ファンタジーに出てくる宗教って悪いイメージばっかりなの何で??


うちのサキュバス3人組に男達の相手をさせ、うっかり男達を吸い殺しかけてしまった日から4日後の昼頃。私は1人でヘ型世界の人気の無い森の中を歩いていた。既にサキュバス3人組に消えても平気な男共を30人くらい与えているので、今日ここに居るのはその用事ではない。純粋に、このヘ型世界における自然を久しぶりに体感しようかと思っただけである。


初日から今日まで私は殆ど街の中で、人間の文明に触れていた。じゃあ今度は自然に触れようぜ!みたいなノリで、今私は森の奥深くまでやって来ているのだが………こういうのは中々に楽しいのである。何が楽しいって、魔物共が割と高頻度で襲いかかってくる所だ。


魔物達に言わせれば、私はかなりのカモに見えているらしい。まるで餌を与えたペットのように真っしぐらなのだから、相当私が美味しそうな餌に見えているのだろう。まぁ、当然と言えば当然だ。彼らは全員この世界におけるステータスを感知しているのであって、それ以外の要素を感知する事は出来ていないのだから。


例えば、鑑定系スキルの中には《HP把握》や《MP把握》のというスキルがある。こうした〇〇把握系のスキルは、鑑定対象のパラメーターの値が自分のものと比べて多いのか少ないのか、その2択しか分からない。しかしその分、鑑定妨害系スキルのスキルレベルが高くても効果が発揮されるというメリットもある。


野生の魔物はそういった、パラメーター把握系のスキルを多く保有している。まぁ当然と言えば当然だ。野生の獣に数値が理解出来る訳が無い。自分より高いのが低いのかを知る程度が獣にとって良い塩梅のスキルなのだろう。


うちの子に調査させた結果、主に獲得しているスキルは相手のHP、MP、SPといったリソース系のパラメーター把握は基本として、後は自身が得意とするパラメーター、他にも大抵の相手に対して把握して損の無い筋力、耐久、敏捷などもよく取得しているようなのである。


しかし、これらは全てステータスにおけるパラメーターに割り振った値が、今の自分より多いのか否かを調べるスキルである。それがこの世界の当たり前で、イレギュラーは当然ながら私の方なのだ。


私は元の身体能力が高いので、パラメーターには一つも降っていない。それはハ型世界とは違ってパラメーターを直接操作出来るこの世界で、わざわざ世界からの恩恵を受けても面白くないからである。だからパラメーターは当然のようにオールゼロ。となると、どんな相手に把握系のスキルを使われても、自分より少ない能力の持ち主にしか見えない訳である。


魔物達は相手の大雑把な強さを把握系スキルで確認している。把握系スキルは相手のパラメーターの値が自分より多いか否かを知るスキルである。私はパラメーターの値がゼロなので魔物の大半からは弱者扱いされる。ここまで言えば分かるだろうが、これこそ私が魔物に沢山襲われている理由である。


「くふふふ………」


まぁ、こうして強制連戦させられているのは好きなので、別にやめたりはしない。今も襲いかかってきた狼型の四足獣らしき魔物の首を刀の一振りで切り落とし、且つ返り血を浴びていない自分に満足している程度には、楽しい。


個人的な感想としては、ハ型世界のダンジョンとは違って魔物の種類が多種多様なのが良い所だと思う。ハ型世界のダンジョンって、出現する魔物が階層毎で決められてるから、ずーっとおんなじ魔物を相手してると流石に飽きが入るんだよね。


でも、今は違う。戦う相手は視界内に入るまで分からないようにしているから、どんな相手だろうと初見みたいな感覚を味わう事が出来ている。そもそも現れる魔物の種類が多種多様なので、次はどんな魔物がやってくるのか予想する遊びだって出来るレベルだ。良い、凄く良い。マジで最高の環境である。


知らない相手との連戦連勝というこの環境が、私の中の悪魔の欲望をどんどん満たしている。自分の力が高まっていくのを感じられる。私はまだ強くなる。悪魔は欲望を満たし続ける事で更なる強さを得られる種族。当然ながら、私もそうだ。戦いに明け暮れるだけで強くなれるなんて、それはもう最高としか言えないだろう?何せ、強くなればなるほど更なる戦いを望めるのだから。


「また1匹………きひっ」


刀を振るう。たった一撃だけで、巨人のような体躯の人型魔物の上半身と下半身がお別れした。上半身と下半身がバランスを崩して地面に激突し、小規模な地震のように周囲が揺れる。


あぁ、とても楽しい。本音を言えば対等な能力を持った相手と本気の殺し合いをしたい所ではあるが、それはそれでこうした蹂躙のような戦闘であっても満足は満足だ。何せ、戦闘面の欲はほぼ解消されないが、勝利面の欲は蹂躙でも充分に解消されるからである。


相手が100体だとしたら、1対1を100回したのだと思えばい。たったそれだけで、私は100回分の勝利を味わう事が出来る。なんてコスパの良い欲望なのだろうか。更に素晴らしいのは、この勝利欲とも言えるコレには特に指定するジャンルが存在していない事だ。


ジャンケンだろうが、鬼ごっこだろうが、殺し合いだろうが、果ては裁判だろうが、要は勝ち負けがハッキリしているモノにおいて、私が勝てれば何でも良いのである。しかも、勝利に至るまでの道筋や過程は問わず、最終的に私が勝利したという結果さえあれば満足する欲望だ。つまり、どんな卑劣な方法だろうが勝てれば良いのである。


「あははっ!楽しいですわ!」


本当に楽しい。楽しくて仕方がない。本音を言うならネームドなうちの子を全員出撃させて大蹂躙みたいなのも一度はしてみたいなーって思うのだが、そんな大量に創造したところで対抗できる相手戦力って私が今まで訪れた世界の中には一つもないんだよな………だからって手軽な群れに突入させても面白みとか皆無だし………


せめて………せめてなぁ。せめて私と同じ権能の使い手レベルの存在で、私と同じ生命創造が可能な権能持ちがどっかに居たら、似たような大軍勢相手に戦えそうなんだけど………どっかに落ちてないかなぁ、そのレベルの奴。


そういや紫悠って権能に目覚めたりしたんだろうか。私はあいつに権能についてのヒントをほぼ言ってないから目覚めるかは分からないけれど、もし目覚めてくれたら嬉しいな。そん時は是非私と戦ってほしい。権能使える人で戦ってくれるのって今の所ソフィアくらいだからなぁ。


八尾美さんも優也くんも瑠奈ちゃんも、別に権能を使えば同じ権能使い以外なら余裕で完封出来るとは思うけど、同格相手に戦えるのかって言われたら否だ。特に後者2人は戦闘なんてした事ないから尚更。唯一戦闘経験があるのは八尾美さんだけど、八尾美さんは海の側じゃないと真の力は出せないからなぁ。


けれども、八尾美さんは"海"の権能の持ち主だ。海流の操作やら海水温度の調整は当然、今ある大陸を全て海に沈めるような巨大な津波だって、巨大な台風だって、急激な海面上昇だって、割と好きなだけ生み出せるガチもんの人魚である。そんな相手の得意なフィールドで戦うってなれば、そりゃあ私やソフィアのような戦闘強者であっても勝ち目は薄いに決まっている。四方八方から相手の必殺攻撃がまるで通常攻撃のように降り注がれるんだぞ?どうやって勝てと。


特にソフィアとの相性は非常に悪い。何せ、海という大質量に血液を垂らして多少濁っても海は海、血液の操作では莫大な海の操作には勝てないからである。初めて会った頃にこっ酷くやられたらしいからな。まぁあれだ。簡単に言うと、大量の水によって血液が薄められてしまい、血液判定では無く海判定なってしまって液体を操作不可能になるのである。相性が悪いとかいう次元ではない。


悪魔の権能でも対抗は出来るだろうが………本来海洋及び水中で能力を発揮出来るうちの子は、恐らく全員使えないだろう。何せ環境そのものが相手の支配下だ。むしろ海の生物だからって支配権を乗っ取られる可能性だってある。そうなるとそれ以外の子を使うべきなのだが、それもそれで100%対抗できるのかと言われたら不安が残る。


そうなってくると器用の権能で対抗する事になるが、こちらも上手くいくとは思えない。八尾美さんの器用さを無限にマイナスする究極のデバフは不老不死相手に直接的な被害を発生させられないし、海の操作が不器用になった所で水という大質量を扱われている事実は変わらないし、そもそもデバフの付与が行えるのかすら分からない。最適なのは過程のスキップによる最速決着を狙うくらいだろう。それ以外での勝ち筋が見えないレベルだ。


一応、この仮定はあくまでも戦闘フィールドが海上及び海中である場合である。陸上ならソフィアでも充分勝てるだろう。まぁ八尾美さんも環境構築はしてくるだろうから、相手の得意な環境を整えられる前に決着を付けないといけない。


まぁ一つ問題なのは、恐らく八尾美さんは権能によって好きな場所を海という環境を作り上げられる、という点である。例えそこが住宅街だろうが高所だろうが何だろうが、唐突に海中へと変わるのだ。決して水を生成して無理矢理海を再現する訳ではない。因果に干渉する事で、そこが初めから海であった、という風に現実を書き換えるのである。この方法だと私やソフィアではそう簡単に防げない。


ただ、この方法によって海を発生させると、因果の発生地点よりも低い位置が惑星全域規模で海水に沈む。当然変化範囲を制限すれば範囲外の海面は上昇しないが、正直どんな権能も最低射程範囲より狭い範囲を指定するのは非常に手間がかかるし、何より本気で戦うならわざわざ安全地帯を作ってやる必要性が分からないので、八尾美さんもわざわざ範囲を制限したりしないだろう。


「敵を………更なる敵を………」


まるで何処ぞのバーサーカーみたいな台詞を吐きながら、私は森の中を徘徊する。現れた魔物はどんな巨体であれ全て身体を両断し、どんな敏捷さを持ち合わせていようが刹那の隙を狙って切り刻み、ただ逃走を考える時間すら与えずに殺害し続ける。


どう考えても私は大量の血の匂いを撒き散らしていると思うのだが、魔物はそれでも結構な頻度で私に襲いかかってくる。そしてその大半が、この世界の一般的には強いと呼ばれるような魔物ばかりだ。逆に一般的に弱いと呼ばれる魔物達は私からどんどん離れている。ステータスで考えれば私は弱い魔物に狩られる程度の更に弱い存在でしかない筈なのだが、弱い魔物は私から離れていく。


多分、強い魔物は私をステータスだけで判断する事で弱者だと侮り、弱い魔物は私に纏わりついている血の匂い、強者の気配などの情報から、私が恐ろしいモノだと思って逃走を選んでいるのだと思われる。こういうのが、弱い魔物達なりの生存戦略なのだろう。


この世界は魔物すらステータスに支配されている。であれば、強い魔物はそういった些細な情報を獲得するようなスキルなどは後回しか、もしくは獲得する事を考えておらず、経験値は自らのステータスを上昇させたり、自分が求めるスキルを獲得したりに使っているのだろう。だから、私が異常なのだと気が付けない訳だ。


この世界は非常に平等だ。生物の一存在として強くありたいなら、戦闘に関わらないあらゆる日常的な能力を捨てるしかない。社会の一存在として強くありたいなら、自分が専門としている能力以外の全てを捨てなければ物事を極めるなど不可能。つまり、強者を敵を殺す事で自身の安寧を得る、弱者は自身の生存を追求する事で自身の安寧を得るというだけの、実にシンプルな理屈だ。


まぁしかし、自分の経験の結果が正直にステータスに現れる分、この世界は他の世界よりは遥かにマシな世界だろうな。この世界のシステムを構築した何処ぞの神様とは一回話してみたいぜ。


「………あら」


そんな事を冷静に考えながら敵を求めて森の中を徘徊していたら………ふと、この数時間は感じていない人の気配がした。


当然、こんな森の奥深くに人が居るなんて考えられない。この場所は1番近い街から最低でも数日、長ければ数週間はかけなければ到達出来ないレベルの奥深くだ。そして当然なのだが、ここには一般人も熟練の戦士も到底太刀打ち出来ないような強力な魔物が蔓延っている。


この場所でこんなにも無双出来ているのは、当然ながら私が出鱈目な程に強いからだ。あらゆる攻撃を無意味にする程に回避力が高く、あらゆる防御を無意味にする程の攻撃力を有しているが故である。そうでなければ、私はただ無様な死体を晒すだけだ。


まぁ多分、この場所程度ならアリスも自由に行動出来るだろうし、何ならレイカとフェイも好きに動けるだろう。流石にマスターと妹様は無理だが、それだって私が護衛すれば不可能ではない。しかし残念ながら、この世界の人間にこの森で無双出来る奴は………ほんの一握りだろうな。


となると、この人の気配は全員・・そんな一握りだと仮定するしかないのだが………どう考えても、感じられる人の気配が多過ぎる。少なく見積もってもこの先に100人は居るぞ。この森で無双出来るレベルの奴らが最低100人規模?あり得ないとかいうレベルではない。これはこの世界において異常としか言えない。


何よりも不可解なのは、魔物の気配が人の気配と近過ぎる事だ。隣に居るみたいな感じではないが………そうだな、魔物達が一定範囲をまるで見えていないように動いている、というべきか。


「………まぁ、面白そうですし………」


森の奥地で隠れるように過ごす数百人規模の人々………これは怪しいとか言うレベルではないが、最低限の情報しか獲得していない私にしてみれば、実に楽しそうな未知だ。アリスなら考え無しに突っ込んでいくだろう。多分真正面から調べさせてくださいとか言うんやろな………(遠い目)


まぁ、流石に私はそこまでのお馬鹿さんではない。というか、この場合はアリスが底抜けのお馬鹿さんなだけだ………いや、話が逸れた。兎に角、私は軽くうちの子を使って調べてから、人の気配と接触するか否かを決めようかと思う。


さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。実に楽しみだ。となればこれ早速とうちの子を派遣して、まずどんな集団なのかを確認しようではないか。ふむふむ………これは?


「魔王教団………?」


魔王………たしか、魔物達の王だったか?このヘ型世界は典型的な勇者と魔王が存在している世界らしいので、勇者ちゃんと同じように魔王も何処かに居るとは思っていたが………そいつを崇める教団、だろうか?あれかな、人里でこんな教団があるのを知られると普通に殲滅されそうだからこんな森の奥で信仰してるのかな。


うーむ………色々と資料というか、この教団の聖書みたいなのを読み漁っているが………これは所謂破滅思想、もしくは終末論だ。そしてこの教団の思想を簡潔に言うと………そうだな、自分が今不幸な環境に陥っているのは世界の不平等さが理由だから、魔王によって今の社会を一度破壊して貰って、新たな人生を歩もう!みたいなのである。


まぁ私には理解出来んな。現在の社会を破壊する程度なら、私には数秒も要らない。次の瞬間には新しい社会を構築し終わっている事すら可能である。そもそも誰かに壊してもらうって思想が既に意味分からん。そんなん自分でやれば1番手っ取り早いし、何より自分の好きなように破壊して、自分の好み通りに創造出来るだろう?


いやまぁ、それをするだけの力が無いから他者に縋っているのは分かる。分かるが、何故そこで魔王?あいつ人類の敵じゃないのか?………そう思って調べていたのだが、なんか別に、魔王でも何でも良いらしいのである。


この教団が望んでいるのは、現在社会の破壊と、その後に訪れる新しい社会だ。現在の社会が破壊されるなら別に魔王でも天災でも何でも良いようである。それでいて新しい社会を求めているのだから、どんな状況であれ人間は生き残って新しい社会が生まれると言っているようなもんだ。凄い教団である。


「人員は136名………割と居ますわねこれ」


魔物蔓延る森の中だと言うのに、魔王教団はそこに居住スペースすら確保しているらしい。その中で136人もの人間が共同生活を送っているのだから、恐らく彼らには魔物から発見されない仕組みがあるのだろう。


あいや、今その仕組みを発見したわ。教団施設の地下にあった巨大な魔法陣、これは魔法陣の効果範囲の外から中を見た時に、その場所には何も無いと認識を書き換える魔法が発動するらしい。まぁ言わば、場所に対する認識の改変だな。


私の英雄カレの認識透過と違っているのは、そこにある筈のモノを透明にしているよう見せるのではなく、そこには何も無いのだと思わせる所だ。


例えるなら………そうだな、目の前にリンゴがあるとしよう。認識透過を使ったリンゴはそこに触れても、匂いを嗅いでも、見ても、そこに何かあるようには見えないし、分からない。ある筈のモノを無いように見せている訳だ。


認識の改変は認識透過とは違い、リンゴが周囲へ完全に溶け込むような何かへ変わっているように見えるのである。例えば、机の上にあるリンゴなら机の一部としか見えないだろうし、森の中にあるなら付近にある果実と同じ形、匂い、触り心地であるかのように思わせるだろう。


まぁ兎に角、この教団の施設はそんな効果の魔法陣によって守られているのである。ついでに言うと効果範囲内に対して興味を失いやすくなる仕組みも組み込まれているので、認識改変に対する抵抗力を持っていない存在にとって、教団の施設がある場所は興味を失いやすい周囲と変わらない風景にしか見えないのだろう。そりゃ魔物も近付かない訳だ。魔物の縄張りに選ばれないくらいには平凡な土地なのだろう。


「ふぅむ………教団員は皆、この施設から人里へ転移する道具を持つ事が出来る、と………」


この教団施設へ至る方法は、教団に言わせればたった一つだけ、魔法の道具を使用した直接的な転移だと言う。教団において最も天才と謳われた人物が発明した、片方の転移地点を完全に固定する事で、もう片方の転移地点を自在に変更する事が可能なアイテムだ。


しかも、製造に必要な素材さえあればその転移アイテムを自由に制作出来る仕組みもその天才が作っているらしく、今でも度々使用されるようだ。何なら素材にはある程度の互換性があるので、必須素材以外は割と自由な素材を投入しても良いらしい。それは確かに天才と言わざるを得ない。


まぁただ、その天才は既に死去しているらしい。記録では凡そ350年以上前の人物のようだ。逆に言うなら350年前以上からこの教団はあったという事になる。というか、記録が正しいのなら、この教団は凡そ1,000年前からあるんだよな。何なら各国に支部がある程度には繁栄してるぞこの教団。強い。


いや、この教団は強いというか、技術を的確に残すような仕組みが凄いな。誰がどんな風に利用しても同じ結果を発生させられる道具の発明が、1,000年前からずーっとされ続けている。転移アイテムも、何なら教団施設地下の魔法陣だってちゃんと記録に残っていて、今からでも同じ物を作り出せる程度にはしっかりとした記録だ。作成に必要なスキルも、果てにはそれを獲得する為に必要になる効率的な経験値集めの方法も書かれているので、マジで素材と経験値さえあれば好きなだけ同じアイテムを製造し続けられるだろう。実に凄まじい記録だ。


「やっている事は………あら、別に犯罪ではないんですのね………」


破滅的な信仰という事で、てっきり犯罪三昧のやべー教団だと思ったのだが………別に、そういう訳では無いらしい。安全且つ定期的に購入する魔法アイテムの消耗品が主な資金源で、信仰者は毎日祈りを捧げるだけの些細なもの。教団の思想でも犯罪を行った者は価値の無いゴミでしか無く、どんな社会だろうと正しくなければならないという。


その理由としては、例えいつかは全てを滅ぼされるとしても、今の社会で犯罪行為をする者は新しい社会の秩序を守る事は出来ないから………だそうだ。マジで君らは現社会に不満がある集団なのか?ってレベルでクリーンな思想なんだよな。


それでいて、マジで正しい事しか言ってないんだよ。この教団の人達は今の社会に不満があるから、何かが全てを壊した後に生まれる新しい社会で生きたい!って言う人達な訳で………どうあれ、最終的には社会に身を置く訳だ。となれば、今の社会で犯罪を犯す奴は新しい社会でも犯罪を起こすからするんじゃねーぞっていう理屈は、間違ってないだろう。


………実は教団員の犯罪行為は発見され次第、捕縛してから魔法のアイテムで教団についてのあらゆる記憶を抹消させられる事になっているようだが、ここ数十年はそのアイテムは使用されていないらしい。まぁこの程度は秘密の宗教と考えるなら当然だろう。殺害とかより遥かにマシだ。


「みーんな真剣に祈ってますわね………」


この教団員の記憶をちょっとだけ読み取ってみるが、この教団をお金儲けの場として利用しようと考えている奴や、この教団を犯罪者の巣だと考えている輩は1人も居ない。それ以外にも教団を使って悪巧みをしている奴なんて、本当に1人も居ない。


彼らは全員、本当に真摯な願いの元で、真剣に魔王へ祈りを捧げているのだ。いずれ来る日に備え──それが例え自らの代で無かろうとも、必ず滅びは来ると信じて。そして、その後で新しく生まれる社会が今よりも素晴らしいモノである事を信じている。


一通り心を読んだが、全員とても綺麗な心の持ち主だ。本当の本当に世界の為を思って、新しい社会を求めている。今のままではいけないと、真剣に祈っている。それが自分の代であるかどうかなど関係無く、いつか、それが訪れる事を確信しているようである。


………なんというか、色眼鏡で教団というモノを見ていた分、こうして綺麗な光景を見せ付けられると目が焼けそうだな。闇属性じゃなくて光属性だわ。何なら普通に聖なる光だから悪魔の私にはめちゃめちゃ効くかもしれねぇ。普通に概念的には悪魔特攻とかアンデット特攻とか乗りそう。


「調べれば調べるほどちゃんとした宗教なのが分かってきて面白いですわね、ここ………」


マージで清廉潔白な宗教過ぎる。これで思想が現社会の破壊でなければ大衆にも認められそうなもんだけど………まぁ多分、この教団って初めっからひっそりと行うつもりだったんだろうなぁって。


だってこの教団で開発されたアイテム、隠蔽とか防御とか補助とかは沢山あるのに、攻撃に使えそうなアイテムが殆どない。強いて言うなら一部アイテムを悪用したら攻撃出来そうな形状だったりはするが、それだって普通にその辺のナイフでも使ったほうが威力がありそうなレベルだ。初めから、戦うことより戦闘を回避することを念頭に置いているのだろう。だからこそ逃走用のアイテムは色々あるみたいだし。


「煙幕、認識阻害、転移、ダミー………思い付く逃走方法を兎に角全部試したみたいな布陣ですわね?これ」


まぁ折角発見してしまったので、どうせならと設計図とか諸々の情報はコピーしておく事にした。別に情報をコピーした所で何かするという訳では無いが、あっても困らんだろうし。


ん、そろそろ情報は全て回収し終えたか。流石はうちの子。特に偵察悪魔は非常に進化しており、ホント型世界でナノマシンの実物を見た影響が如実に現れている。


特に大きな変更点は、そのサイズ。以前よりも更に小さくなり、今ではフェムトサイズとかいう単位になっている。更なる小型化により保護色や認識阻害などの存在隠蔽系の機能がほぼ不必要になった為、その分のリソースを全て速度に回し、今では秒速500m近い速度を発揮可能となっている。もうちょいでマッハ2だ。


ちなみに私だが、既に平均的な速度が秒速800m以上になっている。マッハ2以上だ。一応、音速を越えて移動を行う場合はソニックブームが発生しないよう、第八アップデートには音属性によるソニックブーム完全抑制機能を割と前々から取り付けてあるので、その辺りは問題は無い。


そして当然だが、ソニックブームの衝撃は自前の肉体で耐えられるので問題はゼロだ。悪魔が人間などのように肉体依存ではなく完全に精神依存の生物なのもあるが、それ以前に悪魔の権能による永続的な能力強化によって私の全能力は常に向上し続けているからである。


数十メートルの金属塊を拳で粉々に砕き、電車に轢かれても怪我はせず、平均的な移動速度は秒速800m以上と、肉体性能はどんどん向上していっている。何なら悪魔にとって重要である精神的な能力の方は権能によって極端に伸びているので、私は既に割と超人だ。


「………あら、そろそろ帰らないと………」


私の視界の端に、アリスが帰宅したという報告が護衛に付けていたうちの子から入った。今日も心の底から色々な事柄を見たり聞いたり実際にやってみたりと全力で楽しんだようなのだが、興奮が治っておらず、ハイテンションなまま私に色々と話す為に私を探しているようだ。


アリスをハイテンションなままで放置してると面倒なのでさっさと帰ろう。どう面倒なのかと言われたら………ハイテンションなのが数日続いたと思えば、そのまま疲労でぶっ倒れるまで動き続けるんだわ。どう考えても健康に悪いからやめさせたいんだけど、時間経過で悪化するタイプだから私の鎮静レストを使うしか無いんだよな。


まぁいい。さっさと帰るとしよう。

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