経験ハ全能ヘト至ル階梯

吸血鬼、悪魔、人間………この組み合わせ、普通に悪側では?


ホ型世界を堪能した日から、今日は5ヶ月後。イ型、ハ型、ニ型、ホ型世界では2月4日、ロ型世界では2月7日、そして今日赴くヘ型世界では2月9日となっている。恐らくというか、イハニホ型世界の時間経過が同じなのは確実に縁頼りで異世界転移をしていたからだろう。文明の雰囲気が似てたのだ。時間の流れくらい似るだろうよ。


しかし、ヘ型世界は以前までにしていたような縁頼りの転移ではない為、時間の流れが大分違う。具体的には1年が400日で、1ヶ月が20日とかだ。追加で言うなら1日は30時間だし、1時間は90分だし、1分は90秒である。マジで色々と違うが、こういうのはロ型世界でもう慣れた。


とりあえず、今回赴くヘ型世界がどういう世界なのかと言うと………そうだな………端的に言うならTRPGみたいな世界?あ、宇宙的恐怖コズミックホラーの方じゃなくて、剣の世界の方ね。


とりあえず調べた所によると、ヘ型世界のあらゆる生命体は自分の行動全てで得られる経験値を蓄積させられるらしいんだよね。これはあれだ、TRPGで言うところの経験点みたいなやつ。んで、その経験点を消費する事で、自分の色々な能力を上昇させたり、好きな技術を獲得出来るらしい。逆に言えば、そうでもしないと一切成長出来ないのがこの世界の生命体なんだそうだ。


何でそんな仕組みになってるのかと言うと………この世界を作り上げた創造神が、あらゆる生命体が望む方向へ進化出来るようにと考えたシステムなんだそうだ。経験値の蓄積はヘ型世界の生命体特有の性質なので私には出来ないが、自分自身のステータスを把握する恩恵は私でも扱えると思われる。少なくともうちの子は把握出来た。


まぁ………自分のステータスを把握出来たとしても異世界人には経験値を蓄積する機能が存在していないので、自分のステータスは上げられないし、スキルも一切獲得出来ないが………


「のぉ、妾も着いていきたいんじゃが………ダメか?」


「えぇ?ソフィアも着いてくるんですの?」


「良いじゃろ?妾もファンタジーな異世界を堪能してみたいのじゃ」


「魔法少女とは会ってるでしょうに」


「中世系のファンタジーが良いんじゃ!」


「ですけれど………ヘ型世界で吸血鬼って普通に魔王側ですわよ?」


「お主は悪魔じゃ」


「まぁ………そうなんですけれど………」


実はヘ型世界は、世界の全てを支配しようと魔物や魔族を生み出す魔王と、それに対抗する為に各国から選出される勇者がガチで存在しているタイプの世界だ。物語ではよくあるタイプの世界規模の大戦争の真っ最中なのである。ちなみに今は魔王側が優勢で、人類側は禁じ手とも言える異世界からの勇者召喚をしようとしているらしい。あまりにもテンプレ過ぎて面白いよねこれ。


「テアー!駅前に美味しそうなクッキーが売って………あれ?どなたですか?」


「あら」


「ぬ、誰じゃ?」


私とソフィアが話していると、アリスが転移を使って私の所へやって来た。あ、ここソフィアの家の中なんだよな。流石に土足はまずいぞ。


「アリス、まずは靴を脱いでくださいまし」


「おぉ?確かに室内ですね!すいません!」


「いや、別にそれは良いんじゃが………そやつは?」


「この子はアリス。わたくしの………まぁ、パートナーとか相棒とかそういう感じのですわ」


「ご紹介されました!そういう感じのです!」


「うむ………そうか。妾はテアのゲーム友達じゃ。よく妾の家で一緒にゲームをする仲じゃな」


「おぉ、貴女が吸血鬼のソフィアさんですか!色々聞いてます!よろしくお願いします!」


「こちらこそよろしくじゃ」


アリスのテンション高いなぁ。いやまぁ、ロ型世界の吸血鬼は滅多に見られない種族だし、普通に人類に敵対しがちな種族だから仕方ないとは思うけれど………


「では早速ですが、ちょっと全身を触らせてもらってもいいでしょうか?」


「なんじゃって??」


ほーらやった。アリスさん、見たことのない種族を見るとすーぐ全身余す所なく触りたくなるんだから。一応断りを入れてOK貰ったら触ってるけどさぁ。それでアリスさんはええんか?なんかもっと他に方法あるじゃろ。


「実はソフィアさんの肉体が血液で構成されているのは事前に聞いていたんですけれど、本当にそう見えるのがかなり珍しくてですね。もしよかったら手触りを確認したいな、と」


「………なぁ、テアよ。こやつはいつもこんな感じなのかの?」


「まぁ、はい」


「そうか………まぁ、あまり変な所を触らなければ、自由に触るがよい」


「では失礼しますね!」


「むにゅ………」


真っ先にほっぺから行ったなこやつ。まぁ確かに触りやすそうな形はしてるが。


「ほう、ほうほう………皮膚も髪も眼球も歯も爪もぜーんぶ血液なんですね!でも皮膚の触り心地は人肌そっくり!血液が人の形をしてるのって何だか新鮮だったんですけど、こうして人らしい触り心地があると尚更新鮮です!」


「むぅにゃあむぅふみぃなぁ」


ソフィアがめちゃくちゃにされておる。意味のある単語を喋れてない。そしてアリスのテンションが無限にぶち上がってってる。こりゃあ中々元には戻らんぞ?とりあえず私は巻き込まれる前に離れとこーっと。


そうしてアリスがソフィアを堪能すること、凡そ10分程度。こっちに被害が来ないように静かに小説の続きを読んでいたが、やっとソフィアが解放されたようだ。


「ふぅ………疲れたの」


「満足しました!では異世界に行きましょうか!」


「まぁ………アリスが良いなら良いですけれど、入学準備とかあるんじゃないんですの?」


「大丈夫です!既に全て終わらせました!」


「なら良いですけれど」


まぁ、既に余計な時間をちょっと使ったんだ。行くならさっさと行くとしよう。


「じゃ、転移しますわよ。準備は良くって?」


「はい!大丈夫です!」


「うむ、頼むぞテアよ」


「それでは………転移」


そのまま、私達はイ型世界から姿を消したのでした。








次の瞬間、私達は異世界に居た。一応転移先は事前に選んであり、人目が無くて良い感じの広さがある場所への転移を行なっていた。具体的には森の中の開いた土地だ。人類の脅威となる魔物も居らず、自然と共に生きる動物もおらず、文明の構築者たる人類も居ない場所である。1番近い街からでも歩いて1時間くらい必要なので、誰かに見つかると言う事は無いだろう。多分。


「お、おぉ………!分かる、分かるぞ!大気中にある魔力の質から大分違うぞ!そして見よ!月が三つもあるぞ!」


「おぉー。あぁ、そう見えるのかもしれませんが、あの内の片方が月の魔力反射によって写された虚像で、もう片方は大昔の魔法使い達が月を再現して作ったものらしいですね!」


「なんじゃと!?しかし三つの月に見えるのは確かじゃ!凄いのう!そしてアリスも凄いのじゃ!真理の瞳じゃったか?そのようなものを持っていたとてそこまで詳しくは熟練しとらんと分からんじゃろうに!」


「えへへ、ありがとうございます!」


うぅむ、この2人は案外相性が良いな。勝手に会話が続いていく。


さて………どうせなので、仲良く話し始める2人の会話をBGMとして、この世界についての情報を改めて整理しよう。まず初めに………私は今回、必要最低限以上の情報を知らない。これがどういう事かと言うと、私は赴く世界の選定の大半をうちの子に任せたのである。


うちの子を派遣したりして世界の情報を集めに集め、それぞれの世界に合うようなタグを付ける。私はそうしてタグの付けられた世界を探す為に検索をかける事で、その世界についての簡易的な情報のみを得られる………みたいな仕組みを事前に作成していたのである。そして今回の世界はそうして選ばれたので、私はこれから向かう世界がTRPGみたいに経験値を貯めて色々と使えるらしい………以上の事を知らないのだ。


一応最低限の情報として、居るだけで危険な世界ではないという事は分かっている。何せ異世界の中には、悪魔という存在を完全に拒絶していて悪魔が入ると能力の大半が封印される世界とか、異世界からの侵入に対して過剰な排除行動をしてくる世界とか、消滅されかけの世界だとか、割と危険な世界があるのだ。そういう世界は検索にまず出てこないよう、常に専用の危険タグが付けられている。


しかしそれ以外の世界に危険がゼロなのかと言えば、それは否だ。世界の中に居るだけで危険ではないというだけで、中には私以上の力を持つ存在が居る世界だってそりゃあいるだろう。世界は文字通り広いし無数にあるんだから。でも、私は負ける気なんて一切無い。相手がどんな理不尽を振り翳してこようともそんなモノは私の理不尽で全て押し潰すし、対格上用の安全策はかなり用意している。まぁ使わないならそれが1番良いんだが。


なんて、私が情報を整理していると、近づいてくる気配が一つ。


「おぉ!見よアリス!ゴブリンじゃ!」


「この世界にもゴブリンは居るんですね!」


ソフィアとアリスが騒いでいたからだろう。ゴブリンが大きな声に誘われて現れたようだ。その姿もロ型世界やハ型世界に居たゴブリンと変わらず、子供のような体躯でありながら全身が緑色。服装としては腰布一枚で、武器はめちゃめちゃ荒削りな気の棍棒のようだ。そしてこちらを見てめちゃくちゃ笑っている。うーん、ロ型世界のゴブリンとほぼ変わらんな。強いて言うならロ型世界のゴブリンより弱そうではある。後は………世界からの恩恵を受けているな、こいつ。


ついでに言うと、こちらが女3人のグループという事を確認してから、子供らしい体躯には似合わない逸物が腰布を押し除けるようにしてそそり立っている。ふむ、こちらはロ型世界のゴブリンの平均値より大きいくらいだな。恐らくこのゴブリンは、蓄積した経験値を繁殖能力や技術に注ぎ込んでいるのだろう。そしてその分、身体能力のような戦闘力が弱いのかもしれない。


「凄いのぉ!こやつエロゲに出でくるゴブリンそっくりじゃ!殺すのじゃ!」


「私の世界のゴブリンとちょっと違います!繁殖能力特化なのでしょうか?」


「まぁその辺は後から調べればよい!こやつ妾達を見る目がキモいのじゃ!消し飛べ!」


哀れ………でも何でもないが、ソフィアがゴブリンの血液を操作して身体の内側から爆発四散させた。勿論、こちらには一切肉片が飛び散らないようにだ。まぁ当然の末路としか言いようがない。こっちを見る目が完全に発情してるオスだったしな。私は一応男性なのでそういう視線はやめて欲しいのだが、完全に私の都合だからなぁ。


というか、最近ずーっとキングプロテアの姿になっているからか、なんかもう自分の性別にそこまで頓着無いんだよな。いやまぁ2年くらいずっと女だった事はあるけど、あれはほら、男の私を女に切り替えたみたいな感覚だったんだよ。でもさぁ、キングプロテアは完全に変身してるじゃん?そうなると自分は元から女だったのかもと錯覚するよね。いやまぁ、それで良いんだよ?こうやって錯覚させる為にずっとキングプロテアの姿なんだから。


端的に言うなら、私は性自認を自分から曖昧にしている訳だ。何故か?そりゃ、私はどっちにでもなれるからな、物理的に。だったら曖昧な方が良いだろ。どちらでもない、じゃなくて、どちらにもなれる、ってのを目指してる訳だ。何せ男性には男性の特権があり、女性には女性の特権がある。私はどちらにもなれるのだから、どちらになっても良い感じにしたいだろ?


端的に言うと、両方の良いとこ取りをしたいだけなんだが。まぁ、曖昧にするとは言っても、私の人格形成が行われた時代に男性であったという事実は変わらないからな。性自認は曖昧になっているかもしれないが、根底にある価値観は男性的なモノのままである。


「わー!凄いです!爆発の際の被害計算も完璧ですね!」


「じゃろー?」


君らは本当に初対面なのか分からんくらいに仲良いねぇ。私は仲の良い2人を見てると何だか後方腕組み保護者面したくなっちまうぜ。けどまだここに居るんすかね、この2人は。全然森の中ですけど。街行きません?街。私は自然より文明を感じてぇよ。


まぁ口には出しませんけど。いやさ、植物一つでめちゃくちゃ楽しそうにしてる2人の前で、さっさと街行こうぜ!みたいな事言えると思ってんの?少なくとも私は出来ない。だから素直に待機しとくね………それに、私も見たことのない植物は割とあるからさ、この辺。


まず、この森は樹木から結構面白い。少なくとも、イ型世界の樹木とは大分違うタイプだ。何せこの樹木、恐らくはこの世界からの恩恵を受けている。というか、樹木だけではなく、周囲の植物全てが恩恵を受けているように感じ取れる。さっきのゴブリンと同じ感覚だ。


しかしステータスはその仕様上、ある程度の知性が無ければその恩恵を十全に得られないと思っていたのだが………もしかして、違うのだろうか。例えば、一定以下の知性を持たない存在が利用するステータスと、一定以上の知性を持つ存在が利用するステータスは、使い方が別………とか?


割とあり得るかもしれない話だ。何せこのステータスという恩恵は、あらゆる生命体が望む進化を出来るように創造神が齎したモノ。知性の無い生命体にはそれ専用の、知性のある生命体にはそれ専用の恩恵があるのかもしれない。ふむ………まぁ、その辺りを調査してみるのも面白そうだな。


「次はあっちに行くのじゃ!着いてこい!」


「ほらテア!行きますよ!」


「あぁはいはい分かりましたから」


私が色々と考えているのもお構いなしに走り出す2人。ソフィアがアリスが付いて行けるレベルの速度に落としてるのは偉いとしか言いようがないが、アリスはアリスで冒険者なのでそこそこ身体能力が高い。くそ、思ったよりスルスル進んでくなあいつら。行動の相性が良過ぎる。


そのまま2人に引き摺られるようにして森の中を進んでいくが、特に道の誘導をしている訳でも無いので、転移地点から1番近かった街からドンドン離れて行っている。このままの勢いで森の奥に進んでいくと、滅多に人里に姿を現さないようなヤベー強さの魔物の縄張りに入ってしまうんだが………まぁ、ソフィアは兎も角、アリスも普通に強いからな。何とかなるか。


というか、アリスの戦闘力を底上げしてるのは確実に聖剣ハンマーなんだよ。強過ぎるんだわアレ。どんな世界的な恩恵だろうと何だろうと、それが防御力に関連するようなモノなら完全に無視してダメージを与えられるんだぜ?ゲームでよくあるようなギミックをクリアしないとダメージを与えられないボスが出てきても、謎の無敵判定をすり抜けてダメージ与えるからな、あのハンマー。アリスもアリスで色々と経験してるから、聖剣ハンマー単体でも普通に戦えるっぽいし。


「おぉ見ろアリス!物凄く禍々しい植物が生えとるぞ!」


「凄いです!ロルベーナ草ですね!錬金術で使う薬の材料になるみたいです!素手で触れると血液を吸われてしまう事から、世間一般では"吸血草"と呼ばれているみたいですよ!」


「ほぅ!吸血草とな!貰っておくかの!」


ソフィアはロルベーナ草を手に取ると、そのままとぷんと身体の中へとしまい込んだ。うーむ………ソフィアが今やった物質の血液変換による無限収納は人類が支配している地域じゃ使えないか。何をどう考えても見られたら人間じゃない事が一発でバレるし。


「ロルベーナ草はとても優秀な造血薬になるみたいですね!」


「ほぅ!であれば、街に着いたら沢山売るのじゃ!」


とか言いながら、ソフィアとアリスはどんどん森の中へと進んでいく。そっちに街は無いんだよなぁ………いや無くはないけど、あるの相当先っぽいぞこれ。真っ直ぐ進むなら兎も角、気になるものがある方向へフラフラ進んでたら一体何日あれば辿り着けるのやら………そもそも街に辿り着けるのか?まぁどうせ何処からでも元の世界には帰れるし、そんなに気にする事でもないけどさぁ。






………そうして人類の生存圏外である森の奥地を進む事、凡そ数時間。アリスとソフィアのテンションも流石に落ち着いて来たのか、それとも次は人類が繁栄している文明を見たくなって来たのかはよく分からないが、今私たちは真っ直ぐ街へと向かっていた。


「のぅテアよ。前の方に見えるアレが街かの?」


「えぇ、あれが今向かってる街ですわ」


「うーん、流石に見えませんね」


「お、真理の瞳でもこの距離は見えんかの」


「そうですね………真実を見通すというだけで、それ以外の基本的な視覚的機能は健康な人間のモノと変わりませんから。そんなに遠くまでは見えません」


「千里眼も使えたら強そうじゃのぉ」


「千里眼っぽいのは使えるんですけど、大雑把にしな見えなくて」


「まぁ、急ぐ必要も無かろう。ほれ、そろそろアリスでも見えるじゃろ?」


アリス含めた全員の身体能力が高いので、例え木々の多い森の中であっても割と速度を出して進めるからか、次第に街の全貌が見えてくる。


「おぉ………!あれが異世界の街なのじゃ………ふわぁ………妾もう満足じゃあ………!」


「見てください!門の前に行列がありますよ!何か人が集まるようなモノがあるのかもしれません!行きましょう!」


あぁ、感極まって惚けてるソフィアは兎も角、目移りの激しいアリスのテンションがまーた上がってきた。暴走しても大丈夫なように鎮静レストの準備の為、後は勝手にどっかへ行かないようにアリスとは手を繋いでおこう。目を離すとマジですぐどっか居なくなるからなアリスさん。


「ほら、ソフィア。大丈夫ですの?」


「ふわぁ………大丈夫、大丈夫じゃ………世界が美しくて惚けてるだけじゃから………」


「中々に大丈夫じゃありませんわね………」


なんかもうぽわぽわしてるだけで動けないっぽいので、仕方なくうちの子で作った歩く歩道へソフィアを乗せる。とりあえず私の後ろを自動的に着いてくるようにしておこう。ソフィアは今、感動という情動にやられてるからな………


「行きましょう行きましょう!」


手を握ったアリスに引っ張られるようにして、目の前の街へと近づいていく。街の周囲を全て高い石壁に囲まれた、異世界における人類の生存圏。街の中に犯罪を持ち込まないようにと、壁の内側と外側を繋ぐ大きな門には大勢の兵士が立っているらしく、その彼ら彼女らが街に入る人々の荷物や人物を丁寧に調べているらしい。


今ちょっと調べて問題だと思ったのは、こういう街に入る時に門番からとあるスキルを受ける必要があるんだわ。発動しているのは当人しか分からないが、そこはほらうちの世界の魔法を上手く使えば良いだけよ。そして使われているスキルの名前は《人物鑑定》スキルと言い、まぁ、色んな物語でよくあるような、相手のステータスを確認するスキルだ。今の段階でも自分のステータスから詳細は閲覧出来るので、確認するとこう書かれていた。


《人物鑑定》

対象を指定する。指定対象のステータスを閲覧する。指定対象が鑑定妨害系スキルを保有している場合、指定対象の鑑定妨害系スキルのレベルがこのスキルのレベル+1以下なら、このスキルは成功する。


………と、まぁ。この世界は、こうしてスキル一つ一つに詳細が存在している訳だ。しかもそうしたスキルは、必要な経験値さえあれば誰だって獲得出来るのである。中々に便利な世界だなぁとは思う。その代わりに自然な成長は出来ないが。一応、特定の環境や特定の血筋でなければ保有できないスキルもあるし、先天的な適性や才能が無ければ獲得出来ないスキルもあるにはあるが、それらだって本来必要な経験値の数倍を支払えば獲得出来なくはないらしい。


例えば、《神童》というスキルがある。これは先天的に獲得するタイプのスキルであり、効果としては実年齢が15歳以下の期間に限って獲得出来る経験値の量を数倍にする効果がある。具体的にはこんな感じだ。


《神童》

保有者の実年齢が15歳以下である場合、獲得する経験値量をスキルレベル×2倍にする。


そしてこのスキルは先天的に獲得している以外にも、普通に後天的に獲得する事も可能っちゃ可能だ。ただ、必要な経験値はかなり莫大で、こんなスキルを獲得するなら他の便利そうなスキルを選んだ方がいいに決まっているし、獲得した所で実年齢が15歳以下でなければ効果を発揮しないし、そもそも必要な経験値を後から獲得した経験値量で上回れるのかが疑問などと、先天的に獲得していなければ後から獲得する必要が無いレベルである。


無論、生まれた時から先天的に獲得していれば様々な事柄が有利になるだろが、逆に言えば後天的に獲得する魅力は感じられない。こういう感じの期間限定スキルは割と多いらしく、確認できるだけでも特定の期間、特定の時間帯、特定の季節などが無数に存在している。


一応、スキル一覧みたいなのは当人の才能や適性に合っているスキルが閲覧しやすい仕組みになっているらしく、私の場合は悪魔やら器用さやらに関係するようなスキルが表示されやすくなっていた。検索機能もあるからそこまで不便ではなさそうだ。まぁ私の場合、確かに才能はあるし適性もあるんだろうが、ここに表示されてる悪魔とか器用さ関係のスキルは全部自力で出来るから要らないんだよな………


と、そうだ。こんな事を考えてる暇は無かったな。話を戻すが、アリスは純然たる人間なので平気なのだが、私やソフィアは鑑定を受けるのは不味いだろうな。………いや、よくよく考えて見れば、アリスの方も中々に不味いかもしれない。


パラメーターの方がオールゼロなのは、まだ分かる。この世界の筋力やら器用などのパラメーターはA型世界のように能力の補正値、つまりは底上げなので、元からそのパラメーターの内容が強ければパラメーターをわざわざ上げる必要は無い。ゼロではないが、そういう人物も居るだろう。まだ理解出来る。


だが、スキルすらゼロなのはもうダメだ。この世界ではあり得ない。この世界においてスキルがゼロというのは即ち、言ってしまえば何の技術も才能も持たない無能そのものである。日常生活すら満足に出来ないのに何もしてないやべー奴だ。しかもステータスは保有している経験値量も確認出来るので、それすらゼロのアリスは異常どころではないだろう。異世界人だとバレた方が良いレベルだ。


………まぁ仕方ない。うちの子を使ってステータスは偽装しよう。とりあえず人物鑑定する人の脳みそにうちの子を仕込んで、後は人物鑑定スキルを使われた瞬間に寄生対象に強い幻覚を見せて、それっぽいスキルを持ってるように偽装しよう。ついでにパラメーターもそれっぽく見えるように細工しておいて、っと………ま、これで良いだろう。私とソフィアの種族も誤魔化すようにしたから大丈夫だ。多分。


「ほら、行きますよテア!」


「あぁはいはい今行きますわよ!だから走らないでくださいまし!」


アリスはテンション上がり過ぎだよ!もっと落ち着いて!


「妾………もう死んでも良いかもしれぬ………」


そんでソフィアは一体いつまで感動で惚けてるの?!

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