異世界系の物語に宇宙が出てくることってあんまり無いよね。いや、規模考えたらそりゃ出てこないだろうけど
森の奥地にあった魔王教団を発見した日から7日後。ちょくちょく帝都の宿屋には戻って休憩はしているものの、それ以外は基本的に街の外、魔物蔓延る自然の中で探索をしているのが最近のデフォルトだ。
最近訪れた場所でスゲーってなったのは、今にも噴火しそうになってた活火山かな。普段ならわざわざそんな所入らないんだけど、もう少しで噴火しそうだなーって思ったから、火口の淵に座って噴火の様子を見たんだよね。
もうね、めっちゃ凄かった。火山の中で濃縮されてるみたいに溜まってた火属性の魔力がマグマを勢い良く打ち上げたらしくって、雲より高い位置にまでマグマが噴き上げてたんだよ。しかも莫大な火属性の魔力に押されて噴火したせいか、マグマの温度が軽く太陽みたいなレベルになってたんだよな。
いやぁ、危ない危ない。時空断絶タイプの結界でわざわざ安全地帯を作ってなかったら、直接触れずともその熱だけでドロドロに溶かされてたかもしれん。別に溶けても肉も服もすぐに直るからそんなに困らなかっただろうけど。
「マグマ内部の探索もそこそこ面白かったですし………」
「テア、マグマの中なんて探索したんですか?」
私が1人でここ数日の事を思い起こしていると、唐突に現れたアリスに声をかけられた。うちの子の転移か。
「………アリス、貴女よく
「あぁ、テアの事だから既に気が付いているかと思ってました」
「後、前にも言いましたけれど、あんまり遠くに行くのは駄目ですわよ」
「大丈夫です、ちゃんと理解してますよ。今回はテアの側に来ただけです」
「それなら良いんですけど………よく、
「見ればすぐでしたよ」
「あら、そう?」
………私は今、ヘ型世界の
ちなみに言っておくと、私が宇宙空間でも無事なのは悪魔だからである。悪魔には呼吸が必要が無く、そもそも肉体に依存している生命体ではないからな。アリス?アリスは………どうやってるんだろうね。私、特にアリスさんにうちの子を貸したりとかしてないんだけど………?
後、どうやって宇宙空間で互いに話しているのかと言えば、私もアリスも空気ではなく魔力を揺らして喋っているだけだ。それが揺らせてそこにあるなら媒質が空気である必要性はゼロなのである。まぁ宇宙空間に魔力はそこまで存在していないので、基本的に自分の魔力を放出しつつ揺らしてるだけなんだが。
「それで、アレが何かは分かりましたか?私は最初から分かってました」
「そりゃそうでしょうね………じゃ、間違ってたら添削してくださいな。アリス先生?」
「おぉ、テアに先生と呼ばれるのは新鮮ですね。良いですよ、アリス先生に何でも聞いてください」
私は目線の先にある惑星を見る。あの惑星は勇者と魔王が存在している、何処かのファンタジーのような世界。惑星を示す単語が現地人の言語に存在していない為、私は仮にこの惑星を『トリニティ』と呼んでいる。
これは、この惑星を宇宙から観察した時に、惑星から三つの逆三角形がちょこんと生えているように見える事が由来である。何なら今もバッチリ見えている。前々から権能の範囲内に謎なモノがあったのは分かっていたのだが、なんか地表からじゃ視認出来ないから見えるところから見よう………そういう考えの元、私は今こうして宇宙に居るのである。
「あれは………まぁ、要約するならUSBメモリのようなモノでしょう。バックアップ情報の保存場所ですわ」
「む、流石にそこは分かってますか」
「でなければ、わざわざ地表から宇宙まで来ませんわよ」
「それはそうですね」
話を戻すが、あの逆三角形はとある大昔の人物が不老不死に至ろうとした名残のようだ。それぞれの逆三角形に自身の肉体、精神、魂魄の情報を常に複製し続け、自分自身のバックアップを常に保存する事で、いざという時にバックアップから自分を復元するという、この惑星にある限りは不老不死………という、計画の元に作られた超巨大構造物である。
しかも、この建築物は惑星の内側にいる限り、見ることは愚か物理的に触れることも、そもそもその存在を認識することさえ不可能。絶大な隠蔽能力を有しているので、この惑星の人々はその存在を知らない。一部、魔力感知系のスキルレベルが高い数値だった人物には何かしらの違和感として感じ取っているようだったが、それでもそこに何かある程度しか分からないようだ。
………ちなみに、とある人物の不老不死化は、なんと成功している。肉体のデータも精神のデータも魂魄のデータも、常に複製され続けている………ちゃんとされ続けているし、復元もされている。致命傷を負えば肉体は即座に戻り、心が枯渇すれば精神は補填され、魂が吸い尽くされれば魂魄が補充されている。
そうして復元され続けているからこそ、その不老不死は永久資源として魔王の住まう城の地下に幽閉され、無限の食糧として利用されているのだが。不老不死にはなれたらしいが当人は弱かったようで、割とあっけなく捕まってガチガチに拘束され、そのまま数千年は無限の食糧として常に肉を削ぎ落とされ続け、精神も魂魄も吸われ続け、しかし不老不死によって痛苦の記憶は消して消えないままに積み重なるだけ………とかいう、拷問すら甘い所業を受けているようだ。かわいそうだねぇ。
「停止させた方が良いのでしょうけれど………」
「無理に止めたら最低でも大陸一つ分くらいは消し飛びそうですね」
「下手したら惑星破壊一歩手前かしら………」
あの逆三角形、初めから停止させる気が無かったからか、停止させると物凄い勢いで情報がパンクして、恐らくかなり大規模に爆発する。その破壊力は最低でも大陸一つ、最高でも惑星破壊寸前レベルだろうという推測が出来る。まぁそうなっても私はそこまで困らないが、まだこの惑星の探索は済んでいないのであんまりやりたく無い。
「あ、そうでしたそうでした。お昼が出来ましたよ」
「それ伝える為にここまで来たんですの??」
それ通話してくれれば良かったのでは??アリスにも異世界越しだろうが連絡出来るスマホは渡してあるんだしさぁ。
「私も宇宙から星を眺めてみたいなぁ、と思いまして」
「はぁ、なるほど………」
「ちなみに今日のお昼はカレーです」
「帰りまわ」
だってカレー美味しいし。あ、どうせならうちの子に頼んでトッピングに鳥の唐揚げとチーズを付けてもらおうかな。いや、ここはカレーうどんに改造するのもアリかもしれねぇ………絶対美味しいんだから、どう美味しいのかを追求しなければ………
「テアの時は食欲なんて無いのに、テアは食べ物でよく釣られますよね。食べなくても平気なのに」
「だって美味しいんですもの」
まぁ1番美味しいのは自分の欲望叶えてる時なんだけど、そういうのは高級食材フルコースみたいな感覚なんだよね。んで、それ以外の食べ物類は全部ジャンクフードみたいなもんなんだよ。毎日食べるモノではないけど食べたら食べたで美味しい、みたいな。もう待ちきれないので早く帰ろう。
私はアリスの手を握り、そのまま転移したのだった。
宇宙空間からトリニティを見ていた日から2日後。今日の私が居るのはヘ型世界ではなく、イ型世界だ。何でこの世界に居るのかと言われたら、それは私がちょくちょく集めて行っている集会みたいなのをする為である。
その名も『権能集会』。文字通り、私がこれまで出会った権能使い達を集めて話し合う………まぁカッコつけないで言うのなら、ただのお茶会みたいなもんだ。実際、今日まで何回か行っているが、毎回お茶飲みながらみんなでパーティーゲームをしているんだよな。
いやね?最初はさ、同じ権能の使い手と意見交換する集まりとかあったら楽しそうだなー、って思っただけなんだよ。まだ到達してない人に権能の話をするのは先入観が生まれちゃって権能が弱体化しそうだなーって思ってるからしてないけど、もう既に自分の権能を確立してる奴ら相手ならそりゃもう幾らでも権能の話なんてし放題。何せ全員、誰かの言葉だけで揺らぐようなちゃちな権能してないからな。好きなだけ話せる。
んでまぁ、今日がその『権能集会』なのだが、毎回の場所取りは常に私だ。私が主催者という事もあるが、何せ集会の場所は私が作った亜空間なのだ。私が許可を出さなければ権能使いだろうと侵入不可能な封印措置を施しているので、集会が行われる度に私が許可を出す必要があるのである。
私以外の権能使いには、毎回その空間に入る為の鍵となるうちの子を送り付けている。事前に決めた時間以降でその子に集会場への案内を頼むと、その場で空間転移を行ってくれるのだ。
また、集会場となる空間は内部での10時間がイ型世界の1秒になるようにしているので、忙しい権能使いであっても割と気軽に参加出来るようにしてある。まぁ今までの最長記録は4時間程度なのでぶっちゃけそんなに時間を加速させる必要は無いのだが………一応ね、一応。もしかしたら誰かの権能のせいで長時間閉じ込められるかもしれんし。
「おいテア!妾に対して執拗な妨害をするでないわ!」
「
「あぁ?!上手過ぎなんじゃが?!」
「このゲーム、曲がるの難しい………」
「ゲームが上手いアイドルとゲームが下手なアイドル………ねぇ優也君、どっちの方が注目されると思う?」
「え?あ、えーと………上手くなる過程が重要なんじゃない?」
「なるほど!一理あるね!」
「みんな楽しそうねぇ。私も嬉しいわぁ」
そんな私達は、既に全員集合している。1人目は当然ながらこの私、悪魔と器用の権能使い、キングプロテア・スカーレットである。今は4人同時で対戦出来るレースゲームでソフィアを執拗に妨害の最中だ。だってソフィアのコース取りが上手過ぎて私の前に出てくるから………
2人目は血液の権能使いで吸血鬼、ソフィア・アマリリス=レッドライオン。1位独走中だった所を私の連続妨害によって2位に落とされるものの、何処のRTAなのかと言いたくなるような絶妙なコース取りで着実に私に追いついてきている。 私はプレイヤースキルだけなら無限に底上げ出来るんだけど、こういう知識が必要な部分はソフィアに負けがちなんだよな。だってこいつゲーム廃人みたいなもんだし。
3人目は海の権能使いで人魚、八尾美 睡蓮。彼女以外のメンバーが20歳以下なのでみんなからママと呼ばれがちな彼女だが、ゲームの腕はそこそこ上手だ。今回は人数的な制限でプレイしていないが、もう台詞が完全に子供の呼んだ友達を後ろから見る母親である。とことん寛いでいるのか、普段は見せない人魚形態になっている。実に珍しい。
4人目は粘土の権能使いで大学生、藤原 優也。これまでの人生の大半を粘土とその細工に捧げてる根っからのクリエイターの為、ゲームの腕はこの中で1番下手。しかしプレイが壊滅的ではない辺り、ゲームセンスはあるようだ。当人としては美少女しか居ないこの空間がちょっと苦手なのだとか。それは慣れてもらうしかないんだよな。
5人目は注目の権能使いでアイドル、赤羽 瑠奈。最近は軽くテレビに出演する程度には人気が出てきているらしい。所属事務所からソロで活動して欲しいと言われているらしく、理由としては1人だけ目立ち過ぎて他の子が脇役以下に成り下がるからだそうだ。あまりにも権能とやりたい事が噛み合ってしまっている。
この5人が、今のところ権能集会のメンバーである。みーんなかなり自分勝手なので、パーティーゲームをしていてもそこまで足並みが揃わないのが玉に瑕だ。私とソフィアみたいに対立する事も多々ある。そして全員ゲーム中だろうが問答無用で権能を使うし、そもそも自我が強過ぎて自分のしたい事しかしないので、割とカオスになりがちだ。
「ちょ、ソフィアそのコース取り凄いですわね?!」
「最新RTAの最速コースじゃからなぁ!ほぉら妾が勝つぞ!」
「知識量で負けてますわ?!」
「この後ろ側はこんな感じなのかな………?」
「初見のゲームは下手だけど、何度かやったら上手!みたいなのが1番注目して貰えるのかな?優也君はどう思う?」
「え、あー………そうだね。何度かやったら上手なのが良いと思うよ」
「そっか!じゃあそうしてみよう!」
「このクッキーも美味しいわねぇ。甘さが控えめで良いわぁ」
私はゲーム中だと兎に角勝つ事しか頭に無い。ソフィアは毎度の事ながらゲームに熱中。優也君はプレイ中のステージコースを生成した粘土を遠隔操作し、更にはプレイしながら精巧な粘土のステージを作っている。瑠奈ちゃんは自分がどうゲームでも注目して貰えるのかしか頭になく、隣の優也君にちょくちょく質問している。優也君側はちょっと戸惑っているが、戸惑っていても粘土細工が止まらない辺り、彼も十分自我が強い。八尾美さんは完全に傍観者視点………うむ、全員自分勝手だな!ま、ぶっちゃけいつもの事だ。
「っしゃあ!今回は
「お主走行妨害が上手過ぎるんじゃが?!なんじゃあの的確な視覚外からのアイテム跳弾!流石の妾も見えんと避けられないんじゃが?!?!」
「
「プレイングに関してはこやつの方が上なの腹立つの………!」
「思ったよりも良い感じのが出来た………保管しておこう」
「よし!これならみんなに注目して貰えるね!ありがとう優也君!」
「あ、うん。どういたしまして?」
「あらぁ………この紅茶、香りがとっても良いわぁ」
瑠奈ちゃんは自分より先に『SRO』内で権能に至った優也君にそこそこの興味があるらしく、割と事あるごとに声をかけている。優也君側は割と陰キャ、というより話すのが苦手だから返事は遅いが、答え自体はハッキリとしている。仲が良さそうで何よりだ。
「あーもう悔しいのじゃ!睡蓮!妾もクッキーと紅茶食べるのじゃ!」
「紅茶の方は注いであげるから、クッキーは自分で取ってねぇ」
「八尾美さん!私も欲しいです!」
「あの、俺のもください」
「あらあら、みんな欲しいのねぇ。待っててね、今入れてあげるわぁ。テアちゃんは要るかしらぁ?」
「
「あら、助かるわねぇ」
当然ながら、クッキーやら紅茶やらは全部うちの子が用意したものだ。そもそも会場の用意してるのが私なんでね、軽食くらいは出しますよ。別に今すぐに満貫全席とかでも余裕で出せますけども。とりあえず全員クッキーと紅茶を堪能し始めたので、ゲームの方は一時中断。雑談となった。
「そうじゃそうじゃ。そういや瑠奈、お主この前テレビに出ておったよな。妾は見たぞ」
「はい!テレビに出ましたよ!今後更に注目されますから、期待しててくださいね!」
「うむ、存分にアイドルをすると良いぞ。もしライブをする事になったら、折角だからテアと睡蓮も連れて行くのじゃ」
「まぁライブするなら行きますけれど」
「私も仕事じゃないなら行くけれどぉ」
「じゃから連れてくって言っておるんじゃ」
「わーい!ありがとうございます!関係者席で4人分確保しておきます!優也君も来るよね?」
「えー、まぁ、はい」
「もしかしたら、ライブが粘土細工のインスピレーションになるかもしれまんし、折角なら行った方が良いですわよ。何事も体験ですわ」
「なるほど………一理ある………!」
「その為にも、私はもっと注目されるようなアイドルになるね!まずは日本一!次は世界一!その次は宇宙一!言語の壁も文化の壁も世界の壁も、ぜーんぶ飛び越えて注目して貰うんだ!」
流石は権能の使い手。自分で止まれそうにもない。目標が先で権能が後の人だと特にその傾向が強い。例えばと言うか、今の彼女の目標は日本一のアイドルなのだが………では、それが今後達成されたら?彼女はそこでアイドルを辞めるのか?
否だ。それだけは決してあり得ない。彼女の場合、日本一の次は世界一、厳密には惑星一のアイドルだろう。ではそれも達成されたら?そこで終わり?否、否。惑星一になったら星系一、それも達成されたら銀河一、それも達成されたら宇宙一………みたいに、彼女の目標はどんどん大きくなり続ける。
──神は、己の言葉に縛られる。それが例え口約束だったとしても、そうあれと己が定めたルールなのだから、自分がそれを破る事は決して出来ない。本来ならばそれで何の問題も無い。しかし、本来の想定から外れた挙動──つまり、神以外が権能を使うとなれば当然、バグる。
神は全知全能だ。故に、神には"記憶"という機能が存在していない。蓄積されるべき全ては神の中に存在しており、過去から学ぶ必要も無いのだから。
神は全知全能だ。故に、神には"成長"という機能が存在していない。初めから完成されているのだがら、更に成長する事など不可能である。
そうだ、そうなのだ。神には過去から学ぶ必要などなく、神には更なる育ちは必要としていない。だって、神とは全知全能なのだ。初めから全てを知り、全てを成せる存在にとって、その二つは不必要な要素、機能でしかない。ならば初めから持っている必要は無い。そして権能とは本来、"成長"せず"記憶"もしない存在が扱う術だ。故に、その二つを持つ存在が権能を使用すると、盛大にバグる。
そんなバグの結果こそが『自分で止まれない』だ。過去から学ぶ為の記憶に縛られ、更なる育ちの為の成長に蝕まれる。まぁ当然と言えば当然だろうな。元々は神の技術だ。まぁソフィアや八尾美さんなんかは神と同様生まれ持って権能を持っている存在なので、優也君とか瑠奈ちゃん程ではないと思うが………それでも、やはり結果としてバグるだろう。どうあれ、2人は神ではないのだから。
「んー、流石はうちの子、クッキー美味しいですわね………」
「今日も美味いのぉ」
「美味しくて止まらないわぁ」
「これ、俺も好きだな………」
「私もこれ好き!もっと沢山買っておこうっと!」
この後はそんな緩い発言を全員が繰り出しながら、5人全員で出来るゲームをしたり、全員が適当ながらも雑談出来るようにしたり、全員が数時間の睡眠を取ったりしてから、転移前の元の場所へと帰ったのだった。
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