汝コソガ我ラノ女神

狂信者ってこんな怖いんだぁ………もっと早く教えて欲しかったな………


「………ん………?」


世界へ引き寄せられる感覚に身を任せたものの、やはり普段使用している異世界転移とは違って世界の壁を越える方法が荒っぽかったからか、私は眠ってしまっていたらしい。時刻を把握すれば数分程度のものだが、完全に未知な世界で数分の遅れは割と致命的な気がする。


「権能は………あれ、正常ですわね」


とりあえず今の自分を確認しておこうと思い、ほぼ無意識で権能を展開してみたら全然普通に使えた。特に引き寄せられてる時にほぼ使えなかった悪魔の方なんて普通に創れるし知覚出来るし命令も出せる。つーか、何なら普段より調子良いなこれ。同じコストの筈なのにうちの子の性能が普段の数千倍から数万倍はある。


「んー、んー?」


どうせならと今改めてこの世界をしっかり観測してみているのだが、この世界………なんか悪魔の性質強くない?え、何これ。下手な世界の数十億個分くらいはあるぞ。イロ型世界にこんな性質が強い場所あったらガチで世界を滅ぼせる悪魔が自然に生まれるレベルなんだが??この世界それがデフォなんだが??


「………あら、この世界………」


そして改めての観測の結果、この世界の支配種族が悪魔である事を確認した。何なら支配が上手く行き過ぎてて、宇宙の端から端まで悪魔で埋め尽くされている。統計では大抵の世界で主な支配種族である人間も居るには居るが、全て家畜としてだな。一部ペット扱いの人間も居るレベルだ。


この世界、まぁト型世界としよう。では改めて、このト型世界の悪魔の特徴だが………まず外見として、このト型世界の悪魔は主に人型であり、角と羽と尻尾を持っている。それ以外はイ型世界の人間とそんなに変わらない。強いて言うなら褐色系統の肌色の子が多めなくらい?でも普通に白系統の子も居るので、まぁ誤差だわな。


次に文明だが、これは科学も魔法もどちらも非常に高度だな。科学方面でのワープやテレポートは当然のように日常利用されているし、時間操作も科学方面から手を出せるレベルだ。魔法方面もかなり洗練されていて、異世界転移も視野に入っているようだ。まぁ宇宙の端から端まで支配してるんだからそのくらいは出来るよねって。何なら端から端までタイムラグ無しで情報伝達出来るレベル。


このト型世界の悪魔達は肉体依存の生命体らしく、主な食糧は他種族の魂。しかし他種族は既に全て滅ぼされて家畜化されている為、食事は完全配給制のようだ。食糧の確保用に銀河系全部埋め尽くすくらいデカい畜産施設が数十個はあるから、食糧が足りないって事は無いらしい。それでいて質はほぼ全てが最高級なんだから素晴らしい管理能力だ。私は魂食べないからよく分からんけど。


主な性格というか種族的な精神性としては、同族相手には割と優しめなようだ。喧嘩しても主な決着内容がゲームとかになるタイプで、割と何処を見ても仲良しな光景ばっかりだな。それでいて健全な成長の為の競争は出来てるっぽいから良い子ばっかりやでぇ………まぁその分他種族には容赦無いっぽいけど。まぁ種族的には他種族を狩って食うタイプの種族だものね。魂があれば全部獲物みたいなもんだ。


しかし、実に凄いなこの世界。一つの種族が宇宙全域を支配している事実もそうだが、それでいて貧富の差や格差がほぼ存在していない、言ってしまえばユートピアみたいな世界な所が凄い。マジで文明力が高いわ。


「おぉ、おぉ………!!」


私がそこそこ呑気にこの世界の把握を優先していると、ふと、そんな男性の声が聞こえてきた。ついついそちらの方を振り向けば、そこに居たのは黒い角と羽と尻尾を持っている、褐色の肌の人型生物。あれが、あれこそがこの世界における支配種族の悪魔。権能で分かる。あの子はうちの子だ。だからあの子は悪魔なんだろう。ふぅむ、何かに感動してるみたいだけど話を聞いてみようかな。


「あの──」


「どうされましたか我らが女神よ!」


えっ。


「えっ、いやわたくしは神ではなくて──」


「えぇ!分かっております女神様。さぁどうぞこちらへ」


「え、えぇ………?いやまぁ良いですけれども………」


名前も知らない悪魔さんにこちらへこちらへと誘われるまま、私はその後を着いて行く事にした。いやまぁ、悪魔の権能が使えない可能性はあるけど、器用の権能はさっきも普通に使えてたしね。いざとなったら過程全部スキップして帰れば良い。何なら悪魔の権能が使えるなら尚更簡単に攻略可能だし………最悪普通にぶった斬って帰ろうかなって。多分目の前の悪魔くらいなら余裕で勝てるし。


そのまま男に連れられて行った先は、聖堂のような部屋だった。天窓から差し込む光が室内を明るく照らし、まるで神聖な場所のように輝いている。ついでに言うと男以外の悪魔が沢山長椅子に座って真摯に祈っていたのだが、勢いよく扉が開いた音のせいでこちらを見て、何故かそのまま固まったらしい。えっ凄いシスターと神父みたいな格好してる悪魔さん達にガン見されてる怖い怖い。


そして何よりも。


「あれ………わたくし………?」


この部屋の最奥。私の方をガン見して固まった彼ら彼女らが真摯な祈りを捧げていたのは、紛れもなく私の偶像・・・・。しかも細部まで今のキングプロテアとしての私の格好とほぼ同じだ。何で????


「さぁさ女神様、こちらへお座りください」


「え、あ、はい?」


私も私で困惑しており、とりあえず男の誘導通りに座っておくかと私の偶像の前に置かれている椅子に座らされた。絶対祈りを捧げてる彼ら彼女らには訳が分からん筈なのに、それでも尚こっちをガン見して固まったままだ。マジで怖い。この部屋が下手に数十万人規模で入るように空間拡張処理がされてるから、尚更視線の圧が凄い。凄いと言うかもう数十万の視線が私に向けられてて怖い。何々何の儀式なのこれは。


「我らが女神よ、我ら悪魔に貴女様のお言葉を頂きたく」


「えっ」


数十万人の前で即興スピーチをせよと??何だこの男無敵か??いやまぁ悪魔に頼まれたんだったらとりあえずやるけどさぁ………


「えーと」


さーて………何を話そうかな。やるけど話のネタが無い。うちの子による世界の調査もまだしてすらいないからマジでどんな言葉を求められてるのかが分からん。この男は私に何を言わせたいんだ。えー、どうしようかな。まぁ何話すにしても拡声はしといてと。内容は………まぁ、自己紹介から行こうかな。


「………わたくしの名は、キングプロテア・スカーレットですわ」


──その言葉だけで、部屋に居る全ての悪魔が私に忠誠を誓い、真摯な信仰をしてきた。えっ何々怖い怖い。まだ自己紹介の何なら名前だけなんだが??というかさっきからちょくちょく思ってたけど、こいつら私を神かなんかだと思ってる??いや神じゃないんだが??歴とした悪魔なんだがー??


いやね?別に良いんだよ信仰されるくらいは。私が信仰由来の神じゃないから信仰を元にしたエネルギーを貰ってもほぼ無意味だってこと以外は。神じゃないから信仰エネルギーってのがイマイチ良く分からんくて扱えないんだよね………扱えるなら割と良いリソースになりそうなんだけど。


わたくしを畏れ敬い、そして崇め奉りなさい」


とりあえず神様みたいな事言っておくべって適当言ったら本当に生成される信仰エネルギーが爆増した。えぇ………思ったより怖いんだけど………!?


「………さすれば、あなた方の願いを叶えて差し上げましょう。無論、出来る範囲で」


えぇ?これでも信仰エネルギーが増えるの??もう怖い通り越して凄いんだが………?とりあえず拡声はオフにして、私をここまで連れてきた男に声を掛ける事にする。だってこれ以上話せるような事ないし………


「それで?これでよろしいかしら」


「えぇ!素晴らしい神託でございました!」


いつの間にか膝立ちになって私に手を合わせている男は、私の声を聞くだけで跳ね起きた。一々挙動が怖い。


「一つ聞きたいのだけれど………何故、わたくしの像があるのかしら」


「それは数ヶ月前、我が国に住まう全ての悪魔の脳裏に、貴女様のお姿が浮かんできたからでごさいます。貴女様こそが我らの神であり、この宇宙の全てを支配し技術を開拓してきた我々への褒美としてそのお姿をお見せくださったのだと我々は確信し、皆で祈りを捧げておりました」


「なるほど………」


………恐らく、脳裏に私の姿が浮かんだとかいうのは、私が縁に頼らず数多の世界を観測した日のことだろう。さっきから色々と試しているが、この世界はあまりにも悪魔の性質が強い。本当に世界単位で悪魔の性質で埋め尽くされているからな………多分、あの時の一瞬の観測だけで世界全体に影響を及ぼすくらいには。そういやあの時世界の壁に触れただけの世界割と沢山あったような………


………とりあえず、私がこの世界に来る前から像がある理由は分かった。次に気になるのはどうやってこの世界へ引き寄せられていたのかだが………これは、この子達が私に祈り過ぎたからだろうな。何かに祈る行為は信仰エネルギーを産むが、エネルギー単体では世界の壁を越えられない。


そうして世界に私に対する信仰エネルギーが蓄積されていった結果、私がほんの少し観測しただけで信仰エネルギーが私に流れ込んできたんだろうな。観測するって事は観測されるって事で、観測出来てるって事は干渉出来るって事だからな。深淵属性の魔法と同じ理屈だ。


なるほど、あの時の権能が機能不全に陥ったのはあれか、想定外のエネルギーを注がれて十全に機能が発揮できなかったみたいな感じか。本来はガソリンを入れないと動かない車に食用油注いでるみたいなもんだ。そりゃ動かなくなるって。


しかしそうなると、問題はこの信仰エネルギーの使い道だな………もうこの世界は観測してしまったし、ここには悪魔が多過ぎる。悪魔の知覚をすると必然的に情報が入ってくる。それはつまり、常日頃からこの世界を観測し続ける事になる。そうなればまた権能が機能不全に陥るだろうな。何かしら信仰エネルギーを消費する術を探さないと帰宅も難しいなこりゃ………一応、この世界に居れば権能も普通に使えるみたいだけども。


「まぁ、良いわ。像くらい認めてあげる。それで?貴方達はこのわたくしに何を求めているのかしら」


「求めるなどとんでもございません!我らは貴女様が居てくださるだけで良いのです!我らの歩みを見守ってくださるだけで我々は何でもしてもせましょう!」


つまり干渉しないでそこで見てろと。いやまぁ、わざわざ私から干渉とかはしないけども。だってこの子達、私の一挙手一投足に対して信仰心を抱きそうなんだもの。なんか狂信者ってこんな感じだよなーって。


しかし、今すぐ他の世界に行く、というのは出来ない。してもまーたこの世界に引き寄せられる、いや、連れ戻されるだけだ。とりあえずは時間がかかっても良いように、この世界の1年を他の世界の1秒になるようにしておいて………と。アリスに万が一の時の対応は頼んだけど、それだけじゃ心配だからなぁ。こっちでもやれる事はしとかないと。もしかしたらこっちで数百年数千年とかかかるかもだし。


いやまぁ、そんなに長い時間を掛ける気は無いよ?無いけど、もしかしたら可能性としてあるかもじゃん。だって今からどうにかしないといけないのって信仰エネルギー、言ってしまえば神が扱うエネルギーだぜ?もう既に権能が機能不全にされてる前科があるから万が一を考えてんだよね、こちとら。


「まぁ良いわ。こっちが勝手に貴方達にあげる分には問題無いでしょうし………わたくしわたくしでやりたい事もあるし………ねぇ、わたくしの部屋とか無いのかしら」


「勿論ありますとも、我らが女神よ。お向かいになられますか?でしたら案内いたしますが」


「そう?それじゃあ案内よろしく」


うむ、神様っぽい立ち振る舞いにちょっと慣れてきたかもしれん。いやまぁ慣れてきたって言うか、多分私に求められてる内容が私の素なんだよね。しかも普段は自分に迷惑が来ないようにかけてるオブラートとか遠慮とかそういうのもしなくて良いっぽい。


やっべ。私ここで長期間過ごしたら、ただでさえアリスのせいで嘘付けない身体にされちゃった(比喩)のに、更には遠慮もオブラートも使えない身体にされちゃう(比喩)んだけど。いつでもどこでも素の私が丸出しになるんだけど。いやまぁ困るかって言われたら別にそんな困らんけども………


そんな思考を巡らせつつ、男の後を着いて行く私だったが………流石の私も先程まで居た室内から外に出た時点でもう嫌な予感がしていた。


「さぁ女神様、こちらが女神様の為に建設された宮殿で御座います」


そう男が手を向けたのは、ガチもんの宮殿。さっきまで聖堂っぽいのがあった建物とは比べ物にならないくらいデカくて、めちゃくちゃ豪華絢爛な建物。どう考えても私1人の為の施設では無いだろうに、目の前の男の表情が私専用の施設ですって物語ってるんだよな………こわー。


「ふぅん………ここの管理はは誰がするのかしら」


「ご安心くださいませ。この宮殿の掃除、お召し物の洗濯、毎食の料理、諸々の家事は全て宮殿付きのメイド隊50名が管理いたします。女神様は思うがままに日々を過ごし、ごゆるりとなさってくださいませ」


「そう………」


じゃあまぁ、いっか。もし誰も居なかったらうちの子にさせるだけだったからあんまり変わらんし。つーかメイドって言ってもみんな悪魔なんだよな………じゃあ普段と1ミリも変わらんか。まぁいいか、気にしないでおこう。


「………貴方、名前は?」


「お、おぉ!私の名はメフィールドでございます!女神様に我が名をお伝えできるなど光栄の極みで御座います………!!」


「ではメフィールド。わたくしはその辺を散歩してくるわ。付き人は必要無い。貴方も戻っていい」


「はっ。御前から失礼いたします、我らが女神よ」


メフィールドはそれだけ言うとすんなりと帰って行った。ふぅむ、権能は使ってないから命令が聞いたって訳でも無さそうだけども。シンプルに私の言う事を聞いてくれただけ?まだ会って1時間も経ってないんだが………??


「………散歩、行きますか」


ついでにこの世界の情報も集めておこうっと。










この世界に訪れてから7日が経過した日の昼頃、私は既にこの世界での私の扱いを痛感していた。


「頭おかしいですわねこいつら………」


この世界の悪魔は総じて頭がおかしい。それは初日、私が風呂に入る時にメイド達が私の服を脱がせようとしてきた時、私はついつい普段と同じく服担当のうちの子を消してしまったのだ。目の前で仕事を失って愕然とするメイド達に、この子は私が生み出した悪魔だから洗濯は必要無い、と言ったのだが………よくよく考えてみれば、目の前で私を世話しようとしていた子達も全員悪魔。


人間的に考えれば、うちの子を服にしているというのは、自分の子供の人体パーツで家具とか服とか作ってるやべー奴だと言う事だ。猟奇的が過ぎる。普段からなんの疑問もなく使っていたので一瞬気が付かなかったのだが………しかし、メイド達はそう言われて服のうちの子を羨ましいと本気で思っていた。怖い。自分も服にしてくださいとか言ってくる奴が怖くないわけないだろ。当然断った。


けど断ったら断ったでその日の夜、メイド達全員が全裸になって今日から私達は女神様のベッドで御座いますとか言われて普通に怖かったからね。うちの子はそういう目的で創った子だから良いけど君らは違うでしょって諭したけど、あいつら今も虎視眈々とメイドさん家具シリーズの座を狙ってるんだよな。何なら昨日、私は女神様の椅子で御座いますが何かおかしな所でも?みたいな顔してスッと四つん這いになったメイドおったからな。正気のまま狂ってるから怖い。狂信者ってこんな感じなのかな………


わたくし、神じゃありませんのに………」


未だに信仰エネルギーの消費方法は思いついていない。今私が率先して解決すべき問題はそれだ。これをどうにかしなければ元の世界に帰れない。しかしだからと言って何かしらの妙案が思い付くのかと言われたら、そんな事はない。常々思っているが、私は別に天才ではないのだ。


私が権能を扱えるのは他人よりも自分勝手だからであって、そこに才能は関係が無い。これまでに思い付いてきた諸々も、その分野の天才が見れば鼻で笑うようなもんなのだろう。それは理解している。


そうだな………とりあえず、まずは信仰エネルギーが"どんなモノ"なのかを定義しよう。物事を仮でも良いから定義するのは物事の解釈において大切な事だからな。


「………信仰エネルギーとは?」


信仰エネルギー。分類としては知的生命体の感情を由来とするエネルギーに端を発するモノで、その中でも真摯な祈りによってのみ発生する、非常に高純度な非科学的エネルギー。祈りの発生源が一定範囲内に固まっていればいるほどエネルギーが増幅されていくという特徴を持っており、その増幅率は単独の場合を1とした時、2人で4、3人で8、4人で16と、4の倍数毎に増加していく。信仰者が数万人規模ともなれば惑星規模のエネルギーにさえ届き得る。


しかし、信仰エネルギーの発生者はエネルギー自体を扱う事が出来ないという欠点がある。端的に言うと、祈りを捧げた奴はそれで生み出したエネルギーを扱えないのだ。つまり、どれだけ大人数で祈ってそのエネルギーを増幅したとしても、エネルギーを扱う側が用意されていなければならないのである。


厄介なのは、信仰エネルギーをちゃんと扱えるのが信仰由来の神だけである、という所だろう。それ以外の存在は、そもそも信仰エネルギーをどう扱えば良いのか分からない。どれだけ莫大な信仰エネルギーを生成した所で、方法を知らなければ何かに利用する事も出来ないのだ。これはイ型世界に居た信仰由来の神に教えて貰った事である。


そしてそれだけ莫大なエネルギーであると言う事は、世界に対して相応の影響力を持つという事になる。今の私のように世界へ引き寄せられる事は稀だろうが、現実として起こっているので影響がゼロという訳ではないのだ。


そのような、かなり特殊なエネルギーである信仰エネルギーをどう扱うか………うん!何も思いつかないね!


「信仰………信仰………」


割とマジで何も思い付かない。新しい異世界転移の時もそうだったが、こういう新しい発想っていうのは中々に時間がかかるんだよな。それが例え今出来る事の延長だったとしても、そもそもその考えに辿り着かないんだよ。だから出来ない。マジで分からん。


いやだって考えてもみろよ。突然あなたは神だよって言われて信仰エネルギーなんか扱えると思う?私は無理だと思う。ぶっちゃけこういう思考が信仰エネルギーを扱えなくしてるんだろうなって自覚はあるんだけど、人間はそう簡単に変われないんだわ。そんな簡単に変われるなら権能だってもっと簡単に扱えるんだよな。


「まぁ最悪は権能を使って………」


まぁ、そんなに深く考える必要はない。いざとなれば習得の過程をスキップしてしまえばいいのだから。まぁ可能性0%だとスキップしても無駄なんだが、その時は最終手段。うちの子に信仰エネルギーを魔力に変換してくれる子を作る。ぶっちゃけ概念防御が不安なのでやりたくないし、生身で扱うことも出来ない曖昧なエネルギーを変換するのはあまりにも非効率的だし、もしもの時暴走したりする可能性もあるしで、なんかもう本当にやりたくない。いや、まぁいい。自力で出来れば良い方、出来なかったらそん時はそん時だ。気楽に行こう。


ヨシ!それならこの世界にも休暇で来ている事にしよう。悪魔だらけで私の世話をしてくれる悪魔達しか居ない世界だ。どうあれいつかは悪魔としての私の姿が当たり前なレベルで悪魔としての慣れてしまわないといけなかったんだし、折角時間の無い流れの差異を極端にしているんだから、有効に使うっきゃない。決して現実逃避ではない。


「んー………」


ちなみに言っておくと、こうした思案中にも当然ですがみたいな顔して椅子になろうと四つん這いになっているメイドがいるのだが、当然のように無視している。その度に悲しそうな顔をするので椅子くらいなら許可しようかなと思い始めている。でも君らはそういう役割の子じゃないからなぁ………そういう役割の子は自分で作れるから良いんだよ。自分の仕事をしてくれ。


「………メイド、貴女名前は?」


「はい。私は貴女様の椅子で御座います」


「本名」


「イレーナで御座います」


何当然のように椅子になろうとしてるんだこのメイド。


「………今日の昼食は何かしら」


「女神様の好物で御座います」


「そう………一応聞いておくけど皿は?」


「?本日はメイド長が皿役で御座いますが」


「………命令よ。皿に生物を使わないで」


「ですが………」


「あの。何度も言ってますけれど、あなた達にはあなた達の仕事があるんですのよ?自分の仕事を疎かにする程度の者が皿になれると思って?」


「!なるほど、了解致しました!メイド隊に伝達して参ります!」


そのままイレーナはあくまでもメイドとして素早く部屋を出ていった。………いや、仕方ないじゃん。こうでもしないとこいつらマジで椅子とか皿とか寝具とかやるんだぜ?しかも服は邪魔だからとか言って全裸だからね大抵。綺麗だからいいけど、1番ドン引きしたのは全裸のメイドが本日は女神様のお召し物を務めますとか言ってハグしてきた時ね。女神様の恥部は私が絶対にお隠しいたします、じゃないんだよ。離れろ狂信者共。権能で命令しないだけ良心があると思え。


そしてあのメイド、今ナチュラルにメイドじゃなくてメイドに伝達してくるって言ってたな。もしかして私付きのメイド達全員何かしらやるつもりだったのか………?もう割とお腹いっぱいなんすけど。




………まぁ結局次の日の朝、昨日の仕事を全て終わらせた全裸のメイド50人全員がベッド以外の私の部屋の家具として立ってたんすけどね。中々に怖いよ?机も椅子もクローゼットもぜーんぶ全裸の女の子なの。

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