オークションって実際に参加した事ないけどどんなもんなんだろうか
スキルを大量獲得した次の日、私は普通に街の中を散歩していた。勿論、当然の様にステータスの偽装は行なっている。いやぁ、スキルを獲得したのは良いんだけど、スキルレベルが最大なんだよね。見られるとヤバい。普通に自業自得。
このヘ型世界でスキルレベルⅩって普通に英雄か人外の類だからね。だって、必要経験値量がエグいもん。レベルⅠの最低消費経験値は1,000だけど、レベルを一つ上げると必要経験値が1桁増えていって、最終的には1兆を越える。最低でその量だ。高いのだと最低消費経験値が1万や10万は簡単に越えるから、最終的には10兆とか100兆とかになるんだぜ?
足りない、足りないのだ。スキルレベルが最大に至るまでの経験値が、圧倒的に足りない。この世界では一つだけでもスキルレベルが最大になるだけで英雄扱いになる。そりゃそうだ。必要な経験値量が多過ぎるのに最大レベルに上げられたという事は、それだけ大量の経験値を獲得するような経験があったという事なのだから。
そんな偉業レベルのスキルを大量に持ってるんだぞ。バレたら英雄どころじゃない。女神扱いされてもおかしくない。いやまぁぶっちゃけ権能持ちの存在なので神様と言っても間違いではないんだが、だからって私は信仰されたい訳じゃないんだよ。信仰由来の神じゃないから信仰心があってもエネルギーに出来る訳でもないし。仮にできてもエネルギー変換効率が最悪だし。
「んー………あら、いい歌………」
色々と思考を巡らせながら散歩していると………ふと、綺麗な女性の歌声が聞こえてくる。悪魔の聴覚ですらほんの少ししか聞き取れないような遠方からの歌声ではあったが、非常に美しい音色だ。恐らく、音楽関係のスキルに特化させているのだろう。
しかし疑問なのだが………この声、何処から聞こえてきてるんだろう。
「………地下?」
音の反響を権能で詳しく調査すると、その音はこの街の下水道の先にある、地下の空間から聞こえてきているらしい。更に詳しく調べてみれば、この地下空間は秘密の奴隷オークション場のようだ。直接中に入る通路は一つだけだが、転移効果のあるアイテムによって各国から密かに集まっているようだ。
それにしても、奴隷か。奴隷の付けている首輪には外そうとすると猛毒が注入される装置が、手枷には肉体的な能力を弱体化させる付与効果が、足枷には魔力的な能力を弱体化させる効果があるらしい。外そうとすれば毒を、逃げようにも肉体と魔力が弱体化しているから逃げられない………と。
少なくとも、経験の少ない少年少女ならばそれだけで拘束が済んでしまうんだろう。この世界はどうしても経験の差が実力の差になる。何せ、どんな経験だろうと全て戦闘能力に注ぎ込んでしまえば、どれだけ弱い人間だろうとそれなりに戦えるようになるからな。しかしそれをするには、相応の経験値が必要だ。
だからこそ、経験値の貯まっていない少年少女を狙う訳だ。そうすれば、今後の成長性も見込めるだろうしな。しかも、どんだけ才能が無くても、例え子供であったとしても、その能力を望んだ方向に伸ばせる。奴隷の価値は若いだけで上がるんだろうな。
はぁ………ヤダヤダ。わざわざか弱い存在を狙って攫い、今後の成長全てを奪うなんて。本当に、理不尽極まりない。
けれど、どれだけの理不尽だろうと、私には心底関係が無い。そもそもの話、私は異世界の住人で、この世界での立ち位置は単なる観光客、ただの傍観者だ。側から見て楽しんでいるだけの存在なのだ。何かをする必要も何も無い。
「まぁ、運が悪かったと思ってくださいな」
本当に綺麗な歌声を聴いてしまった。美しい音色だと、綺麗な歌声だと、そう思えてしまうような声が聞こえてしまった。良いさ、運が悪かったと呪うといい。
………いやまぁ、私が直接手を下す訳ではないが。
「アリス………貴女、何でそこに居るんですの?」
なんかね、知らない間にね、アリスさんがその奴隷オークションに乗り込んで、魔法を使って悪人共を一網打尽にしているようなんだよね。ねぇ何で貴女そこに居るの??また主人公みたいなトラブルに巻き込まれてるの??なんか手枷着けられてるから奴隷にされ掛けたっぽいしさぁ。マジで何処の主人公なの??
けど、魔法一つで奴隷オークションの会場を支配したのはマジで凄いと思う。当然のように奴隷の子達には被害が出ないように立ち回っているのも中々に凄い。というか、対犯罪者組織の動きがあり得んくらい慣れ過ぎだ。相手の身分関係なく丁寧に凍らせてるから慈悲ではあるんだろうなって。そうでなければ今頃全員死んでるだろうから。
んで、まーた慣れた手つきで犯人達を拘束し始めるじゃんアリスさん。というかどんだけ拘束用の魔法道具持ってるんだ。数人同時に拘束して肉体性能を一定ラインまで低下させつつ魔力操作を一時的に抑制する事で拘束する、確か封印型とかいうタイプの紐型魔法道具っぽいけど………ざっと200本くらい持ち歩いてない?何でそんなにあんの?
アリスは空間属性に適性が無いけど、その代わりに魔法道具を持ち歩いてるのは
「………拘束完璧ですわねぇ………何処で覚えたんでしょう?」
犯罪者共の拘束を終えたアリスは、今度は奴隷達の解放を行うようだ。一人一人の首輪と枷を魔法で的確に解析し、丁寧に凍らせて破壊していく。その姿は、奴隷の子達から見たら英雄のように見えただろう。そのまま地上へ向かう道から外に出る手際も良い。兵士の詰め所に向かって違法な奴隷オークション会場から救出してきたって説明も慣れてるんだよな………何回似たような経験したんだアリス。
その後はもう兵士さん達が大騒ぎだ。兵士達が地下の会場に殺到し、捕縛された犯罪者共が全員逮捕されていく。他国の貴族とかそういうのもマジでお構い無しで逮捕していく。それだけ、この世界において他人の成長を強制する事が禁忌という事だろう。そりゃそうだ。スキルやパラメーターは完全不可逆。一度獲得したら元には戻らないんだからな。
そんな世界なので、違法な奴隷の売買を行っていた団体も、そんなオークションに参加していた奴らも、証拠が集まり次第全員まとめて処刑する事が早速決まったらしい。はは、ウケる。
そしてそんな大犯罪を見つけ出し、更にはたった1人で制圧したアリスさんは、なんとこの国の帝都へ赴いて皇帝に謁見しなければならないという。皇帝さんが褒美をくれるらしいので、貰うために赴かないとダメだそうだ。
まぁ、ちゃっかり私の連れも一緒に行きますねって言ってる所が強かだよなアリス。そしてその連れってもしかしなくても私だよね??だって権能越しにアリス達を見てるのに、アリスだけ的確に私と視線合うんだもん。むしろ何で権能越しの私の視線が分かるんだ。
「アリスは色々大変そうですわよねぇ………」
アリスはなぁ。何故かはマジで分からないんだが、私と一緒に居る時はこういうの遭遇しないんだよな。けれど私が近くにいない時に限ってこういうトラブルに巻き込まれたり自分から首突っ込んだりするらしいから、ぶっちゃけこういうのを知るのって初めてだったりするんだ。側から見てる分には楽しいね、側から見てる分には。
だから私、帝都には行きたくないんですが………あ、はーい。アリスさんの視線から一緒に行きますよ(強制)って聞こえてきたので行きますよはいはい。何かあったら国を滅ぼしてでも逃げるだけだし。
「………ふわぁ………」
アリスの行く末を確認する為に座っていたベンチから立ち上がって、私は軽く欠伸をした。あの綺麗な歌声の少女も既に兵士に保護されたらしいので………まぁ、私がわざわざ出張る必要は無いだろう………どうにかしてアリス経由で歌声聞けないかしら………?
「喧騒が心地いいですわねぇ………」
散歩は私の趣味だ。正確に言うなら、最近趣味の一つになったと言うべきだろう。私の知らない場所であろうとなかろうと、私が望む方向に歩くだけの行為ではあるが、何だかそれがそこはかとなく楽しいのである。
ま、趣味ってのは当人にしか分からない楽しさがあるもんだ。例えば私は他にも読書が趣味だが、本を読むのが苦手な人からしてみればどうして楽しいのか分からないだろう?逆に私は、筋トレとかの趣味が何故楽しいのかが分からない。身体を動かすよりも本を読んでいた方が楽しいじゃん?ってなるし、そこはもう個人差としか言いようがない。個人差の究極系みたいな権能の持ち主に言われたかないだろうが。
「んー………そろそろ帰りましょうか」
このベンチに座り始めてもう数時間は経ってるからなぁ。いやまぁアリスの行く末を落ち着いて見届けようと覗き見してたのが悪いんだが、流石の私もそろそろお外でゆったりしてるのにも飽きてきたのでね。丁度アリスが帰る所みたいだし、途中で合流して帰るとしよう。
2日後。私はアリスに連れられるがまま馬車に乗っていた。実はソフィアも来たがっていたが、イ型世界の方で仕事が入ってしまったので来ていない。
「──そうして、テアは私を連れ出してくれたのです!」
「ほう………スカーレット殿、貴女は実に素晴らしい人間のようだな」
「えぇと、ありがとうございます?」
ちなみに、乗っている馬車は帝国所属の騎士団の護衛付きだ。ついでに言うと今のアリスと私と出会いの話をしていたのはアリスさんで、その話を聞いていたのは私の他にもう1人、帝国騎士でも珍しい女性騎士のシャロンさんである。短めな銀髪と吊り目気味の青い瞳を持つ人で、アリスが帝都に到着するまでの護衛である。
当然なのだが、褒美を与えると言った人間が褒美を与える前に死んでもらっては困るんだろうな。ちなみにそういう理由での護衛なので、私には1人も居ない。褒美を受けるのは私ではなくアリスであって、私はただの同行者に過ぎないからな。
しかしアリスは何を血迷ったのか、シャロンさんに私とアリスがどうやって出会ったのかみたいな話をしてるんだよな。普通に私が恥ずかしくなってくるからその話やめない?とか思いつつ聞かされていたが………なんか、アリスの中で私が美化され過ぎじゃない?側から聞いてると私は一体何処の聖人なんだろうって言いたくなるんだけど………?
………ま、いいか。ちょっと冷静になったけど、別に私の悪口言われてる訳でもないし、むしろ私のイメージが良くなる分にはそんなに困らないし。
「そういえば………アリス貴女、どうしてあのオークション会場を制圧してたんですの?」
「言ってませんでしたっけ?あれはですね──」
ふと気になったので、どうしてオークション会場とかいう所にアリスが居て、どうして完全制圧をしようとしたのかを教えてもらう事にした。
………アリスはここ数日、この街を探索していたそうだ。まぁそうだっていうか、アリスが新しい街に来たら大抵似たような事をやってるけども。兎に角、アリスはそうして色々な未知を調べている内に、この街で数年前から起こっているという拉致事件についての話を聞いたらしい。
アリスはトラブルメーカーとしての勘と真理の瞳に従って、その拉致事件について調べ始めたのだそう。勘とか言ってますけど、こいつただ拉致事件の内容を知って興味惹かれただけですよ。アリスならそうする。
まぁ理由は兎も角調べ始めて、拉致が発生した場所を詳しく見たり聞いたり触ったり色々としていたら………なんか拉致事件の犯人みたいな奴らに脅されたらしく、そのままオークション会場内の牢屋にまで向かったらしい。あの時は少し怖かったですとか言ってるけど、こいつ私の第二アップデートと似たような自動防御&自動反撃の魔法持ってるから絶対自分からトラブルに首突っ込んでるんだよな。その上で少し怖かっただけだろそれ。
んでまぁ、牢屋で手枷を付けられた瞬間に身体が重く感じたらしいので、流石にヤバいかなーと思って咄嗟に魔法で凍らせてから牢屋から脱出、そのままふと聞こえてきた綺麗な歌声の方向に歩いてたらオークション会場のど真ん中だったので全員凍らせて捕縛………みたいな感じだったとか。
いやアリスお前、どう考えてもめちゃくちゃ自分からトラブルに首突っ込んでるやん。え、待って待って。もしかしなくても普段から常にそんな感じなの?嘘でしょ??もしそうなら納得いったよ。私が一緒の時はアリスの手綱を私が引いてるからじゃん、アリスがトラブルに巻き込まれてないの。後は私がそういうの避ける傾向にあるのも関係ありますよね??
いっつも巻き込まれたトラブルの概要だけ聞かされて具体的に聞き出した事無かったから気が付かなかった………何回か軽く聞いた事もあるけど、確かどんなトラブルだったのとかは聞いた記憶あるけど、具体的にどうやってトラブルに辿り着いたのとか聞いたの今初めて聞いたかもしれない。
………いやまぁ、良いんだよ?アリス当人がそれで良いなら、別に。自分から理不尽に突っ込んでいって死んだとしても、それは自分から首を突っ込むのが悪いんだもの。自業自得ってやつだし。
でもそれはそれとして今度からうちの子の護衛は付けておこう。私の知らない所で死なれても困る。だって、一度助けたんだから。最後にアリスがとっても幸せだったって言わせるまで、私が助けきらなきゃだものね。これは義務だし、そして約束なんだもの。私が誰かを助けたのなら、私が最後まで助けなきゃいけないもの。一度幸せにしたのなら、二度と不幸にしちゃいけないから。
「──そして、こうしてここにいる訳です」
「アリス貴女………マジで無法ですわね………」
「楽しかったですよ?」
「あぁはいそうですのね」
この子はさぁ………トラブルがあっちから来るのは兎も角、自分から首突っ込んでくのはもう違うじゃん。それはもう否定の出来ないお馬鹿さんじゃん。お馬鹿さんがよぉ。
「テアといる時はちゃんと自重出来てるでしょう?」
「貴女ねぇ………常にとは言いませんが、
「そんなのテアに二度と戦って勝つなって言ってるようなものですよ」
「じゃあ無理ですわね」
けど悪魔の本能レベルで未知に自分から首突っ込んで行っちゃうの、人間の生存本能としてどうかと私思うけどなぁ。本能が仕事してねぇ………自我が強過ぎる。
「くく、お二人は実に仲が良いのだな」
「はい!とっても仲良しですよ!」
くそ、正面から色々言われると中々に恥ずかしいなこれ。ソフィア連れてくれば良かった。そしたら勝手に2人で盛り上がってくれたろうに………いや、既に私が悪魔とか言う分類で言えば魔族側っぽい奴が居るのに、わざわざ追加で吸血鬼を連れてく必要は無いか。
「あぁ、そうだ。実はお二人が謁見した後で、この世界初の勇者召喚が行われると団長から聴かされている。特に用事が無ければ見てもいいと言われているが、見るか?」
「!テア!勇者召喚ですって!絶対見ましょう!」
「まぁ、それは
私以外が使う異世界転移の方法も見てみたいからな。見せてくれるってんなら見るよ。
「では、お二人も参加すると団長には伝えておこう。………おや、そろそろ帝都に到着するぞ。外を見てみると良い」
シャロンさんにそう言われて、私もアリスも同じ窓から外を覗く。
「わ!凄く高い壁が見えます!」
「あれはこの世界で最も高く、厚く、硬い壁として有名な帝都の壁だ。帝都が人類の安息地と呼ばれる所以の一つでもある」
シャロンさんの話によると、あの壁はこの帝国が心血を注いで作った帝国における守護の象徴なのだとか。物理にも魔法にも強い希少功績をふんだんに使い、更には無数の防御魔法を何百何千と重ねて付与されているようで、ドラゴンのような強大な魔物のブレスでもそう簡単に壊せない程の防御力を誇るのだそう。
「まぁ、実はあの壁に張られている防御魔法の大半は、帝都の住人が余裕のある時に張っているものばかりなのだがな」
「どういうことですか?」
「いやなに、簡単だよ。あれだけ巨大な壁だ。国が全ての場所に強力な防御魔法を何百何千と張ろうとすると尋常じゃない経費もかかるし、そもそもそれだけ人員がいる訳でもない。それに、それだけ強力な魔法を使えるなら魔物や魔族を討伐して貰う方が有意義だ。ではどうするのかとなって、その時、街の中に居た1人の青年が言ったらしいんだ」
「ふむふむ」
「『私達は街の中で怯え震えているだけではダメだ。守られている事に安堵だけしていてはダメだ。自分達であの壁を強くしよう。魔法を使って、あの壁を少しでも強くしよう』、とね。街の人々はそんな青年の言葉に感銘を受け、その日から街の人々は壁に向かって防御魔法を使い始めたんだよ」
「なるほど」
「勿論、初めの方は弱い防御だった。当たり前だ。その場で取ったばかりのスキルではそんなものだろう。だがしかし、街の人々は毎日、そう、毎日防御魔法を張り続けたんだよ。1ヶ月が経つ頃には、壁に付与された防御魔法の数は数十万だ。どれだけ弱い魔法だろうと、それだけの防御があればどんな攻撃だって防げるだろう?」
「毎日の積み重ねが凄いです!」
「だろう?私も当時はそう思ったな。そうした積み重ねが継続されていって、今ではあらゆる攻撃を防ぐことの出来る絶対の壁、この国の守護の象徴だ」
「継続は力ですわね」
「あぁ、その通りだ。しかも、壁に防御魔法を使うのは既に街の人々の日課にもなっているからな。今もずっと防御能力は高くなっているぞ」
中々に面白い話だった。こういう、集団の全員が同じ望みの為に同じ事をするっていうのは、スキルを獲得すれば誰でも出来るようになるこの世界だからこそだろう。他の世界では才能やら適性やらで阻まれて、全員が同じ魔法を使ってのは無理だろうしな。
「おっと、こんな話をしてるうちに帝都に入るぞ」
「あれ?検問は無いんですか?」
「お二人の検問は既に済んでるよ。ほら、馬車に乗る前に色々と荷物を確認させてもらったろう?」
「あぁ、あれ検問だったんですのね………普通に気が付きませんでしたわ」
あっぶね、でっちあげた持ち物類のステータスも偽装出来るようにしてて良かった。
「わぁー!テア!凄い人です!謁見が終わったら行きますよ!」
「はいはい。終わったらですわよ」
帝都の中に入って始めに見えたのは、沢山の人。そして、それに合わせて聞こえてくる街の喧騒。少なくとも馬車から見える景色だけで判断するなら、この街は一つ前の街とは比べ物にならないくらい活気付いているな。マジで都会の街中か?ってレベルで人が居るからヤバいわ。そんだけの人が住んでたり訪れてたりするって事でしょう?うひゃあ。
「謁見!勇者召喚!帝都!興味を惹かれるものばかりで困っちゃいますね!」
「困ってるように見えませんわよー」
くっそニコニコしやがって。
「そうだ、謁見の際の注意事項を話しておこう」
「あ、そうですね!礼儀は大切ですから!」
「まず徹底しなければならないのは、皇帝様から声をかけられるまで頭を下げている事だ。それだけ守っていればそうそう怒られたりしないよ。あぁそれと、丁寧な言葉遣いである事も必要だ」
「その程度ならアリスでも出来そうですわね」
「テアにだけは言われたくないですね。頭、ちゃんと下げられますか?」
「下げられますわよ別に………変なプライドとか無いですもの」
アリスは私を何だと思ってるんだ。そりゃあ権能の使い手はみーんな自己中心的で自我も強いから頭下げられなさそうなイメージはあるかもしれないけど、別に頭下げるくらい出来るよ。そもそもこの頭下げるってのもこの国の文化ってだけで、貶められる為に頭下げる訳じゃないでしょう?それなら出来るよ。貶める為だったら反抗するけど。
「というか、
「む、私がその程度出来ないとでも?」
「周りに貴女の興味を惹くモノが大量でも?」
「…………………………デ、デキマス……ケド………?」
声ちっさ。
「無理そうですわね………」
「で、出来ます!あんまり周りを見ないように我慢します!頑張ります!」
「頑張るとか言ってる時点で………」
もうダメそう。
「くく、安心してくれ。周りを見回すくらいなら大目に見てもらえるさ。特にアリス殿はな。あれだけの偉業を成した英雄なんだ。無下には扱われないよ」
「じゃあ皇帝さんが来るまで色々見てますね!」
「アリス………」
開き直ってるんじゃないよ………まぁいいか。王様が来たら私が無理矢理にでも頭下げさせよう。
「む、もう城に着いたようだ。お二人、ここで降りるぞ」
アリスにジト目を喰らわせていると、馬車の動きが止まった。城に着いたようだ。シャロンさんは馬車の扉を開くと、私とアリスが馬車から降りやすいように手を差し伸べてくれた。まぁ私もアリスも別にこの程度の段差気にしないんだけど、折角の好意だから無下にするでもなく普通に手を借りて馬車から降りる。
馬車の目の前にあったのは、本当に空を突き抜けるのかと言わんばかりに大きな城だ。しかし綺麗で美しい城という訳ではなく、まるで要塞のような無骨な作りの城らしい。まぁいざとなったら帝国最後の防衛拠点になるだろうし、そりゃそうだとしか言えないんだが。
しかし、だからと言って荘厳さが無いという訳ではない。むしろ荘厳さに溢れていると言って過言は無いだろう。それほどの重圧感が感じられる、実に良い城だ。まぁ私は城とかあんまり見た事無いので、ぶっちゃけ良さとはよく分かって無いんだが。どうせ私の一撃でぶっ壊せるし。
「この先が謁見の間だ。私は入る事を許されていないのでな。お二人で入るといい」
「あれ、
「あぁ、アリス殿もお一人で皇帝の前に立つというのは不安だろう?だからこういった場では、自分以外の知り合い1人までなら同時に入る事を許されているんだ」
「それじゃあ一緒に入りましょう!シャロンさん、ここまでありがとうございました!」
「えぇ、ありがとうございましたわ」
「くく、お二人が気にする事はないさ。これは仕事だからな。しかし実に有意義な道中であった。では、また何処かで」
シャロンさんはそれだけ言って、スタスタとこの場を後にした。ふーむ………やはり女騎士はカッコいいな。なんか外見は綺麗な美人さんって感じなんだが、言動は完全にイケメンだ。あれ絶対惚れてる女の子いるぞ。何なら私もシャロンさんがイケメン過ぎて惚れそう。イケメン美人良いね………
「………じゃ、入りますわよ。アリス、あまりはしゃがないでくださいましね?」
「大丈夫です!我慢します!」
「我慢は頑張ってくださいまし………」
私とアリスが小さな声で話していると、謁見の間の扉が開き始めた。
開かれた扉の先は、かなり広い空間が広がっていた。最奥には少し違い場所に大きな椅子があるので、あれが所謂玉座みたいなもんなのだろう。そして何より目立つのは、その玉座に座っている老齢の男性と、その男性を守るように立つ全身鎧4人。そして、この部屋の中央を囲うようにして立っている大臣のような人々。ふむ、見てるだけでかなりの威圧感があるな。
「──頭を垂れよ。我こそはこの国の皇帝、ミードハイゼン・セントウォーク・ハルバルスである」
観察していると、そんな声が謁見の間の中に響き渡った。これ拡声系のスキル持ってそうだな………
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