親子での会話ってどう話せば良いのか分からない時ありますわよね
権能集会があった日から3日後の朝。私は普段から早寝早起きを心掛けているが、今日は尚更早く起きてしまった。具体的にはまだ朝の2時である。まぁ、昨日はロ型世界の方でアリスとかレイカとかと一緒にお昼寝したからな………その分のがあって睡眠時間が短めになったんだろう。まぁここ最近学校以外ではずーっと悪魔の姿でいるので、別に睡眠自体は別に取らなくても問題は無いのだが、まぁ気分の問題である。
というか、私はこれまで一度も徹夜をした事がない。故意的であれ偶然であれ、私は本当に徹夜をした事がないのだ。まぁそんなんなので、私の中には初めっから"眠らない"なんて選択肢が出てこないのだよな。あれだ。一度でも殺人を行うと今後あらゆる場面で殺人を行う選択肢が出てくるとかみたいな、そういうイメージ。
まぁ兎にも角にも、今日の私は早く起きてしまった訳だ。まぁ普段から朝の3時起床なのでそんなに大差無いが、それはまぁ気分の問題なので。
「散歩でも行こうかしら………」
窓の外を見れば、まだまだ暗い。夜中だ。この時間に太陽が昇るような地域では無いのだから当然である。しかし私としては、こんな夜中のような朝に散歩をするのもそこそこ乙なもの。3時起きでも散歩する時はするのだから、今日は2時起きの散歩をするとしよう。
そうと決まれば行動開始。まずはパジャマとして着ていたふわもこの可愛らしくもゆるーい服装から、いつものゴスロリドレスへと換装しておく。まぁ換装と言っても服として創造したうちの子の身体を瞬時に変化させただけなんだが、側から見たら瞬時に着替えたようにしか見えんだろうな。別に自分の部屋の中なんだから何でも良いんだけど。
とりあえず、散歩用の服はOKだな。人間なら今は3月なのでここに防寒用の服装もプラスされるだろうが、悪魔に防寒は不必要なので問題は無い。まぁ普通に実家なんで、他の人を起こさないように出かけますかねぇ。転移で行けば良いんですけども。
「お母さん、散歩行くの?私も行く〜」
「あらレイカ、おはよう」
私が転移を開始しようと思った矢先、レイカがロ型世界からやって来た。フェイは居ない辺り、この子もこっそり来たのだろう。
「うん、おはよー。散歩行くんでしょ?私も行くね」
「はいはい。ほら、手を出して」
「はーい」
レイカが伸ばした手を取って、私はそのまま外へ転移する。転移先は実家近くの神社だ。神社って言っても鳥居が赤いやつじゃなくて石のやつだし、地図アプリで神社って検索しても出てこないめちゃくちゃ簡素なやつだけど、とりあえずめっちゃデカい木があるタイプの神社だ。多分どっかのデッカい神社の分社みたいなやつなんだと思うけど深くは知らん。名前は春日神社で、確か奈良の方に本社があったようななかったような気がする。
ちなみに言っておくが、この転移先の神社に神は居ない。というか、イ型世界に神はほぼ存在していない。数千年前なら地上にもその姿が散見されたのだが、今ではその大半がロ型世界へ移住している。いやまぁ、これも仕方の無い事だ。
神には何種類か居る。一つは私が権能を元にした絶対、概念を司る最高。"記憶"と"成長"の機能を持たない、この世界の概念を一定ラインに保つだけのシステムのような神々。それらの神々は権能によって己の司る概念を常に一定に保ち続けおり、それによって世界の均衡が保たれている。言ってしまえば外から世界を運営する側。
一つはその身を信仰によって維持する神々。己の活動に必要な糧を他の生物の願いのエネルギーに頼っているが故に、"そうあれ"と信仰されているのならばどんな力だろうと扱う事が出来るのが特徴。擬似的な成長と記憶の機能を持っているので、人らしいのはこちらの方。言ってしまえば知的生命体の集団が信仰する都合の良い神役。
私が今観測出来ているのはこの2種類だ。他にも居る可能性は割とあるが、今の所は。んで、私の家の近くの分社の元である本社に居るであろう神は、多分後者の信仰を必要としていた方だ。というか前者のシステムみたいな神は世界の外側に居るみたいで、私もほぼ観測した事が無い。私が性別神から加護を貰ったあの瞬間だけだ。
まぁ話を戻すのだが、信仰を糧とする神は現代のイ型世界にはほぼ居ない。この惑星ではない所にならちょくちょく生息しているが、この惑星にはほぼ居ない。居るのも自我すら薄れて力だけが残ってるみたいなレベルのだけで、ハッキリ話せるような神はもう居ない。それもこれも、この惑星からだけでなく、世界的に信仰が薄れてきているからだ。
その原因は文明の発展だ。文明がより良くなるにつれて、わざわざ神に祈る必要性が減ってきているのである。未だに信仰されている神も居るっちゃ居るが、年がら年中常に信仰されている訳じゃないだろう?昔はそうだったのに、今ではもう都合の良い時にしか祈らない人が多いのである。そうなると糧は減り続け、最後には消滅してしまう。そうなる前に神々は世界を越えたのだ。だからイ型世界には神が少なく、ロ型世界には神が多い。
また、私も最近調べていて偶然知ったのだが、私や紫悠、それ以外にも色々な日本人がロ型世界へ転移していた理由はずばり、日本に神が多かったからである。沢山の神が同じ世界へ向かったから、世界はその状態に慣れてしまった。だから、日本という国では異世界転移が発生しやすくなっているのである。
「おぉ、真っ暗だね」
「まだ夜ですもの。静かに歩きますわよ」
「はーい」
散歩の為に外に出たのは良いものの、時間帯で言うならまだまだ夜だ。住宅街は静かで、家の近くの車が多く通る大通りからも音はほぼ聞こえてこない。強いて言うなら救急車が通ってるくらいだ。いつもお疲れ様です。
「なんだか新鮮だね?お母さん」
「まぁ………新鮮と言えばそうでしょうね」
当然ながら、この時間帯の散歩は私もあんまりしない。強いて言うなら朝日が登ってきてるくらいのタイミングでの散歩は割とやりがちだが、太陽も上がってない時間の散歩は滅多にしない。あんまりその時間に起きないからな。
「2人だけで出かけるのも、こんなに暗い街を歩くのも新鮮だね」
「あぁ………確かにそうですわね」
私とレイカの2人だけ、というのは実はあんまり無い気がする。私の方はアリスがくっ付いてくる事が多いし、レイカは常にフェイと一緒に居ることが多いからだろう。純粋に2人だけで出かけるというのは珍しい。
「えへへ、こういうの良いね。親子2人の散歩って感じで」
「真っ暗ですけれどね」
「良いんだよう。私もお母さんも暗いのは平気なんだし」
私は第六アップデートのお蔭で、暗闇であってもまるで影の無い昼間のように見えるし、何なら権能による空間把握能力さえあれば視界に頼る必要すらない。レイカの方はレイカの方で夜目が効くし、周辺の把握くらいなら気配を感じ取れば大丈夫なんだとか。
「ねぇ、お母さん」
「何かしら」
「お母さんはあらゆる悪魔の母親だけど、長女は私だからね?それだけは忘れないで。良い?」
「大丈夫、ちゃんと分かってますわ」
当然ながらレイカは私の娘だ。そして1番最初の娘なんだから、レイカは長女に決まっているだろう。権能で生み出したとしても、私の土壌から生まれたしても、自然発生から生まれたとしても、悪魔というカテゴリーでは全員がレイカの妹や弟なのは変わらない。だって、あらゆる悪魔の母親である私の娘だからな。レイカより早く生まれている悪魔が居るとしても、レイカはあらゆる悪魔の長女だ。
「それなら良いけど………」
「ふふ、レイカは可愛らしいですわね」
「あぁちょ、んもぅ、頭を撫でるならもっと優しく撫でてよね、お母さん」
レイカはそう言うものの、声色は実に嬉しそうだ。うむ、実の娘の頭を撫でる………これは中々に良い。父性、いや母性か?まぁどちらでも良いが、そういうのを刺激されている感覚がする。ふぅむ、娘、娘か………
「………レイカ。もし貴女に彼氏が出来たのなら、まず
「突然どうしたのお母さん。私、彼氏とか居ないよ?」
「もしもの話ですわ、もしもの」
「えー、じゃあその時はちゃんと連れてくれば良いのね?」
「下心しか無かったらその場で殺しますわ」
「私も一応
「分からないかもしれないではありませんか。相手が権能使いだったらどうしますの?」
「その時は私も権能に目覚める」
「あら………感覚は掴めまして?」
「ううん、まだ全然。お母さんは良く権能とか使えるね。私には難しいや」
「まぁ、レイカと
「はーい。それくらい分かってるよ」
うーむ、親子の会話というのはこういうものなのだろうか。いやまぁ人間の時の親子の会話なら全然毎日やってるけどね?何せ私、まだ実家暮らしだし。両親も弟も妹も同じ屋根の下で過ごしてるから普通に会うし普通に会話するけど、そうじゃなくって。私が親側で会話する事ってあんまり無いんだよ。だからちょっと新鮮だなぁって。
まぁ、今の時間帯が夜中の2時過ぎとかじゃなかったらもっとエモいんだろうけど。
「何かあったら頼りなさいな。まぁフェイも居ますし、そこまで心配はしてませんけれど」
「お母さんじゃないと解決出来なさそうならちゃんと連絡するってば。私もそんなに馬鹿じゃないよ」
「その時はデウス・エクス・マキナしますわね」
「うわ、本当に出来そうだから困る」
「実際に出来るんだから仕方ないでしょう」
「まぁ、いざって時は頼るよ」
まぁ実際、逸話を元にせず完全オリジナルの悪魔を作るってんなら、割と何でも出来るからな。普段うちの子に逸話を混ぜてるのは概念的な強度を補強しているからであって、それをしないなら死者蘇生も惑星破壊も過去改変も何でもござれだ。特定の行動のみに特化したうちの子を作るだけで良いんだから。
「おー、見てお母さん。月が綺麗」
「あら、本当ですわね」
「私、ちょっとだけ月に行ってみたいな」
「別に良いですけれど、今度ですわよ。2人だけで行くとアリスが拗ねますわ」
「ふふ、そうだね。フェイも拗ねちゃうかも」
この日は結局、日の出まで2人だけの散歩をやってから帰宅した。後日アリスに夜中散歩の事を知られたんだけど、私も私もって言われたからわざわざアリスと2人きりの夜中散歩をやってあげた。レイカもレイカでフェイと一緒に夜中散歩したらしい。お互いにパートナーが拗ねちゃったけど、どっちも可愛いんだよなぁ。
夜中の2時に散歩をした日から5日後。ここ何日かアリスに連れられてこの世界を歩いたのもあってちょっと精神的に疲れていた私は、どうせならと次の世界を何処にしようか考えていた。
ぶっちゃけ、このヘ型世界の全てを堪能しようとしたら年単位でかかる。この惑星だけでだ。これまで訪れてきたハニホ型世界はイ型世界とかなり似ていた為、逆に似ていない部分だけを楽しめば良かったのだが、この世界はそうではない。ロ型世界のような完全な異世界。私が常識を構築したイ型世界とは根本から違う世界。そりゃあ年単位で必要だ。
しかし、異世界を堪能するという事を並列してはいけない、なんて誰も言っていない。じゃあやるだろ。ラーメンと炒飯を並べて食べたら美味いだろ?美味いから店で売ってるんだよ。これまでの私はインスタントラーメンだけだったけど、今度からはインスタントラーメンと冷凍炒飯のダブルセットで食べる、みたいなイメージだ。
ちなみにこれはこの前やったが普通に美味しかった。店売りを自宅でしてるみたいだったけど用意も楽だったし。だって麺茹でて炒飯はレンジにぶち込むだけだったしな。これで美味しさが出せるんだから日本の飯は美味いんだよなぁ。
話が逸れたので戻す。まぁつまり、今の私は並列して楽しめるような世界を探してみようかなって気分な訳だ。まぁ本当に並列して楽しめるのかって言われたら、それはちょっと怪しいけど。インスタントラーメンと炒飯も片方に夢中になって食べてる時普通にあったし。でもまぁ楽しかったら良くね?もっとポジティブに行こうぜ。
「んー………候補が中々に多いですわね………」
以前のように無数の世界の情報に押し潰される可能性もあるので、ゆっくり、しかしじっくりと私が観測出来る世界の数を増やしていく。そうして少しでも観測出来たらそこにうちの子を派遣し、その世界の情報を収集し、訪れても安全な世界なのかを精査し、私が異世界行きたいなーって思った時の検索に出てくるようにしてくれる。
………そうなんだよ。自動で情報を精査してくれるのは良いんだけど、観測は私がやらなきゃ駄目なんだ。権能によるモノなんで仕方ないとはいえ、折角自動化するなら最初から最後まで全自動にしたい。まぁ今は私がやるけど、いずれはどうにかしたい。
「………?」
ふと。たった今観測した世界に、何か違和感を感じた。まだ宇宙の端しか観測してないんだが、たったそれだけで一体何が?もしかして世界単位での観測妨害でもされてるんだろうか。となると、この世界は権能に対抗し得る存在がいる可能性がある。危険かもしれないし、観測を中断──
「!」
あれ、私が観測を停止しようとしても観測が止まらない!権能の展開を停止できない?!えっ何で?!
「く、このっ………!」
明らかに、今観測している世界から
いや本当に一つになる訳じゃないけど、でもそのくらいのレベルで引き寄せられてる。例えるなら重力みたいな、マジで世界に適用された法則レベルの強制力だ。しかも最悪なのが、権能そのものが多少の機能不全がに陥ってるから対処も難しい。
特に、悪魔の権能は軒並み機能が停止してる。新しくうちの子を創れない、うちの子の今の位置を知覚出来ない、うちの子に命令を下しても聞こえてない。既に創った子はそのままだし、下した命令もそのままではあるみたいだけど………それに対して、器用の権能は特に目立った機能の停止が見当たらない。強いて言うなら、器用さを操作する時に必要なリソースが普段よりも5%多いくらいだ。機能そのものに異常は見当たらない。
「これっ、世界に引き寄せられて………?!」
物理的に今観測してる世界の方向へ引っ張られるのと同時に、空間的にもその世界の方向へ引っ張られている。後数分したら勝手に異世界転移させられそうなレベルだ。物理的な方は対処出来るレベルだから良いけど、空間的な方はマジで対処のしようがない。流れに身を任せるくらいしか出来んぞこれ。
「んもう!
『あれ?テアから魔法で連絡なんて珍しいですね。どうしたんですか?』
「緊急事態!帰宅が遅れる可能性アリ!諸々の対処頼みますわ!」
『む、何だか面白そうな事に巻き込まれていますね。私の勘がそう囁いています』
「とりあえず対処だけしてくださいまし!後で何でもしますから!」
『はーい。気を付けて行ってきてくださいね』
「行ってきますわ!!」
私はアリスにそれだけ伝えて魔法を切ると、逃げられなさそうなので仕方なく、引っ張られる世界へ自分から赴くのであった。これ解決しないと帰れなさそうだなぁ………!
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