」


信仰エネルギーの状態が変化があったという事は即ち、私に何かしらの変化があった事に他ならない。しかし特に思い付かない。強いていうならメイド達全員とデートしてたとか………?でもそれ私の変化かぁ?なんかしっくりこないな………


………まぁ、とりあえず放置でいっか。いやだって、ここで焦った所で急激に進展するって訳でもなさそうだしね。何ならまだまだ時間の猶予はありまくってるし。


「さて………今日はどうしましょうか………」


個人的に特に楽しかったのは『エクステンドバトル』なんだよな。戦闘と勝利っていう劇薬をガブ飲み出来るから凄い楽しかった。いやまぁ他の子とのデートが楽しくなかったのかって言われたら全然そんな事無いし、普通に全部楽しかったけど、私の中のベストはやっぱり戦闘と勝利かなって。まぁ、これは私が戦闘欲と勝利欲の悪魔だから仕方ない事ではある。むしろここまで自制出来てるだけマシだ。


というか、普段は何日かに一回はハ型世界のダンジョンで発散しなきゃダメだったんだけど、この世界に来てからそういうのあんまり無いんだよなぁ。イレーナと出掛けて『エクステンドバトル』で戦ってた時もあんまり欲望に忠実にならなかった気がする。何なら前回の戦闘なんて50日以上前なのに、今もそんなに欲が湧いてきていない。


うーん………可能性としてあり得そうなのは、やっぱり信仰エネルギーかな。私が前々から蓄積していた小数点以下の数%だが、ただ蓄積しているだけじゃ溜め込む一方だ。ほんの少しでも莫大なエネルギーになる信仰エネルギーを蓄積し続けたら流石の私も内側からボカンってなるだろうし、なってないって事はこれまでもずーっと何かしらに消費してたって事になる訳で………となると、生命活動に必要なエネルギーとして利用してたってのが1番しっくりくるかなぁ………と。


イロ型世界の悪魔が欲望に忠実なのは、己の欲を満たす事でエネルギーを獲得し、それによって生命活動を行っているからだ。しかしそれが信仰エネルギーによって代替されているとなれば?まぁ………欲もあんまり湧かないだろうなぁ、としか。人間だってお腹いっぱいの時にまだ食べたいとはならないでしょう?それと同じだよ。まぁ穴だらけの推論だから合ってるのかは知らんけど。これも所詮推測だし。


「久しぶりに信仰エネルギーについて考察するのも良さそうですわね………」


まず大前提として、信仰エネルギーってのは祈りを捧げた人達の願いがエネルギーになったモノであり、人々の願いの具現に利用するエネルギーでもある。


例えば………とある村の神には、神に生贄を捧げたら雨が降る、という信仰があるとしよう。村では毎年の豊穣の為に生贄を捧げ、毎年雨を降らせているとする。しかし、それはただの偶然であって、別に神にそんな権能が無いとしよう。


信仰エネルギーが具体的な形で利用出来るのはこういう時だ。信仰エネルギーとは願いの結晶。例え神がそのような権能を持っておらずとも、"そうあれ"と信仰された神が信仰エネルギーを使用すれば、生贄と共に雨が降る術を扱えるようになるのである。だが、当然ながらそれ以外の術は扱えない。雨ではなく晴れにする事は出来ない。誰かに"そうあれ"と信仰されていなければいけないからだ。


まぁ端的に言えば、信仰エネルギーは信者の影響を大きく受けるエネルギーという事だ。その影響力はそこそこ大きく、そこら辺の石だろうとゴミだろうと何でも良いので深く長く信仰すれば、信者達が思う想像上の神が新しく生まれる事すらあるだろう。


「まぁ、そのせいで帰れてないんですわよねぇ………」


信仰エネルギーの影響力は新たな権能を生み出し、新たな神を誕生させる程に強い。私がこの世界から元の世界に帰れないのもそれが理由だ。この世界に存在する全ての悪魔が私を信仰しているから莫大な信仰エネルギーが発生し続けていて、その大半が私がずっとこの世界にいる事を望んでいるのである。だからこそ、私がこの世界から離れようとすると権能が停止し、世界を渡れないようにされるのである。


しかし、私にずっと居て欲しいという願いから、私の活動に必要な欲を満たした際に発生するエネルギーを信仰エネルギーで代替しているんだろう。そうしないと私が何としてでも別世界に行こうとするからだろうな。まぁこれ全部推測だから本当に合ってるのかは知らないが。


「信仰、信仰ねぇ………どうすれば良いのか………」


権能って元は神様の技術だし、悪魔と器用さの権能でも極めれば良いのだろうか。そんなんで出来るんだったら困らないんだが………まぁ最悪過程をスキップするだけか。


過程のスキップと言えば。実はこれ、ぶっちゃけ私以外でも出来る技だ。私はそれを権能と併せて行なっているだけで、やろうと思えば一般人でも普通に出来る。やっている事はただただ器用さのゴリ押しで行動の最高効率を叩き出しているだけだからな。技術を極めた人なら誰でも出来るだろう。


技術を極める方法は2種類ある。最高の効率を求めるか、最高の質を求めるかだ。私がやっているのが最高効率の方、最高品質の方も器用の権能で出来るが、ぶっちゃけ片方が出来るならもう片方も自然と出来るものである。


この場合の最高効率とは、文字通りの最速を指す。これは光の速さで動くとか、時間を停止して動くとかではない。例えば光の速さで居合い切りをした所で、相手も同じ光の速さならそれはただの居合い切りだろう?私の言う"最速"とは、同じ速度帯であっても最高の効率で叩き切るモノだ。


ほんの少しずつで良い。どれだけ俊敏になれるかではなく、どれだけ行動の無駄を省き、どれだけ全ての行動を短縮出来るかを極めていけば、それは最終的に過程のスキップに到達するのである。少なくとも、私はそう理解した上で過程のスキップを利用している。


「イレーナ、飲み物が欲しいのだけど」


「かしこまりました。いつもの紅茶でよろしいでしょうか?」


「んー………今日はコーヒーにしましょう。砂糖は要らないわ」


「では、今すぐにでも」


私は飲み物が欲しくなったので、私の側に立っていたイレーナにコーヒーを取りに行かせる。こうやって人を使ってると自分が偉いかと勘違いしちまうなぁ。いやまぁ女神扱いが偉くないのかって言われたらそんな事ないんだけど、やっぱり根っこは一般人なんだよ私。いつか直そう。


あ、そういや最近思い出したのだが、紫悠って権能使えたらしいんだよ。前にも一度教えてもらってたらしいんだけど、なんか本気で忘れてたよね。いやまぁ本人から詳細とか欠片も教えて貰ってないから忘れて当然みたいな感じなんだけど。まぁ今回も特に教えて貰ったりはしてないが………まぁそんなに気にならないから良いかな。


いや、何ならソフィアとか八尾美さんとかの権能が"何か"とかは知ってるけど、ぶっちゃけ具体的に何が出来るのかとかはそんなに知らないんだよ。優也君とか瑠奈ちゃんとかの詳しい内容も良く分からん。だって他人の権能の詳細聞いても意味ないんだもの。


権能ってのは本当にオンリーワンだ。元は同じ技術ではあるけれど、根本にある理が違う。同じルールの中でのオンリーワンじゃない。まずそもそも根幹となるルールから別なのである。仮に同じルールの下なら他人の権能も参考になるかもしれないが………そもそものルールから違うので、参考に出来ないのだ。


「女神様、コーヒーで御座います」


「ありがと、イレーナ」


受け取ったコーヒーをずずっと飲む。私はかなり牛乳が好きだが、別にそれ以外の飲み物が嫌いな訳じゃない。紅茶も緑茶もコーヒーも色々と飲む。飲んでいて1番好きなのが牛乳ってだけだ。


「………ん、良い香りですわね」


「お褒め頂き嬉しく思います」


やっぱりと言うかなんというか、悪魔の権能を封印してない時のイレーナは私への尊敬が強過ぎるなぁ。仕事に集中し過ぎてる感がある。権能封印中は仲の良い敬語口調のお姉さんみたいになるのに………まぁ、別にどっちも好きだから良いんだけど。


「んー………………あっ、そうだ」


今、コーヒーを飲んでいたちょっと思い付いた事がある。何を思い付いたのかって?当然、信仰エネルギーに関してだよ。


私はこの世界にやって来てから、ずーっと信仰エネルギーを操作する方法を考えていた。いつの間にか消費されてた分はがあったのはついさっき判明したが、私に向けられた信仰エネルギーの大半は未だに私の周りで蠢いているだけだ。私はどうにかしてこの蠢いているだけのエネルギーを如何にかして操作したいのだが………ちょっと、操作する方法を思い付いたかもしれない。


それは多分、私が私の事を"女神"なのだと、何の疑いもなく信じる事だ。権能を扱う際、目の前の全てが何の疑いもなく己のモノなのだと認識するのと同じように、自分という存在は彼ら彼女らの信仰している"女神"なのだと、信じ切る事だ。


どうやって思い付いたのかと言えば………そうだな。信仰エネルギーという名前から連鎖的に考えてみたら、だろうか。これはあくまでも私が発見した謎のエネルギーに把握し難いなぁと適当に名付けた固有名詞だが、それまでに収集した情報を元に名付けた名前だ。なら、そんなに間違っている訳でもないだろう。少なくとも表面的なモノは合っている筈だ。


信仰エネルギーの発生者は『何かを信仰する存在』だ。"何か"を心の底から信じ、敬い、畏れる。その対象は問われない。まぁ端的に言えば、信仰する相手が神ではなくても、心の底からその相手を信仰出来るというなら、信仰エネルギーは発生するのである。


相手の存在が当人と同じであれば問題はないだろう。しかし、私は違う。彼ら彼女らは私を総じて"女神"と呼び、決して同じ"悪魔"だとは思っていない。多分、私が信仰エネルギーを扱えない原因はこれ・・だ。信仰エネルギーを生み出す側と扱う側の認識の違いが原因なのである。


私は私だ。しかしそれ以上に私は悪魔であり、そして人間だ。もう分かるだろうが、私は欠片たりとも自分を神であるとなど思っていない。思った事が無い。私が信仰エネルギーを操作出来ない理由は、恐らくこの辺りの認識の違いが関係していると思う。まぁ全部推測なので間違っているかもしれないが、今のところこれ以外思い付かないのでやるだけやって見る事にする。


やるべき事は、自分が『神』だと思い込むだけ………なのだが、己の中の当たり前を変えるのが簡単に出来ると思ったら大間違いだ。そう簡単に自分の常識を変えるなんて出来ない。一切の曇り無く、欠片も己を疑う事なく、心の底から己が"神"なのだと信じ切らなければならないのだ。少なくとも私は出来ない。


「女神………ねぇ………」


自分が悪魔なのだと思い込むのにも相当な時間を必要としたが、あれは悪魔の時と人間の時で姿が大きく変わっていたから分かりやすい方だ。それでも相当な時間をかけているのだから、何も変化が無いのに自分が神であると思い込むのはかなり苦行だと思う。


しかし、だからと言って姿を変えるのもダメだろうな。ト型世界の悪魔達が信仰しているのは悪魔としての私、キングプロテア・スカーレットとしての私の姿そのものなのだから。となると、姿という大きな変化を使って思考を切り替えるのは難しい………というか、そもそもの話自分を"神"だと思い込むのが難しいんだよな。私はそんなに阿保じゃない。


んー、んー………まぁ難しいとは言っても、時間があるならどうにかなるだろう。イレーナやそれ以外のメイド達も、時々訪れるお客さん達も、この世界の悪魔達はみーんな私の事を"女神様"って呼んでくるんだもの。この環境に慣れるくらい居たら自然と自分が神である事に疑問も抱かなくなる………かも、しれない。


「………意識だけでもしてみましょうか………」


まぁ、仮にこれで信仰エネルギーを扱えなくても、私は時間なら有り余ってるんだ。気長に行こう。なぁに、失敗しても次がある。最悪の場合は過程をスキップして全て解決するか、信仰エネルギーを吸収して他のエネルギーに変換するうちの子でも作ればいいだけだ。やれるだけやってみよう。


イレーナに入れて貰ったコーヒーを堪能しながら、どんな風に自分の中の当たり前を変えていこうか考えてこの日は終わった。

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